インフルエンザA(H1N1) - ドイツ連邦共和国

Disease outbreak news  2022年5月19日

発生状況一覧

2022年5月11日、ドイツは、ドイツ西部のノルトライン・ヴェストファーレン州において、豚由来のインフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染したヒトにおける検査確定症例1例をWHOに通知しました。この症例は、インフルエンザの定期的な定点観測調査で発見されました。この症例に関連したさらなる症例は報告されておらず、患者は完治しています。A(H1N1)変異型ウイルスによる感染は時折発生しますが、まだ稀で珍しい出来事であると考えられています。

症例の解説

2022年5月11日、ドイツは、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州において、豚由来のインフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染した検ヒトにおける検査確定症例1例をWHOに通知しました。この患者は、30~40歳の成人であり、インフルエンザの定期的な定点観測調査で検出されました。3月21日、この患者は、発熱、咳、咽頭痛、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈しました。3月24日に鼻腔ぬぐい液検体が採取され、3月29日にA型インフルエンザウイルスが検出されました。
 
この検体は、ドイツのロベルト・コッホ研究所の国立インフルエンザセンターで検査されました。インフルエンザA型ウイルスは逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により検出されました。5月5日、全ゲノム配列決定により、ユーラシア型の鳥インフルエンザに類似する豚インフルエンザA(H1N1)ウイルスであることが判明しました。現在、さらなるウイルスの特性解析が行われています。
 
この患者は入院せず、その後回復しています。この患者は豚との直接の接触はありませんでしたが、養豚場の多い地域に住んでおり、養豚業を営む人との接触がありました。

インフルエンザA(H1)の疫学

インフルエンザA(H1)ウイルスは、世界のほとんどの地域の豚の間で循環しています。近年、欧州のいくつかの国で豚インフルエンザウイルスによるヒト感染例が散発的に検出されていますが、そのほとんどは豚との接触が報告されています。 豚に感染するインフルエンザウイルスは、ヒトのインフルエンザウイルスとは異なる可能性があるため、通常、豚のA型インフルエンザウイルスがヒトに感染することはありません。したがって、ヒトのインフルエンザウイルスに対して製造されたインフルエンザワクチンは、一般に、通常豚に循環するインフルエンザウイルスから人を保護することは期待できません。豚で通常循環しているインフルエンザウイルスが人から検出された場合、そのウイルスは「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。散発的に変異型ウイルスによるヒトへの感染が報告されていますが、通常は豚や汚染された環境に直接または間接的に暴露された後です。変異型ウイルスのヒトへの感染による臨床症状は軽度である傾向がありますが、より重篤な疾患で入院した例や致死的となった例もあります。
 
近年、ヨーロッパでいくつかのインフルエンザA(H1)ウイルス感染が検出されています。A(H1N1)変異型ウイルスによる感染は時折発生しますが、それでも稀で珍しい出来事であると考えられています。

公衆衛生上の取り組み

ドイツの保健当局は、患者の家族に連絡を取り、農業に携わる友人を含む濃厚接触者に血液検査を実施しました。当局はまた、遡及的な疫学調査も行っています。患者が回復し、感染拡大の徴候もみられないため、ドイツ当局による他の措置は実施されませんでした。

WHOによるリスク評価

現在入手可能な情報によれば、これは散発的なケースであり、これまでのところ感染拡大の徴候ありません。WHOは、このウイルスがもたらす一般住民へのリスクは低く、職業的に曝露される人のリスクは低いか中程度であると評価しています。現在、国家機関により調査が行われているため、必要に応じてリスクレベルが修正される予定です。
 
ブタは鳥、ヒト、豚のインフルエンザウイルスに感受性があり、異なる種のインフルエンザウイルスに同時に感染する可能性もあります。その場合、これらのウイルスの遺伝子が混ざり合い、新しいウイルスが生まれる可能性があります。このようなA型インフルエンザウイルスの大きな変化を、抗原変異といいます。このような新しいウイルスが人々に感染し、集団免疫を持たない人から人へ容易に感染するようになれば、インフルエンザの大流行が起こる可能性があります。
 
変異型インフルエンザウイルスに感染した人が国外に渡航した場合、渡航中や渡航後に他国で感染が検出される可能性があります。この場合でも、このウイルスはヒトの間で容易に感染する能力を獲得していないため、さらなる地域レベルの感染拡大は考えにくいと思われます。

WHOからのアドバイス

サーベイランス :
・本件は、季節性インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
・WHOは、ヒトと動物のインターフェイスにおけるインフルエンザウイルスの現状に関して、入国地での特別な旅行者スクリーニングや制限を助言するものではありません。
・インフルエンザウイルスは常に進化しているため、WHOは引き続き、ヒト(または動物)の健康に影響を与える可能性のある循環しているインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するためのグローバルサーベイランスと、リスク評価のためのタイムリーなウイルスの情報共有が重要であることを強調します。
 
通知と調査  :
・新型インフルエンザのサブタイプによるヒトへの感染はすべて、国際保健規則(IHR2005)の下で届出可能であり、IHR2005の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによる最近のヒトへの感染について検査確定された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。疾病の証明は必要ありません。
・変異型ウイルスを含む、パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確定または疑われた場合、動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡など、徹底的な疫学調査を行う必要があります。疫学調査には、新型ウイルスの人から人への感染を示唆するような、通常とは異なる呼吸器系事例の早期発見が含まれるべきです。患者が発生した時間と場所から採取された臨床検体は検査され、さらなる特徴把握のためにWHOの共同研究センターに送られる必要があります。
 
渡航と貿易 : 
・WHOは、現在入手可能な情報に基づき、ドイツへの旅行や貿易を制限することを推奨していません。
 
旅行者のための予防策 : 
・動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者は、農場、生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある場所への立ち入り、動物の糞で汚染されていると思われる環境表面との接触を避けるべきです。また、渡航者は石鹸と水でこまめに手を洗う必要があります。旅行者は、食品安全と食品衛生の良い習慣を守る必要があります。

出典

Influenza A(H1N1) - Germany
Disease Outbreak News 19 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON384