エボラウイルス病―コンゴ民主共和国

Disease outbreak news  2022年4月28日

発生状況一覧

コンゴ民主共和国保健省は、赤道(Equateur)州ンバンダカ(Mbandaka)から患者が確認されたため、同国におけるエボラウイルス病(EVD)の発生を宣言しました。発症は4月5日でした。その後、この患者は4月21日に死亡し、安全かつ尊厳のある埋葬が行われました。2例目の患者(1例目の家族)は4月25日に確認されました。4月27日現在、267人の接触者が確認されています。接触者の追跡、さらなる調査、家庭や医療施設の除染など、その他の対策が進行中です。
これは、赤道州における3回目のエボラウイルス病の発生であり、2018年以降、同国で6回目のエボラウイルス病の発生となります。赤道州でのこれまでの発生は2020年と2018年に発生し、それぞれ130人と54人の確定症例および推定症例が記録されています。
 

発生の概要

2022年4月23日、コンゴ民主共和国保健省は、赤道州北西部の人口約120万人の都市ムバンダカの31歳男性1名の患者が検査確定され、エボラウイルス病(EVD)の発生を宣言しました。この患者は、4月5日に発熱と頭痛の症状が現れ、抗マラリア薬と抗菌薬による自宅治療を受けていましたが、4月16日から21日にかけて、感染予防と管理(IPC)が不十分な2つの医療施設に入院しました。4月21日に症状が持続し、出血の兆候が見られたため、ワンガタ(Wangata)の総合病院(General Referral Hospital)に転院となりました。患者は4月21日に死亡し、その後安全かつ尊厳ある埋葬が行われました。ムバンダカの検査施設で採取された血液検体は、4月21日に逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりエボラウイルスに陽性となり、4月22日に分析された口腔拭い液もエボラウイルス陽性と判定されました。確認のため、血液サンプルと口腔拭い液が、キンシャサの国立生物医学研究所(INRB)の基準検査所に送られ、RT-PCRによりエボラウイルスが陽性であると判定されました。
 
4月25日、保健当局は、2人目のエボラウイルス病患者を確認しました。この女性は、最初の患者の家族でムバンダカの25歳の女性です。彼女は、4月13日に症状が現れ、5日間自宅で治療を受けていました。症状がある間、彼女は祈祷院、保健所、薬局、看護師の家を訪れました。4月25日に死亡し、同日、安全で尊厳ある埋葬が行われました。
 
エボラウイルス病はコンゴ民主共和国の病原保有動物の間に存在し、今回のエボラウイルス病発生以前に、同国では1976年以来13件のエボラウイルス病の流行が報告されています。今回の発生は、赤道州における3回目のエボラウイルス病の発生で、2018年以降、同国で6回目のエボラウイルス病発生となります。前回の赤道州での発生は、130人の確定例と推定例を記録し、最初の症例報告から約半年後の2020年11月に終息を宣言しました(詳細は、2020年11月18日のDisease outbreak newsに掲載)。
 
キンシャサの国立生物医学研究所で全ゲノム配列解析が行われ、その結果、このアウトブレイクは動物集団から新たに流出したものであることが示唆されました。

図-1:コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病の確定症例(4月27日現在)
 

公衆衛生上の取り組み

保健省(MoH)は、WHOや他のパートナーと連携して、流行を制御し、さらなる拡大を防ぐための措置を開始しました。MoHは、国家および州の緊急事態管理委員会を始動し、対応を調整しています。学際的なチームがこのアウトブレイクを管理するために配置換えされています。発生抑制のための介入は現場で組織化され、症例調査、接触者追跡、入国地点や検問所での監視、疑い例の隔離、検査室での症例確定、医療施設でのIPC対策、さらにコミュニティの関与と社会動員などが行われています。
 
エボラウイルス病対応介入には以下が含まれます。
 
・エボラウイルス病の予防、症状の早期発見、治療、ワクチン接種に焦点を当てたコミュニティとの強力な連携。
・確定した2件の症例に対する継続的な綿密な介入を含む、症例調査と接触者追跡活動。現在までに267人の接触者が確認され、そのうち2人の疑い例についてはエボラウイルス病の検査で陰性でした。
・感染地域で警戒システムが設定されています。
・ムバンダカでは、16のコントロールポイントが活動しています。
・ムバンダカには機能的な検査室が設置され、物資が供給されています。
・4月24日、ワクチン供給に関する国際調整グループは、ゴマ(Goma)に保管されていたエルベボ認可ワクチン1,307回分を受領し、使用を承認しました。4月26日、200回分のエルベボ・ワクチンと適合する注射器がムバンダカに到着しました。 4月27日に対接触者ワクチン接種を開始しました。必要に応じて、またムバンダカでの超低温輸送能力が強化されるにつれて、さらに多くの量が輸送される予定です。
・ムバンダカ・エボラ治療センターの評価と機能の再構築、他の医療施設のスクリーニング、重症度評価、隔離能力の強化が進行中です。
・4月26日、ムバンダカで20回分のモノクローナル抗体の受領が行われました。
・感染予防と管理(以下、IPC)対策が開始され、医療施設の除染、医療施設の評価と支援、IPC対策の実施に関する医療従事者のトレーニング、給排水や衛生設備の再構築などが行われています。

WHOによるリスク評価

予備情報によると、最初に確認された患者は、4月16日から21日の間に2つの医療施設に入院する前に、発症から自宅で治療を受けていたことが判明しました。この症例は出血徴候の発症後に隔離されたため、州内でエボラウイルス病が広がる危険性があります。さらに、医療施設でのIPC対策が不十分なため、患者がエボラウイルス病の確認前に訪れた2つの施設の医療従事者や同室の患者の間で感染が広がる危険もあります。
 
最初の患者の感染経路はまだ不明であり、現段階では流行の規模を評価することは困難です。
 
エボラウイルス病がコンゴ民主共和国の風土病であり、この地域の病原保有動物にエボラウイルスが存在することを考えると、現在の再流行は想定内です。貧困、地域社会の不信、脆弱な医療システム、政情不安などの環境的・社会経済的要因が重なり、コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病の発生速度を高めている可能性があるのです。
 
ムバンダカ州は2020年と2018年に2回のエボラウイルス病発生を経験していますが、過去の発生時に医療施設におけるIPC対策などの能力向上などを達成し改善されていたもの一部が、長期的に維持されることがなく、今回の発生に対処するため利用ができませんでした。効果的な対応を行うために、州の医療従事者を支援する必要があります。また、過去の流行時に整備された保健医療インフラを再稼働させるための後方支援も必要です。
 
ムバンダカ市はコンゴ川に面しており、コンゴ共和国の首都キンシャサ(Kinshasa)と、中央アフリカ共和国、アンゴラとは川および陸でつながっているため、エボラウイルス病が地域的、国際的に拡がる危険性はないと言い切れません。また、ムバンダカは、中央アフリカ共和国とコンゴ共和国に隣接する南ウバンギ(Sud Ubangi)州、およびコンゴ民主共和国の首都キンシャサと空路で結ばれています。
 
コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病のリスクは高いと評価されています。過去の人へのウイルス流出に関与した病原保有動物や中間宿主の存在、高い発生頻度、環境および人為的要因1、継続する暴力と紛争による長引く人道危機の中でコレラ、麻疹、サル痘、新型コロナウイルスのパンデミックなどの発生が続いており公衆衛生部門の能力低下により上記評価となっています。
 
地域レベルのリスク評価は中程度、世界レベルでのリスク低いと評価されています。WHOは状況を注意深く監視しており、リスク評価はより多くの情報が入手可能になり次第、更新される予定です。

WHOからのアドバイス

WHOは、ヒトへのエボラウイルス病の感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク低減策を助言としています。
 
・感染したフルーツコウモリやサル・類人猿との接触やそれらの生肉の摂取による野生動物からヒトへの感染のリスクを低減すること。動物の取り扱いには、手袋など適切な保護衣を着用すること。動物製品(血液、肉)は十分に加熱してから摂取すること。
・エボラウイルス病の症状がある人との直接的または密な接触、特にその体液によるヒトからヒトへの感染のリスクを減らすこと。エボラウイルス病が疑われる患者は医療施設に緊急搬送し、そこで患者のスクリーニング、重症度評価、隔離を行うこと。エボラウイルス病が疑われる、あるいは確定患者を治療する際には、適切な個人用保護具(PPE)を着用する必要があります。入院中の患者を見舞った後や、体液に触れたり接触したりした後は、こまめに手洗いをする必要があります。
・現在進行中の研究のさらなる分析と、エボラウイルス病対応に関するWHOアドバイザリーグループの検討に基づいて、起こりうる性的感染のリスクを低減すること。WHOは、エボラウイルス病の男性生存者が、症状発現から12ヶ月間、あるいは精液検査でエボラウイルスが2回陰性になるまで、安全な性交渉を実践することを推奨しています。体液との接触は避けるべきで、石鹸と水による洗浄が推奨されます。WHOは、血液検査でエボラウイルスが陰性であった回復期の男女患者の隔離を推奨していません。
・すべてのエボラウイルス病対策は、地域社会との強い結びつきを基盤とし、感染者との信頼関係を構築し、予防措置を実施し、対応策を遵守するよう支援することを目的とすべきです。
・エボラウイルス病患者の早期発見、隔離、治療のための医療従事者の訓練と再教育を継続し、安全で尊厳ある埋葬とIPCリングアプローチ(感染予防・管理のための対策)に関する再教育も実施すること。
・すべての医療施設において、PPEを確実に利用できるようにし、病気の患者を管理し、汚染除去を行うためのIPC能力(衛生的な給排水・衛生設備や廃棄物管理を含む)を評価すること。
・確定症例の接触者、接触者の接触者、前線で働く人たちへの包囲接種の準備をすること。
・安全で尊厳のある埋葬の方法を強化するために、コミュニティと連携すること。
 
国際的な旅行や貿易:
WHOは、現在の状況に基づき、コンゴ民主共和国への渡航や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Ebola virus disease - Democratic Republic of the Congo
Disease outbreak news 28 April 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON377