黄熱病 - ガーナ

Disease outbreak news   2021年12月1日

2021年10月15日から11月27日までに、ガーナのサバンナ(Savannah)地域、アッパー・ウエスト(Upper West)地域、ボノ(Bono)地域、オティ(Oti)地域の4地域において、黄熱病(黄熱)の疑いのある症例202件(うち確定症例70件、死亡35件)[致命率(CFR):17%]が報告されました。黄熱はガーナの風土病であり、約15%の症例が重症化し、高い致命率(CFR)を伴います。黄熱感染者の多くは、ナイジェリアからガーナのサバンナ地域にある観光客が訪れる森林保護区に移動した遊牧民から報告されました。この地域はコートジボワール(Cote d’Ivoire)やブルキナファソ(Burkina Faso)と国境を接しており、ガーナ国外への感染拡大の可能性が指摘されています。症例は、4カ月から70歳までの年齢層で、体の痛み、発熱、腹痛、嘔吐、黄疸、歯肉からの出血などの症状を呈しました。症例の52%(105/202)が女性でした。地域の基準検査機関であるセネガル(Senegal)のダカール(Dakar)にあるパスツール研究所(Institute Pasteur Dakar)において、3つの検体からPCRによる黄熱の陽性反応が出たことで、黄熱の発生が確認されました。また、エボラウイルス病、デング熱、その他のウイルス性出血熱は陰性でした。11月27日時点で、採取した196検体のうち70検体でIgMおよび/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による黄熱の陽性反応が出ており、68検体については検査の結果待ちです。地域の標準検査機関では、プラークリダクション中和法が5検体で陽性となりました。
ガーナでは、黄熱に対する人口全体の免疫力は、WHO-UNICEFの推計では2020年に88%と高いものの、ワクチンを接種していない遊牧民など一部の人々には黄熱のリスクが残っており、その結果、黄熱の感染が継続する可能性があります。今回のアウトブレイクの調査では、前回の大規模ワクチン接種キャンペーン後にこの地に入ってきて、ほとんどがワクチンを接種していない人たちの居住地が見つかりました。

公衆衛生上の取り組み

サーベイランスと検査 
・ ガーナ保健省は、黄熱感染が疑われる症例の検査について、地域のアルゴリズムに従って、国内で陽性と判定されたサンプルを地域の基準検査機関に送り、確認を行っています。ガーナでは、黄熱感染が疑われる症例の検査が迅速に行われています。
・ 現地調査では、予防接種歴の状況、曝露歴ならびに、国立の検査機関で陽性と判定された黄熱感染の疑いのある症例の接触者の特定がなされました。
・ 黄熱流行の影響を受けた地域の医療従事者は、黄熱について、特に報告の重要性、疑いのある症例の調査方法、臨床的な管理方法についてトレーニングを受けています。
・ 流行地の医療施設では、標準化された症例定義を用いて、医療施設内での受動的なサーベイランスと地域ベースのサーベイランスを強化しています。サーベイランスの強化により、疑いのある症例の特定が容易になりました。
 
ワクチン接種 
・ 2021年11月6日から、サバンナ(Savannah)地域の西ゴンジャ(West Gonja)地区と北ゴンジャ(North Gonja)地区の80以上のコミュニティで、6カ月から60歳までの妊婦を除く54,964人を対象とした集中的な予防接種活動が行われています。
・ 黄熱病発生対応のための世界的な緊急備蓄を監督する「黄熱ワクチン供給国際調整グループ」(international Coordinating Group for Yellow Fever Vaccine Provision : ICG)は、影響を受けた5つの地区の9カ月~60歳の年齢層、361,165人を対象とした大規模な予防接種キャンペーンを承認しました。
・ また、定期予防接種の強化の一環として、未接種者へのキャッチアップ予防接種キャンペーンも実施されています。
 
ベクターコントロール 
・ ボウフラ発生対策を含むベクターコントロール活動を強化しています。
 
リスクコミュニケーション 
・ 黄熱の感染と予防について一般市民に知らせるためのリスクコミュニケーションと地域活動を継続しています。街宣車、移動トラック、信頼できる地域住民、教会やモスクでのアナウンスなど、さまざまな手段を活用しています。
・ WHOはガーナのすべての州に警告を発し、入国地でのサーベイランスの強化を支援しています。

WHOによるリスク評価

今回の流行による黄熱の全体的なリスクは、国レベルで中程度、地域レベルで中程度、世界レベルで低程度と評価されています。黄熱は、感染した Aedes spp.およびHaemogogus spp.を含むヤブ蚊属によって媒介される急性ウイルス性疾患です。黄熱に感染すると、一部の人に重篤な症状が現れます。約15%の症例は、最初の官界から24時間以内により毒性の強い第2期に移ります。第2期は、発熱、黄疸、腹痛(または腹痛を伴わない場合もあります)、嘔吐、出血、腎不全などを呈することが特徴です。これらのうち、20~50%は10~14日以内に死亡します。ワクチン接種は終生免疫をもたらし、黄熱を予防するための最も重要な手段と考えられており、ベクターコントロールなどの他の戦略は補完的なものです。黄熱に決定的な治療法はなく、脱水、腎不全、発熱などの合併症に対して支持療法が行われます。
 
以下の理由により、国のリスクは中程度と評価されました:
 
・ 一部の遊牧民の集落におけるワクチン接種率が低いため、感染が継続する可能性があります。
・ 今回の流行は、遊牧民のコミュニティが主に影響を受けていることが特徴です。遊牧民は移動性の高い集団であり、ワクチンを接種していなかったり、人口の免疫力が低く黄熱の感染源となっている地域から移動してきたりする可能性があります。
・ 影響を受けた地区の大部分は森林保護区内にあり、感染の発生したコミュニティの一部は、黄熱ウイルスの主な野生宿主であるヒト以外の霊長類を含む動物や、アフリカにおける黄熱のベクターであるヤブカ(Aedes mosquitoes)が存在するモレ(Mole)国立公園の周辺に位置しています。これらの宿主とベクターは、人間とサルの森林サイクルと市街地サイクルをつなぐサバンナの感染サイクルに関与しています。
・ COVID-19パンデミックは、黄熱に対する対応活動に影響を与える可能性があります。
 
地域リスクは、近隣諸国における黄熱拡大に都合の良い生態系と黄熱封じ込めに対して脆弱な国境により、中程度と評価されました。世界的なリスクは低いと評価されましたが、北ゴンジャ地区と西ゴンジャ地区の両方に位置するモレ国立公園には観光客が訪れているため、ウイルスが輸出される危険性があります。
 

WHOからのアドバイス

ガーナは「黄熱撲滅(EYE)」戦略の優先順位が高い国です。ワクチン接種は、黄熱の予防と対策のための主要な手段です。1992年、ガーナ政府は、国の黄熱病対策・撲滅プログラムの一環として、生後9カ月の子どもを対象とした定期予防接種プログラムに黄熱ワクチンを導入しました。また、都心部では、ターゲットを絞ったベクターコントロール対策も感染を阻止するのに有効です。WHOとパートナーは、現在の流行を抑えるために、地方自治体がこれらの介入策を実施することを引き続き支援していきます。
 
WHOは、生後9ヶ月以上のガーナへの海外旅行者全員に、黄熱ワクチンの接種を推奨しています。黄熱ワクチンの接種は安全で効果が高く、黄熱に対する終生免疫を与えます。国際保健規則(IHR)(2005年)によると、黄熱ワクチン接種の国際証明書は、接種した人に対し生涯有効となっています。海外からの旅行者に対して、入国条件として黄熱ワクチンの追加接種を要求することはできません。
 
WHOは加盟国に対し、旅行者に感染リスクやワクチン接種などの予防策や感染リスクなどを十分に伝えるために必要なあらゆる行動をとることを奨励しています。また、渡航者には黄熱の兆候や症状を知ってもらい、兆候が見られた場合には速やかに医師の診察を受けるように通知しておくことも必要です。ウイルスが体内に存在した状態で帰国した旅行者は、黄熱の媒介蚊が存在する地域に感染サイクルを持ち込むリスクがあります。
 
WHOは、入手可能な情報に基づき、今回の黄熱流行に関連してガーナへの渡航や貿易に制限をかけることを推奨しません。

出典

Yellow Fever – Ghana
Disease Outbreak News: 1 December 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/yellow-fever---ghana