複数国におけるサル痘のアウトブレイク(更新4)

External Situation Report 4, 2022年8月24日
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 22 August 2022
 
確定された患者数 死亡者数 国・地域数
41664 12 96

リスクアセスメント  
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域 低から中

焦点

・8月15日から21日の週、アメリカ地域の患者報告数は、ここ数週間の傾向を裏付けるように、引き続き急激な増加を示している。世界的には、4週連続で増加した後、同週(n=5907)のサル痘の報告数は、前週(n=7477)に比べて全体で21%減少した。この減少は、ヨーロッパ地域における患者数減少の早期兆候の可能性があるが、引き続き確認が必要である。

・8月8日、WHOは、オルソポックスウイルス属に関する2つのWHO協力センターとポックスウイルス学およびウイルス進化の他の専門家の会議を招集し、サル痘ウイルス(MPXV)変異種の命名について検討した。今後は、コンゴ盆地または中央アフリカのクレードをクレードIと呼び、西アフリカのクレードをクレードII、サブクレードIIaおよびIIbと呼び、後者は複数国のアウトブレイクで優勢である変異種を指すことになる。

・WHOは、サル痘のワクチンと予防接種に関する暫定ガイダンスを更新した。この更新には、予防接種を考慮すべきサル痘のリスクを有する集団について明確化と、曝露前と曝露後のワクチン接種に関する用語の更新が含まれる。HIVの管理で使用される用語との混乱を減らすために、曝露前予防(PrEP)ではなく一次予防(曝露前)ワクチン接種(PPV)、曝露後予防(PEP)ではなく曝露後ワクチン接種(PEPV)を使用するように変更されている。

疫学的な更新情報

2022年1月1日から8月22日までに、WHOの全6地域の96の国から、サル痘患者41664人と死亡者12人がWHOに報告された。(表1)。2022年8月10日の報告以降、13859例(50%増)と1名の死亡例が新規報告され、新たに7カ国から報告された。過去7日間で、最も増加したのはアメリカ合衆国であった。全世界の新規患者数は第32週(8月8日~14日)(n=5213)と比較して第33週(8月15日~21日)(n=5907)は21%減少した。過去4週間に報告された症例の大部分は、アメリカ地域(60.3%)とヨーロッパ地域(38.7%)である。
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のサル痘に係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から8月22日17時(欧州夏時間)まで)
グラフ

自動的に生成された説明

表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のサル痘に係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から8月22日17時(欧州夏時間)まで)
テーブル

自動的に生成された説明
その他の重要な疫学的知見

・男性の若年層が罹患しており、データが入手可能な症例の98.2%(20500人中の20138人)が男性である。 中央値で36歳(四分位範囲は30-43歳)、年齢のデータがある症例のうち、0~17歳の症例は1%未満(23626人中の140人)である。この割合は国によって異なり、西アフリカと中央アフリカでは若い年齢層の割合が高く、38.7%(168人中65人)は0~17歳で、そのうち12.5%が(21/168人中21人)は0~4歳であった。

・性的指向について聴取された症例では、95.8%(9484/9899)がMSM(男性間で性交渉を行う者)であった。感染経路が判明しているもののうち、性交渉が多く報告され、7250人中5954人(82.1%)であった。

・曝露状況が判明している報告のうち、性的接触のあるパーティーで曝露されたと思われるケースが大半を占め、3639人中2204人(60.6%)であった。

・HIVについて聴取されている症例では、45%(10036人中4501人)がHIV陽性であった。

医療従事者の感染

2022年8月22日現在、医療従事者の感染はごく一部の報告があるが、ほとんどは地域で感染したもので、残りの感染が職業曝露によるものかどうか、調査中である。医療関連感染は、現在までに3例が確認されている。
 
図3 公式情報からWHOによって特定又は報告されたサル痘の確定された感染者に係る地理的分布(2022年月1日1日から8月22日17時00分(欧州夏時間)まで)

調査及び研究

 WHOは、国際保健上の緊急事態(PHEIC)宣言後、症状や疫学的パラメータに関する最新の情報を盛り込み、事務局長によって発行された暫定勧告に沿うように、サル痘感染者調査フォーム(CIF)および最小限の症例報告書(CRF)を更新した。
 現在、WHOは世界中で報告された確定症例の約90%についてCRFを受け取っている。これらのデータの品質は国によって大きく異なるが、全体としては、収集された情報の分析により、今回のアウトブレイクについて良質な知見が得られている。
 8月8日、WHOは、オルソポックスウイルス属に関する2つのWHO協力センターとポックスウイルス学およびウイルス進化の他の専門家の会議を招集し、サル痘ウイルス(MPXV)変異種の命名について検討した。今後は、コンゴ盆地または中央アフリカのクレードをクレードIと呼び、西アフリカのクレードをクレードII、サブクレードIIaおよびIIbと呼び、後者は複数国のアウトブレイクで優勢である変異種を指すことになる。

臨床的な管理、ワクチン及び治療法

ワクチン

 WHOは、サル痘のワクチンと予防接種に関する暫定ガイダンスを更新した。更新内容には、予防接種を考慮すべきサル痘のリスクのあるグループを明確化し、曝露前および曝露後のワクチン接種の用語を更新したことが含まれる。HIV感染予防の用語との混乱を避けるため、曝露前予防(PrEP)ではなく一次予防(曝露前)ワクチン(PPV)、曝露後予防(PEP)ではなく曝露後ワクチン(PEPV)を使用するように変更した。本ガイダンスでは、現在のサル痘発生の状況下でのワクチン接種の有効性は依然として不明確であることを強調している。
 曝露後ワクチン接種(PEPV)は、発症を予防し、重症化を軽減するために、理想的には最初の曝露から4日以内(症状がない場合は最長14日)に、症例の濃厚接触者に接種することが推奨されている。
 曝露前の一次予防接種(PPV)は、曝露のリスクが高い人(ゲイ、バイセクシャル、MSM、または複数の性的パートナーを持つ男性が重要だが、これらに限られない)、曝露のリスクが高い医療従事者、オルソポックスウイルスを扱う研究員、サル痘の診断検査を行う臨床検査室職員、国の公衆衛生当局が指定するアウトブレイク対応チームメンバーに推奨されている。
 曝露のリスクがあり、重症化のリスクが高い人(例:免疫不全者、妊婦、サル痘患者と接触する可能性のある人、同じ世帯の小児)には、ケースバイケースで適切なワクチンの接種を勧めるべきである。サル痘ワクチンや天然痘ワクチンの接種に関するすべての決定は、(潜在的な曝露の前後に)医療従事者と接種希望者の間で、リスクとベネフィットを考慮して臨床意思決定していく必要ある。
 サル痘ワクチンを使用する加盟国は、特にワクチンの有効性/効果および安全性に関するエビデンスの形成を迅速に行うため、標準化された研究デザインと、臨床データとアウトカムデータの収集ツールを用いた共同臨床研究の枠組みの中で行うことが強く奨励される。サル痘ワクチンやスケジュールに関するプラセボ対照臨床試験への参加が困難な場合でも、リソースの許す限り、標準的なデータ収集方法を用いて、ワクチンの有効性を評価する他の研究デザイン迅速に導入する必要がある。

治療

サル痘が疑われる、あるいは確定診断された患者のケアには、地域に応じたスクリーニングプロトコールによる早期認知、適切な感染予防と管理(感染予防策の実施や迅速な隔離など)の迅速な実施、診断確のための検査が必要である。また軽症例や合併症のないサル痘患者の対症療法、合併症や命にかかわるような状態(進行した皮膚病変、激しい疼痛、直腸炎、尿閉、皮膚病変の二次性細菌感染、眼病変、まれだが脳炎、心筋炎、死亡など)の監視と治療も必要である。軽症例や合併症のないサル痘で、自宅隔離している患者は、他の家庭や地域住民への感染を防ぎつつ、悪化した場合にケアを受けられるように、自宅で安全に隔離でき必要な感染管理予防策を維持できるかを慎重に評価する必要がある。隔離を含む感染対策は、病変が痂皮化し、痂皮が剥がれ落ち、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで、継続する。

リスクコミュニケーションと地域社会への働きかけ

 これらの活動は、最も影響を受ける人々に届く必要がある。ゲイ、バイセクシャル、男性とセックスする男性(MSM)、最近複数のセックスパートナーを持った人といった方々に知ってもらうためには、信頼できる既存のネットワークを利用するのが最も効果的である。ほとんどの国で、これらのネットワークは、HIV/AIDSネットワークと提携することによって利用可能である。働きかけには、影響を受ける人々のグループと一緒に考え、リスクの高い行為を避けるにはどうしたらよいか詳細なアドバイスと回答を伴うオープンクエスチョンを含める必要がある。
 影響を受ける人は、サル痘のさらなる拡大を避けるために、症状や行動アドバイスに関する最新情報や知識を知っておく必要がある。ワクチン、検査、治療薬が利用可能になるにつれ、1)誰がこれらを使用すべきか、2)どのように利用できるのか、3)どのように作用するのか、4)どういう限界がわかっているのかに関して、コミュニケーションを常に行っていく必要がある。この情報は、信頼できるチャンネル、主要な影響力を持つ人々、影響を受ける人々を代表するコミュニティベースの組織や市民社会組織を通じて共有されるべきである。ワクチン、検査、治療法について、よくわかっていない点に関しても共有されるべきである。

出典

Multi-country outbreak of monkeypox, External situation report #4 - 24 August 2022. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-monkeypox--external-situation-report--4---24-august-2022(参照2022-8-25)