デング熱ー東ティモール民主共和国

Disease outbreak news   2022年2月4日

東ティモール民主共和国(以下「東ティモール」という。)では、2021年後半からデング熱の患者が急増し、例年にない高い水準で報告されています。2020年の報告数は1,451件、死亡者数は10人(症例致死率(以下「CFR」という。)が 0.7%。)、2021年は901件、死亡者数は11人(CFRが1.2%。)となっています。2022年1月だけで1,286例が報告され、そのうち790例(報告の61.4%)が14歳以下の小児、142例が重症デング熱患者、20例が死亡(CFRが1.6%。)となっています。来院した症例の大半は、臨床症状に基づいて診断されたものでした。東ティモールの首都を含むディリ(Dili)県(857例が報告症例の66.6%を占める。)が最も多く、次いでマナトゥトゥ(Manatuto)県(92例が報告症例の7.2%を占める。)でした。
 
東ティモールでは通年でデング熱が流行しており、1年で最も暑い12月から4月にかけて感染のピークが報告されています(図1)。現在進行中のモンスーンの季節は、蚊の生息密度を高め、この先数箇月の間にデング熱のさらなる感染拡大の可能性があると考えられます。過去、2005年から2012年にかけての流行では、デングウイルス1型(DENV-1)及びデングウイルス3型(DENV-3)の2つの血清型が共流行したと報告されています。2012年以降、流行している血清型に関する情報は得られていません。
 
テキスト ボックス: 報告数グラフ, 折れ線グラフ

自動的に生成された説明
(図1)2016年1月1から2022年1月31日までの東ティモールにおけるデング熱報告数
出典:WHO東ティモール民主共和国事務所 WHO東南アジア地域事務局

公衆衛生上の取り組み

保健省は、以下のような対応活動を行っています。

最優先事項として臨床管理の強化をあげ、WHOは政府の実施する医療従事者の臨床管理に関する研修を支援しました。今後、更に一連の臨床管理トレーニングが実施される予定です。

WHOの支援を受け、臨床管理アルゴリズムを含むデング熱管理ガイドラインを起草しています。

デング熱の予防及びホームケアに関する情報を広めるため、全国的な情報・教育・コミュニケーションキャンペーンを実施しています。

WHOは、地域社会において60人の公衆衛生検査官が蚊媒介対策及び発生源の削減を行うことを支援しました。その中には、蚊の幼虫駆除剤の配布、住宅地でのマラチオン(蚊の成虫駆除剤)の燻蒸、コミュニティやボランティアを動員しての貯水容器や環境の清掃が含まれます。

WHOによるリスク評価

デング熱は蚊を媒介とするウイルス感染症で、4種類の血清型からなるデングウイルス(DENV 1、DENV 2、DENV 3及びDENV 4)によって引き起こされます。ネッタイシマカとヒトスジシマカは、都市部や都市近郊の環境に広く適応した媒介蚊です。ある血清型に感染すると、同系統の血清型には長期間の免疫が得られますが、他の血清型には免疫は得られません。連続して感染すると、重症デング熱のリスクが高くなります。
 
東ティモールでデング熱が発生することは珍しいことではありませんが、今回のアウトブレイクでデング熱の患者数及び入院率が日々著しく増加していることは異例です。2021年12月1日から2022年1月31日までの患者報告数は、2016年以降の例年の同時期と比較して大幅に増加しています。東ティモールではデング熱が流行しているため、国民は迅速かつ適切な治療を受けられない場合、二次感染や重篤な合併症の可能性があります。
 
デング熱に対する特異的な治療法はありません。デングウイルス感染を早期に発見し、適切な臨床管理を行うことで、デング熱患者の重症度や死亡率を下げることができます。国内の限られた医療体制、医療へのアクセスの悪さ、新型コロナウイルス感染症やその他疾病により医療体制が逼迫していることを考えると、深刻な健康への影響や重篤で致命的なデング熱患者の増加のリスクが高いです。新型コロナウイルスとデングウイルスの同時感染も予想されます。
 
現在は、新型コロナウイルス感染症に対応した厳格な海外渡航制限のため、国境を越えた人の移動は限定的です。しかし、東ティモールはデング熱が風土病として存在しているインドネシアと陸続きで国境に接しており、主要な媒介蚊が両国に存在するため、媒介蚊や無症状の渡航者による国境を越えた拡大を否定することはできません。
 

WHOからのアドバイス

この大流行により、疾病対応のための負荷と季節的パターンをよりよく評価するため、ベクターの監視の改善、検出精度を上げる検査能力の強化、病院の病床数の増加、症例管理に関する医療従事者の感化、急性熱性疾患に係るサーベイランスの改善の必要性が浮き彫りになりました。デングウィルスの系統的検査と亜型分類のための指標となる施設(sentinel site)の確立は、流行地でのデング熱の検出と対応に有用です。

デング熱の予防及び制御は、効果的な媒介蚊の制御に依拠します。WHOは、Aedes亜種を含む蚊の幼虫と成虫を駆除するIntegrated Vector management(以下「IVM」という。)と呼ばれる戦略的アプローチを推進しています。IVMの強化には、蚊の潜在的な繁殖地の除去、媒介蚊個体数の減少、個人曝露の最小化(感染制御、発生源の削減及び殺虫剤使用を指す。)が含まれます。媒介蚊対策は、人と媒介蚊が接触する全ての場所(例えば、住居、職場、学校、病院)に焦点を当てる必要があります。媒介蚊対策には、貯水容器に適した幼虫や成虫に対する殺虫剤を利用することと同様に、家庭用貯水容器に対する週単位での排水、洗浄、密閉及び塩素消毒が含まれます。また、地域団体や学生、宗教団体を巻き込んだその地域主導の清掃活動も推奨されます。さらに、緊急対策として殺虫剤の空間散布を行うことも有効です。

デング熱は人から人へ感染することはありませんが、蚊がデングウイルスに感染した人から吸血することでウイルスを保有する可能性があります。そのため、感染した蚊が家庭や近隣でデング熱を広げ、感染者の集団発生につながる可能性があります。屋外では、露出した皮膚や衣服に忌避剤(虫除け剤)を塗るとよいでしょう。屋内でも、忌避剤(虫除け剤)、家庭用殺虫剤スプレー、蚊取り線香の使用が推奨されています。また、窓やドアに網戸を付けたり、エアコンを使用することで、刺傷の防止も可能です。

WHOは、この情報に基づき、東ティモールへの一般的な渡航や貿易制限を適用することは推奨していません。
 

出典

Disease outbreak news: Dengue-Timor-Leste
04 February, 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/dengue---timor-leste