コレラ - パキスタン・イスラム共和国

Disease outbreak news  2022年6月17日

発生状況一覧

パキスタン・イスラム共和国(以下、「パキスタン」という。)では、コレラは検査確定例1例を流行閾値とする風土病です。(確定例1例でエンデミックとされる。)
 
2022年、シンド(Sindh)州ではコレラ患者が大幅に増加しており、1月15日から5月27日の間に234の検査確定例が報告されました。 バロチスタン(Balochistan)州とパンジャブ(Punjab)州でも、それぞれ31例と25例のコレラ確定例が報告されています。
 
現在のところ、国境を越えて感染が広がっている報告はありません。パキスタンは長い陸上国境を有しており、国境を越えた移動が多いこと、またシンド州カラチ(Karachi)市を含む複数の主要都市に国際輸送の拠点があることから、国際的に広がる可能性のあるリスクは存在しています。

発生状況の解説

2022年4月26日、パキスタンのナショナルIHRフォーカルポイントは、パキスタンのシンド州でコレラの発生が検査で確定したことを報告しました。 5月27日現在、シンド州、バロチスタン州、パンジャブ州の3つの州から、合計290人のコレラ患者が確認されたと報告しています。
 
検査で確定した最初の症例は、2022年1月15日にシンド州から報告されました。 1月15日から5月27日の間に、同州から234の検査確定例が報告されましたが、死者はいませんでした。これらの症例のうち、126名(54%)は女性で、114名(49%)は9歳未満の小児でした。コレラサーベイランスの国家方針によると、確認培養検査は成人よりも小児の検体が優先されることから、小児の確定例の割合が高いことが説明できます。
 
5月27日現在、シンド州カラチ市の公共水源(給水栓)および各家庭から計109検体が検査されました。このうち71検体で結果が得られており、そのうち70%でビブリオコレラ菌が、55%で大腸菌が、90%で大腸菌群が検出されました。
 
シンド州のほか、バロチスタン州の3地区で31人の患者が確認され、9人が死亡、パンジャブ州の2地区で25人の患者が確認されたと報告されています。


図1:パキスタンにおけるコレラ患者の分布(2022年1月15日~5月27日)(n=290)

コレラの疫学

コレラは、汚染された水や食品に含まれるビブリオコレラ菌を摂取することで発症する急性の腸管感染症です。主に、安全な飲料水へのアクセス不足や、不十分な衛生環境と関連しています。コレラは非常に悪性の疾患で、重度の急性水様性下痢症を引き起こし、高い罹患率と死亡率をもたらします。また、曝露の頻度、曝露された人々、環境に応じて、急速に広がる可能性があります。コレラは子供と大人の両方に感染し、治療されないと死に至ることもあります。
 
潜伏期間は、汚染された食物または水の摂取後、12時間から5日間です。ビブリオコレラ菌に感染しても、ほとんどの人は何の症状も現れませんが、感染後1~10日間は糞便中に菌が存在し、再び環境中に排出されて他の人を感染させる可能性があります。症状が出た人のうち、大多数は軽度または中程度の症状ですが、なかには重度の脱水を伴う急性の水様性下痢を発症する人も僅かにいます。コレラは簡単に治療できる疾患です。ほとんどの人は、経口補水液(ORS)の迅速な投与により、治療を成功させることができます。
 
コレラには、風土病にも流行病にもなり得ます。コレラが風土病として存在する地域とは、過去3年間にコレラ患者が確認され、その地域における伝播が証明された地域です(患者は他の地域から流入した者ではありません)。コレラの流行は、風土病として存在する国でもそうでない国でも起こる可能性があります。感染していない遺体が伝染病の原因として報告されたことはありません。
 
人道的危機の結果、例えば水や衛生設備の崩壊、あるいは不適切な環境で過密なキャンプへの住民の移住などがあり、万一コレラ菌が存在したり持ち込まれたりした場合、コレラの感染リスクを高める可能性があります。
 
コレラの発生を抑え、死者を減らすには、監視、水、衛生、社会動員、治療、経口コレラワクチンの組み合わせなど、多部門にわたるアプローチが不可欠です。

公衆衛生上の取り組み

この発生を受けて、シンド州、バロチスタン州、パンジャブ州の州保健局は、関係する地方保健局に厳重警戒通知を発しました。また、3つの州の部局は、感染した地区での発生を公式に宣言しています。
 
コレラ対応計画が作成され、シンド州、バロチスタン州、パンジャブ州の流行地区で対応活動が実施されています。これには、定点把握施設の設置、症例フォローアップのための迅速対応チームの活性化、報告強化のための民間病院への働きかけなどが含まれます。また、経口補水液、亜鉛、厳選された抗菌薬、点滴など、治療に必要な物資を確保するための物資的支援も提供されています。コミュニティへの働きかけと健康教育メッセージが作成され、リスクの高いコミュニティで広まりました。経口コレラワクチン(以下、「OCV」という)キャンペーンが流行地で計画されています。
 
WHOはパキスタンの保健当局に対し、以下のような支援を行っています。
 
・複数の高官レベルの会合を通じての提言と調整。これには、コレラ発生への対応について担当当局への提言や指導、州のコレラ対策室への支援を提供することが含まれます。
・サーベイランス、感染・予防・管理(IPC)を含む症例管理、データ管理、社会動員のための技術的支援。
・流行の影響の大きい地区での社会動員への支援や、日常的に行われている健康意識向上セッションを含むコミュニティへの関与。
・効果的な水・衛生・保健(WASH)の介入を実施するための、国や州レベルでのユニセフなどのパートナーとの協力。
・サーベイランス、コレラ確定のためのラボ検査、水質モニタリング、IPC対策の改善、症例管理を支援するための様々な病院への現地訪問の実施。
・検体採取キット、浄水錠、経口補水液(ORS)、コレラに関する情報、教育、コミュニケーション資料の配布を通じた流行地区への支援。
・水と環境のサンプリングを行うための市中の病院の検査施設への支援。
・サーベイランス、緊急対応チーム、検査、IPC、症例管理などの分野における地区保健管理チーム、医療従事者、病院担当者の能力開発。
・リスクコミュニケーション用のパンフレットや啓発用バナーの配布と、今後の配布に向けた追加資料の印刷。コレラの症例管理を改善するため、糞口経路で感染する疾病の標準作業手順をカスタマイズして作成し、医療施設に配布しました。
・国際調整グループ(ICG)が承認したOCVの要請を提出し、複数の流行地での対応型予防接種キャンペーンを実施しました。

WHOによるリスク評価

カラチ市はパキスタン最大の都市であり、シンド州の州都であり、空港や海港を持つ交通の要所でもあります。現時点では、国境を越えた感染拡大は確認されていません。しかし、国境地帯や交通の要所に近い場所で感染が続いていることから、国際的な広がりのリスクは否定できません。
 
バロチスタン州では、サーベイランスが十分でなく、安全な飲料水へのアクセスや医療へのアクセスも限られており、感染地域はアフガニスタンやイランとの国境を越えた移動が活発な地域に近接しています。
 
パンジャブ州では、対応活動が行われているものの、州都であり国際的な商業の中心地であるラホール(Lahore)を含め、コレラの疑い例の増加が記録されています。人口の移動が多いことから、他の州への拡大が事態をさらに悪化させる可能性があります。
 
WHOやパートナーの支援のもと、上記の「公衆衛生上の取り組み」の項で述べたように、国家当局によって必要な管理措置が実施され、発生を食い止めようとしています。しかし、コレラ発生の進展を適切に追跡し、適時適切な介入を行うために、コレラの体系的な検出と検査施設での確認を確立し、サーベイランスをさらに強化する必要があります。

WHOからのアドバイス

・WHOは、疾病監視システムの強化を勧告しています。パキスタンの他の州や地域における患者の早期発見、確認、対応のためのサーベイランスを強化する必要があります。
・コレラ患者の適切かつタイムリーな治療を確実にすること。
・コレラの発生を制御するため、またコレラのリスクが高いことが知られている地域での予防のために、経口コレラワクチンをWASH活動の改善と合わせて使用すること。
・安全な飲料水と衛生設備へのアクセスを改善し、医療施設におけるIPC対策を改善し、流行の影響下にあるコミュニティの衛生習慣と食品の安全性を向上させることが、コレラを抑制する最も効果的な手段です。
・コレラの予防と早期治療に関するリスクコミュニケーションとコミュニティーの参加が、住民に提供されるべきです。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、パキスタンへの渡航や貿易の制限を勧告していません。

出典

Cholera - Pakistan
Disease Outbreak News 17 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON391