複数国におけるサル痘のアウトブレイク(更新3)

External Situation Report 3, 2022年8月10日
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 7 August 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
27,814人 11人 89
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域 低から中まで

焦点

サル痘の死亡者については、アフリカ地域以外の国である、スペイン(2人)、ブラジル(1人)及びインド(1人)で初めて報告されました。2人の死亡者にあってはウイルス性脳炎に死亡が関連しており、一部の患者にあっては免疫抑制状態にありました。
 
WHOは、サル痘ウイルスの変異株に係る名称を検討するために、オルソポックスウイルス属について、2つのWHO協力センター会議(ポックスウイルス科及びウイルスの進化に関する専門家が関係する。)を8月8日に開催しました。
 
サル痘の別名はICD提供フォームで収集されており、提案は歓迎されています。ウイルスそのもの及びその分類に係る名称を変更するために、進行中である他の過程があります。
 
WHOは、加盟国からWHOに提供された症例報告フォームから詳細な疫学的情報を提供するために、「複数国におけるサル痘のアウトブレイクに関する世界的な傾向」という世界的な疫学報告を2022年7月20日に発表しました。西及び中央アフリカにおける状況に焦点を当てた新しい節が6月28日に追加されました。
 
サル痘に係るワクチン接種プログラムについては、強い情報啓発の取組を伴う必要があります(完全に獲得免疫が立ち上がるために、ワクチン接種完了(1又は2回接種は、製品によって異なる。)からおよそ2週間を要する。このアウトブレイク(ある特定かつ限定の地域で、ある感染症が通常の頻度を明らかに超えて発生した状態をいう。以下同じ。)下の様々な状況におけるワクチン接種による予防については、いまだ明らかになっていません。)。これらの理由から、アウトブレイクが存在して最も影響を受ける集団の人については、このアウトブレイク中は感染予防措置を継続して講ずる必要があります。感染予防措置については、潜在的な曝露機会を減少するために、性交渉を行う相手の数を一時的に減少することが含まれる可能性があります。

WHOは、このアウトブレイクを制御するために、各国に対し、対応を拡大し、かつ、推奨事項(「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に関する宣言に含まれる。)を実施するよう要請しています。
 

疫学的な更新情報

2022年1月1日から8月7日までにWHO管轄である全6地域の89の国・地域から、27,184人の新規感染者数及び11人の新規死亡者数がWHOに報告されました(表1)。2022年7月25日に発表された複数国におけるサル痘のアウトブレイクに関する状況報告以降、11,798人の新規感染者数(74%の増加)及び6人の新規死亡者数が報告されました(新たに14か国で新規感染者数が報告されました。)。過去7日間で42か国が毎週の新規感染者数の増加を報告しました(ブラジルにおいて最大の増加が報告されました。)。過去21日で新規感染者数の報告がなかった14か国があります(21日は、潜伏期間の最大値です。)。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数は、疫学的第30週(2022年7月25日から7月31日まで。)の5,213人から比較し、疫学的第31週(2022年8月1から8月7日まで。)の6,217人まで19%増加しました。過去4週間に報告された新規感染者数の大多数は、欧州地域(53%)及び北米・中南米地域(46%)から通知されました。
 
2022年8月7日時点で世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(7,510人)、スペイン(4,577人)、ドイツ(2,887人)、英国(2,759人)、フランス(2,239人)、ブラジル(1,721人)、オランダ(959人)、カナダ(957人)、ポルトガル(710人)及びイタリア(505人)です。この10か国を合算すると、今日に至るまでに世界で報告された新規感染者数の89%を占めています。各国の新規感染者数については、過小報告されているため、慎重に解釈する必要があります。
 
過去7日間で累積10か国が感染者を初めて報告しました。これらには、モンテネグロ、ウルグアイ、リベリア、スーダン、ボリビア、キプロス、グアドループ、グアテマラ、リトアニア及びサン・マルタンが含まれます。
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のサル痘に係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から8月7日17時(欧州夏時間)まで)
 

表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のサル痘に係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から8月7日17時(欧州夏時間)まで)

 
他の重要な疫学的知見
 
性別に関するデータは、新規感染者の73%(23,290人中の17,052人)で入手できます。これらのうち99%(17,052人中の16,839人)は男性であり、報告された新規感染者数の年齢の中央値は36歳です(四分位範囲は、31から43まで。)。18歳から44歳までの男性は、新規感染者数の77%を占めるため、このアウトブレイクの影響を不均衡に受け続けています。感染者数の1%未満(17,426人中の98人)については、年齢が0歳から17歳まででした。
 
HIV状態と報告されたサル痘感染者数の39%(8,234人中の3,204人)がHIV陽性でした。
 
今日に至るまでに感染者のうち344人が医療従事者であると報告されています。その大半が医原性感染ではないと報告されているその一方、現在のアウトブレイクでは少なくとも1例が職業性曝露による医原性感染であると報告されています。
 
進行中であるサル痘のアウトブレイク(アフリカ地域の国々を除く。)は、次の特定された男性1から2までに影響を継続して与えています。
 
 1 ゲイ、バイセクシャル及びMen who have sex with men(男性間で性交渉を行う者をいう。以下「MSM」という。)と特定された男性
 2 1人以上の相手と性交渉を直近で持ったと報告された男性
 
女性及び小児と同様に、他の男性でも新規感染者が報告されていますが、これらの新たな集団で感染が持続していることを提起する兆候はありません。

感染経路

報告された感染者のうち、33%(23,290人中の7,741人)が性的指向に関する情報を報告しました。これらのうち97%(7,741人中の7,541人)がゲイ、バイセクシャル及びMSMであると特定されました。
 
感染経路に関するデータは感染者の23%(23,290人中の5,315人)で入手可能であり、そのうち91%(5,315人中の4,856人)が性交渉による感染を報告しました(図2)。性的指向(異性愛者、レズビアン(women who have sex with womenであり、女性間で性交渉を行う者をいう。)及び他の指向)が報告された感染者のうち(MSMを除く。)、74%(95人中の70人)については、報告された感染経路として性的な出会い(※2)を報告しました(※3)。
 
図2 感染経路別のサル痘感染者(2022年8月7日時点の5,315人)
 

※1 感染・伝播性を検討する場合、性交渉中の皮膚と皮膚の接触による感染及び体液を介した感染を明確に区別することが困難です。病変である皮膚と皮膚の接触は依然として重要な感染経路ですが、確定された感染者の検体(精液及び直腸スワブ)からサル痘ウイルスが分離検出されています。
 
※2 性的指向については、直近の性交渉歴を伴う者及び性的活動を示唆する者を必ずしも反映しません。
 
※3 この時点まで2022年の複数国におけるサル痘の流行については、MSMの集団へ圧倒的に集中していました。このため、MSM以外の感染者がサル痘に感染した事態を理解することは、より広範な集団に対する持続的な影響の可能性を追跡するために重要です。
 
図3 公式情報からWHOによって特定又は報告されたサル痘の確定された感染者に係る地理的分布(2022年月1日1日から8月7日17時00分(欧州夏時間)まで)

調査及び研究

サル痘の調査、感染者の調査及び濃厚接触者の追跡に関するWHOの暫定指針は、検査、報告、感染者の調査及び濃厚接触者の追跡に係る基準を概説しています。現在WHOは、感染者の臨床症状に関する情報を追加し、かつ、疑い感染者をより適切に特定できるための症例定義を適用させるために、この暫定指針の更新に取り組んでいます。
 
サル痘感染者調査フォーム(以下「CIF」という。)については、サル痘に関する直近の国際保健規則緊急委員会の会議に続き、WHO事務局長の勧告をよりよく反映するために、最小限の集合データである感染者報告フォーム(以下「CRF」という。)と同様に、調査指針とともに更新される予定です。現在WHOは、世界的に報告された累積の確定された感染者のうち、90%近くのCRFを受理しています。これらのデータの一貫性及び完成度は、各国で異なります。
 
WHOは、サル痘に対して各国が実施するアウトブレイク対応に関する情報の体系的な収集を、政策・対応の追跡(調査、検査、隔離、検疫及び予防接種の情報を含む。)を通じて試験的に行っています。

臨床的な管理、ワクチン及び治療法

ワクチン

現在WHOは、サル痘のワクチン及び予防接種に関する暫定指針を更新しています。WHOは、加盟国に対し、各国の予防接種技術諮問グループを招集して新たな科学的根拠を検討し、かつ、各国の状況に関連してワクチンの使用に関する政策提言を作成するよう、強く推奨しています(必要なときは適時の対応を支援するという目的と同様に、感染者が少数又は未報告の国々における準備を確実にするという目的のためです。)。ワクチンの効果を論文化し、かつ、予防接種に係る戦略を評価するために、ワクチンの有効性に関する研究をワクチンの開始中に実施することが推奨されています。
 
疾病の発症を予防するために、感染者の濃厚接触者に対し、理想的には最初の曝露から4日以内(無症状の場合は、最大14日以内。)に曝露後予防が推奨されています。
 
曝露前の一次予防接種については、リスクの高い集団に推奨されます(リスクの高い曝露(全てではないものの、特にゲイ、バイセクシャル、MSM又は複数の相手と性交渉を行う者)を伴う個人、リスクの高い曝露機会を伴う医療従事者、オルソポックスウイルス属を扱う検査室の職員、サル痘の診断検査を実施する臨床検査室の職員及びアウトブレイク対応チーム要員(国立公衆衛生機関が指定する。)を含む。)。天然痘又はサル痘のワクチン(潜在的な曝露前又は曝露後)を接種した個人の予防接種に関する全ての決定は、利害を考慮し、それぞれのケース毎に、医療提供者及び将来的なワクチン接種予定者との間で臨床的意思決定を共有する必要があります。
 
予防接種プログラムについては、情報啓発の取組を伴う必要があります(獲得免疫が完全に立ち上がるまでワクチン接種完了(1又は2回接種は、製品によって異なる。)からおよそ2週間を要する。また、このアウトブレイク下における様々な状況で、これらのワクチンによる予防の知見については、いまだ明らかになっていない。)。
 
サル痘に対するワクチンを使用している加盟国は、特にワクチンの有効性及び効果並びに安全性に関する科学的根拠の早急な作成を増やすため、標準化された設計手法及びデータ収集ツール(臨床及び結果のデータを対象とする。)を使用した共同的な臨床研究の枠組みの中で、そうするように推奨されています。
 
サル痘ワクチンを用いた臨床試験(プラセボ対照)及びその予定に被験者の参加が可能であると考えられない場合であって資源が許すときは、ワクチンの効果を評価するための様々な強固性のある研究デザインを使用し、迅速に標準的なデータ収集手法を導入する必要があります。
 
WHOは、天然痘及びサル痘ワクチンによる予防接種後の有害事象を報告するために、ウプサラ調査センター(WHO共同施設)と協力し、VigiMobile Appというスマートフォンのアプリを開発しました。

治療法

サル痘ウイルス感染症に対して承認された特定の治療法は、現在ありません。しかしながら、天然痘治療の目的やサル痘感染者に有用な可能性のある状況で使用される抗ウイルス薬があります。それゆえ、一次的な医療介護レベルにおけるサル痘治療のために治療法を開発することは、重症化、合併症及び感染進行を予防するために、最優先事項です。
 
WHOは、業界の専門家、製品開発者、科学者の集団、国家感染制御プログラムの担当者及び現在サル痘の管理及び制御に関与する臨床医から、サル痘感染者へ治療法となりうる標的製品の概略について、意見を求めています(標的製品の概略は、サル痘治療に転用された薬剤の評価又は新規治療薬の開発を導き、かつ、優先することを目的としています。)。

出典

World Health Organization. Multi-country outbreak of monkeypox External Situation Report 3, published 10 August 2022”.WHO.2022. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-monkeypox--external-situation-report--3---10-august-2022, (参照2022-08-11).