クリミア・コンゴ出血熱 - イラク共和国

Disease outbreak news  2022年6月1日

発生状況一覧

2022年1月1日から5月22日の間に、イラク共和国(以下、「イラク」という。)の保健当局は、クリミア・コンゴ出血熱(以下、「CCHF」という。)の患者212人(うち疑い例115人(54%)、検査確定例97人(46%))をWHOに通知しました。死者は27人、うち疑い例が14人、検査確定例が13人でした。2022年の最初の5カ月間に報告された患者数は、検査確定例が33例であった2021年の報告数を大幅に上回っています。イラクのいくつかの地域(州)で患者が報告されており、この流行は、すでに手薄になっている医療制度をさらに逼迫させる可能性があります。

発生の解説

2022年1月1日から5月22日の間に、イラクの保健当局からWHOに212例のCCHFが報告され、そのうち169例(80%)は4月と5月の2か月の間に報告されたものです。212例のうち、115例(54%)が疑い例で、97例(46%)が検査確定例でした。 全体で27人が死亡し、そのうち13人が検査確定例でした(致死率(CFR)13%;97例中13例)。
 
イラク中央公衆衛生研究所は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により症例を確定しました。
 
確定例では、ほとんどが動物と直接接触しており、家畜の飼育者または肉屋でした。確定例の半数強が15歳から44歳(n=52;54%)、性別は男性(n=60;62%)でした。
 
確定症例の50%近く(n=47;48%)がイラク南東部のズィーカール(Thiqar)州で報告され、残りの症例は12の異なる州から報告されています。ミーサーン(Missan)(13)、ムサンナー(Muthanna)(7)、ワーシト(Wassit)(6)、ディワーニーヤ(Diwaniya)(4)、バグダッド・カルフ(Baghdad-Karkh)(4)、キルクーク(Kirkuk)(3)、バスラ(Basrah)(3)、ナジャフ(Najaf)(3)、ニナワ(Nineveh)(3)、バグダッド・ルサファ(Baghdad-Rusafa)(2)、バービル(Babylon)(1)およびカルバラ(Karbala)(1)(図1)。

図1. クリミア・コンゴ出血熱の検査確定症例97例の州別分布(イラク、1月1日~22日)

クリミア・コンゴ出血熱の疫学

CCHFは、感染したマダニに咬まれたり、感染したヒトや家畜の血液や組織と直接接触したりすることでヒトに感染するマダニ媒介性のウイルス性疾患です。CCHFは、媒介動物であるマダニの地理的限界である北緯50度以南のアフリカ、バルカン諸国、中東およびアジア諸国において流行しています。
 
イラクは、CCHFが流行している地中海東部の国のひとつです。イラクでは、1979年に10人の患者が発症して以来、CCHFが報告されています。その後、1989年から2009年にかけて6例、2010年に11例、2018年に3例の死亡例が報告され、最近では2021年に13名の死者(CFR 39%)を含む33の確定例が報告されています。
 
イラクでは、羊や牛の飼育が非常に一般的です。これらの動物は、CCHFの主要な媒介生物であるHylomma属を中心としたマダニに高頻度で吸血されていることが研究により明らかになっています。
 
CCHFのヒトの症例は、主に一般的な支持療法で治療されます。抗ウイルス剤のリバビリンは、経口および静脈内投与の両方の製剤が、CCHF感染の治療に使用されています。しかし、無作為化臨床試験から、CCHFの治療に対するリバビリンの有効性を証明するエビデンスは得られていません。現在、ヒト用・動物用ともにワクチンはありません。

公衆衛生上の取り組み

保健当局は、多くの学問分野をまたぐ、以下のような発生時対応を実施しました。
 
・保健当局は、ズィーカールに疫学調査チームを配備しました。このチームは、イラク野外疫学研修プログラムのフェローと保健省(MoH)の伝染病対策課の職員で構成されています。疫学チームは、報告された患者の家庭を一軒一軒訪問し、接触者の追跡を含むアウトブレイク調査を実施しました。また、疑い例の報告された各場所からマダニを採取して分類するなど、媒介生物の昆虫学的調査も実施しました。
・MoHのベクターコントロールチームは、感染地域で屋内外の殺ダニ剤を散布し、動物病院は感染地域の家畜には殺ダニ剤を投与しました。
・MoHと農務省のチームは、CCHFの予防と対策について説明した情報、教育、コミュニケーション資料を印刷しました。彼らは、この資料を患者の連絡先や地域社会、特に肉屋や家畜小屋の所有者に配布しました。
 
WHOはMoHと協力して、診断キットの手配とゲノム解析を進めています。さらに、WHOとイラクの保健当局は、定期的にテレビ会議を行い、アウトブレイク対応の評価とガイダンスを提供しています。

WHOによるリスク評価

ズィーカールは、農村部(全地域の42%)と都市部(全地域の58%)に分かれており、特に農村部では、羊、山羊、牛、ラクダ、水牛の畜産が重要な生計手段となっています。家畜小屋が家の近くにあり、家族全員が家畜の世話をするような村では、自給自足の農業が一般的です。このような環境では、CCHFが家畜からヒトに感染する可能性があります。
 
7月には宗教的な祝日であるイード・アル=アドハー(Eid al-Adha)が控えており、その期間中にラクダ、牛、羊の屠殺が増えるため、イラク国内でCCHFがさらに広がるリスクが高まっています。さらに、この祝日に伴う人口移動の増加や動物の輸出を考えると、国境を越えた感染拡大も否定できません。2022年3月から4月にかけて行われたラマダンの期間中、CCHFの感染者数は着実に増加し、本疾患はより多くの地域に拡大しました。

WHOからのアドバイス

WHO は引き続き、すべての加盟国が CCHF のサーベイランス、診断能力、発生時対応活動を強力に維持することの重要性を強調しています。
 
WHOはまた、(i)屠殺、食肉処理、家畜選別の手順において関連する予防措置を実施する、(ii)屠殺場に入る前に動物を隔離する、または動物を屠殺する2週間前に殺ダニ剤を定期的に使用する、(iii) CCHF患者や出血熱を呈する他の患者の世話をする際に医療従事者が感染予防管理措置を確実に行う、ことによってダニからヒト、動物からヒト、ヒトからヒトへの感染のリスクを減らすよう推奨しています。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、イラクへの渡航や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Crimean-Congo Hemorrhagic Fever - Iraq
Disease outbreak news 1 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON386