エボラウイルス病(スーダン型)- ウガンダ共和国

Disease outbreak news  2022年9月26日

発生状況一覧

2022年9月20日、ウガンダ保健当局は、ウガンダ中央部ムベンデ(Mubende)県マドゥドゥ(Madudu)小郡の村からの患者の検査確定をもって、スーダン型のエボラウイルス病の発生を宣言しました。
 
2022年9月25日現在、ムベンデ県、チェゲグァ(Kyegegwa)県、カッサンダ
(Kassanda)県から累計18の確定例と18の推定例が報告され、そのうち23人が死亡し、そのうち5人が確定例の中に含まれています(確定例の中の致死率(以下、「CFR」という。) は28%)。これは、2012年以来、ウガンダで初めて発生したスーダン型ウイルス(SUDV)によるエボラウイルス病の発生です。

発生の概要

2022年9月20日、ウガンダの保健当局は、ウガンダ中央部ムベンデ県マドゥドゥ小郡の村で患者が確認されたことを受け、スーダン型ウイルス(以下、「SUDV」という。)によるエボラウイルス病の発生を宣言しました。
 
患者は24歳の男性で、9月11日に高熱、強直性痙攣、血液の混ざった嘔吐と下痢、食欲不振、飲み込むときの痛み、胸痛、乾いた咳、目からの出血など多岐にわたる症状を発症しました。9月11日~13日、13日~15日にかけて2軒のクリニックを受診しましたが改善しませんでした。9月15日に地域の紹介先病院(RRH)に紹介され、ウイルス性出血熱の推定例として隔離されました。9月17日に血液検体が採取され、カンパラ(Kampala)のウガンダウイルス研究所(UVRI)に送られ、9月19日に行われたRT-PCR検査でSUDVが陽性であることが判明しました。同日、患者は死亡しました。
 
予備調査の結果、ムベンデ県のマドゥドゥとキルマ(Kiruma)の2つの郡で、9月の最初の2週間に報告された原因不明の病気による死亡が多数コミュニティ内で発生していることが確認されました。これらの死者は現在、SUDVによるエボラウイルス病の可能性が高いと考えられています。
 
2022年9月25日現在、累積患者数36人(確定例18、推定例18)が報告されています。そのうちわけは、ムベンデ県(確定例14、推定例18)、チェゲグァ 県(確定例3)、カッサンダ県(確定例1)となっています。23人の死亡が記録されており、そのうち5人が確定例に含まれています(確定例におけるCFRは28%)。確定例および推定例全体のうち、62%が女性で、38%が男性です。現在、入院中の確定例は13例です。患者の年齢の中央値は26歳(範囲:1歳~60歳)です。累積223人の接触者がリストアップされています。
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ウガンダ、スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の確定例(n=18)および推定例(n=18)の地域別分布地図(2022年9月25日現在)。

エボラウイルス病の疫学

2019年5月に発表されたフィロウイルスの国際疾病分類(ICD-11)によると、エボラウイルス病は原因ウイルスにより細分化されるようになりました。スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病のアウトブレイクは、スーダン型エボラウイルス病(SVD)と命名されています。2019年5月以前は、エボラウイルス病の原因となるすべてのウイルスが単一グループ化されていました。検査の結果から、このアウトブレイクはスーダン型ウイルスによって引き起こされています。
 
スーダン型のエボラウイルス病は、ヒトに影響を及ぼす重篤な、しばしば致死的な病気です。スーダン型ウイルスは1976年6月にスーダン南部で初めて報告され、その後、定期的にウイルスが出現し、現在まで、ウガンダで4回、スーダンで3回のスーダン型ウイルスによるアウトブレイクが報告されています。スーダン型エボラウイルス病の推定致死率は、過去の発生例で41%から100%と幅があります。
 
このウイルスは、熱帯雨林に生息するオオコウモリ、チンパンジー、ゴリラ、サル、カモシカ、ヤマアラシなどの感染しているまたは死亡した動物の血液、分泌物、臓器、その他の体液と濃厚に接触することでヒトに感染します。その後、ウイルスは、スーダン型ウイルスに罹患した人またはスーダン型ウイルスで死亡した人の血液または体液(血液、糞尿、吐物など)で汚染された物との直接接触(傷ついた皮膚や粘膜)を介して人から人へ伝播します。
 
潜伏期間は 2 日から 21 日です。スーダン型ウイルスに感染した人は、症状が出るまでは感染力はありませんが、発症後は血液にウイルスが含まれている限り感染力が保たれます。スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の症状は突然現れ、発熱、疲労、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどの後、嘔吐、下痢、発疹、腎臓や肝臓の機能低下などの症状が現れます。また、内出血と外出血(歯ぐきからの出血や便に血が混ざるなど)を併発するケースもあります。
 
スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病は、初期の非特異的な症状が、マラリア、腸チフス、髄膜炎などの他の感染症に類似していることがあるため、診断が困難な場合があります。確定診断は、RT-PCRを含む多くの診断方法を用いて行われます。支持療法(経口または点滴による水分補給)と症状に応じた治療が生存率を向上させます。
 
スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の予防と治療に関して、承認されたワクチンや治療薬はありません。
 
ウガンダでは、2000年、2011年、2012年(2回)の計4回のスーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の発生が報告されています。また、ウガンダは2007年にブンディブギョ型ウイルスによるエボラウイルス病の発生を、2019年にエボラウイルス病の発生を報告しています。

公衆衛生上の取組

調整

保健省(MOH)は国家タスクフォースを設立し、WHOは技術的支援を提供しました。
インシデント管理チームが、保健省およびWHOの国別事務所で発足しました。
保健省のインシデント管理者がムベンデ県に配備され、流行地での対応活動を支援しています。
WHOは、早期発見と症例管理について、地域での紹介先となる病院と県保健チームの指導者のオリエンテーションを支援しています。
対応計画が策定され、優先してとる行動が特定されています。

調査と検査

WHOは、地区における調査組織の活性化を支援しています。
接触者のトラッキングと積極的な症例発見が進行中です。
WHOは、ムベンデ県に技術チームを配備し、サーベイランスを支援しています。

治療

WHOは、地域の紹介先となる病院の隔離ユニットの評価を支援し、患者の隔離のためにエボラウイルス病キットとテントを配給しました。
WHOは、地域の紹介先となる病院での治療ユニット設立を支援するため、専門家からなる中央チームを派遣しました。
感染予防と管理(IPC)チームが派遣され、医療従事者のIPCの能力向上と、感染地区のすべての医療施設でのスクリーニングとトリアージの確立を支援しました。

広報活動とリスクコミュニケーション

広報活動とリスク・コミュニケーション活動の一環として、WHOはエボラウイルス病に関する記者会見の開催と、保健省による記者声明の作成と配布に技術支援を提供しました。
現在、WHOは一般市民への普及のための情報・教育・コミュニケーション(IEC)資料の見直しを支援しています。

WHOによるリスク評価

ウガンダは、エボラウイルス病やスーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の発生に対応した経験があり、必要な措置が迅速に開始されています。今回の発生は、2012年以来、ウガンダで初めて発生したスーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の感染症です。
 
スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病の予防と治療のための認可されたワクチンや治療薬がないため、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす可能性のあるリスクが高いです。保護や感染予防・管理対策が限定的な民間施設や病院などの地域医療サービスにおける地域住民の死亡や患者のケアは、多くの感染連鎖の高リスク化を伴います。発生の範囲と他の地区への拡大の可能性を見極めるため、調査が続けられています。現段階では、近隣諸国への患者流出を否定することはできません。
 
現在入手可能な情報によると、国家レベルでは、以下の点を考慮し、全体的なリスクは高いと評価されています。(i) スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病が確認され、承認ワクチンがないこと (ii) 感染は、指標となる患者が確認される3週間前に始まった可能性があり、いくつかの感染経路が追跡されていないこと (iii) 患者は、個人防護具(PPE)の不適切使用を含む、感染・予防・管理(以下、「IPC」という。)の実践が不十分であった様々な施設でケアを受けていたり、志望に際して、伝統的に大きな集会を伴う儀式で葬られたこと。(iv) 同国は近年、エボラウイルス病の発生に対応する能力を高めており、強固な対応を行うために利用可能な資源を容易に動員し組織化できる地元の能力を有していますが、炭疽菌、新型コロナウイルス感染症、リフトバレー熱、黄熱、洪水、食糧不安の広がりなど複数の緊急事態に同時に対応しているため、患者数が増加し発生が他の小郡、県、地域へと拡大するとシステムが逼迫する可能性があること。
 
さらに、この感染症は地元で稼働中の金鉱の周辺に住む人々の間で検出されました。取引業者の移動は活発と思われ、エボラウイルス病の発生が宣言されたことにより、すでに感染している鉱山労働者が他地域へ逃げ出す可能性があります。
 
現在感染が発生しているムベンデ県は国境はありません。しかし、ウガンダでは国境を越えた人口移動自体は活発であるため、国際的に感染が広がるリスクは否定できません。さらに、感染経路を特定するための調査も進行中であり、発生範囲はまだ確定していません。
 
地域レベルおよび世界レベルでは、全体的なリスクは低いと評価されています。

WHOからのアドバイス

効果的なアウトブレイク対策は、症例管理、サーベイランスと接触者追跡、適切な検査サービス、地域保健やコミュニティにおける感染予防と制御措置の実施、安全で尊厳ある埋葬、コミュニティへの関与と社会動員を含む一連の介入策の適用によります。コミュニティの関与は、アウトブレイクをうまくコントロールするために不可欠です。エボラウイルス病感染の危険因子と個人ができる防御策についての認識を高めることは、人への感染を減らすための効果的な方法です。
 
支持療法を早期に開始することで、エボラウイルス病による死亡者数が大幅に減少することが示されています。爆発的な拡大の可能性を封じ込めるために、サーベイランスやその他の対応活動を強化する必要があります。
 
入手可能な情報によれば、エボラウイルス病の発生に対する最近の対応で使用されたERVEBOワクチンは、スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病に対する交差免疫は認められていません。
 
ジョンソン・エンド・ジョンソン(ヤンセン)のZabdeno/Mvabeaというエボラウイルス病に対するワクチンは、欧州医薬品庁(EMA)からエボラウイルス病に対してのみ承認されており、スーダン型ウイルスによるエボラウイルス病に対する効果の測定は行われていません。このワクチンは2回接種のスケジュールで投与され、2回目の接種の間に56日間を必要とします。1回目の投与でザイール型のエボラウイルスに対する予防、2回目の投与でスーダン型を含む他のウイルス型に対する予防を行うよう設計されています。しかし、この多抗原に対する免疫は臨床データがありません。 仮にこのワクチンがスーダン型ウイルスによるエボラウイルス病に有効であることが試験で証明されたとしても、2回目の接種から数日後にしか予防効果が得られないことから、このワクチンはアウトブレイク対応には適していないのです。
 
WHOは、現在のアウトブレイクに関する情報に基づき、ウガンダへの旅行や貿易を制限しないよう助言しています。

出典

Ebola Disease caused by Sudan virus – Uganda
Disease Outbreak News 26 September 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON410