デング熱 ーパキスタン

Disease outbreak news   2021年12月14日

パキスタンではデング熱が風土病として存在しており、直近では2019年9月から12月にかけて53,498人の患者、95人の死亡という顕著な流行が報告されています。
 
2021年1月1日から11月25日までに、パキスタンのパンジャブ(Punjab)州、ハイバル・パフトゥンハー(Khyber Pakhtunkhwa )州、シンド(Sindh)州、バロチスタン(Balochistan)州、および連邦政府が管理するイスラマバード首都圏(ICT)、とアザド・ジャンムー・カシミール(Azad Jammu and Kashmir)自治領(AJK)の4州から183人の死亡者を含む合計48,906人の患者(致命率(CFR):0.4%)の報告がされています。
 
11月25日現在、パンジャブ州では患者数が24,146人、死亡者数が127人(致命率(CFR):0.5%)と最も多く、パキスタンにおける全患者数のうちの49.4%と死亡者数のうち69.4%を占めています。死者は主にラホール(Lahore)地区から報告されています。
 
アフガニスタンとの国境にあるハイバル・パフトゥンハー州では、全体の21%を占める10,223人の患者が発生し、死者は10人(CFR:0.1%)と2番目に多い報告でした。
 
シンド(Sindh)州では5,548人の患者と死者24人(CFR:0.4%)が報告され、次いで連邦直轄イスラマバード首都圏(ICT)では5,261人の患者と21人の死者(CFR:0.4%)、バロチスタン州では2,054人の患者、アザド・ジャンムー・カシミールでは1,674人の患者と、1人の死者(CFR:0.1%)が報告されています。

公衆衛生上の取り組み

連邦および州の保健省は、以下のような公衆衛生対策を実施しています。
 
ベクターサーベイランスとコントロール活動:
 
・統合ベクター・マネジメント(IVM)の一環として、パンジャブ州では、ヤブ蚊(Aedes)のボウフラの監視と空間噴霧(殺虫剤の液状霧をエリア内に散布し成虫を殺害する)活動が行われています。11月16日から25日の間に、全世帯のヤブカのボウフラの指標(幼虫または蛹が生息する家屋の割合)およびコンテナ指標(幼虫または蛹が生息する貯水容器の割合)が、基準値5を下回る2未満になりました。ラホールの野外病院の開設に伴い、ラワルピンディ(Rawalpindi)とイスラマバード(Islamabad)市内では燻蒸と抜き打ち検査が実施されました。
・イスラマバードでは、デング熱の発生を抑えるために、媒介蚊の監視、ボウフラの発生源の管理、蚊の繁殖場所の破壊、積極的な症例・接触者の発見、患者の臨床管理、廃棄物管理、空間噴霧、屋内残留殺虫剤噴霧(屋内の壁などの表面に残留する殺虫剤を噴霧する)などの多部門連携活動が開始されました。
・ハイバル・パフトゥンハー 州では、ペシャワール(Peshawar)地区の10の組合協議会で、媒介蚊の監視と制御活動が行われており、11月4日から13日の間に開始され、11月18日まで媒介蚊の監視と制御活動に関する特別キャンペーンが開始されました。 
・シンド州では、ベクターサーベイランスとコントロール活動が臨時で実施されています。
・バロチスタンでは、6月と7月にケチ (Kech) 地区で選択的な屋内残留殺虫剤噴霧作業が実施されました。繁殖地管理および空間噴霧活動は、ケチ地区の特定の感染の中心地域で、症例に対応するために、地区行政により臨時的に実施されています。
 
WHOの国事務所(WCO)は、パキスタン政府を支援し、以下の対応活動を実施しています。
・統合疾病サーベイランス(IDS)、フィールド疫学、デング監視チーム(Dengue surveillance cells)といった既存の機会を活用し、すべての流行州および国レベルにおいて、検査所および病院ベースの疾病サーベイランスを強化すること。
・WHO国別事務所にデータ・レポート収集センターを設置すること。
・カラチ・シンド(Karachi Sindh)州における入院患者への長期残効型蚊帳の提供に加え、あらゆるレベルで必要なケアの継続性を確保するために、必要な診断キット、医薬品、殺虫剤、長期残効型蚊帳を提供しました。
・すべての流行州・地区の医療従事者を対象に、医療提供システムのさまざまなレベルでデング熱患者の管理について研修を実施しました。
・地域レベルの家庭訪問で、媒介蚊のサーベイランスと発生源の削減を含む媒介蚊制御に関するトレーニングを実施しました。研修対象には、国や州のプログラムおよび大学から選ばれた昆虫学者が含まれています。
・パートナーや国・州の保健省と協力し、情報・教育・コミュニケーション(IEC)資料の提供を通じて、地域社会の意識向上キャンペーンを行いました。

WHOによるリスク評価

デング熱は蚊によって媒介される感染症で、4つの血清型のデング熱ウイルス(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4、総称して、DENV)によって引き起こされます。ある血清型に感染すると、同型の血清型に対しては長期間の免疫が得られますが、他の血清型に対しては免疫が得られません。二次感染により、入院を伴う重症デング熱になる危険性が高くなります。 パキスタンでは、デング熱が流行しており、季節ごとに患者が急増し、各地で異なる血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)が循環していることが報告されています。ネッタイシマカとヒトスジシマカは、都市部や都市近郊の環境に広く適応した媒介蚊です。デング熱は国内で再発を繰り返しているため、住民には再感染のリスクがあり、そのため迅速かつ正しく治療されないと深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
 
現在、COVID-19の大流行が国の医療システムの対応能力を圧迫し、感染症の流行が同時に発生する中、デング熱による深刻な健康被害が発生する危険性が高くなっています。
 
 今回の流行は、パキスタンの疾病による負担と季節パターンをより明確に理解するために、媒介蚊のサーベイランスの改善、症例発見のための検査能力の強化、症例管理に関する医療従事者の啓発、急性熱性疾患のサーベイランスの改善の必要性を強調するものとなっています。

WHOからのアドバイス

媒介蚊の繁殖地と人間の生活エリアが近いことは、デングウイルス感染の大きなリスク要因です。デング熱感染に対する特異的な治療法はありませんが、早期に発見し、適切な医療を受けることで、デング熱の重症化や死亡率の低下を図ることができます。さらに、デング熱の予防と制御は、効果的かつ持続的ベクターコントロール対策にかかっています。
 
WHOはデング熱の媒介者であるヤブカ属(Aedes spp.)を含むの媒介蚊を制御するために、統合的媒介蚊管理(Integrated Vector Management: IVM)と呼ばれる戦略的アプローチを実施しています。IVM活動は、潜在的な繁殖場所を取り除き、媒介蚊の個体数を減らし、個々人の曝露を最小限に抑えるために強化されるべきものです。これには、ボウフラ・成虫双方に対する媒介蚊の制御戦略(環境管理や繁殖地の削減、化学的制御手段など)と、人々や家庭を守るための戦略が必要です。ベクターコントロール活動は、人とベクターが接触するすべての場所(居住地、職場、学校、病院)に目を向ける必要があります。
 
蚊の対策として、家庭用水貯蔵容器に蓋をし、水を抜き、毎週清掃することが必要です。
 
屋内で蚊に刺される危険性がある場合には、皮膚への蚊除けローションやスプレーの塗布、家庭用殺虫製品の他、蚊取り線香、殺虫剤気化器などの使用が推奨されます。また、窓やドアへの網戸の設置、エアコン使用などの家庭用設備も蚊に刺されるリスクを減らすことができます。感染の主要な媒介者であるヤブカは、夜明けと夕暮れ時に活動のピークを迎える昼行性のため、これらの時間帯は皮膚の露出を最小限に抑えるための衣服を選択するなど、個人防護策が推奨されます。屋外での活動時には、蚊除け(忌避剤)スプレーを皮膚や衣服に塗布してください。病院でのデング熱患者を含め、屋外や日中に寝る人(乳幼児、寝たきり、夜間労働者など)は、蚊に刺されないように殺虫剤処理された蚊帳などの使用が有効です。
 
さらに、すべての流行地を含む国家レベルで、媒介蚊とヒトの症例サーベイランスを引き続き強化する必要があります。住民のデング熱感染リスクを軽減するための主要な公衆衛生メッセージは引き続き提供される見込みです。 地域ベースの保健員は、すべての流行地で推進すべきこれらの重要な情報を共有・周知することが必要です。
 
WHOは、現在利用可能な情報に基づいて、パキスタンへの一般的な渡航または貿易に対していかなる制限も推奨しません。

出典

Disease outbreak news: Dengue fever – Pakistan
14 December 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/dengue-fever-pakistan