伝播型ワクチン由来ポリオウイルス3型-イスラエル国

Disease outbreak news  2022年4月15日

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WHOは2022年3月7日、エルサレム(Jerusalem)市のワクチン未接種児から伝播型ワクチン由来ポリオウイルス3型(以下、「cVDPV3」という。)が検出されたことの通知を受けました。cVDPV3の由来と伝播範囲を特定するための調査(環境学的、疫学的、ウイルス学的な調査を含む)が進行中です。4月15日現在、最初の症例(指標例)と6人の無症状児を含む合計7人のVDPV3陽性が確認されています。緊急対応として、エルサレムでは不活化ポリオワクチン(IPV)による予防接種活動とキャッチアップ接種が開始され、2022年4月4日からエルサレム地区で二価経口ポリオワクチン(以下、「bOPV」という。)キャンペーンが始まり、4月13日には対象が全国に拡大されました。同国の高い予防接種率と強固な監視体制を考慮し、国内での感染拡大のリスクは「中程度」と考えられます。

症例の解説

2022年3月7日、国際保健規則(IHR)のイスラエルのナショナルフォーカルポイント(NFP)は、同国内でcVDPV3が検出されたことをWHOに通知しました。この通知によると、cVDPV3ウイルスは、エルサレム市の3歳9カ月のワクチン未接種の小児の急性弛緩性麻痺(AFP)症例から分離されました。この症例は、2022年2月17日に麻痺を発症しました。分離されたウイルスは、Sabin 3(ワクチン株)から17塩基の変化があり、2021年9月から2022年1月の間に採取されたエルサレムおよびベツレヘム(Bethlehem)市の環境サンプルから過去に検出されたVDPV3群と遺伝的に関連しています。これらのワクチン由来ポリオウイルス分離株は、これまで曖昧なものとして分類されていましたが、今回、伝播型として再分類されました。
 
4月15日現在、指標例と6人の無症状児を含む合計7人のVDPV3陽性例が確認されています。この7人のうち、ポリオの予防接種が不完全だったのは1人で、他の6人は未接種でした。
 
また、検査機関内における分子生物学的手法によりVDPV3が検出された小児がさらに2名いました。さらなる確認が進行中です。
 
国際保健規則のイスラエルにおけるナショナルフォーカルポイントが提供するイスラエルの定期予防接種の推定値によると、2020年のイスラエルにおける不活化ポリオワクチン(IPV)3回接種と経口ポリオワクチン(OPV)1回接種の接種率は、それぞれ97.6%と88.3%と推定されました。

ポリオの疫学

ポリオ(急性灰白髄炎(Poliomyelitis))は、主に5歳以下の子どもがかかる感染力の強いウイルス性の病気です。ウイルスは人から人へ感染し、主に糞便-経口経路、または頻度は低いですが、共通の媒体(汚染された水や食べ物など)を介して広がり、腸内で増殖し、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。
 
潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の幅があります。ウイルスは口から体内に入り、腸内で増殖します。 その後、神経系に侵入します。感染者の90%は無症状か軽い症状で、病気であることに気づかないことが多いようです。有症状の場合、初期症状として発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐、肩こり、四肢の痛みなどがあります。これらの症状は通常2~10日間続き、ほぼ全例で完治します。 しかし、残りの10%の症例では、このウイルスによって、通常は足の麻痺が起こり、ほとんどの場合、永久的なものとなります。 麻痺は、感染後数時間のうちに急速に発生することもあります。 麻痺を起こした患者のうち、5-10%は呼吸筋が動かなくなり死亡します。
 
ウイルスは、感染者(通常は子供)の排泄物を通じて排出され、特に衛生環境の悪い地域では、急速に広がる可能性があります。
 
ポリオの治療法はなく、予防接種によって防ぐことしかできません。

公衆衛生上の取り組み

・地元の保健当局は、分離されたウイルスの発生源と起源、およびそれに関連するさらなる拡大の潜在的リスクを特定するため、環境学的、疫学的、ウイルス学的な調査を行っています。同様の調査は、パレスチナ自治区でも行われています。
・生後6週間から17歳までの子どもを対象に、IPVとOPVによるポリオのキャッチアップ接種が開始されました。4月4日に、エルサレム地区を中心にbOPVキャンペーンが開始されました。 4月13日現在、bOPVキャンペーンは対象をイスラエル全土に拡大されています。

WHOのリスク評価

イスラエルにおける高いワクチン接種率と強固な監視システムを考慮し、特定の高リスク地域/人口集団において予防接種ギャップが残っていることも考慮すると、同国およびパレスチナ占領地におけるさらなる感染拡大のリスクは中程度と思われます。
 
WHOは現在、cVDPV3の検出によるさらなる国際的な感染拡大のリスクは、高い人口免疫、急性弛緩性麻痺の強固な監視、および既存の対応能力により、低いと評価しています。調査および対応活動は、イスラエルおよびパレスチナ占領地の公衆衛生当局間、およびWHOの欧州および東地中海地域事務所間で調整されています。

WHOからのアドバイス

ワクチン接種
・現在、ポリオの治療法はなく、予防接種によって防ぐことしかできません。ポリオワクチンは、複数回接種することで、子供は生涯免疫を得ることができます。
・WHOは、ポリオ撲滅への世界的な取り組みを支援するため、すべての国がポリオワクチンの高い接種率を達成し、維持するよう助言しています。
・WHOは、ポリオの流行地域に渡航または居住するすべての人が、国のスケジュールに従ってポリオの予防接種を完了することを推奨しています。
・国や地域は、新しいウイルスの侵入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルで一様に高い定期予防接種率を維持する必要があります。
 
サーベイランス(監視)
すべての国、特にポリオの感染国や地域と頻繁に往来する国は、新たなウイルスの侵入を迅速に発見し、迅速な対応を行うために、AFP症例のサーベイランスを強化することが重要である。

国際保健規則
・国際保健規則(2005年)に基づき招集された緊急委員会の助言に従い、ポリオウイルスの国際的な広がりを抑えるための努力は、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(以下、「PHEIC」という)であると考えられます。ポリオウイルスの伝播が確認された国は、一時的な勧告の対象となります。PHEICの下で出された臨時勧告を遵守するために、ポリオウイルスの伝播が確認された国がとるべき措置は以下の通りです。
■ ポリオウイルスの発生を国家的な公衆衛生上の緊急事態として宣言すること。
■ 海外からの入国者・海外への出国者全員へのワクチン接種を検討すること。
■ 海外旅行者に国際予防接種証明書が提供されるようにすること。
■ 適切なポリオワクチンの証明書がない場合、出発地での渡航を制限すること。
■ 旅行者の予防接種率を大幅に向上させるための国際的な取り組みを強化し、定期的な予防接種率を高めるための取り組みを強化すること。

・一時的な勧告を受けた国は、上記措置を以下の基準を満たすまで続ける。
■ 新たな感染がなく、少なくとも6カ月が経過している。
■ すべての感染地域および高リスク地域において、質の高いポリオ撲滅活動が完全に実施されていることを証明する文書があること。そのような文書がない場合、その国は感染・電波がないという上記の評価基準を満たすまで、措置が維持されるべきです。
 
国際的な旅行または貿易
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、イスラエルへの渡航や貿易を制限しないよう助言しています。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 3 - Israel
Disease outbreak news 15 April, 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/circulating-vaccine-derived-poliovirus-type-3---israel