鳥インフルエンザA(H3N8)-中華人民共和国

Disease outbreak news  2022年5月9日

発生状況一覧

2022年4月25日、中華人民共和国国家衛生委員会は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスに感染したヒトの確定症例1例をWHOに通知しました。この症例は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスのヒトへの感染が初めて報告された症例と思われます。濃厚接触者における感染者はみつかっていません。この症例に関するさらなる疫学的およびウイルス学的な調査が進行中です。現在入手可能な限られた疫学的およびウイルス学的情報は、この鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスがヒトの間で持続的に伝播する能力を獲得していないことが示唆されているため、国内、地域および国際レベルでのヒトへの疾病伝播のリスクは低いと評価されます。

症例の説明

2022年4月25日、中華人民共和国国家衛生委員会は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスによるヒト感染確定例1例をWHOに通知しました。症例は河南(Henan)省出身の4歳男児です。2022年4月5日に発熱、咳、息切れを発症し、2022年4月10日に呼吸不全を伴う重症の肺炎で入院しました。その後、ICUに移され、抗ウイルス薬が投与されました。入院後に患者から採取した検体について呼吸器系ウイルス(インフルエンザを含む)の検査を行ったところ、複数の検体からインフルエンザA(H3N8)が検出されました。その他の呼吸器系ウイルスは検出されませんでした。
 
2022年4月24日、中国疾病予防管理センター国家インフルエンザセンターは、河南省から送られてきた検体を検査しました。その結果、検体中のA型インフルエンザウイルスはA(H3N8)亜型であり、すべての遺伝子は鳥類由来であることが確認されました。
 
発症前、患者は裏庭で飼育されていた鶏を食していましたが、発症前に直接鶏と接触することはありませんでした。臨床観察と症例の近親者、環境、地元の家禽市場、野鳥生息地のサンプリングが行われましたが、感染やいかなる症状も認められませんでした。この事例について、さらなる疫学的およびウイルス学的調査(動物および環境試験など)を実施中です。

疫学

この症例は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスのヒトへの感染例として初めて報告されたものと思われます。濃厚接触者から有症状者は出ていません。この症例に感染したウイルスが、動物に循環している他の鳥インフルエンザA(H3)ウイルスと関連しているかどうかについては、限られた情報しか得られていません。
 
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のタンパク質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の違いにより、サブタイプに分類されます。現在までに、18種類のヘマグルチニンサブタイプと11種類のノイラミニダーゼサブタイプが存在し、ヒトに循環するサブタイプはごくわずかです(季節性インフルエンザ)。また、A型インフルエンザウイルスは、起源となる宿主によって、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ、ヒトインフルエンザ等や、他の動物インフルエンザウイルスに分類されることもあります。動物性インフルエンザウイルスがヒトに感染することを人獣共通感染症と呼びます。
 
人獣共通感染症であるA型インフルエンザは、発熱や咳などの軽度の上気道感染から、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群、ショック状態、さらには死に至るまで、様々な疾患を引き起こす可能性があります。
 
感染経路としては、鳥インフルエンザウイルスやその他の人獣共通感染症ウイルスによるヒトへの感染が、稀ではあるものの、報告されています。ヒトへの感染は、主に感染した動物や汚染された環境との直接接触によって起こりますが、これらのウイルスがヒトの間で伝播することはありません。ヒトへの感染の主な危険因子は、生きた鳥を扱う市場など、感染した動物や汚染された環境に直接または間接的にさらされることであると思われます。また、屠殺、羽毛除去、感染した家禽の死骸の処理、食用の家禽の処理も危険因子と考えられます。
 
鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスは、世界的に動物の体内でよく検出され、野鳥でも最もよく見られる亜型のひとつですが、家禽や野鳥ではほとんど病気の兆候を示しません。鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスの種を越えた感染現象は、様々な哺乳類で報告されており、例えば、馬と犬系統のA(H3N8)ウイルスは、それぞれ馬と犬でアウトブレイクを引き起こします。

公衆衛生上の取り組み

中国政府は、以下の監視・予防・管理策を講じています。
 
・症例の濃厚接触者や、動物、環境に対する検査
・リスクアセスメントの実施
・共同予防と制御の強化
・サーベイランスと疫学調査の強化
・患者の治療
・本疾病の起源に関する調査の実施
・国民の意識向上と自己防衛のためのパブリックリスクコミュニケーション活動

WHOによるリスク評価

現在、入手可能な限られた疫学的およびウイルス学的情報は、この鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスがヒトの間で持続的に伝播する能力を獲得していないことを示唆しています。従って、国内、地域、国際レベルでの疾病伝播のリスクは低いと評価されます。しかし、家禽の集団からウイルスが検出され続ける限り、さらなる散発的なヒトへの感染例が予想されます。公衆衛生にもたらされる現在のリスクをより適切に評価するためには、ヒトおよび動物の調査・研究から得られる追加情報が必要です。
 
リスク評価は、ヒトからヒトへの感染の可能性を示す疫学的またはウイルス学的な情報がさらに得られた場合に見直されます。

WHOからのアドバイス

予防:各国は、生きた動物を扱う市場/農場、生きた家禽、または家禽や鳥の糞で汚染された可能性のある物など、リスクの高い環境との接触を避けるよう国民の意識を高める必要があります。
 
個人的な防御対策は以下の通りです。
 
・こまめな手洗いと適切に手指を乾かすこと
・呼吸器系の衛生管理 - 咳やくしゃみをするときは口と鼻を覆い、ティッシュを使用し、正しく廃棄すること
・体調不良、発熱、その他のインフルエンザ様症状がある場合は、早期に自主隔離すること
・病人との濃厚触を避けること
・目、鼻、口を触らないようにすること
・感染リスクのある環境における呼吸器系の保護
 
医療現場では、常に適切な感染予防と対策が必要です。エアロゾルを発生させる処置を行う医療従事者は、空気感染予防策を使用する必要があります。流行期には、標準的な接触・飛沫予防策と適切な個人保護具(PPE)を使用する必要があります。
 
鳥インフルエンザの発生が確認されている国への旅行者やその国に住む人々は、可能であれば養鶏場、生きた鶏を扱う精肉市場での動物との接触、鶏が屠殺される区域への立ち入り、鶏やその他の動物の糞便で汚染されていると思われる物質表面への接触を避けるべきです。食品の安全性と衛生に関する適切な方法を守る必要があります。感染地域から帰国した旅行者は、呼吸器症状が人獣共通感染症インフルエンザウイルス感染症の症状を示す場合、地元の医療機関・保健所を受診する必要があります。
 
サーベイランス:インフルエンザウイルスは常に進化しているため、WHOは引き続き、ヒト(または動物)の健康に影響を与える可能性のある循環インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、および臨床的変化を検出し、リスク評価のためにウイルスと情報をタイムリーに共有するグローバルサーベイランスが重要であると強調しています。すべてのヒトへの感染を徹底的に調査し、インフルエンザに関する参考文献や研究、遺伝子や抗原の特性解析のために、WHO協力センターとタイムリーにウイルスを共有することが不可欠です。
 
国際保健規則: 新型インフルエンザウイルスのヒトへの感染は、国際保健規則(IHR, 2005)に基づき全例で届け出が必要です。新型A型インフルエンザウイルスは、パンデミックを引き起こす可能性があると考えられており、加盟国は、A型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が検査で確認された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。今回の事例は、公衆衛生対策とインフルエンザのサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
 
海外渡航や貿易:WHOは、現在入手可能な情報に基づき、いかなる旅行や貿易の制限も推奨していません。

出典

Avian Influenza A(H3N8)- China
Disease outbreak news 9 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/avian-influenza-a(h3n8)---china