鳥インフルエンザA(H5N1)-アメリカ合衆国

Disease outbreak news  2022年5月6日

発生状況一覧

WHOは、2022年4月29日、アメリカ合衆国コロラド(Colorado)州における鳥インフルエンザA(H5)のヒト症例の発生の通知を受けました。 この患者は、家禽からインフルエンザA(H5N1)ウイルスが確認された農場で、家禽の選別作業に従事していました。4月27日に米国疾病対策予防センター(以下、「CDC」という。)によってこの症例が鳥インフルエンザA(H5)と確認され、その後、配列解析によってサブタイプN1が確認されました。濃厚接触者や家禽の選別に関わった関係者は特定され、検査を受け、現在フォローアップされています。入手可能な情報に基づき、WHOは、このウイルスが一般住民にもたらすリスクは低く、職業的に曝露された人については、低から中程度と考えられると評価しています。
 
本症例は、米国で報告された最初のインフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例です。

症例の解説

2022年4月29日、米国の国際保健規則の拠点にて、コロラド州の男性の鳥インフルエンザA(H5)のヒト確定症例についてWHOに通知しました。
 
この症例は、家禽からインフルエンザA(H5N1)ウイルスが確認されたコロラド州の商業養鶏施設で4月18日から22日にかけて、鶏の屠殺業務に従事した際に、4月20日に疲労感を発症したものです。
 
この施設で鶏の選別のための人員を提供している組織の要請により、4月20日にこの患者から呼吸器検体が採取されました。この検体は、4月22日にコロラド州公衆衛生環境局の検査所に受け渡され、4月25日に結果が報告されました。逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により、インフルエンザAウイルスが検出されました。この検体は、さらなる確認のため、CDCのインフルエンザ部門に送られました。4月27日にRT-PCRによりインフルエンザA(H5)ウイルスが確認され、その後塩基配列解析によりサブタイプN1が確認されました。
 
2022年4月26日、患者は隔離され、抗ウイルス薬による治療が行われました。患者は疲労感以外の症状を報告せず、入院もせず、その後回復しています。

公衆衛生上の取り組み

2022年4月20日、患者の濃厚接触者および同じ施設で家禽の屠殺に従事した者から合計9検体が採取され、すべてインフルエンザ検査で陰性と判定されました。4月28日、同じ9人の接触者から追加の呼吸器検体が採取され、検査の結果、インフルエンザは陰性でした。
 
ヒト検体から得られたウイルス塩基配列と家禽の集団発生から得られたウイルス塩基配列を比較するための遺伝子解析、および既存のH5ワクチン候補ウイルスと比較するための抗原解析を含むウイルスの特性解析が現在進行中です。
 
患者の濃厚接触者には、インフルエンザ抗ウイルス剤の予防投与が推奨されています。さらに濃厚接触者がいるかどうか、調査を継続中です。
 
この施設で家禽に接触し、選別業務に関与したすべての従事者は、最後に勤務した日から10日間、症状の有無を監視され、症状がある場合は米国CDCガイドラインおよび米国農務省の指針に従って検査を受けることになっています。また、最初の症例の濃厚接触者も監視されています。
 
現時点では、この事象におけるインフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒトからヒトへの伝播は報告されていません。
 

WHOによるリスク評価

2003年以降2022年3月31日までに、世界18カ国から合計864例のインフルエンザA(H5N1)ヒト感染例と456例の死亡例が報告されていますが、米国では今回が初の報告例となります。今回の症例に先立つ最新のヒトでの症例は、2021年12月に発症した症例で、2022年1月にグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(英国)から報告されています。
 
鳥インフルエンザウイルスが家禽類で循環している場合、感染した家禽類や汚染された環境への曝露により、散発的な感染や小規模なヒトの症例が発生する危険性があります。したがって、散発的なヒトの症例は想定外ではありません。
 
米国ではこの1例以外で、本ウイルスはヒトでは検出されていません。ヒトと動物の両方の保健機関による公衆衛生措置が実施されています。入手可能な情報に基づき、WHOはこのウイルスが一般市民にもたらすリスクは低いと評価し、職業的に曝露される人については低~中程度とみなしています。
 
ヒトにおけるインフルエンザA(H5N1)を予防するための特定のワクチンはありませんがパンデミック対策として、ヒトのインフルエンザA(H5)ウイルス感染を予防するためのワクチン候補開発されています。疫学的状況の綿密な分析、最新のウイルス(ヒトおよび家禽)のさらなる特徴づけ、血清学的調査は、関連するリスクを評価し、リスク管理手段を適時に調整するために重要です。

WHOからのアドバイス

本症例は、インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
 
インフルエンザウイルスは常に進化するため、WHOは、ヒト(または動物)の健康に影響を与える可能性のある新興または既に市中に存在するインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための適時なウイルスの情報の共有の重要性を引き続き強調しています。
 
変異株を含む、パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染や感染の疑いが確認された場合、(確定検査結果を待っている間でも)動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡などの包括的な疫学調査を行うべきです。疫学的調査には、新型ウイルスの人から人への感染を示唆する異常な呼吸器系症状の早期発見が含まれ、患者が発生した時間と場所から採取した臨床検体は、さらなる特性評価のために検査されWHO協力機関に送られることが適切です。
 
鳥インフルエンザウイルスが地域で循環している場合、病気の鳥のサンプリング、感染した鳥や卵、ふんの選別・屠殺分、汚染された施設の清掃など、特定のリスクの高い作業に携わる人員は、適切な個人保護具(PPE)の使用についてトレーニングを受け、防護具の提供がされるべきです。これらの作業に携わるすべての人は、地元の保健当局に登録し、最後に家禽と接触した日から7日間は注意深くモニターされる必要があります。
 
動物性インフルエンザの発生が確認されている国への旅行者は、農場、動物市場での生きた動物との接触、動物が屠殺されている可能性のある場所への立ち入り、動物の糞で汚染されていると思われる物との接触を避ける必要があります。また、旅行者は石鹸と水で頻繁に手を洗う必要があります。旅行者は、食品と食品衛生の安全な管理方法に従うべきです。感染地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性があります。この場合、このウイルスはヒトの間で容易に感染する能力を獲得していないため、さらなる地域レベルの広がりは考えにくいとされています。
 
新型インフルエンザによるすべてのヒトへの感染は、国際保健規則(IHR)の下で通知可能であり、IHR(2005)の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによる最近のヒトへの感染について、検査確定された事例を直ちにWHOに通知することが義務付けられています。この報告に、証拠の提出は必要ありません。
 
旅行と貿易:WHO は、ヒトと動物の接触点におけるインフルエンザウイルスの現状に関して、入国地での特別な旅行者スクリーニングや制限を助言していません。

出典

Avian Influenza A (H5N1) - United States of America
Disease outbreak news  6 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-E000111