鳥インフルエンザA(H5N1)スペイン王国

Disease outbreak news  2022年11月3日

発生状況一覧

スペイン王国(以下「スペイン」という。)の公衆衛生当局は、9月20日に確認された家禽での発生に続き、同一の養鶏場で働く労働者2名から鳥インフルエンザA(H5N1)が検出されたことを報告しました。公衆衛生に影響を及ぼす可能性があることから、この養鶏場では、コントロール、予防、早期発見のための対策を含む多部門にわたる対応が開始されました。労働者たちから鳥インフルエンザA(H5N1)が検出されたのは、感染した家禽や汚染された環境にさらされたことが原因であると考えられます。この鳥インフルエンザ A(H5N1)ウイルスのヒトからヒトへの伝播は、現在のところ確認されていません。

発生の概要

2022年9月27日、スペイン公衆衛生省は、グアダラハラ(Guadalajara)県の養鶏場に勤務する者の鳥インフルエンザA(H5N1)感染をWHOに通知しました。この養鶏場では、9月20日に家禽の鳥インフルエンザA(H5N1)の発生が確認されていました。その後、9月23日に農場労働者全員に当たる12名から鼻咽頭のサンプルが採取され、9月27日にうち1名、19歳男性のサンプルから鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスが検出されました。彼は9月28日まで隔離され、2度目のRT-PCR検査で陰性と判定されました。9月28日、この患者の濃厚接触者1名からも検体が採取されましたが、RT-PCRで鳥インフルエンザが陰性であることが確認されました。
 
養鶏場での対応措置の後、10月13日に全労働者が再検査を実施しました。10月13日、同養鶏場にて個人防護具を着用し清掃・消毒などの管理措置に従事した27歳男性の労働者の鼻咽頭検体から鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスが検出されました。彼は当初、9月23日の第1回検査で陰性と判定されていました。彼は2回目の検体がRT-PCRで陰性と判定された10月22日まで隔離されました。彼の濃厚接触者2名が特定され、呼吸器検体で陰性と判定されました。
 
両者とも無症状で、これらの検体は、国立微生物学センターでRT-PCRを用いて検査されました。 

鳥インフルエンザの疫学

人獣共通感染症である鳥インフルエンザは、無症状または軽度の上気道感染(発熱や咳)から、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群、ショック、そして死に至るまで急速に進行する可能性があります。
 
鳥インフルエンザウイルスにヒトが感染するケースは、通常、感染した家禽(生死を問わず)や汚染された環境に直接または間接的に曝露された結果として起こります。
 
2003年から2022年10月21日までに、今回の2例を含む鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染例が世界21カ国から合計868例報告され、456名が死亡しています。ヨーロッパでは、これまでに2021年にイギリスから1例、2022年にスペインから2例の計3例の鳥インフルエンザA(H5N1)のヒトへの感染例が報告されています。

公衆衛生上の取組

連携と対応
農水省の「実践マニュアル」に基づき、養鶏場における管理、予防、早期発見などの多面的な対応が行われています。

サーベイランス
曝露した労働者およびその接触者に対する受動的・能動的サーベイランスを含むフォローアップ対応が開始されました。報告された症例を除き、感染が発生した養鶏場で勤務していた他のすべての人は、曝露の最後の日から7日間監視され、症状は発生しませんでした。

検査
ウイルスの特性解析、血清学的研究が進行中であす。両症例の検体は、2022年10月24日に、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国のロンドンにあるCrick Worldwide Influenza CentreのWHO協力センター(インフルエンザの参照と研究のための)に送付されました。

感染予防と管理
被害を受けた農場では、現場での鳥の処分、ウイルスを運ぶ可能性のある汚染物質の破棄、施設の清掃・消毒など、発生抑制に関する措置がとられています。屠殺作業に携わるすべての者は、個人用保護具を着用しました。

WHOによるリスク評価

鳥インフルエンザウイルスに感染した鳥類や、ウイルスに汚染された飛沫や環境にさらされた場合、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに感染する危険性があります。
 
鳥インフルエンザウイルスが家禽類に循環している場合は常に、感染した家禽類や汚染された環境にさらされることにより、散発的な感染や小規模なクラスターが発生するリスクが存在します。したがって、散発的なヒトの症例が発生することが予期されます。感染した家禽や他の鳥と密接に接触した個人から採取した鼻咽頭又は食道サンプルに鳥インフルエンザ A(H5) ウイルスが検出されることは、その個人が症状を呈しているかどうかに関わらず起こり得ます。良質の血清学的調査は、このような場合の感染と汚染を区別するのに役立ち、ヒトへの感染リスクをより適切に評価することを可能にするでしょう。 今回の事象では、ヒトからヒトへの感染は確認されませんでした。
 
スペインの養鶏場で発生した今回の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)では、ヒトと動物の両方の保健機関が公衆衛生対策を実施しました。入手可能な情報に基づき、WHOは、このウイルスがもたらす一般住民のリスクは低く、職業的に曝露された人については、低から中程度であると評価しています。

WHOからの助言

今回の2件の鳥インフルエンザA(H5N1)患者の報告は、鳥インフルエンザに対する公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変えるものではありません。
 
WHOは、ヒトと動物の接点における鳥インフルエンザウイルスに関して、入国地での特別な旅行者スクリーニングや制限を助言するものではありません。
 
鳥インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは引き続き、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある新たなまたは既知の鳥インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視するためのグローバルサーベイランスと、リスク評価のためのタイムリーなウイルス情報の共有が重要であることを強調します。
 
鳥インフルエンザウイルスが地域で循環している場合、病気の鳥のサンプリング、感染した鳥や卵や羽毛の処分、汚染した施設の清掃などのリスクの高い作業に携わる労働者は、適切な個人防護具(PPE)の使用についての訓練を受け、実際に使用をする必要があります。これらの作業に携わるすべての人は、家禽に最後に接触した日または施設等の環境にいた日から7日間、地域の保健当局に登録され、注意深く監視されるべきです。
 
変異ウイルスを含む、パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確認された場合又は疑われた場合、動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡などの徹底した疫学調査を行うべきで、これらは確定診断の結果を待っている間に行ってもよいです。疫学的調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆する通常とは異なる呼吸器系症状の早期発見が含まれ、患者が発生した時間と場所から採取した臨床サンプルは、さらなる特性評価のために検査されWHO協力センターへ送られるべきものです。
 
現在のところ、鳥インフルエンザから人間を守るためのワクチンはありません。WHO は、再流行の理論的リスクを低減するために、家禽や鳥を扱う仕事に従事するすべての人が季節性インフルエンザの予防接種を受けることを推奨しています。
 
動物鳥インフルエンザの発生が確認されている国への旅行者は、農場、生きた動物市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある場所への立ち入り、動物の糞便で汚染されていると思われる表面への接触を避ける必要があります。一般的な予防策としては、定期的な手洗い、食品の安全性と食品衛生に関する適切な習慣が挙げられます。感染地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性があります。この場合、このウイルスはヒトの間で容易に感染する能力を獲得していないため、さらなる地域レベルの広がりは考えにくいとされています。
 
新型インフルエンザによるすべてのヒトへの感染は、国際保健規則(IHR)の下で通知義務があり、IHR(2005)の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによる最新のヒトへの感染について、検査所で確認された事例を直ちにWHOに通知することが義務付けられています。この報告には、疾病の証拠は必要ありません。
 

出典

Avian Influenza A (H5N1) - Spain

Disease Outbreak News 3 November 2022

https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON420