複数国におけるサル痘のアウトブレイク(更新1)

External Situation Reprt 1, 2022年7月6日
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 4 July 2022
確定された患者数 死亡者数 国・地域数
6027 3 59
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
その他の地域

焦点

サル痘の複数国での発生に関する更新は、Disease Outbreak Newsから隔週で発行される situation reportへと移行した。 situation reportには、最新の疫学、新しいガイダンス、WHOのアドバイスの更新などの詳細が記載される予定である。本レポートに掲載されていない情報については、2022年6月27日に発行されたDisease Outbreak Newsを確認すること。
WHOは6月28日、現在のサル痘アウトブレイク時の集会に関して、公衆衛生上の助言を行うためのガイダンスを発表した。この助言は、開催国政府、公衆衛生当局、国内外の主催者、集会の企画・実施に携わる専門スタッフ、小規模な集会を企画する人、種類や規模を問わず集会に参加する人などに向けて作成されたものである。
 今回のアウトブレイクは、最近のうちに1人または複数の男性パートナーとの性交渉を報告したMSM(男性と性交渉を持つ男性)で主に拡大しており、現時点で、これらのネットワークを超えて感染の伝播が持続する兆候はないことが示唆されている。

疫学情報の更新

2022年1月1日から7月4日までに、WHOの5つの地域(アフリカ地域、アメリカ地域、東地中海地域、ヨーロッパ地域、西太平洋地域)の59カ国/地域から、検査室での確定が得られた6027例のサル痘患者と3名の死亡例がWHOに報告されている(表1)。前回のDisease Outbreak Newsが2022年6月27日に発行されて以来、新たに2614人の患者、(77%増)と2人の死亡が報告され、新たに9カ国/地域から患者が報告された。10カ国では、本疾患の潜伏期間の最大値である21日間を超えて、新たな症例は報告されていない。今回サル痘の感染者が新規に報告された国々で、西アフリカや中央アフリカといった過去にサル痘の報告がる国との疫学的なつながりがなく、地域での感染伝播が報告されたのは初めての事例である。
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のサル痘に係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から7月4日17時(欧州夏時間)まで)
グラフ

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表1 WHOへ報告されたWHO管轄地域別のサル痘に係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から7月4日17時(欧州夏時間)まで)
テーブル

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症例の人口統計

性別のデータは73%(4406/6027)の症例で得られている。このうち99.5%(4385/4406)は男性で、報告された症例の年齢の中央値は37歳(四分位範囲:31-43)である。今回のアウトブレイクは18~44歳の男性層に偏っており、症例の79%を占めている。年齢データが得られている症例の0.1%(6/5584)は0-17歳である。
 
図2a)サル痘患者の年齢性別分布(左図)
2b)サル痘患者の年齢層別の流行曲線(右図)
(2022年1月1日から7月4日17時(欧州夏時間)まで)
 
グラフ

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その他の疫学的知見
 性的指向が報告されている症例では、60%(1214/2025)がゲイ、バイセクシャル、男性とセックスをする男性であり、HIVの感染状況が報告されている症例では41%(335/827)でHIVが陽性であった。
 
医療関連感染は否定できず、医療従事者の感染が職業曝露によるものかどうか、さらなる調査を進めている。報告された症例のなかで現在までに25例が医療従事者であると報告されている。

臨床所見

今回のアウチブレイクに関連したサル痘患者の臨床所見は非典型的であり、新規に感染を起こした地域の多くの患者が、サル痘の古典的な臨床像(発熱、リンパ節の腫脹、それらに続いて四肢に広がる皮疹)を呈していない。少なくとも1つの症状を呈した症例のうち、81%が全身性皮疹(体全体に広がった皮疹)、50%が発熱、41%が性器の皮疹を呈していた。
 
図3 公式情報からWHOによって特定又は報告されたサル痘の確定された感染者に係る地理的分布(2022年月1日1日から7月1日17時00分(欧州夏時間)まで)
 
マップ

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最新情報とWHOのアドバイス

WHOは引き続き状況を注意深く監視し、加盟国やパートナーとの国際的な調整と情報共有を支援する。臨床および公衆衛生上の問題発生時は、加盟国による包括的な症例の発見、接触者調査、検査室での検査法、隔離、臨床の管理法、感染予防・管理策の実施、ワクチン接種活動、および進行中の疫学・対策研究への支援を調整するために. Clinical and public health incident responseが発動された。詳しくは、2022年6月27日発行のDisease Outbreak Newsを参照すること。

調査及び研究

WHOのSurveillance, case investigation and contact tracing for monkeypoxに関する暫定ガイダンスでは、検査、報告、症例調査、接触者調査の基準の概要が示されている。
 
疑い例としての臨床定義に合致する人は、検査を申し出るべきである。さらにゲイ、バイセクシャル、男性と性交渉を持つ男性、過去3週間に性的パートナーの数が多い、確定症例が報告された集会に参加したことがあるといった事が感染の危険因子であり、サル痘ウイルス(MPXV)検査の必要性を示唆する。サル痘感染が強く疑われる場合、皮疹の原因となる別の病原体が同定されていても、共感染が確認されているためMPXVの検査を妨げるべきではない。サル痘診断のための主要な診断検査は、皮膚病変部のPCRである。さらに、必要に応じて、口腔、鼻咽頭、直腸スワブなどの他の検体も採取されることがある。
 
今回の流行で見つかったサル痘ウイルスのDNAのゲノム解読は進行中である。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイとゲノム解読のデータから、検出されたサル痘ウイルスゲノムは西アフリカクレードに属していることが判明している。
 
各国は、国際保健規則(2005年)により、可能性の高い症例と確定症例をWHOに通知することだけが求められているが、すべての疑い症例は国の当局に報告されるべきである。
 
WHOは、詳細なサル痘の症例調査票(CIF)と、WHOに報告することが求められる最低限のデータを定義した最小データセット症例報告票(CRF)を作成した。現在、WHOは世界レベルで報告された確定症例の約80%について、CRFを受け取っている。このデータの一貫性と完全性は、国によって大きく異なる。CIFを用いた詳細な症例調査を支援するためのプロトコルは、近日中に発表される予定である。
 
既知の接触者のうち、最も多く疑われ報告されている感染経路は、性的接触である。性的接触者の完全なリストを報告するのは繊細な内容であるため、このアウトブレイクでは、感染していると思われる患者と確定した患者のすべての接触者を特定することが非常に難しく、すべての感染経路を断つことが難しい一因になっていると思われる。
 
現在、WHOはすべての既知の接触者、または曝露した可能性のある人に、最後に患者と接触した、または疑わしい接触から21日間症状を観察し、サル痘の徴候や症状が現れたら検査を受けるよう勧告している。症状がない場合は、検査や隔離は必要ないが、接触者は手指の衛生と呼吸器エチケットを厳格に守り、子供や免疫不全の人、妊娠中の人との接触を避け、21日間はあらゆる性的接触も避けることが推奨される。また不要不急の渡航も控えるように述べている。

感染予防と感染対策

適切な感染予防と感染対策(IPC)の実施、例えば、適切なスクリーニングスペース、換気、手指衛生、個人防護具(PPE)の使用、環境の清掃と消毒、医療従事者のトレーニングは、医療現場や地域社会におけるサル痘の感染伝播を軽減し、制御するために不可欠である。
 
医療従事者は、標準予防策を適用し、リスクアセスメントを実施して、感染予防策を行う必要性があるか評価する必要がある。標準予防策には、手指衛生、呼吸器衛生と咳エチケット、患者の配置、PPE、無菌操作、安全な注射手技の実施と鋭利器材損傷の防止、環境の清掃と消毒、洗濯物とリネンの適切な取り扱い、汚染除去と再処理または再利用できる患者ケア用品と機器、廃棄物管理などがあり、常にすべての患者に対して適用されるべきものである。
 
WHOは、医療現場においてサル痘の疑い例または確定例に対して、医療従事者による呼吸用保護具の使用を含め、感染経路別予防策(接触および飛沫、概要はClinical management and infection prevention and control for monkeypox: Interim rapid response guidance, 10 June 2022に記載)を実施するよう助言している。

臨床的なマネージメント、ワクチン、治療法

サル痘が疑われる、あるいは確定した患者のケアには、地域に合わせたスクリーニングプロトコールによる早期発見、迅速な隔離をと適切な感染予防・感染対策(IPC)の実施、診断確定のための検査、軽症例や合併症を伴わないサル痘患者の対症療法、合併症や生命にかかわる状態(皮膚病変の進行、皮膚病変の二次性細菌感染、眼病変、稀に重症脱水、重症肺炎、敗血症など)のモニタリングと治療が必要である。自宅で隔離している軽度あるいは合併症のないサル痘の患者は、他の家族や地域住民への感染を防ぐために、自宅で安全に隔離し必要な感染予防策を継続できるか、悪化した場合にケアを受けられるか、慎重に評価する必要がある。病変が痂皮化し、痂皮が剥がれ、その下に新しい皮膚が形成されるまで感染予防策を継続する必要がある。
 
治療介入の信頼性の高い評価を可能にするためには、COREプロトコルを用いた無作為化試験が望ましいアプローチである。やむを得ない理由がない限り、無作為化試験デザインを実施するためにあらゆる努力を払うべきである。特に重篤な疾患のリスクが低い個人においては、プラセボ対照試験を実施することは可能である。WHOのGlobal Clinical Platform for Monkeypoxを用いた安全性と臨床転帰のため統一されたデータ収集項目は、今回の事象を含むアウトブレイクにおいて望ましい最小限のデータセットとなるだろう。

ワクチン

WHOは最近、サル痘のワクチンと予防接種に関する暫定ガイダンスを作成した。WHOは加盟国に対し、現在複数国で発生しているサル痘の状況を考慮し、各国の予防接種技術諮問グループ(NITAGs)を招集してエビデンスを検討し、各国の状況に応じたワクチンの使用に関する政策提言を行うことを強く推奨している。天然痘ワクチンやサル痘ワクチンの接種(曝露前または曝露後)に関するすべての決定は、ケースバイケースでリスクとベネフィットを評価し、医療従事者と接種希望者の間で臨床意思決定を共有することによって行われるべきである。
 
サル痘に対するワクチンを使用している加盟国には、特にワクチンの有効性・効果や安全性に関するエビデンスを 迅速に創出するために、標準化されたデザイン手法や臨床・結果データの収集ツールを用いた共同臨床試験の枠組みの中で実施することを推奨している。サル痘ワクチンや接種スケジュールに関するプラセボ対照臨床試験への参加が困難な場合、ワクチンの有効性を評価するため、標準的なデータ収集方法を用いて、他の方法での頑健性が担保された試験デザインを迅速に実施する必要がある。

リスクコミュニケーションと地域社会への積極的な働きかけ

加盟国は、意識向上し、リスク認知を管理し、信頼関係を維持し、リスクを抱える人々がサル痘から自分自身と他人を守るために十分な情報を得た上で、決断できるように積極的に支援する取り組みに焦点を当てるべきである。6月24日、WHOは、サル痘のリスクコミュニケーションとコミュニティ参加(RCCE)のための方法と考慮する事項に関して暫定ガイダンスを発表した。このガイダンスには、影響を受ける人々や主要な対象者を特定し、コミュニケーションをとること、コミュニケーション・アウトリーチにおいてスティグマを回避することに関する推奨事項が含まれている。また、サル痘の症状、感染、予防策、不確実な点に関するコミュニケーションについての重要なメッセージも含まれている。本ガイダンスはまた、密接な肉体的な的接触によりサル痘の感染を助長する環境を作り出す可能性のある集会やイベントの管理者や企画者向けのRCCEガイダンスも提供している。さらに、サル痘対応を支援するためのRCCE手法とリソースに関する推奨事項の概要も含んでいる。

集会

集会では、参加者が密集しやすく、活動的になりやすくなるので、人と人が密接に、頻繁に、長時間にわたって接触しやすい環境となる。集会では、参加者がそれまで知らなかった人々と社会的交流をすることがよくあり、このような新しい交流の中には、サル痘ウイルスの伝播に関与の可能性がある性的活動が含まれることがある。
 
6月28日、WHOはサル痘流行時の集会に関する公衆衛生上の助言を提供するためにガイダンスを発表した。この助言は、開催国政府、公衆衛生当局、国内外の主催者、集会の企画・実施に携わる専門スタッフ、小規模な集会を企画する人、種類や規模を問わず集会に参加する人も含めて対象としている。

出典

Multi-country outbreak of monkeypox, External situation report #1 – 6 July 2022
https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-monkeypox--external-situation-report--1---6-july-2022
(参照2022-8-25)