伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型―イエメン共和国

Disease outbreak news   2021年12月9日

2021年11月22日、イエメン共和国(イエメン)の国際保健規則国内担当窓口(IHR NFP)は、国内にて急性弛緩性麻痺(AFP)を発症した2人の子どもの糞便検体から、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されたことをWHOに通知しました。
 
最初の症例は、イエメン南西部タイズ(Taiz)県トゥバーブ(Thubab)地区に住む9歳の女児で、8月30日に麻痺が発症しました。この子はポリオの予防接種を受けていませんでした。8月31日と9月2日に2つの糞便検体が採取され、11月22日にセービン2型ポリオウイルスワクチン株と10塩基の違いがあるVDPV2が確認されました。
 
2例目は、サナア(Sana’a)市の北東に位置するマリブ(Marib)県マリブ地区に住む生後26カ月の女児で、9月1日に麻痺が発症しました。この子もまた、ポリオの予防接種を受けていませんでした。9月4日と5日に2つの糞便検体が採取され、11月22日にセービン2型ポリオウイルスワクチン株と11塩基の違いのあるVDPV2が確認されました。
 
この2つの地区は隣接しておらず、約430km離れています。この2つのVDPV分離株は遺伝的につながっているため、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)に分類されます。また、今回検出されたウイルスは、世界的に知られている他のcVDPV2とは関係がありません。
 
今回のcVDPV2の確認は、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス1型(cVDPV1)の発生が続いている中でのことで、cVDPV1では、これまでに2021年に3人、2020年に31人、2019年に1人の合わせて35人の小児に麻痺が発生しています。
 
イエメン国内における最後のVDPV2感染者は、2016年6月にイエメン南部のアデン(Aden)県で報告され、不明確なVDPV2(aVDPV2:伝播の証拠もなく、既知の免疫不全にない個あるいは、環境試料から分離されたVDPV)に分類されました。WHO/UNICEFの国内予防接種率の推定値によると、ポリオワクチン3回目(POL3)の接種率は、2020年には66%であったと報告されています。
 

公衆衛生上の取り組み

保健省は、世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)のパートナーの支援を受けて、現地調査を実施し、ポリオ発生への準備と対応計画の実施を開始しました。また、AFPサーベイランスも引き続き強化されています。

WHOによるリスク評価

現在進行中のCOVID-19パンデミックで予防接種率が低下していることから、イエメンにおけるこの株のさらなる拡大のリスクは大きいと考えられます。さらに、検出された症例はアクセス面や治安面に問題のある2つの県で発生しており、アフリカの角との間での移動を含めてかなりのレベルの人口移動を引き起こしたマリブとイエメン西海岸の最近の治安状況により、他の県への人口移動のリスクが高くなっています。現在進行中の人道的危機は、病気の蔓延にとっても憂慮すべき大きなリスク要因となっています。
 
上述の予防接種の途切れや人道面の課題に基づき、WHOはcVDPV2の国際的な拡散および/または出現のリスクが高いと考えています。 さらに、現在も続くcVDPV1 の発生と同様に、cVDPV2 の出現は、定期的予防接種の接種率と不十分な発生対応などのギャップを浮き彫りにしています。
 
国際保健規則:IHR(2005年)の緊急委員会は、2021年11月に、複数の国でポリオウイルスが国際的に広がっていることについて会議を開催しました。発表された報告書によると、緊急委員会は、cVDPV2が多くの国で急速に広がり続けていることに懸念を示し、cVDPV2の国際的拡大リスクが現在高いことを指摘しました。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオ感染国・地域への渡航や接触が多い国や地域は、新たなポリオウィルスの流入を迅速に察知し、かつ迅速な対応を行うために、急性弛緩性麻痺(AFP)症例の監視を強化することが重要です。また、国や地域は、新たなポリオウィルスが持ち込まれた場合の影響を最小限に抑えるために、国、準州、および地域レベルでの定期予防接種の接種率を全地域で均一に高く維持する必要があります。
 
WHOの刊行物とサイト「国際旅行と健康 (International Travel and Health)」では、ポリオ感染地域へのすべての旅行者に、ポリオの予防接種を完了すること推奨しています。感染地域からの居住者(および4週間以上の滞在者)は、渡航前4週間から12カ月以内に、経口ポリオウィルス・ワクチン(OPV)または不活化ポリオウィルス・ワクチン(IPV)の追加接種を受ける必要があります。
 
緊急委員会の助言によると、ポリオウィルスの国際的な広がりのリスクは、依然として「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)」であり、このリスクを軽減することを目的とした助言の実施が強く推奨されています。ポリオウイルスの感染に影響を受けている国は、一時的な勧告の対象となります。ポリオウイルスの感染が発生した国では、PHEICに基づいて発行された一時的勧告を遵守するために、その発生を国家的な公衆衛生上の緊急事態として宣言し、居住者や長期滞在者へのワクチン接種を確実に行い、ワクチンを接種していない、または接種状況を証明できない人の渡航を出発地で制限しなければなりません。

出典

Disease outbreak news: Circulating vaccine-derived poliovirus type 2(cVDPV2) - Yemen
9 December 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/circulating-vaccine-derived-poliovirus-type-2-(cvdpv2)-yemen