伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)-アルジェリア民主人民共和国

Disease outbreak news  2022年9月13日

発生状況一覧

2022年7月8日、WHOは、アルジェリア民主人民共和国(以下、「アルジェリア」という。)南部のタマンラセット(Tamanrasset)県から急性弛緩性麻痺(以下、「AFP」という。)を伴う循環型ワクチン由来ポリオウイルス2型(以下、「cVDPV2」という。)の患者の届け出を受けました。これは、同国で確認された最初のcVDPV2感染例となります。地元の公衆衛生当局が現地調査を実施し、さらなるAFP患者の捜索を積極的に行っており、同時に予防接種キャンペーンも予定されています。

発生の概要

2022年7月8日、アルジェリアにおけるcVDPV2の患者が、世界ポリオ研究所ネットワーク(GPLN)を通じてWHOに通知されました。症例は、アルジェリア南部のタマンラセット県の2歳未満の小児で、2022年4月11日にAFPを発症しました。便検体がアルジェリア・パスツール研究所でcVDPV2が陽性となり、パリ・パスツール研究所で確定されました。ゲノム配列解析の結果、分離されたウイルスは、ナイジェリアのカノ(Kano)で以前に分離されたウイルスと遺伝的に関連していることが判明しました。この小児は、ポリオワクチンの接種を受けておらず、タマンラセット県外への渡航歴もありません。
 
これは、2021年のWHO-UNICEFの予防接種率推計によると、ポリオ含有ワクチン3回目の接種率が91%、不活化ポリオワクチン1回分の接種率が94%であるアルジェリアで確認された初のcVDPV2症例となるものです。

ポリオの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児に感染し、感染者の約200人に1人に永久麻痺を引き起こします。麻痺者のうち2~10%は死亡する、感染力の強い疾患です。
 
ウイルスは、主に糞口経路で人から人へ、または頻度は低いですが、一般的な感染経路である汚染された水や食べ物などを介して感染し、腸内で増殖し、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。
 
潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状で、通常、病気であることに気づきません。
 
ワクチン由来ポリオウイルスは、経口ポリオワクチン(以下、「OPV」という。)にもともと含まれていたポリオウイルスの株が変異したもので、よく知られているものです。OPVは、弱毒化された生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することにより、抗体ができ、免疫が発達します。まれに、消化管内で複製する際に、OPVの株が遺伝的に変化し、ポリオワクチンを十分に接種していない地域、特に衛生状態の悪い地域や人工の過密な地域で広がることがあります。集団の免疫力が低ければ低いほど、このウイルスは長く生き残り、遺伝子の変化も大きくなります。
 
ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変化して、野生ポリオウイルスと同様に麻痺を引き起こすことがあります - これがワクチン由来ポリオウイルス(以下、「VDPV」という。)と呼ばれるものです。少なくとも2ヶ月の間隔をおいてVDPVが少なくとも2つの異なる感染源から検出され、それが遺伝的に関連し、地域社会での伝播の証拠を示している場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)として分類されます。cVDPV2は、世界の様々な地域、特にアフリカ地域で影響を与え続けています。

公衆衛生上の取り組み

・検出症例の周辺で、さらなるAFP症例を積極的に探すために調査が強化されました。
・世界ポリオ研究所ネットワークと連携して、近隣諸国も含めてウイルスの循環範囲を特定するための詳細な現地調査が開始されました。
・改訂された国際ポリオ発生対応SOPに従って、対応計画が作成されました。
・予防接種キャンペーンが計画されています。

WHOのリスク評価

WHOは、免疫が不完全であったり、サーベイランスに不備があったり、大規模な人口移動があることにより、cVDPV2が国際的に広がる高いリスクが継続すると考えています。このリスクは、現在進行中の新型コロナウイルスのパンデミックに関連した予防接種率の低下によって大きくなっています。
 
アルジェリアで現在分離されているウイルスは、ナイジェリアのカノで発生したウイルスに関連しており、この病気の国際的な広がりの可能性を示しています。

WHOからのアドバイス

特にポリオの感染国・地域と頻繁に旅行や接触をする国はもちろん、すべての国において、新規のウイルスの輸入を迅速に検出し、迅速な対応を促進するために、AFP症例のサーベイランスを強化し、環境サーベイランスの計画的拡大を開始することが重要です。また、国や地域は、新たなウイルスの侵入による影響を最小限に抑えるため、地域レベルで一様に高い定期予防接種率を維持する必要があります。
WHOの刊行物、”International travel and health”では、ポリオ感染地域への渡航者は全員、ポリオの予防接種の完了が推奨されています。感染地域の居住者(および4週間以上の滞在者)は、渡航の4週間から12カ月以内に経口ポリオワクチン(OPV)または不活化ポリオワクチン(IPV)の追加接種を受ける必要があります。
 
国際保健規則(IHR2005)に基づき招集された緊急委員会の助言に基づき、ポリオウイルスの国際的な広がりのリスクは、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(以下、「PHEIC」という。)になっています。ポリオウイルスの感染によって影響を受ける国は、一時的な勧告の対象となります。ポリオウイルスに感染した国は、PHEICの下で出された臨時勧告を遵守するために、その発生を国家公衆衛生上の緊急事態として宣言し、居住者および長期滞在者へのワクチン接種を確実に行い、ワクチン接種を受けていない、または接種状況を証明できない個人の渡航を出発地で制限しなければなりません。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、アルジェリアへの渡航や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) - Algeria
Disease Outbreak News 13 September 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON406