コレラ - カメルーン共和国

Disease outbreak news  2022年5月16日

発生状況一覧

カメルーン共和国(以下、「カメルーン」という。)は、西アフリカおよび中央アフリカでコレラの発生が繰り返されている数カ国のうちの1つです。2021年10月29日から2022年4月30日の間に、死者134人(致死率2%)を含む合計6,652人の疑い症例が報告されています。
 
カメルーンでコレラの発生が続いている背景には、ビブリオコレラ菌の国内での広範な蔓延、一部の地域での清潔な飲料水の入手の難しさ、コレラの発生の季節パターン、不十分なWASH条件など、いくつかの危険因子が考えられます。

発生状況の解説

カメルーンでは、2021年初めからコレラの疑い症例が報告されています。2021年10月29日に保健当局がアウトブレイクを宣言し、それ以降も継続しています。2022年4月30日現在、南西州(4,617例、77名死亡)、沿岸州(1,704例、51名死亡)、南部州(183例、2名死亡)、中央州(125例、4名死亡)、北部州(15例、死亡なし)および極北州(8例、死亡なし)の6州から134名の死亡を含む6,652例のコレラの疑いが報告されています。6,652件の疑い症例のうち、2022年には93人の死亡例(69%)を含む5,960件(90%)が報告されています。2021年10月29日から2022年4月30日の間に、全6州から合計1,008の便検体が検査され、40%(403検体)が培養によりビブリオコレラO1陽性であることが確認されました。
 
コレラの流行は10月下旬に始まりましたが、週別の疑い患者数は2022年第9週(3月6日終了の週)の200人未満から第12週(3月27日終了の週)には1,262人へと増加しました。2022年現時点までに報告された全体の致死率2%は、2021年に報告された致死率(CFR 3.6%)よりも低いものの、適時治療が可能な場合のコレラ発生時に予想される致死率  1%よりも高い値を推移しています。 さらに、中央州と沿岸州では継続して高い致死率が報告されています(それぞれCFR 2.9%、3%)。
 
2021年には中央州と南西州の2州でコレラ患者が報告されましたが、2022年3月以降、5州(中央、沿岸、北部、南部、南西)へと発生の地理的拡大が見られました。
 
4月30日現在、南西州は、77人の死者(CFR 1.6%)を含む累積4,617例(69%)の発生があり、2022年に報告された症例は4,069例(88%)で、現在も継続して最も影響を受けている州です。 沿岸州は、累積1,704例(26%)、51人の死者(CFR 3%)で、そのうち2022年に報告された症例数は1,684例(99%)となり、2番目に大きな影響を受けている地域です。


図1: 10月29日から4月30日までのコレラ患者の症状発現日および転帰別流行曲線(n=6,652)
注:SEは疫学週(Epidemiological week)に対応します。また、SE41~SE52は2021年、SE1~SE17は2022年に該当します。
 
*CEN:中部州、LIT:沿岸州、EN:極北州、NO:北部州、SU:南部州、SW:南西州を表す。


図2:カメルーンにおけるコレラ患者の分布(2021年10月29日から4月30日まで)(n=6,552)

コレラの疫学

コレラは、汚染された水や食品に含まれるビブリオコレラ菌を摂取することで発症する急性の腸管感染症です。主に、清潔な飲料水へのアクセス不足や衛生環境の不備が原因となっています。コレラは非常に悪性の疾患で、重度の急性水様性下痢症を引き起こし、高い罹患率と死亡率をもたらします。また、曝露の頻度、曝露された人々、環境に応じて、急速に広がる可能性があります。コレラは子供と大人の両方に感染し、治療されないと死に至ることもあります。
 
潜伏期間は、汚染された食物または水の摂取後、12時間から5日間です。コレラ菌に感染しても、ほとんどの人は何の症状も現れませんが、感染後1~10日間は糞便中に菌が存在し、再び環境中に排出されて他の人を感染させる可能性があります。症状が出た人のうち、大多数は軽度または中程度の症状ですが、ときに重度の脱水を伴う急性の水様性下痢を発症します。コレラは簡単に治療できる病気です。ほとんどの人は、経口補水液(ORS)の迅速な投与により、治療可能です。
 
コレラは、風土病にも流行病にもなりえます。コレラが風土病として存在する地域とは、過去3年間にコレラ患者が確認され、感染の起源がその地域にあることが証明された地域です(患者は地域外からの来た場合はカウントされません)。コレラの流行は、コレラが風土病として存在する国でもそうでない国でも起こる可能性があります。
 
人道的危機の影響、例えば適切な給水設備や衛生設備の崩壊、衛生設備が完備されず過密なキャンプへの住民の移住などは、コレラ菌が存在する場合、または持ち込まれた場合、コレラ感染のリスクを増大させる可能性があります。感染していない死体が伝染病の発生源となったことは、これまで一度も報告されていません。
 
コレラの発生を抑え、死者を減らすには、監視、水と衛生、社会的動員、治療、経口コレラワクチンの組み合わせを含む多面的なアプローチが不可欠です。

公衆衛生上の取り組み

WHOは、専門家チームを派遣して対応を支援するとともに、政府に対して技術的、物流的、財政的な支援を行っています。さらに、以下の支援も行っています。
 
・国の事例管理システムは、国および地域レベルのパートナーとの定期的な調整会議を実施し、地区チームの支援を行っています。
・対応計画は、保健省によって作成され、対応パートナーも含まれています。
・コレラ対応を支援するためにコレラキットが配布されました。
・国内外のパートナーとのアドボカシー会議が引き続き実施されています。
・対応チームが主要な発生地に派遣され、対応活動を支援し、調査を行っています。
・2月18日から23日にかけて、南西州の4つの保健地区で経口コレラワクチン(OCV)キャンペーンの第1ラウンドが開催されました。このキャンペーンは204,800人を対象とし、85.5%のカバー率を達成しました。ワクチン接種キャンペーンはさらに、2022年4月8日から12日まで、沿岸州、南部州、南西州の11地区に拡大され、842,086人が対象となり、カバー率は89%でした。これは、浄水タブレット(Aquatabs)の配布を含むWASHに関連するサポートと組み合わされました。
・3月下旬にコレラの発生が報告された刑務所地域で、OCVによる集団予防薬活動が実施されました。
・流行地では、積極的な症例発見と患者を施設に紹介するのための監視活動が強化されました。
・コレラの発生現場や確定患者の家庭の消毒が行われました。
・地域住民や指導者は、手洗い、浄水、家庭や公共の場の消毒に関する研修を受けました。

WHOによるリスク評価

カメルーンは、コレラの発生が繰り返されている西アフリカと中央アフリカの国のひとつです。特に北部州、沿岸州、中央州、南西州でのコレラ菌の蔓延、首都ヤウンデを含む一部の州では清潔な飲料水へのアクセスが限定的で、安全でない水洗環境の原因となる文化的慣習など、いくつかの危険要因が存在しています。カメルーンでは、コレラの発生に季節的なパターンがあり、地域によって差があります。 現在最も被害が大きい南西州と沿岸州では、コレラは雨季(11月~4月)または雨季と乾季の移行期に最も多く報告されています。中央州では、5~6月と10~11月の雨季にコレラの報告が多くなっています。現在カメルーンは雨季で、国内でさらに感染が拡大する可能性があります。
 
さらに、国内の一部の流行地では治安が悪く、保健サービスへのアクセスが困難なため、発生時の対応はより困難になっています。
 
コレラの発生は2021年10月下旬から急増し、2022年3月にはさらに悪化し、全患者の70%が南西州から報告されています。地理的にアクセスしにくい地域、治安上の制約、最適とはいえない通信網により、疫学的な更新が不定期になり、症例の報告が少なくなる可能性があります。さらに、国内避難民(IDP)の人口移動も多く、脆弱な保健システム、不十分な人的資源、治療プロトコルに関する知識の低さ、コレラに対するリスクコミュニケーションの低さが、引き続き課題となっています。
 
さらに、北部地域では、カメルーンはナイジェリアのアダマワ州、ボルノ州、タラバ州と国境を接しており、頻繁に国境を越えた移動があるため、感染拡大の危険性があります。また、特にナイジェリアとカメルーンと国境を接するチャド共和国への感染拡大のリスクもあります。
 
コレラワクチンの接種が行われており、コレラの発生を抑えるのに役立つと思われますが、発生を抑えるためには、適切な治療や清潔な水へのアクセスを含む他の介入によって補完されたさらなる努力が必要です。

WHOからのアドバイス

WHO は、コレラの感染を防ぐために、清潔な水と衛生設備へのアクセス向上、適切な排泄物処理、食品安全の実践、衛生習慣の改善などを推奨しています。コレラの発生を抑制するため、またコレラのリスクが高いことが知られている地域での予防のために、経口コレラワクチンを水と衛生の改善と組み合わせて使用する必要があります。
 
特にコミュニティレベルでのサーベイランスを強化することが推奨されます。死亡率を下げるために、コレラの発生した地域では、医療へのアクセスの改善を含む適切な症例管理を実施する必要があります。新しい地域に拡がるリスクを減らすために、各国がこのコレラの発生を迅速に検知し、対応できるようにする必要があります。また、経口補水液による早期管理、スクリーニング、患者の医療機関受診への誘導を行うためには、コミュニティに経口補水液ポイント(ORP)を設置することが重要です。今回の流行は国境を越えた移動が多い地域で発生しているため、WHOはそれぞれの国に対し、協力と定期的な情報共有の確保を促しています。
 
海外渡航や貿易:WHOは、現在のアウトブレイクに関する入手可能な情報に基づき、カメルーンへの旅行や貿易を制限することは推奨していません。

出典

Cholera - Cameroon
Disease Outbreak News 16 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON374