黄熱 ― アフリカ西部および中央部

Disease outbreak news   2021年12月23日

2021年、WHOアフリカ地域のカメルーン(Cameroon)、チャド(Chad)、中央アフリカ共和国(Central African Republic: CAR)、コートジボワール(Côte d'Ivoire)、コンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo: DRC)、ガーナ(Ghana)、ニジェール(Niger)、ナイジェリア(Nigeria) 、コンゴ共和国(Republic of Congo)の9カ国は、黄熱のリスクが高く黄熱の感染と発生が歴史的にある地域でヒトにおける検査確定例が発生したと報告しました。これらの発生は症例数が増加しており、緊急の対応が必要となっています。
 
2021年初頭から12月20日現在までの間に、黄熱(黄熱)の推定症例300件、検査確定例は88件となっています。推定症例のうち、6カ国(ガーナ42人、カメルーン8人、チャド8人、ナイジェリア4人、コンゴ2人、DRC2人)から66人の死亡が報告されており、推定症例における致死率(CFR)は全体で22%ですが、ガーナ(40%)やカメルーン(21%)など、国によって非常に大きなばらつきがあります。
 
2021年10月と11月に、ガーナとチャドでそれぞれ黄熱の発生が確認され、国際調整グループ(International Coordinating Group: ICG)による黄熱ワクチンの緊急世界備蓄からのワクチン提供の支援が必要となりました。
 
感染流行国の中には、黄熱の集団免疫獲得率が低いことに加え、治安的に脆弱、または紛争の影響下にあると分類される国もあります。政情不安定(チャド、カメルーン、CAR)または保健サービスが行き届いていない遊牧民コミュニティ(ガーナ)のために黄熱の疑いのあるケースの調査の格差や遅れは、人の健康への害やさらなる流行の増加・拡散リスクに影響を及ぼしています。
 
また、例えばカメルーン、チャド、CARのような、黄熱のサーベイランス、黄熱への備えや対応システムが弱く、隣国への人口移動が著しく、アクセスしにくい保健地区で症例が確認されている状況も懸念が大きいです。さらに、コートジボワールのアビジャン(Abidjan)などの大都市圏では、黄熱の症例が報告されており、ネッタイシマカによる人・蚊・人の感染(森林サイクルの関与なし)が媒介となって増幅するリスクが大きいため、懸念されています。都市部での黄熱の発生は、2016年にアンゴラ(Angola)やコンゴ民主共和国で見られたように、国際的に伝播して急速に増加する可能性があります。確定症例と推定症例の数は急速に増加しており、患者のワクチン接種歴など、入手可能な疫学・臨床データとの関連で解釈が複雑なため、追跡が困難となる課題を抱えています。
 
これらの地域における全体的な黄熱ワクチン接種率は、集団免疫を獲得し、アウトブレイクを抑止するのに十分ではありません。2020年のWHOとユニセフによる定期予防接種としての黄熱ワクチン接種率の推計は、アフリカ地域で44%であり、黄熱に対する集団免疫を獲得するために必要な80%の閾値をはるかに下回っています。ガーナ(88%)を除き、懸念される国々の国別接種率は以下に示すとおり、すべて80%未満でした。コンゴ(69%)、コートジボワール(69%)、ニジェール(67%)、カメルーン(57%)、DRC(56%)、ナイジェリア(54%)、中央アフリカ共和国(CAR)(41%)およびチャド(35%)。このように低い黄熱ワクチン接種率は、黄熱の感染リスクのある集団の存在と継続的な感染のリスクを示唆しています。
 
これらの流行は、アフリカの西および中央地域の広い地域で発生しています。これらの報告は、黄熱ウイルスの再流行と感染状況の悪化を示唆しています。発生地域には、過去に大規模な集団予防接種キャンペーンを実施した地域も含まれていますが、定期的な予防接種による集団免疫の持続性がないことや、二次的な人口移動(予防接種歴がなく新たに居住者となったもの)のために、免疫の格差が継続・拡大している地域もあります。例えば、2020年11月に流行が報告されたギニア(集団予防接種キャンペーンの実施履歴は2005年、2010年)、同じく、2020年11月に流行の報告がされたセネガル(集団予防接種キャンペーンは2007年、それに加え2011年、2005年、2002年の流行の対応として行われた集団予防接種キャンペーンの実施履歴もある)におけるアウトブレイクを含め、全国規模の集団予防接種キャンペーン(PMVC)の実施歴を持つ国々で2020年末に黄熱の発生が確認されています。2021年、ガーナで最近確認された流行は、同国が2020年11月にPMVCの最終段階を終えたにもかかわらず、遊牧民のコミュニティへの影響は顕著となりました。また、全国規模の段階的なPMVCが進行中でまだ完了していないコンゴ民主共和国、ナイジェリア、あるいはまだ開始されていないチャド、ニジェールでは、遊牧民コミュニティ以外でも、疑い例、推定例、確定例の発生と報告があり、拡大のリスクをさらに高めています。
 
また、リスク増大の潜在的な要因として、推定症例の調査の遅れが挙げられます。推定症例の調査は、報告国の多くで困難に直面しており、リソース不足、能力、ロジスティクスの問題が複雑に絡み合っています。黄熱が確認された9カ国の保健システムは、COVID-19パンデミックとCOVID-19ワクチン展開に加えて、他の多くの同じく重要かつ緊急を要する公衆衛生の問題にも直面しており、黄熱への準備と対応活動に注力したり、人員や労働力を集結することを難しくしています。
 
広範な地域で多数の黄熱感染者および集団発生が確認され、それらが増加傾向にあることは、地域の広い範囲で黄熱ウイルスの激しい流行が続いていることを示しており、黄熱高リスク国に居住または渡航するすべての黄熱ワクチン未接種者に対する黄熱感染の持続的かつ拡大リスクを示しています。
 
2021年に黄熱の推定症例を報告した国々
 
ベナン(Benin)、ブルキナファソ(Burkina Fso)、ガボン(Gabon)、マリ(Mali)、トーゴ(Togo)、ウガンダ(Uganda)からも黄熱の推定症例が報告されています。最も新しいものは、9月から10月にかけて採取された検体で、ガボンのオグエ・マリティーム(Ogooué-Maritime)州ポールジャンティ(Port-Gentil)地区での2例とトーゴのプラトー(Plateaux)地域のノツェ(Notse)市ハホ(Haho)とアタクパメ(Atakpame)市オグー(Ogou)の保健地区で報告された2例でした。これらの検体は現在、確認のため地域の基準研究所に輸送されています。

WHOによるリスク評価

黄熱病は、感染した蚊(Aedes属、Haemogogus属など)が媒介する急性のウイルス性疾患です。都市部や人口密集地など、昼行性のヤブ蚊が生息する環境では感染が拡大し、急速に広がる可能性があります。感染しても多くの人は重篤な症状を呈しませんが、一部の人は重症化します。3~6日の潜伏期間の後、感染者は発熱、顕著な腰痛を伴う筋肉痛、頭痛、悪寒、食欲不振、吐き気や嘔吐を特徴とする「急性期」の症状を発症し、3~4日以内に回復します。約15%の症例は、最初の寛解から24時間以内に、高熱、腹痛や嘔吐を伴うかあるいは伴わない黄疸、出血、腎不全を含む第2の「毒性期」に入り、これらの症例の50%が10~14日以内に死亡します。感染予防にはワクチン接種が最も重要な手段です。
 
地域レベルのリスクは、以下の理由により高いと判定されます。
 
・高リスクとされる、現在または過去に黄熱が報告され、現在媒介蚊と病原保有動物が存在する国または地域の9カ国での黄熱ウイルスの蔓延。
・定期予防接種の対象とならない遊牧民などの感染に脆弱な集団や、AFRO地域を超えて地域的に広がるリスクのある非正規の国境通過を含む、人口移動の増加。
・コートジボワールのアビジャン(Abidjan)やナイジェリアのラゴス(Lagos)のような都市部で発生する潜在的なリスクは、地域的・国際的な広がりをもたらす真の脅威となりうること。
・都市と農地・森林が混在する地域(コートジボワールのアビジャン中心部など)にある黄熱クラスターでは、黄熱が都市部にまで蔓延するリスクが常に存在し、他の蔓延しているフラビウイルスとの交差反応性が高く、検査結果の解釈を複雑にしていることが明らかになっていること。
・感染国はサバンナ地帯に属し、森林や低木林などの生態系が類似しており、黄熱ウイルスの主要な野生宿主である霊長類(サル)を含む様々な動物が生息しています。また、この生態系は黄熱の媒介蚊であるヤブカ属にも適しており、ヒトと霊長類の両方の森林サイクルと都市型サイクルをつなぐサバンナ感染サイクルの確立に寄与していること。
・感染国において、脆弱な保健制度や紛争により黄熱のサーベイランスが不十分で、黄熱の可能性が高い症例の調査が遅れ、実際の症例数や流行の深刻度が過小評価される可能性があること。
・過去に黄熱ワクチンキャンペーンを行ったことのある国での定期予防接種率が低下しており、過去10年間で減少傾向にあること(2010年の平均72%から2020年には平均65%に減少)。
・ナイジェリア、コンゴ民主共和国などの国々で黄熱予防接種キャンペーンが遅れている、またはエチオピア、チャド、ニジェールなどの国々ではまだキャンペーンが計画されていないこと。
・同時発生している感染症(コレラ、髄膜炎、マラリア、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)、チクングニア、リーシュマニア症、ペスト、ラッサ熱など)およびCOVID-19パンデミックは、サーベイランスと対応に支障をきたす可能性があること。
 
現段階では、アフリカ地域以外では今回のアウトブレイクに関連する症例は報告されていないため、世界レベルでの全体的なリスクは低いと考えられています。しかし、アフリカ地域外でも黄熱にとって好ましい生態系が存在し、適時に検出されない場合はさらなる感染拡大の可能性があり、症例サーベイランスおよび予防を行う能力に課題が生じる可能性があります。
 
アジアでは20億人以上が主力媒介蚊であるネッタイシマカとヒトスジシマカが存在する地域に住んでいます。世界的な旅行の拡大と急速な生態学的・人口学的変化によって、アジアへの黄熱流出リスクは高まっています。流行国との相互接続性から、中国、インド、アラブ首長国連邦、サウジアラビアが黄熱流入リスクが最も高いと評価されていますが、自国内伝播のリスクは未知数です。ナイジェリアのラゴス、チャドのンジャメナ(N’Djamena)、中央アフリカ共和国(CAR)のバンギ(Bangui)などでは、感染した旅行者が都市部にウイルスを持ち込み、ほとんど無防備な都市部の住民の間での流行が発生するリスクがあり、国際的に急速に流行が拡大するリスクも継続的に存在します。
 
現在進行中のアウトブレイクが抑制され、黄熱ワクチン接種率が高くなり、人々の免疫格差が解消されるまで、公衆衛生への影響は続きます。ワクチン接種率が不十分で、住民の免疫格差が続いている国に感染者が入国することは、地域にとって高いリスクであり、排除を達成するために投じられた多大な努力を無にする可能性があります。

WHOからのアドバイス

黄熱病の患者や発生が報告されている国は、いずれも黄熱病撲滅(EYE)戦略の優先順位が高い国です。これらの国々では、生後9ヶ月からの黄熱病予防接種を定期接種に導入し、また、チャドとナイジェリアを除く国では、生後9ヶ月以上のすべての渡航者に対して、黄熱病予防接種の証明を要求しています。チャドとナイジェリアでは、黄熱病感染のリスクがある国から来る渡航者にのみ、接種証明を要求しています。ワクチン接種は黄熱病の予防と制御のための主要な手段です。都市部では、的を絞ったベクターコントロール対策も感染を抑制するのに有効です。WHOとパートナーは、現在の流行をコントロールするために、地元当局がこれらの介入策を実施する支援を続けていきます。
 
WHOは、黄熱病の高リスク国へ行く生後9ヶ月以上のすべての海外旅行者に黄熱病の予防接種を推奨しています。また、流行国では、生後9ヶ月以上の渡航者に黄熱病予防接種証明書の提出を義務付けています。
 
WHOが推奨する黄熱病ワクチンは、安全で高い効果があり、生涯にわたって感染から身を守ることができます。国際保健規則(IHR: 2005)に従い、黄熱病の国際予防接種証明書の有効期限は、WHOが承認したワクチンを接種した人の生涯にわたって有効です。海外渡航者に入国条件として承認された黄熱病ワクチンの追加接種を要求することはできません。
 
WHOは、COVID-19パンデミック時の予防接種活動の指針を発表しており、現在、COVID-19の状況下で集団予防接種キャンペーンを実施するための具体的な運用ガイダンスを策定中です。状況が許せば、EYE戦略はWHOのガイダンスに従って黄熱予防の活動の迅速な再開を支援します
 
WHOは加盟国に対し、渡航者にリスクと予防接種を含む予防策について十分な情報を提供するために必要なすべての行動をとるよう奨励しています。また、渡航者には黄熱の兆候や症状を知ってもらい、兆候が見られた場合には速やかに医師の診察を受けるように通知しておくことも必要です。ウイルスが体内に存在した状態で帰国した旅行者は、黄熱の媒介蚊が存在する地域に感染サイクルを持ち込むリスクがあります。
 
2020年7月1日にWHOが更新した黄熱病の感染リスク地域とそれに関連する海外渡航者への予防接種の推奨事項、改訂版の黄熱リスク地域と黄熱病予防接種推奨地域の地図はWHO国際旅行と健康(WHO International Travel and Health)のウェブサイトにて公開されています。
 
WHOは、今回の流行に関する入手可能な情報に基づき、同地域への渡航および貿易に関するいかなる制限も推奨していません。

出典

Disease outbreak news: Yellow Fever – West and Central Africa
23 December 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/yellow-fever---west-and-central-africa