ラッサ熱 - ギニア共和国

Disease outbreak news  2022年5月13日

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2022年4月22日、ギニア共和国(以下「ギニア」という。)保健衛生省は、同国南東部のゲケドゥー(Guéckédou)県から2人の患者が検査で確認されたことを受け、ラッサ熱の発生を宣言しました。ラッサ熱は西アフリカのいくつかの国で流行しており、ギニアではこれまでにも散発的な患者だけでなく、集団発生も報告されています。ギニアでは昨年来、複数の新興・再興感染症が同時に発生し、保健衛生医療システムの許容量を超越していることを考えると、今回の発生は公衆衛生に深刻な影響を与える可能性があります。なお、現在までのところ、死亡例は報告されていません。

症例の解説

2022年4月20日、ギニア南東部のゲケドゥー県で出血熱の疑い例が発生したと現地の保健当局が通知を受けました(図1)。症例は17歳女性で、4月12日に発熱と食欲不振を自覚しました。4月16日から17日にかけて、胸痛と体力の低下を訴え、4月18日に医療機関を受診、4月19日に入院となりました。発症から5日間自宅療養し、2つの医療機関に受診し、141件の接触が報告されました。
 
4月20日、この疑い例から血液検体が採取され、ゲケドゥー出血熱研究所(Guéckédou hemorrhagic fever laboratory)でエボラ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱の有無の確認のため逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)分析が実施されました。この患者は4月20日にエボラ出血熱とマールブルグ熱は陰性でしたが、4月21日にラッサ熱の陽性が確認されました。4月22日、コナクリ(Conakry)の基準研究所で2回目の検査が行われ、再び陽性と判定されました。同日、保健衛生大臣がラッサ熱の発生を宣言しました。この患者は現在、ゲケドゥーの病院で治療を受けています。
 
4月28日、最初の患者との疫学的な関連は不明ですが、ラッサ熱の2例目がゲケドゥー県で確認されたと報告がありました。この症例は24歳の男性です。4月16日に胸痛と不眠症を呈し、4月18日に個人診療所を受診しました。4月28日、発熱、頭痛、嘔吐、胸部痛、血便などの症状があり、県立病院を受診しました。4月29日、ゲケドゥの治療施設における検査でラッサ熱の陽性が確認されました。感染源を特定するため、疫学調査が行われています。

図1.2022年4月にギニアで報告されたラッサ熱の確定症例(n=2)の分布

ラッサ熱の疫学

ラッサ熱は、ラッサウイルスによって引き起こされる急性のウイルス性出血性疾患です。主に、感染したマストミス属ネズミとの直接接触や、感染したネズミの尿や糞便で汚染された食物や家庭用品を介して、ヒトに感染します。また、感染予防策が不充分な場合に、主に病院内で感染者の血液や体液に直接触れることで、頻度は低いものの、人から人へ感染することもあります。ほとんどの患者(約80%)は無症状または軽症ですが、残りの20%の患者ではウイルスによって重症化する可能性があり、重症患者の致死率(CFR)は約15%と言われています。 患者さんへの早期の支持療法が重要であり、生存率を向上させます。現在、ラッサ熱を予防するワクチンはありません。
 
ラッサ熱は西アフリカのベナン、ガーナ、ギニア、リベリア、マリ、シエラレオネ、ナイジェリアで風土病として存在しており、他の西アフリカ諸国でも存在している可能性があります。ギニアでは、2011年10月にラッサ熱が初めて診断されました。それ以来、ギニアでは集団発生や散発的な症例が報告されています。ギニアで直近で報告されたラッサ熱の発生は2021年で、ゼレコレ(N'Zérékoré)県、ベイラ(Beyla)県、ゲケドゥー県、ヨムー(Yomou)県で患者8人と死者7人(CFR88%)が報告されています。

公衆衛生上の取り組み

保健衛生省は、WHOやその他のパートナーと協力し、地域における予防活動を強化することで、流行に対応しています。保健衛生省は以下の対応策を実施しています。
 
・対応計画を策定し、そのための資金を動かしています。
・医薬品と症例管理用品を現地に届けました。
・対応活動を支援するため、迅速対応チームを配備しました。
・疑い例の隔離、検査での確定、医療施設での感染予防と管理、社会動員やコミュニティへの参加など、標準的な介入を実施しました。

WHOによるリスク評価

ラッサウイルスは、動物の宿主であるマストミス属ネズミの存在に関連した国内での風土病であるため、国レベルでのこのアウトブレイクのリスクは高いと考えられます。さらに、財政的、人的、物流的資源が限られており、ギニアの保健システムは昨年以来ひどく疲弊しています。2021年、ギニアではエボラ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱、麻疹、髄膜炎、黄熱、ワクチン由来ウイルス1型、新型コロナなど複数の新興・再興感染症が同時多発的に発生しています。この大流行は、すでに脆弱な保健医療システムに更に負荷をかけ、公衆衛生に深刻な影響を与える可能性があります。
 
疫学的な予備調査の結果、最初の症例から院内感染や地域内感染のリスクがあることが示唆されています。
 
地域レベルおよび世界レベルでは、この病気の主な感染経路がネズミとの接触であることから、拡大のリスクは低いと考えられています。ゲケドゥーはリベリアやシエラレオネとの国境に近接していますが、国境を越えて感染が伝播するリスクは低いと考えられます。しかし、ラッサ熱はリベリアとシエラレオネにおいても同様に生息するマストミス属ネズミによって流行するため、この2カ国での感染リスクは存在します。

WHOからのアドバイス

地域社会での予防: ネズミが家に侵入するのを防ぐには、地域社会の衛生管理が重要です。効果的な対策としては、穀物やその他の食料をネズミが入りにくい容器に保管し、ゴミを家から離れた場所に捨てる、家を清潔に保つ、猫を飼うなどが挙げられます。
 
医療現場:
・医療従事者は、推定される診断名にかかわらず、医療関連感染の予防と制御のための標準予防策に常に従わなければなりません。これらの予防策には、基本的な手指衛生、呼吸器衛生、個人用保護具の使用、安全な注射手技、安全な葬儀の方法などが含まれます。
・ラッサ熱の疑い例または確定例を治療・看護する医療従事者は、患者の血液または体液、および衣類やベッドリネンなどの汚染された物または材料との接触を避けるために、さらなる感染管理措置を講じる必要があります。患者から1メートル以内にいるときは、顔の保護具(フェイスシールドまたはサージカルマスクとゴーグル)、清潔な長袖のガウンと手袋(未滅菌でよいが、特定の医療処置では滅菌されているもの)を着用する必要があります。
 
サーベイランスと臨床管理:ラッサ熱が流行しているすべての国で、症例の早期発見と臨床管理を改善し、症例の致死率を下げることが重要です。
 
旅行:WHOは、現在の疫学的状況に基づき、ギニアへの渡航や貿易に関するいかなる制限も推奨していません。

出典

Lassa fever- Guinea
Disease outbreak news 13 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON382