黄熱-ケニア共和国

Disease outbreak news  2022年3月25日

発生状況一覧

2022年1月12日から3月15日の間に、ケニア共和国(以下、「ケニア」という。)中央部のイシオロ(Isiolo)郡から、死者6人を含む計53人の黄熱病の疑い患者が報告されています。RT-PCRで2検体、ELISA法で6検体が陽性となり、黄熱病の可能性が高いことが示されました。ケニアで最後に黄熱病の発生が報告されたのは2011年です。WHOは、国および地域レベルでの公衆衛生上のリスクは高いと評価しています。

発生状況概要

2022年3月4日、ケニア保健省(MoH)は、ケニア中央部のイシオロ郡(首都ナイロビの北約270km)で黄熱病の発生を宣言しました。3月15日現在、2022年1月12日から3月15日までの間にイシオロ郡から合計53人の黄熱病疑い患者が報告されており、そのうち6人が死亡しています(致死率:11.3%)(図1)。患者の大半は男性(47例:88.7%)で、患者の平均年齢は約28歳(範囲:3~78歳)です。

図1. 黄熱病患者の症状発現日および転帰別疫学曲線、ケニア、イシオロ郡、2022年1月1日~3月15日(n=53)

疑い患者は、発熱、黄疸、筋肉痛や関節痛などの症状を呈しています。全体として、イシオロ郡内の11の区が影響を受けており、その中でもチャリ(Chari)(21例で全体の39.6%)、チェラブ(Cherab)(14例で全体の26.4%)、ガーバ・トゥラ(Garba Tulla)(5例で全体の9.4%)の3つの区で最も多くの患者が報告されています(図2)。
 
図2. ケニア・イシオロ郡で2022年1月12日から3月15日までに報告された区ごとの黄熱病患者数(n=53)
 
3月15日の時点で、34人の疑い例(64%)からサンプルが集められ、国立研究所-ケニア医学研究所-で逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)と酵素結合免疫吸着法(ELISA)による黄熱病の検査が行われました。RT-PCRで2検体(6%)、ELISAで6検体(18%)のIgM抗体が陽性であることが確認されました。2022年3月8日、サンプルは黄熱病病地域基準検査所-ウガンダウイルス研究所(UVRI)-に発送され、確認検査が行われました。この報告書を書いている時点では、確認結果はまだ保留されており、検査されたサンプルの中にマラリア陽性(n=5、全体の15%)が存在するため、現在の検査結果には不確実性があります。
 
報告された患者の予防接種状況についての情報はありませんが、イシオロとその周辺の郡では黄熱病の予防接種キャンペーンを行った記録はありません。ケニアでは大規模な予防接種キャンペーンは行われておらず、最もリスクが高いとされる北西部の4郡(イシオロとは直接接していない)のみ、国の定期予防接種スケジュール(9ヶ月児対象)に黄熱病の予防接種が組み込まれています。WHO-UNICEFによると、国レベルでの定期予防接種のカバー率は、対象人口の7%と推定されています。これは、集団免疫力を高めるために推奨されている80%の人口カバー率をはるかに下回っています。

黄熱病の疫学

黄熱病は、感染した蚊(Aedes属、Haemogogus属など)に刺されることで人に感染するアルボウイルスによる、ワクチンで予防可能な流行性疾患です。
 
アフリカ(34カ国)、中南米(13カ国)の47カ国が黄熱病の流行国、または流行地域を有しています。2021年9月以降、WHOアフリカ地域の9カ国(カメルーン、チャド、中央アフリカ共和国、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナ、ニジェール、ナイジェリア、コンゴ共和国)において、黄熱病のリスクが高く、黄熱病の感染と発生の歴史がある地域で、ヒトにおける検査確定例が報告されました。これらの発生は、アフリカの西および中央地域の広い地域で発生しています。これらの報告は、黄熱ウイルスの再流行と感染の激化を示唆しています。過去に大規模な予防接種キャンペーンを実施した地域も含まれていますが、定期接種による集団免疫の維持ができていないことおよび/または人口移動(予防接種歴のない新規移住者等)のために、免疫のギャップが持続し、拡大している状態です。

公衆衛生上の取り組み

政府は、発生を管理するために国家インシデント管理機構を導入し、対応計画を策定しました。イシオロと近隣の郡に迅速対応チームを配備し、発生の範囲を同定し、リスクのある人々を特定し、リスク評価を行い、リスクコミュニケーションとコミュニティ参加活動を開始し、統合的な媒介蚊制御策を実施しました。
 
政府とWHOは、パートナー(ユニセフ、食糧農業機関、Amref Health Africa、ケニア赤十字、Living Goods、国境なき医師団、米国疾病対策予防センター、ワールドビジョン、アクションエイド)とともに、対応活動を支援するために資源を動員しました。この中には、イシオロでの流行時対策黄熱ワクチン接種活動と、患者が出ているか差し迫ったリスクがあると認められた他の県への拡大接種に関する国際調整グループへの要請案が含まれています。

WHOのリスク評価

ケニアは黄熱病の流行国であり、黄熱病撲滅戦略(EYE)において高リスク国に分類されています。過去には、1992年、1993年、1995年、2011年に同国西部(リフトバレー地帯:Rift Valley Zone)での発生が報告されています。また、2016年にはアンゴラからの輸症例2件が報告されています。ケニアでは、黄熱病の定期予防接種の推定接種率が対象者の間で非常に低く(7%)、対象地域も西部の4郡(バリンゴ(Baringo)、エルゲヨ・マラクウェト(Elgeyo Marakwet)、西ポコット(West Pokot)、トルカナ(Turkana))に限られているため、黄熱病の流行拡大がリスクとなります。
 
首都ナイロビから北へ約270kmの牧畜・僻地であるイシオロ(Isiolo)郡では、これまで黄熱病が報告されたことはありませんでした。ケニア国家統計局によると、2019年のイシオロ郡の総人口は268,002人と推定されています。イシオロはケニアの中央部に位置し、国境に接してはいませんが、人の移動が頻繁に起こる特徴があります。ガーバ・トゥラ区は、南ワジル(South Wajir)郡や西ガリッサ(Western Garissa)郡と群境を接しており、現在の干ばつ状況により、大規模な牧畜民の移動が発生しています。また、近隣のソマリアからケニアのガリッサ郡への大規模な難民の移動もあります。イシオロ近郊には国立公園があり、多数の労働者が集まる非公式の採掘活動の存在や、ヒト以外の霊長類の存在も指摘されており、他の地域への拡散の危険性が潜在しています。
 
以上の状況を考慮し、リスクは国・地域レベルで高く、世界レベルでは低いと評価されています。
 
WHOは引き続き疫学的状況を監視し、最新の情報に基づきリスク評価を見直します。

WHOからのアドバイス

サーベイランス: WHOは、近隣諸国で患者が発生する可能性があるため、国境を越えた連携と情報共有を積極的に行い、状況を注意深く監視することを推奨しています。疑わしい症例の調査や検査によるサーベイランスの強化が推奨されます。
 
ワクチン接種 :ワクチン接種は黄熱病の予防と制御のための主要な手段です。リスク分析と住民を守るための予防接種活動の範囲を見直すことで、将来の大発生のリスクを回避することができます。
 
媒介蚊コントロール:都市部では、的を絞った媒介蚊コントロール対策も感染を阻止するのに有効です。一般的な予防策として、WHOは忌避剤や殺虫剤処理された蚊帳の使用など、蚊に刺されないようにすることを推奨しています。黄熱ウイルスの感染リスクが最も高いのは、日中と夕方です。
 
リスクコミュニケーション:WHOは加盟国に対し、旅行者にリスクと、予防接種を含む予防策について十分な情報を提供するために必要なすべての行動をとるよう奨励しています。旅行者には黄熱病の症状や兆候を理解してもらい、黄熱病の感染を示唆する症状や兆候がある場合は、速やかに医師の診察を受けるよう指導する必要があります。ウイルス血症の帰国者は、媒介蚊が存在する地域で黄熱病の地域的な感染サイクルを確立するリスクとなる可能性があります。
 
国際的な旅行と貿易:WHOはケニアへの旅行や貿易の制限を適用しないよう勧告しています。黄熱ワクチンは、ケニアに入国する1歳以上の旅行者に国家機関によって義務付けられており、黄熱ワクチンは月齢9ヶ月以上の旅行者には、旅程が次の地域に限定されている場合を除き、WHOによって推奨されています。:北東部地域全域、沿岸州のキリフィ(Kilifi) 郡、クワレ(Kwale) 郡、ラム(Lamu) 郡、マリンディ(Malindi)、タナ・リバー(Tanariver) 郡、ナイロビ(Nairobi)とモンバサ(Mombasa)の都市部。
 
国際保健規則 (IHR)(2005)第3版に基づき、黄熱ワクチン接種証明書は接種後10日目から有効となり、その有効期間は接種者の生涯にわたります。WHOが承認した黄熱ワクチンは、1回の接種で黄熱病に対する持続的な免疫と生涯の予防を与えるのに十分です。追加接種は必要なく、入国条件として海外渡航者に追加接種が要求されることはありません。

出典

Yellow Fever – Kenya
Disease Outbreak News 25 March 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/yellow-fever-kenya