中東呼吸器症候群(MERS-CoV) - カタール国
Disease outbreak news 2022年5月12日
発生状況一覧
2022年3月22日から4月3日にかけて、中東呼吸器症候群(以下、「MERS-CoV」という。)の検査確定感染者2名(うち1名は死亡)が、カタールの国家IHRフォーカルポイントからWHOに報告されました。いずれの症例も、症状発現前の14日間、ヒトコブラクダと頻繁に濃厚接触し、その生乳を摂取していました。カタール公衆衛生省は、直ちに症例調査と接触者追跡を開始しました。これらの症例は、2020年2月以降、カタール国から報告された初めてのMERS-CoV感染症例となります。これらの症例の通知は、MERS-CoVに対する世界的な認識の必要性を改めて示すものですが、全体的なリスク評価を変えるものではありません。WHOは、中東および/またはMERS-CoVがヒトコブラクダに循環している他の国から、さらなるMERS-CoV感染例が報告されることを想定しています。
発生の概要
2022年3月22日から4月3日にかけて、カタールの国家IHRフォーカルポイントは、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)感染の検査確定例2例をWHOに報告しました。
最初の症例は50歳の男性で、アル=シャーニヤ ドーハ(Al Shaniya Doha)のラクダ農場で働きながら生活していました。3月16日、この症例は1週間にわたる湿性咳嗽、高熱、息切れが持続したためにドーハのハマドメディカルコーポレーション(Hamad Medical Corporations)の救急部門を受診しました。3月17日に病棟に入院し、3月18日に症状の悪化により集中治療室(ICU)に移送されました。鼻咽頭ぬぐい液を採取し、3月19日に同施設のウイルス部門で逆転写ポリメカラーゼ連鎖反応(RT-PCR)(upE遺伝子とOrf1a遺伝子)によりMERS-CoVが陽性と判定されました。患者は併存症はなく、発症前14日間にヒトコブラクダと頻繁に濃厚接触し、その生乳を摂取したと報告しています。 この患者および患者の接触者に最近の旅行歴は報告されていません。特定された4人の接触者のうち誰もこの病気の症状を報告せず、全員がMERS-CoV陰性と判定されました。本稿執筆時点では、この症例の転帰に関する詳細な情報は得られていません。
2例目は、ドーハに住む85歳のヒトコブラクダを所有する男性でした。3月18日、1週間にわたる湿性咳嗽、高熱、息切れを主訴にハマドメディカルコーポレーションの救急部を受診し、同日、病棟に入院し、その間、症状が悪化しました。鼻咽頭ぬぐい液を採取し,3月19日に同施設のウイルス検査部でRT-PCR(upEとORF1a遺伝子)によりMERS-CoV陽性と判定されました.3月22日、患者は挿管されICUに移されましたが、4月14日に死亡しました。患者は糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などの併存症を有していました。疫学調査の結果、患者は入院の14日前にラクダを連れてサウジアラビアに旅行し、他のヒトコブラクダの飼い主を訪問していたことが判明しました。また、この患者はヒトコブラクダと頻繁に接触し、サウジアラビアでヒトコブラクダの生乳を摂取したことも報告されています。
患者は、サウジアラビア滞在中に、嘔吐、食欲不振、発熱、悪寒などの症状で、最初に保健所を受診しました。その後、急性尿路感染症と診断されました。サウジアラビアの保健所の医療スタッフから病院を紹介されましたが、すぐにカタールに帰国することにしました。12人の家庭内接触者と医療従事者の調査は終了し、全員がMERS-CoV陰性と判定された。サウジアラビアのIHR国家フォーカルポイントにも通知されました。
これらの通知以前に、カタールから報告された最後のMERS-CoV感染者は2020年2月でした。 2012年以降、カタールでは、今回新たに報告された2例を含め、合計28例のMERS-CoVのヒト感染例と7例の死亡例が報告されています。病院での集団発生や医療従事者の感染は報告されていません。
最初の症例は50歳の男性で、アル=シャーニヤ ドーハ(Al Shaniya Doha)のラクダ農場で働きながら生活していました。3月16日、この症例は1週間にわたる湿性咳嗽、高熱、息切れが持続したためにドーハのハマドメディカルコーポレーション(Hamad Medical Corporations)の救急部門を受診しました。3月17日に病棟に入院し、3月18日に症状の悪化により集中治療室(ICU)に移送されました。鼻咽頭ぬぐい液を採取し、3月19日に同施設のウイルス部門で逆転写ポリメカラーゼ連鎖反応(RT-PCR)(upE遺伝子とOrf1a遺伝子)によりMERS-CoVが陽性と判定されました。患者は併存症はなく、発症前14日間にヒトコブラクダと頻繁に濃厚接触し、その生乳を摂取したと報告しています。 この患者および患者の接触者に最近の旅行歴は報告されていません。特定された4人の接触者のうち誰もこの病気の症状を報告せず、全員がMERS-CoV陰性と判定されました。本稿執筆時点では、この症例の転帰に関する詳細な情報は得られていません。
2例目は、ドーハに住む85歳のヒトコブラクダを所有する男性でした。3月18日、1週間にわたる湿性咳嗽、高熱、息切れを主訴にハマドメディカルコーポレーションの救急部を受診し、同日、病棟に入院し、その間、症状が悪化しました。鼻咽頭ぬぐい液を採取し,3月19日に同施設のウイルス検査部でRT-PCR(upEとORF1a遺伝子)によりMERS-CoV陽性と判定されました.3月22日、患者は挿管されICUに移されましたが、4月14日に死亡しました。患者は糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などの併存症を有していました。疫学調査の結果、患者は入院の14日前にラクダを連れてサウジアラビアに旅行し、他のヒトコブラクダの飼い主を訪問していたことが判明しました。また、この患者はヒトコブラクダと頻繁に接触し、サウジアラビアでヒトコブラクダの生乳を摂取したことも報告されています。
患者は、サウジアラビア滞在中に、嘔吐、食欲不振、発熱、悪寒などの症状で、最初に保健所を受診しました。その後、急性尿路感染症と診断されました。サウジアラビアの保健所の医療スタッフから病院を紹介されましたが、すぐにカタールに帰国することにしました。12人の家庭内接触者と医療従事者の調査は終了し、全員がMERS-CoV陰性と判定された。サウジアラビアのIHR国家フォーカルポイントにも通知されました。
これらの通知以前に、カタールから報告された最後のMERS-CoV感染者は2020年2月でした。 2012年以降、カタールでは、今回新たに報告された2例を含め、合計28例のMERS-CoVのヒト感染例と7例の死亡例が報告されています。病院での集団発生や医療従事者の感染は報告されていません。
公衆衛生上の取り組み
MERS-CoV症例の管理に関する国家プロトコルに従い、両患者は隔離され、感染予防と管理プロトコルが発動された。公衆衛生省は直ちに症例調査と接触者追跡を開始しました。12人の家庭内接触者,4人の同僚,15人の医療従事者から呼吸器スワブ検体が採取され,全員がMERS-CoV陰性と判定された。上記の接触者のうち、MERS-CoVの症状を訴えた者はいなかった。すべての接触者はモニタリング期間(患者との最後の接触から14日間)が終了するまで監視されており、二次感染者は確認されていない.すべての医療施設における感染予防と管理措置は、公衆衛生省によって強化されています。適切な予防措置に関する健康教育メッセージがすべての接触者に共有され、MERS-CoVに対する推奨公衆衛生措置を遵守し、呼吸器症状が出た場合は保健当局に報告するよう助言されます。動物衛生資源部門に通知され、ヒトコブラクダの調査が進行中です。
WHOによるリスク評価
MERS-CoVは、中東呼吸器症候群コロナウイルスと呼ばれるコロナウイルスによって引き起こされる、ヒトとヒトコブラクダ共通のウイルス性呼吸器感染症です。MERS-CoVに感染すると重症化し、高い死亡率をもたらすことがあります。MERS-CoVに感染した患者の約35%が死亡していると報告されていますが、MERS-CoVの軽症例が既存の監視システムで見逃されている可能性があり、症例致死率は検査施設で確認された症例のみでカウントされているので、これは真の死亡率よりも過大に示されている可能性があります。
ヒトは、MERS-CoVの自然宿主であり人獣共通感染源であるヒトコブラクダとの直接または間接的な接触によりMERS-CoVに感染する。MERS-CoVはヒトの間で感染する能力を示していますが、これまでのところ、主に医療現場で、また限られた範囲ではありますが、濃厚接触者の間で発生しています。
新たに報告された患者のうち1人はカタール国外への渡航歴があり、感染したヒトコブラクダと直接または間接的に接触した結果、人獣共通感染症として感染した可能性が高いと考えられます。WHOは、MERS-CoVがヒトコブラクダに循環している国から、以下のものに接触して感染する可能性のある旅行者がさらに感染者を出すと予想しています。1)感染したヒトコブラクダまたはヒトコブラクダ製品(ラクダとの接触など)、または2)感染したヒト(医療現場など)への曝露後に感染する可能性があるためです。
2022年5月12日現在、WHOに報告された全世界の検査確定MERS-CoV感染症例は、894人の関連死者を含む2,591人で、国際保健規則(IHR2005)の下でWHOに報告されたこれまでの検査確定例と死者の合計数を反映しています。報告された症例の大半は、アラビア半島の国々で発生しています。この地域以外では、2015年5月に韓国で1件の大規模なアウトブレイクが発生し、その際に186人の検査確定症例(韓国185人、中国1人)と38人の死亡が報告されました。
これらの症例が通知されても、全体的なリスク評価は変わりません。WHOは、中東および/またはその他の国でヒトコブラクダ間でMERS-CoVが循環している国から、さらなるMERS-CoV感染者が報告され、ヒトコブラクダまたはその製品との接触(例えばラクダの生乳の摂取)、または医療現場でウイルスに曝露された人によって他の国へ患者が引き続き輸出されると予想しています。WHOは、引き続き疫学的状況を監視し、利用可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っていきます。
ヒトは、MERS-CoVの自然宿主であり人獣共通感染源であるヒトコブラクダとの直接または間接的な接触によりMERS-CoVに感染する。MERS-CoVはヒトの間で感染する能力を示していますが、これまでのところ、主に医療現場で、また限られた範囲ではありますが、濃厚接触者の間で発生しています。
新たに報告された患者のうち1人はカタール国外への渡航歴があり、感染したヒトコブラクダと直接または間接的に接触した結果、人獣共通感染症として感染した可能性が高いと考えられます。WHOは、MERS-CoVがヒトコブラクダに循環している国から、以下のものに接触して感染する可能性のある旅行者がさらに感染者を出すと予想しています。1)感染したヒトコブラクダまたはヒトコブラクダ製品(ラクダとの接触など)、または2)感染したヒト(医療現場など)への曝露後に感染する可能性があるためです。
2022年5月12日現在、WHOに報告された全世界の検査確定MERS-CoV感染症例は、894人の関連死者を含む2,591人で、国際保健規則(IHR2005)の下でWHOに報告されたこれまでの検査確定例と死者の合計数を反映しています。報告された症例の大半は、アラビア半島の国々で発生しています。この地域以外では、2015年5月に韓国で1件の大規模なアウトブレイクが発生し、その際に186人の検査確定症例(韓国185人、中国1人)と38人の死亡が報告されました。
これらの症例が通知されても、全体的なリスク評価は変わりません。WHOは、中東および/またはその他の国でヒトコブラクダ間でMERS-CoVが循環している国から、さらなるMERS-CoV感染者が報告され、ヒトコブラクダまたはその製品との接触(例えばラクダの生乳の摂取)、または医療現場でウイルスに曝露された人によって他の国へ患者が引き続き輸出されると予想しています。WHOは、引き続き疫学的状況を監視し、利用可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っていきます。
WHOからのアドバイス
現在の状況と入手可能な情報に基づき、WHOは、すべての加盟国がMERS-CoVを含む急性呼吸器感染症のサーベイランスを強化し、通常とはことなる状況があればそれを慎重に確認することの重要性を再度強調しています。
一般的な予防措置として、農場、市場、納屋、その他ヒトコブラクダがいる場所を訪れる人は、動物に触れた後はこまめに手を洗い、手で目・鼻・口を触らないようにし、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生措置を行う必要があります。また、職業上動物を取り扱う場合は、保護衣や手袋の着用も検討すべきです。
牛乳、肉、血液、尿など、生や加熱が不十分な動物由来製品を摂取すると、人に病気を引き起こす可能性のあるさまざまな病原生物に感染するリスクが高くなります。適切な調理や低温殺菌によって適切に処理された動物性食品は摂取しても安全ですが、未調理の食品との二次汚染を避けるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
医療現場におけるMERS-CoVのヒトからヒトへの感染は、MERS-CoV感染の初期症状の認識の遅れ、疑い症例のトリアージの遅れ、感染・予防・管理(IPC)対策の遅れに関連しています。したがって、IPC対策は、医療施設における人々の間で起こりうるMERS-CoVの拡散を防ぐために非常に重要です。
症例の早期発見、症例管理、症例の隔離、接触者の隔離に加え、医療現場での適切な感染予防・管理対策と公衆衛生への啓発が、MERS-CoVのヒト-ヒト感染を防ぐことができます。
医療従事者は、医療現場でのあらゆる状況において、すべての患者に対して常に標準予防策を一貫して適用する必要があります。
・急性呼吸器感染症の症状を持つ患者にケアを提供する際には、標準予防策に飛沫予防策を追加する必要があります。
・MERS-CoV感染の可能性が高い、または確定患者のケアを行う場合は、接触予防策と眼の保護を追加する必要があります。
・エアロゾルを発生させる処置を行うとき、またはエアロゾルを発生させる処置が行われる環境では、空気感染予防策を適用する必要があります。
MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全者などの慢性的な基礎疾患を持つ人々にはより深刻な病気を引き起こすと考えられます。したがって、これらの基礎疾患を持つ人は、ウイルスが潜在的に循環していることが予測される農場、市場、納屋などの地域を訪れる際には、動物、特にヒトコブラクダとの密接な接触を避ける必要があります。
WHOは、この事例に関して、入国地での特別なスクリーニングを勧めておらず、現在のところ、旅行や貿易の制限を適用することを推奨していません。
一般的な予防措置として、農場、市場、納屋、その他ヒトコブラクダがいる場所を訪れる人は、動物に触れた後はこまめに手を洗い、手で目・鼻・口を触らないようにし、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生措置を行う必要があります。また、職業上動物を取り扱う場合は、保護衣や手袋の着用も検討すべきです。
牛乳、肉、血液、尿など、生や加熱が不十分な動物由来製品を摂取すると、人に病気を引き起こす可能性のあるさまざまな病原生物に感染するリスクが高くなります。適切な調理や低温殺菌によって適切に処理された動物性食品は摂取しても安全ですが、未調理の食品との二次汚染を避けるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
医療現場におけるMERS-CoVのヒトからヒトへの感染は、MERS-CoV感染の初期症状の認識の遅れ、疑い症例のトリアージの遅れ、感染・予防・管理(IPC)対策の遅れに関連しています。したがって、IPC対策は、医療施設における人々の間で起こりうるMERS-CoVの拡散を防ぐために非常に重要です。
症例の早期発見、症例管理、症例の隔離、接触者の隔離に加え、医療現場での適切な感染予防・管理対策と公衆衛生への啓発が、MERS-CoVのヒト-ヒト感染を防ぐことができます。
医療従事者は、医療現場でのあらゆる状況において、すべての患者に対して常に標準予防策を一貫して適用する必要があります。
・急性呼吸器感染症の症状を持つ患者にケアを提供する際には、標準予防策に飛沫予防策を追加する必要があります。
・MERS-CoV感染の可能性が高い、または確定患者のケアを行う場合は、接触予防策と眼の保護を追加する必要があります。
・エアロゾルを発生させる処置を行うとき、またはエアロゾルを発生させる処置が行われる環境では、空気感染予防策を適用する必要があります。
MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全者などの慢性的な基礎疾患を持つ人々にはより深刻な病気を引き起こすと考えられます。したがって、これらの基礎疾患を持つ人は、ウイルスが潜在的に循環していることが予測される農場、市場、納屋などの地域を訪れる際には、動物、特にヒトコブラクダとの密接な接触を避ける必要があります。
WHOは、この事例に関して、入国地での特別なスクリーニングを勧めておらず、現在のところ、旅行や貿易の制限を適用することを推奨していません。
出典
Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - Qatar
Disease outbreak news 12 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON370
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON370