エボラウイルス病―コンゴ民主共和国

Disease outbreak news   2021年12月16日

2021年12月16日、コンゴ民主共和国(DRC)保健省(Ministry of Health: MoH)は、同国北キブ(North Kivu)州ベニ(Beni)保健区域で発生したエボラウイルス病流行の終息を宣言しました。この宣言は、WHOの勧告に従い、最後の確定症例の2回目の陰性化から42日後に行われました。
 
10月8日から12月16日の間に、ベニ保健区域から死亡者9名、生存者2名を含む合計11名(確定8名、疑い3名)の患者が報告されました。9人の死亡者のうち、7人は市中で、2人はエボラ治療センター(ETC)で発生しました。症例致死率(CFR)は、全症例中82%(9/11)、確定症例中75%(6/8)です。
 
本アウトブレイクは、指標患者である3歳男児が衰弱、食欲不振、腹痛、呼吸困難、暗色便、吐しゃ物に血が混じるなどの症状を呈し、10月6日に死亡した時点で2021年10月8日に宣言されました(詳しくは、WHOが2021年10月10日に発表したDisease Outbreak Newsをご参照下さい)。
 
10月7日、ベニ(Beni)にある国立生物医学研究所(National Institute of Biomedical Research: INRB)の検査施設内で逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて検体の検査が行われました。その後、検体は10月8日にゴマ(Goma)のロドルフ・メリュー(Rodolphe Mérieux) INRB研究所に送られ、同日、RT-PCRによりエボラウイルス病が確認されました。この後、3人の死亡者(2人の子供とその父親)が集団で発生し、そのうちの1人は指標となった3歳男児患者の濃厚接触者でした。この3人の患者は、9月14日、19日、29日にエボラウイルス病と一致する症状を呈した後に死亡したが、いずれもウイルス検査は受けていません。キンシャサ(Kinshasa)市のINRBが行った、最初の確定症例からの全ゲノム配列決定により、この集団発生は、動物の感染源からの新しい人獣共通感染症由来ではなく、持続的に市中に蔓延していたエボラウイルス感染に関連していることが示されました。
 
 
2021年10月8日から12月16日の流行期間中、ベニ保健区域内の19の保健区域のうち、ブチリ(Butsili) 保健区域(6例)、ブンジ(Bundji)保健区域(1例)、ンジリンガ(Ngilinga)保健区域(1例)の3区域(16%)で患者が確認されたと報告されています。5歳未満の子供が確認された症例の50%(4/8)を占めています。現在までに、すべての接触者が21日間のフォローアップ期間を終えています。
 
さらに、10月8日から12月13日までに、ベニ保健区域からの15,642件を含む、9つの保健区域から合計21,916件の警報が報告され、そのうち21,558件(98%)が調査され、1,709件がエボラウイルス病の疑い例として確定されました。

公衆衛生上の取り組み

保健省(MoH)は、WHOや他のパートナーとともに、アウトブレイクを制御し、さらなる拡大を防止するための対策を開始しました。保健省は、国と地方の緊急事態管理委員会を動員し、対応を調整しました。学際的なチームが現場に配備され、積極的に患者の捜索と治療を行い、接触者を特定し、連絡を取り、フォローアップし、発生予防と制御のための介入についてコミュニティの意識を高めています。
 
さらに、エボラウイルス病の発生に対応して、以下の公衆衛生対策がとられました。
 
・受動的サーベイランスと同様に、医療施設での積極的な症例発見を目的としたアラートモニタリングの継続的な活用。
・エボラウイルス病の発生に対応するため、国際調整グループ(International Coordinating Group : ICG)のワクチン供給メカニズムを通じて、初めて承認された4,800人分のエルベボ(ERVEBO)ワクチンが供給されました。ERVEBOのワクチン接種は11月25日に開始され、12月14日現在、合計1,193人のエボラ対策の前線で働く者がERVEBOを接種しています。
・10月13日に治験用ワクチンの接種活動を開始しました。11月22日現在、ハイリスク接触者98人、接触者の接触者300人、推定接触者258人を含む656人が治験用ワクチンを接種しており、このうち81人が前線の従事者です。
・12月14日現在、834のスワブ検体を含む合計1,827の検体が検査され、そのうち8つがベニ、ブテンボ(Butembo)、マンギナ(Mangina)、ゴマのINRB現地検査所でエボラウイルス病感染と確定されました。
・エボラ治療センターと、その他の医療施設が疑い例への対応のため設立されました。生存が確認された3人の患者がベニのエボラ治療センターで承認されたモノクローナル抗体の投与を受け、そのうち2人はその後エボラウイルス病から回復しています。
・優先順位の高い83の医療施設において、感染予防と管理(IPC)キットの寄贈、トレーニング、支援監督、対応の評価などの活動を通じて、感染予防と管理の能力を強化しました。その他221の医療施設に対しては、キットの寄贈や医療従事者への説明会を通じて追加的な支援を行いました。
・10月8日の感染拡大の宣言から12月12日までに、合計14の入国拠点が設置され、4,745,892人のスクリーニングと216件の警告の確認が行われました。感染が確認されたものはありませんでした。
・エボラウイルス病の症例の早期発見、隔離、治療のための医療従事者の訓練と再教育、安全で尊厳ある埋葬と感染予防と管理活動の再教育が実施されました。
・複数のコミュニティグループが、エボラウイルス病に対する民間の認識を高めるために、幅広いコミュニケーション手段(コミュニティ・ダイアログ、コミュニティ・ラジオ、ソーシャルメディアなど)を用いて、リスクコミュニケーションとコミュニティ感化活動を実施しました。また、コミュニティは対応にも協力しました。さらに、コミュニティからの噂、質問、コメントを記録するために、8つのパートナー間で共同フィードバックの仕組みが設定されました。これにより、ターゲットを絞ったコミュニケーションと、コミュニティとのタイムリーな対話が可能になりました。
・心理社会的支援は、影響を受けた個人や家族に提供され、確定された患者や疑いのある患者、その近親者や子どもへの心理的支援も必要に応じて行われました。コミュニティでは、エボラウイルス病対策の様々な側面に関する心理社会的セッションが定期的に開催されました。
・ベニ(Beni)では、MoHのリーダーシップのもと、地球規模の感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARNエボラ出血熱等の国際感染症の危機発生時に世界屈指の感染症対策チームを迅速に派遣・運営する国際的な枠組み)のパートナーと協力して、統合アウトブレイク分析(IOA)セルが設置されました。統合アウトブレイク分析セルは、運用上および戦略上の質問(ベニ2018-2020からの教訓として得た、子どものエボラウイルス病のリスク、アラートパフォーマンス評価、医療従事者の認識と行動、健康追求行動)に答えるために5つの臨時調査と分析を提供し、証拠に基づく戦略および運用勧告の共同開発に貢献しました。
・国際赤十字・赤新月社は、エボラウイルス病発生期間中、安全で尊厳ある埋葬を提供するコンゴ赤十字を支援しました。
・WHOは、コンゴ民主共和国保健省によるエボラウイルス病生存者ケアプログラムの実施を継続的に支援した。回復した2人は、生物学的検査とともに、18ヶ月間の医学的・心理学的なフォローアップを受ける権利があります。

WHOによるリスク評価

今回のエボラウイルス病の再流行は、3年弱の間に5回目の発生となります。前回のエボラウイルス病の発生は、今年2月に北キブ州で報告され、2021年5月3日に終息が宣言されました(詳細はWHOより2021年5月4日に発表されたDisease Outbreak Newsをご覧ください)。
 
エボラウイルス病の可能性が高い症例と確定症例はすべて、人口密度の高いベニ市内にある3つの保健区域で確認されました。 WHOは引き続き状況を監視し、リスクアセスメントはより多くの情報が入手可能になり次第、更新されます。
 
WHOは、今回の再流行は望ましくないものの、エボラウイルス病がコンゴ民主共和国で流行し、エボラウイルスがこの地域の動物生息地に存在することを考えると、予想外のことではないと考えます。つまり、保菌動物への接触による再流行のリスクを排除できないことを指摘しています。また、大流行後に散発的な症例が発生することも珍しくありません。エボラウイルスは、エボラウイルス病生存者の特定の体液中に残存することがあります。限られたケースではありますが、生存者の体液への曝露による二次感染も起きています。したがって、生存者団体と協力関係を保ちながら、生存者を監視することが、潜在的なリスクを軽減するための優先事項です。

WHOからのアドバイス

WHOは、ヒトへのエボラウイルス病感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク軽減策をアドバイスしています。
 
・感染したフルーツコウモリやサル・類人猿との接触やそれらの生肉の摂取による野生動物からヒトへの感染リスクを低減すること。動物の取り扱いには、手袋やその他の適切な防護服を着用すること。動物製品(血液、肉)は十分に加熱してから食すること。
・エボラウイルス病の症状がある人との直接または濃厚接触、特にその体液によるヒトからヒトへの感染のリスクを低減すること。エボラウイルス病患者の世話をする際には、適切な個人保護具を着用すること。入院中の患者を見舞った後や、体液に触れたり接触したりした後は、定期的に手洗いをすることが必要です。
・生存者の体液に残存するウイルスによる感染のリスクを減らすために、WHOはエボラウイルス病生存者ケアプログラムを通じて医療ケア、心理的サポート、生物学的検査(連続2回陰性になるまで)を提供することを推奨しています。WHOは、血液検査でエボラウイルスが陰性であった回復期の男女患者の隔離は推奨していません。
・エボラウイルス病患者の早期発見、隔離、治療のための保健医療従事者の訓練と再教育、安全で尊厳ある埋葬と感染予防と管理リングアプローチに関する再教育を継続すること。
・患者管理および汚染除去のための個人防護用具および感染予防と管理の確保
・エボラウイルス病患者への対応に備えた感染予防と管理対策の遵守状況について、「スコアカード」を利用して医療施設の評価を実施する(評価項目にはWASH、廃棄物管理、個人防護用具、トリアージ/スクリーニング能力などを含む)。
・安全で尊厳のある埋葬の方法を強化するためのコミュニティとの連携
 
WHOは現在のリスク評価とエボラウイルス病の発生に関する過去のエビデンスに基づき、コンゴ民主共和国への渡航と貿易を制限しないよう勧告しています。

出典

Disease outbreak news: Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
16 December 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2021-DON351