コレラ - ハイチ共和国

Disease outbreak news  2022年10月12日

発生状況一覧

ハイチ共和国(以下、「ハイチ」という。)では3年以上コレラ患者が報告されていませんでしたが、2022年10月2日、国家当局の発表によると、ポルトープランス (Port-au-Prince) 広域圏でビブリオコレラO1が2例確認されました。
 
現在のコレラの発生は、ポルトープランス(Port-au-Prince)とシテ・ソレイユ(Cité Soleil)で起こっています。これらの地域では、内乱による暴動で数千人が避難しています。

発生の概要

2022年9月25日から10月8日にかけて、ハイチ公衆衛生人口省(フランス語の頭文字をとってMSPP)は、ポルトープランスとシテ・ソレイユから、血清型O1の確定に至った2例を含むビブリオコレラの検査確定例32例および疑い例224例を報告しました。合計189人の患者が入院し、そのうち16人が死亡したと報告されています。報告された全症例のうち、55%が男性で、49%が19歳以下です。最も感染者が多い年齢層は1~4歳児です(図3)。

図1.ハイチにおけるコレラ疑い例(n=224)の日次分布(2022年9月30日~10月8日)
データ出典 :ハイチ共和国公衆衛生・人口省


図2:ハイチにおけるコレラ疑い例(n=224)の地理的分布 (9月30日~10月8日)
2022年10月


図3. ハイチにおけるコレラ疑い例(n=224)の年齢階層別・性別の分布(2022年9月30日~10月8日)
データ出典 ハイチ共和国公衆衛生・人口省

ハイチにおける最初のコレラの発生は、2010年10月に報告されました。同国では、2010年10月から2019年2月までに、9,792人の死亡を含む合計82万人のコレラ患者が報告されました(図4)。最後のコレラ確定症例は、2019年1月アルティボニット(Artibonite)県のレステール(I'Estère)で報告されました。同国では、2019年1月から2022年1月までの3年間、コレラの確定症例は1件も報告されていません。


図4 .ハイチで報告されたコレラ患者数(n=820,000)と死亡者数(n=9,792):2010-2019
データ出典 Sitrep Cholera 2022年10月9日、ハイチ公衆衛生・人口省。

コレラの疫学

コレラは、汚染された水や食品に含まれるビブリオコレラ菌を摂取することで発症する急性の腸管感染症です。主に、衛生環境の不備や安全な飲料水へのアクセス不足が原因とされています。コレラは非常に悪性の疾患で、重度の急性水様性下痢症を引き起こし、高い罹患率と死亡率をもたらします。また、曝露の頻度、曝露された人々、環境に応じて、急速に広がる可能性があります。コレラは子供と大人の両方に感染し、治療されないと死に至ることもあります。
 
潜伏期間は、汚染された食物または水の摂取後、12時間から5日間です。コレラ菌に感染しても、ほとんどの人は何の症状も現れませんが、感染後1~10日間は糞便中に菌が存在し、再び環境中に排出されて他の人を感染させる可能性があります。症状が出た人のうち、大多数は軽度または中等度の症状ですが、少数は重度の脱水を伴う急性水様性下痢を発症します。コレラは簡単に治療できる病気です。経口補水液(ORS)を速やかに投与することで、ほとんどの人が治療を成功させることができます。
 
人道的危機の結果として、上水道設備と衛生設備の崩壊や、不十分で過密なキャンプへの住民の移住などが発生しており、そうした状況下で細菌が人々の間に侵入すると、コレラの感染リスクが高まる可能性があります。
 
コレラの発生を抑え、死者を減らすには、監視、水、衛生、社会動員、治療、経口コレラワクチンの組み合わせなど、多部門にわたるアプローチが不可欠です。

公衆衛生上の取り組み

緊急対応活動は、保健省、WHO、その他のパートナーによって、以下のように実施されています。
 
・インシデント管理支援チーム(IMST)がアウトブレイク対応活動のために活動を開始しました。
・WHOは、定期的に疫学的アラートを発表し、現在の疫学的状況について情報共有を強化し、より広い地域社会の認識を高めています。
・この発生に関する最新の情報は、国際保健規則(IHR)のナショナルフォーカルポイント(NFPs)ネットワークを通じて、他の加盟国にも提供されています。
・ハイチ保健当局へは、コレラキットのような資源だけでなく、制御と対応措置のための支援を提供しました。
・事象ごとのサーベイランスが強化され、現地の状況について公式・非公式な報告を監視しています。
・多部門対応計画は、症例管理、水・衛生・公衆衛生(WASH)、ワクチン接種、コミュニケーションと心理社会的支援、まだ発生の起きていない地域での準備の強化、対応を促進するための治安状況の改善を中心に策定されています。
・WHOは、公衆衛生当局と連携し、この発生の特徴を把握し、対応を支援しています。

WHOのリスク評価

現在ハイチでは、コレラの流行に加え、ギャングによる暴力、社会不安、治安の悪さに関連する危機が続いており、保健システムの対応能力に負担がかかっています。さらに、同国は非常に脆弱で自然災害のリスクにさらされており、過去の人道危機を悪化させてきました。
 
今回のコレラ発生について評価された全体的なリスクは、以下の理由により、国レベルで非常に高いものとなっています。
 
1.現在の社会経済状況、進行中の人道的危機、劣悪な健康状態により、人口の大部分がコレラ感染やコレラ再発時のリスクにさらされています。
2.ポルトープランス大都市圏と南部県のコレラ発生地には、ギャングの暴力活動により24,200人の国内避難民がいます。
3.一般住民の安全な飲料水や衛生施設へのアクセスが制限されています。
4.情勢が不安定なため、公衆衛生システムおよび国際パートナーは、ハイチへの人的資源配分を制限しており、対応能力が低下しています。
5.ロジスティクスの問題や燃料へのアクセス不足、治安の悪さから物資の輸入が困難であり、感染発生地へのアクセスに課題があります。そのため、疫学的状況のタイムリーな評価は困難になっています。さらに、同じ理由で、医療施設から基準研究所への生物学的検体の輸送も妨げられる可能性があります。
 
地域レベルのリスクは、以下の理由により、中程度と評価されます。
 
2010年以降、コレラの確定症例は主にハイチから報告されており、次いでドミニカ共和国、キューバ、メキシコとなっています。
また、このハイチの属する地域の他の国でも散発的な輸入例が報告されています。しかし、他の国々ではコレラの発生を検知し、制御する能力がより高くなっています。隣国のドミニカ共和国は、コレラ患者が増加する可能性が最も高い国ですが、コレラの検出と制御を行う能力があります。
 
世界レベルでのリスクは低いと評価されました。 
WHOはハイチの疫学的状況を今後も継続して監視・評価していきます。

WHOからのアドバイス

WHOは、コレラ患者の適切かつタイムリーな症例管理、安全な飲料水と衛生設備へのアクセスの改善、医療施設における感染・予防・管理の改善を推奨しています。これらの対策に加え、感染の発生しているコミュニティにおける予防衛生習慣と食品の安全性を促進することが、コレラを制御する最も効果的な手段です。ターゲットを絞った公衆衛生コミュニケーションのためのメッセージは、活動を成功させるための重要な要素です。
 
経口コレラワクチン(OCV)は、コレラの発生を抑制するため、またコレラ高リスク地域での予防のために、水と衛生の改善と組み合わせて使用されるべきです。
 
ハイチにおけるコレラの再発生を考慮し、WHOは加盟国に対し、コレラの疑いのある症例を早期に発見し、適切な治療を行い、その拡大を防ぐために、コレラのサーベイランスを強化・維持するよう勧告しています。早期かつ適切な治療により、入院患者の致死率(CFR)は1%未満に制御可能です。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、ハイチへの渡航や貿易の制限を勧告していません。

出典

Cholera - Haiti
Disease Outbreak News 12 October 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON415