レジオネラ症- アルゼンチン共和国

Disease outbreak news  2022年9月5日

発生状況一覧

2022年9月3日現在、アルゼンチンのトゥクマン(Tucumán)州サン・ミゲル・デ・トゥクマン(San Miguel de Tucumán)市で、死者4名を含む重症肺炎11名の集団発生が報告されています。4例の検体からレジオネラ属菌が分離されました。レジオネラ症は、軽度の熱性疾患から重篤で時に致死的な肺炎まで、重症度が異なる肺炎様疾患です。症例は当初、原因不明の肺炎として報告されました。9月3日にレジオネラ菌が原因菌として特定されました。
すべての症例は、2022年8月18日から25日の間に両側の肺炎、発熱、筋肉痛、腹痛、呼吸困難を呈し、疫学的には1つの医療施設で発生しています。11名のうち、8人は同施設の医療従事者、3人は同医療施設の患者です。死者4人のうち3人は医療従事者です。
 
保健当局は、さらなる拡大を抑えるために、クラスター調査活動、追加の患者を特定するための能動的症例検索、接触者追跡調査、公衆衛生活動を調整しています。

発生の概要

2022年8月29日、WHOはアルゼンチン保健省から、アルゼンチン・トゥクマン州サンミゲル・デ・トゥクマン市で病因が特定されていない両側性肺炎の6例の集団感染が確認されたとの報告を受けました。 6例すべてがサン・ミゲル・デ・トゥクマン市の同一の民間医療施設で発生しており、発症は2022年8月18日から22日の間でした。6例の内訳は、医療従事者5名と、別の疾患で同施設に入院し、その後肺炎を発症して集中治療室に入院した患者1名です。両側性肺炎に加え、全例が発熱、筋肉痛、腹痛、呼吸困難を呈していました。
 
9月1日、能動的症例検索により、同じ民間医療施設の医療従事者で、30歳から44歳の3人の患者が追加で確認されましたが、兆候と症状は最初に確認された6人と同様でした。これらの例の症状発現は2022年8月20日から25日の間でした。
 
9月2日から3日にかけて、81歳男性と64歳男性(いずれも併存疾患あり)の2名が追加で確認され入院となり、これまでの症例と同様の臨床症状を呈しました。
 
2022年9月3日現在、11人の患者が確認され、そのうち4人が死亡しています(3人の医療従事者)。報告された11名のうち8名は、同一医療施設の医療従事者です。患者の年齢の中央値は45歳で、7人が男性です。死亡が報告された4名を含む10名は、基礎疾患および/または重症化の危険因子を有していました。9月3日現在、4人の患者がまだ入院しています。これらの症例の接触者は現在フォローアップ中であり、現在までのところ、症状を発症した者はいません。

ラボ検査の結果
 
11人の患者から血液、呼吸器、組織の検体が採取されました。地元の公衆衛生研究所で行われた予備検査では、呼吸器系ウイルス、その他のウイルス、細菌、真菌の病原体は陰性でした。8月31日、最初の6名の検体が、追加検査のために国立基準研究所(国立研究所・保健機関管理局、スペイン語の頭文字で「 ANLIS」という。 )に送られました4 。2022年9月3日現在、新型コロナウイルス(RT-PCR)、インフルエンザ、コクシエラ菌の抗体検出、レジオネラ菌の尿中抗原、12種類の呼吸器ウイルス検査項目、ハンタウイルス(Elisa IgM)、ヒストプラズマ(RT-PCR)、ペスト菌(PCR)とレプトスピラ症の微小凝集試験で陰性との結果が得られています。
 
さらに、気管支肺胞洗浄液2検体を高感度全DNA配列解析(メタゲノム解析)したところ、レジオネラ属菌に適合する結果が得られました。 2022年9月3日、ANLISは、気管支肺胞洗浄液の2つの検体のレジオネラ属菌の16Sリボソーム遺伝子をメタゲノム配列により増幅し、4種類のバイオインフォマティクス法で解析し、レジオネラ・ニューモフィラに適合する結果を得たことを報告しました。これらの結果は、配列決定プロセスが完了した時点で確認される予定である。この検査結果は、レジオネラ症に適合する証拠を裏付けるものです。レジオネラ感染症の診断を補完するために、血液培養と血清変換試験が引き続き実施されます。

レジオネラ症の疫学

レジオネラ症は、レジオネラ属菌による肺炎型および非肺炎型の感染症の総称です。レジオネラ症は、軽症から重症まで様々であり、時に致命的な場合もあります。
 
肺炎型のレジオネラ症は、潜伏期間が2~10日です(ただし、いくつかの集団発生では16日までと記録されています)。市中や院内における肺炎の原因の一つとなります。また、まれではありますが、レジオネラ症は公衆衛生上重要な大流行を引き起こすことがあります。初期症状は、発熱、軽い咳、食欲不振、頭痛、倦怠感、無気力であり、筋肉痛、下痢、錯乱を起こす患者もいます。レジオネラ症の重症度は、軽度の咳から急速に致命的な肺炎まで様々です。未治療のレジオネラ症は、通常、最初の1週間で悪化します。
 
レジオネラ症による死亡率は、重症度、抗菌薬の使用、レジオネラ菌に罹った環境、および患者が免疫抑制などの基礎疾患を有しているかどうかに左右されます。死亡率は、未治療の免疫抑制患者において40~80%と高く、臨床症状や徴候の重症度に応じて、適切な症例管理により5~30%まで低下させることが可能です。全体として、死亡率は通常5-10%です。

公衆衛生上の取り組み

両側性肺炎の集団発生を受け、トゥクマン州保健当局は、症例の追跡調査、感染源の探索、追加症例を特定するための積極的症例発見、接触者追跡などの集団調査活動を調整しました。予備調査の結果、二次感染者は確認されませんでした。
 
レジオネラ属菌がこの集団発生の原因として特定されたため、以下の公衆衛生措置が実施されました。
・リスク評価および医療施設での医療活動の停止。
・積極的および受動的な症例発見を含むサーベイランスの強化。
・生物学的および環境学的サンプリング、ならびに細菌分離およびメタゲノム解析を含むラボ検査。
・症例の隔離と患者の治療
・接触者の特定、サポート、モニタリング
・リスクコミュニケーション
 
国の保健当局の支援のもと、汚染源を特定し、予防・管理対策を緊急に実施するために、環境検体の収集が行われています。また、保健当局は、医療従事者や地域社会のために、内外のコミュニケーション戦略を実施しています。
 
汎米保健機構(PAHO)/WHOは、サンプリング、環境評価、臨床管理、感染予防管理(以下、「IPC」という。)対策に関する助言など、アウトブレイクの調査のための技術的支援を提供しています。

WHOのリスク評価

レジオネラ症は、軽度の熱性疾患から重篤で時に致命的な肺炎まで、その重症度は様々で、汚染された水や培養土に含まれるレジオネラ属菌に暴露することによって引き起こされます。レジオネラ症の最も一般的な感染経路は、汚染された水源からのエアロゾルを吸入することです。エアロゾルを介したレジオネラ菌の感染とレジオネラ症の発生の両方に関連している感染源としては、空調や工業用冷却に関連する空調冷却塔または蒸発凝縮器、温水および冷水システム、加湿器、およびジャグジーが挙げられます。また、特に感染しやすい入院患者の場合、汚染された水や氷を吸引することによっても感染することがあります。現在までのところ、ヒトからヒトへの直接感染は報告されていません。
 
アルゼンチンでは、これまでにもレジオネラ肺炎の散発的な発生が報告されています。感染した医療施設では、しっかりとした監視活動が実施されています。それにもかかわらず、レジオネラ菌の発生源が特定されていないため、同じ医療施設で働く人や入院している人がレジオネラ症を発症するリスクは、現在のところ中程度といえます。
 
アルゼンチンへの渡航後にレジオネラ症の症例が報告された国は、地域のIHRフォーカルポイントに通知する必要があります。

WHOからのアドバイス

WHOは、検査室での分析、症例の特定と治療、接触者追跡、感染源特定のためのアウトブレイク調査、さらなる感染拡大防止策の実施、IPCの強化の継続を推奨しています。医療施設におけるIPC対策は、新型コロナウイルスパンデミック時に強化されており、医療関連感染を防ぐために強化する必要があります。 新型コロナウイルスで推奨されている予防策を引き続き実施する必要があります。
 
WHOは、旅行者に対しては、特に異なる対策を推奨していません。旅行中または旅行後に呼吸器系疾患を示唆する症状が出た場合、旅行者は医療機関で診察を受け、旅行歴を医療従事者と共有することが推奨されます。
 
WHOは、本件に関する現在の情報に基づき、アルゼンチンへのいかなる渡航・貿易制限も適用しないよう勧告しています。

出典

Legionellosis - Argentina
Disease Outbreak News 05 September 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON407