コレラ マラウィ共和国

Disease outbreak news  2022年11月7日

発生状況一覧

マラウイ共和国(以下「マラウイ」という。)ではコレラが流行しており、雨季になると季節的な流行が報告されています。1998年以来、マラウイではコレラ患者が報告されており、特に低地で平坦で、雨季に洪水が発生しやすい南部地域では、感染者の罹患率と死亡率が顕著に増加しています。
 
2022年3月に始まった今回の大流行は、マラウイの29地区のうち27地区で発生しており、過去10年間で報告された同国の大流行としては最大規模となっています。この流行は、洪水を引き起こした熱帯低気圧Ana(2022年1月)とサイクロンGombe(2022年3月)の影響で、抵抗力が弱く、安全な水、衛生設備、衛生的な上下水道にアクセスできない人々が避難している中で起こっているものです。
 

発生の概要

 2022年3月2日にマチンガ(Machinga) 地区の病院でコレラ患者が検査で確認された後、3月3日にマラウイ公衆衛生省はコレラの発生をWHOに通知しました。
 
2022年3月3日から10月31日の間に、マラウイの29地区のうち27地区から183人の死者を含む累積6,056人の患者が報告され(全体の致死率は3.0%)、10月31日現在23地区で現在も伝播が続いています。報告された症例の79%かつ死者の68%が5つの地区で占められています。カタベイ(Nkhata Bay)で患者数1,128、死者数31、コタコタ(Nkhotakota)で患者数811、死者数40、ルンピ(Rumphi)で患者数783、死者数13、カロンガ(Karonga)で患者数683、死者数14、およびブランタイヤ(Blantyre)で患者数650、死者数26となっています。
 
この流行はマラウイ南部で発生し、ヌサンジェ(Nsanje)地区とマチンガ(Machinga) 地区で感染者が報告されています。現在、マラウイで最も感染者が多いのは北部の地区です。最も影響を受けている年齢層は21~30歳で、男性に偏りがあります。
 

図1. 2022年1月1日から10月31日までのマラウイにおける月別のコレラ疑い患者数および確定患者数(6,056人)と死亡者数(183人)
出典 マラウイ保健人口省
 

図2. マラウイにおけるコレラ確定例および疑い例(n=6056)の地理的分布(2022年1月1日~10月31日)
出典 マラウイ保健人口省
 

図3. マラウイにおけるコレラの確定例および疑い例(n=6056)の年齢層・性別ごとの分布(2022年1月1日~10月31日)。
出典 マラウイ保健人口省
 

コレラの疫学

コレラは、汚染された水や食品に含まれるビブリオコレラ菌を摂取することで発症する急性の腸管感染症です。主に衛生環境の不備や安全な飲料水へのアクセス不足が原因となっています。コレラは非常に悪性の疾患で、重度の急性水様性下痢症を引き起こし、高い罹患率と死亡率をもたらします。また、曝露の頻度、曝露された人々、環境に応じて、急速に広がる可能性があります。コレラは子供と大人の両方に感染し、治療を受けなければ数時間で死に至ることもあります。
 
潜伏期間は、汚染された食物または水の摂取後12時間から5日間です。コレラ菌に感染しても、ほとんどの人は何の症状も現れませんが、感染後1~10日間は糞便中に菌が存在し、環境中に排出されるため、他の人に感染する可能性があります。症状が出る人の大半は軽度または中等度の症状ですが、一部では重度の脱水症状を伴う急性の水様性下痢・嘔吐を発症します。コレラは簡単に治療できる病気です。ほとんどの人は、経口補水液(以下「ORS」という。)の迅速な投与により、治療をすることができます。
 
人道的危機の結果、水と衛生設備の崩壊や、不十分で過密なキャンプへの住民の移動が生じると、コレラ菌が存在する場合、または持ち込まれた場合、コレラ感染の危険性が高まります。
 
コレラの発生を抑え、死者を減らすには、監視、水・衛生・保健、社会動員、治療、経口コレラワクチンの組み合わせを含む多部門のアプローチが不可欠です。

公衆衛生上の取組

2022年3月の発生宣言以降、保健省、WHO、その他のパートナーにより緊急対応活動が実施されています。
 
調整と対応
今回の流行を管理するために、国家コレラ対応計画が起草されました。と他のパートナーは、この計画に沿った様々な活動の実施を支援しています。
各保健セクターやパートナーと協力して対応を調整するために、国および地区レベルの緊急オペレーションセンターが運用されています。
 
 サーベイランス
国家緊急対応チームが流行発生地区に配備されました。
被災地区でのサーベイランスと症例管理を強化するため、緊急スタッフが配備され、追加スタッフが雇用されました。
コレラが疑われる患者の積極的な捜索は、すべての流行発生地区のコミュニティで行われています。
 
保健システムの強化
コレラキットや経口補水塩、輸液、抗菌薬、迅速診断検査キット、個人防護具、テント、コレラ用ベッドを含むその他の物資が、被災地区にから提供されました。
コレラの症例管理と検査所での検査確定に必要な物資は、医療施設と地区の検査所に配布されていますが、さらなる物資が必要です。
症例管理は、治療施設の設立と機器の提供を通じて強化されています。
治療体制は流行発生地区で確立され、迅速な紹介を促進するために民間施設が関与しています。
モザンビークとザンビアの保健当局と国境を越えた会議が開かれています。
 
反応性ワクチン接種キャンペーン
流行対策の一環として、年月日から日にかけて、バラカ、ブランタイヤ、チクワワ、ンサンジェ、マンゴチ、ムランジェ、マチンガ、ファロンベの地区で、歳以上を対象に、経口コレラワクチン()を用いた予防接種キャンペーンが実施されました。累積カバー率は%を達成しましたが、ブランタイヤ地区では%でした。
ネノ地区では、年月に回のキャンペーンが実施され、それぞれのラウンドで%、%のカバー率が達成されました。
またマラウイは、ワクチン供給に関する国際調整グループ()に経口コレラワクチンワクチンの提供を申請し、発生が続いている地域で使用するための万回分を獲得しています。反応性キャンペーンに向けた準備が開始されました。

WHOによるリスク評価

マラウイではコレラが流行しており、雨季になると季節的な大発生が起こります。最初の大きな流行は1998年に発生し、南部地域で広く流行し、25,000人の患者が報告されました。2001年10月から2002年4月にかけて発生した最大の流行では、29地区のうち26地区が流行地となり、33,546人の感染者と968人の死亡者(CFR 3%)が報告されました。より最近の流行は、2019年から2020年にかけて発生し、合計26人の患者と1人の死者が出ました。
 
2022年に入ってからは、27地区でコレラ患者が報告されています。2022年7月以降はサイクロンの影響を受けた地域を含む南部に限定されていましたが、北部に感染が拡大し、患者数が急増しました。マラウイでは通常乾季には、コレラの感染が少ないか、あるいは全くないにもかかわらず、現在は乾季にもかかわらず感染者数の増加が報告されています。11月の雨季を前に、マラウイではさらなる感染拡大のおそれがあります。
 
今後も、患者数のさらなる増加や国際的な感染拡大のリスクがあります。今回の流行の初期には、国境を越えてモザンビークで感染者が確認されたことが報告されています。9月下旬、マラウイと国境を接するモザンビークのラゴ(Lago)地区(マラウイ湖を通じて)でコレラの発生が宣言されました。現在、マラウイで最も被害が大きいのは北部で、その一部はタンザニアやザンビアとの国境に面しています。この地域では、国境を越えた移動が多く、さらにその先の国境を越えた国々への移動が存在します。今回のコレラの発生で、国境を越えてコレラが広がったことを考えると、WHOは、国や地域レベルで、この病気がさらに広がるリスクが非常に高いと考えています。

WHOからの助言

WHOは、コレラ患者の適切かつタイムリーな症例管理、安全な飲料水と衛生設備へのアクセスの改善、医療施設における感染・予防・管理の改善を推奨しています。これらの対策に加え、感染したコミュニティにおける予防衛生習慣と食品の安全性を促進することが、コレラを制御する最も効果的な手段です。ターゲットを絞った公衆衛生コミュニケーションメッセージは、キャンペーンを成功させるための重要な要素です。
 
経口コレラワクチンは、コレラの発生を抑制するために、またコレラのリスクが高い対象地域での予防のために、水と衛生の改善と合わせて使用されるべきです。
 
WHOは加盟国に対し、特にコミュニティレベルでコレラのサーベイランスを強化・維持し、疑わしい症例を早期に発見し、適切な治療を提供することで拡大を防止するよう勧告しています。早期かつ適切な治療により、入院患者のCFRは1%未満に制御できます。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、マラウイへの渡航や貿易の制限を推奨していません。しかし、今回の流行は国境を越えた移動が多い国境地帯で起こっているため、WHOはマラウイとその近隣諸国に対し、国境を越えた広がりを迅速に封じ込めるために、協力と定期的な情報共有をするよう促しています。

出典

Cholera - Malawi
Disease Outbreak News 7 November 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON419