野生型ポリオウイルス1型(WPV1)-マラウイ共和国

Disease outbreak news   2022年3月3日

2022年2月17日、WHOは、当初2022年1月31日にポリオウイルス2型(PV2)の症例として国際保健規則(IHR)を通じて通知されたマラウイ共和国(以下「マラウイ」という。)での症例の最新情報として、野生型ポリオウイルス1型(WPV1)の検出に関する情報を受け取りました。症例は、中部地方リロングウェ(Lilongwe)地区中央選挙区の5歳未満の小児で、2021年11月19日に急性弛緩性麻痺(AFP)を発症しました。11月26日と27日に診断のために2つの便検体が採取され、2022年1月14日に南アフリカの国立感染症研究所(以下「NICD」という。)にある地域基準検査所で受領された後、米国疾病管理予防センター(以下「US CDC」という。)に転送されました。
 
2月2日にNICDおよび、2月12日にUS CDCが実施したウイルスのシークエンスにより、本症例が野生型ポリオウイルス1型(以下「WPV1」という。)であることが確認されました。解析の結果、マラウイで現在分離されているWPV1は、2020年にパキスタンのシンド(Sindh)州で検出されたウイルスの配列と遺伝的に関連していることが判明しました。
 
アフリカは、2020年8月にこの地域からすべての野生型ポリオを根絶した後、土着の野生型ポリオ撲滅宣言が出されましたが、マラウイで臨床的に確認された野生型ポリオウイルスの患者が報告されたのは1992年が最後でした。

公衆衛生上の取り組み

・WHOを含む世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)のパートナーは、マラウイ保健当局がリスク評価を行い、補足的な予防接種を含む発生時対応の実施を支援しています。マラウイと近隣諸国では、潜在的な症例を発見するための監視体制が敷かれ、拡大されています。
・世界ポリオ撲滅推進計画の緊急対応チームがマラウイに派遣され、調整、監視、データ管理、コミュニケーション、計画の運営を支援しています。パートナー団体もチームを派遣し、緊急活動や革新的なワクチン接種キャンペーンの解決策を支援しています。

WHOによるリスク評価

ポリオは、神経系に侵入したウイルスによって引き起こされる感染性の高い疾患で、永久麻痺(感染者の約200人に1人)または死亡(麻痺者の約2~10%)を引き起こす可能性があるとされています。ウイルスは、主に糞便-経口経路で人から人へ、または頻度は低いですが、例えば、汚染された水や食べ物などの共通の経路を介して感染します。
 
3種類の野生型ポリオウイルスのうち2種類(WPV2およびWPV3)は根絶され、WPV1の根絶に向けて世界的な努力が続けられています。現在、野生型ポリオウイルスはパキスタンとアフガニスタンの2カ国で流行しています。
この2カ国以外でWPV1が検出された事実が意味することは、世界のすべての地域においてWPV1が根絶されるまで、本疾患が国際的に広がるリスクが継続することを示しています。
 
マラウイにおける国家レベルのリスクは、高い人口密度、多くの地区での低いワクチン接種率(80%未満)、6年以上ワクチンのキャッチアップキャンペーンが欠如し、感染しやすい人口の増加、最適とは言えない急性弛緩性麻痺のサーベイランス、環境サーベイランスの欠如などにより、症例把握能力に影響を与えている可能性があることから、高いと評価されます。さらに、マラウイでは2016年4月25日に3価経口ポリオワクチン(以下、「OPV」という。)から2価OPVへの切り替えが完了し、2018年12月14日に不活化ポリオワクチン(以下、「IPV」という。)が導入されました。直近では2013年に2型ポリオワクチンによる補足的予防接種接種活動(SIA)が実施されました。
 
さらに現在、同国は熱帯性暴風雨「アナ(Ana)」の影響を受けており、ポリオの補足的予防接種活動やサーベイランス活動に支障をきたし、同国の対応能力に影響を及ぼす可能性があります。マラウイの熱帯性暴風雨「アナ」に関する国連の最新情報によると、2月11日現在、19地区で995,072人が被災し、206人が負傷、46人が死亡、18人が未だ行方不明と報告されています。国連とパートナーは、救命のための緊急洪水対応を支援しています。
 
モザンビークとマラウイの間で人口の移動が激しいこと、近隣諸国でのワクチン接種率が低いこと、急性弛緩性麻痺サーベイランス活動が不十分であることから、地域レベルのリスクは中程度と評価されています。
 
世界レベルのリスクは、既存の対応能力があること、また、世界のポリオワクチン接種率が中程度に高いと推定されることから、低いと評価されます。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオ感染国・地域と頻繁に移動・接触する国は、新たなポリオウイルスの輸入症例を迅速に発見し、迅速な対応を行うために、 急性弛緩性麻痺症例のサーベイランスを強化することが重要です。
 
国際保健規約(2005年)(IHR)に基づき、各国は、ポリオウイルスが分離された場合、それが急性弛緩性麻痺症例、急性弛緩性麻痺接触者、環境サーベイランスのいずれからの分離であっても、調査の実施と報告をしなければならないことになっています。現地の保健当局は、ポリオウィルスの分離が報告されてから24時間以内に調査を開始する必要があります。
 
以前は流行のなかった地域でポリオウイルスが分離された場合、国家機関が対応の種類と規模を決定するべき事象・流行であると判断され、直ちにリスク評価を完了する必要があります。初期調査とリスク評価の後、国家当局は状況分析とリスク評価を更新するための詳細な情報(検査機関における調査の結果、または感染した地域社会に関する詳細な情報など)を引き続き収集する必要があります。近隣の国・地域もWHO地域事務局の支援を受けて、リスクアセスメントを更新し続けなければなりません。
 
また、国や地域は、新たなポリオウイルスが侵入した場合の影響を最小限に抑えるため、国レベル、地域レベルで定期予防接種率を体系的に高く(90%以上)維持する必要があります。WHOは、検査機関での解析結果が出てから8週間以内に、2回の質の高い大規模なワクチン接種キャンペーン(90%以上の子どもにワクチン接種)を完了させることを推奨しています。新しいポリオウイルスが検出されない場合でも、感染を確実に阻止するために、モニタリングによって特定の保健地区や地域で子どもの接種が見送られていたことが判明した場合には、追加措置としてワクチン接種実施が必要となる場合があります。コミュニケーションと社会動員活動は、受動的ポリオ予防接種キャンペーンと一体として実施されるべきです。
 
WHOは、今回の事象について入手可能な情報に基づき、マラウイへの渡航や貿易を制限することは推奨していません。WHOの「International Travel and Health」に拠ると、ポリオ感染地域への渡航者は全員、ポリオの予防接種を完了することが推奨されています。感染地域の居住者(および4週間以上の滞在者)は、渡航の4週間から12ヶ月以内にOPVまたはIPVの追加接種を受ける必要があります。
 
国際保健規約(2005年)に基づき招集された緊急委員会の助言により、ポリオウィルスの国際的な広がりを抑えるための努力は、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(以下「PHEIC」という)であることに変わりありません。 ポリオウィルスの感染によって影響を受けた国は、一時的な勧告の対象となります。ポリオウイルスに感染した国は、PHEICの下で出された臨時勧告を遵守するために、その発生を国家公衆衛生上の緊急事態として宣言し、すべての海外旅行者へのポリオワクチンの接種の検討と国際予防接種証明書所持をさせ、出発地において適切なポリオワクチン接種の証明がない居住者の海外渡航を制限し、渡航者のワクチン接種率を大幅に引き上げる国境を越えた努力を強化し、定期予防接種率を引き上げる努力を強化する必要があります。

出典

Disease outbreak news: Wild poliovirus type 1 (WPV1) – Malawi
3 March 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/wild-poliovirus-type-1-(WPV1)-malawi