複数国における小児の原因不明の急性重症肝炎

Disease outbreak news 2022年4月23日

発生状況一覧

2022年4月15日にWHOのDisease Outbreak Newsにて英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国。以下同じ。)における原因不明の急性肝炎が発表されて以来、幼児の間で原因不明の急性肝炎の症例報告が更に続いています。肝炎患者が増加しているのか、又は想定される割合で発生しているのに発見されていなかった肝炎患者の発見が増加しているために報告数が増加しているのか、まだ明らかではありません。アデノウイルスが仮説として考えられますが、原因については現在調査中です。

発生状況の概要

2022年4月21日現在WHOヨーロッパ地域の11か国及びWHOアメリカ地域の1か国から、少なくとも169例の原因不明の急性肝炎の患者が報告されています(図1)。英国(114例)、スペイン(13例)、イスラエル(12例)、アメリカ合衆国(9例)、デンマーク(6例)、アイルランド(5例未満)、オランダ(4例)、イタリア(4例)、ノルウェー(2例)、フランス(2例)、ルーマニア(1例)及びベルギー(1例)で症例報告がされています。

図1. 2022年4月23日時点における原因不明の急性重症肝炎の国別症例分布


症例は、生後1か月から16歳までです。17人の子供(約10%)が肝移植を必要とし、少なくとも1人が死亡したと報告されています。
 
確認された症例の臨床症状は、著しい肝酵素の上昇を伴う急性肝炎、つまり、肝臓の炎症です。多くの症例で、腹痛、下痢、嘔吐の消化器症状が先行し、肝酵素値(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(以下「AST」という。)又はアラニンアミノトランスアミナーゼ(以下「ALT」という。)500IU/L以上)の上昇及び黄疸が認められました。ほとんどの症例で発熱はありません。急性ウイルス性肝炎を引き起こす一般的なウイルス(A、B、C、D及びE型肝炎ウイルス)は、これらの症例のいずれからも検出されていません。 現在入手可能な情報に基づくと、海外渡航や他国訪問との関連は、特定されていません。
 
アデノウイルスは少なくとも74例から検出されており、分子検査に関する情報がある症例数のうち、18例がF型41と同定されています。新型コロナウイルスは、検査したもののうち20例で確認されました。さらに、新型コロナウイルスとアデノウイルスの共感染が検出されたのは19例でした。
 
現在までに多くの症例が報告されている英国では、COVID-19パンデミックの初期には低レベルであった地域社会でのアデノウイルス感染(特に小児の糞便検体から検出)が最近顕著に増加していることが観察されています。オランダでも、地域社会におけるアデノウイルスの循環が同時に増加していることが報告されました。
 
しかし、アデノウイルスの検査が強化され、以前は検出されなかったレベルで発生した稀な結果が、検査の強化により検出されるようになったことを示している可能性があります。

公衆衛生上の取組

症例が確認された国々では、より詳細な臨床歴や曝露歴、毒物検査(環境及び食品毒性検査)、追加のウイルス学的かつ微生物学的検査の調査が進められています。また、影響を受けた国々は監視活動の強化に着手しています。
 
WHO及びECDCは、現在進行中の調査で国々を支援し、症例報告国から情報を収集しています。入手可能な情報は全て各国の肝炎ネットワークや、欧州肝臓学会、欧州臨床微生物・感染症学会(ESCMID)及び欧州小児消化器・肝臓・栄養学会(ESPGHAN)の臨床組織を通じて普及されています。
 
ヨーロッパで発生した事例については、The European Surveillance System を用いてWHO及びECDC共同のデータ収集が確立される予定です。
 
英国健康安全局によって作出されたガイダンスは、疑い事例の徹底的な調査を支援するために、影響を受ける国々に発行されています。

WHOによるリスク評価

英国は、若年でそれまでは健康であった小児における原因不明の急性重症肝炎の予期せぬ著しい増加を最初に報告しました。現在アイルランドやオランダをはじめとする他の国々でも、このような症例の予期せぬ増加が報告されています。
 
現在アデノウイルスが原因の一つという仮説となっていますが、それだけでは臨床像の重篤さを十分に説明することはできません。アデノウイルス41型への感染は、これまでこのような臨床像と関連づけられたことはありませんでした。アデノウイルスは、通常、自己限定的な感染症を引き起こす一般的な病原体です。アデノウイルスは人から人へ感染し、通常は呼吸器疾患を引き起こしますが、型によっては、胃腸炎(胃や腸の炎症)、結膜炎(ピンクアイ)、膀胱炎(膀胱炎)のように他の疾患を引き起こすこともあります。ヒトに感染症を引き起こすアデノウイルスは、免疫学的に異なる50種類以上の型が存在します。アデノウイルス41型は、通常、下痢、嘔吐、発熱を呈し、しばしば呼吸器症状を伴います。アデノウイルス感染症で免疫不全の小児が肝炎になったという症例報告がありますが、アデノウイルス41型が生来健康な小児の肝炎の原因になることは知られていません。
 
新型コロナウイルスの流行時にアデノウイルスの循環レベルが低下し、幼児の感受性が上昇したこと、新規アデノウイルスの出現の可能性、新型コロナウイルスの併発の要因について、さらに調査することが必要であると考えられます。新型コロナウイルス ワクチンの副作用に関連する仮説は、罹患した小児の大多数が新型コロナウイルスワクチンの接種を受けていないため、現在のところ支持されていません。リスクを完全に評価して管理するためには、他の感染性及び非感染性の要素を除外する必要があります。
 
少なくとも英国では、最近発症した患者の新たな届出が続いており、さらに広範な症例検索も行われているため、原因が確認され、より具体的な管理・予防措置が実施されるまでに、更に患者が発見される可能性が非常に高いと思われます。
 
WHOは状況を注意深く監視し、英国保健当局、他の加盟国、パートナーとともに連携・協力しています。

WHOからの助言

現在感染が進行している国その他地域で、さらなる患者を特定するために追加の作業が必要です。優先順位は、コントロールと予防の行動を更に洗練させるために、これらの事例の原因を特定することが最優先課題です。アデノウイルスその他一般的な感染症の予防策としては、こまめな手洗いや呼吸器系の衛生が挙げられます。
 
加盟国は、「症例定義1」 に合致する潜在的な症例を特定し、調査し、報告することを強く推奨されます。疫学及び危険因子に関する情報は、加盟国によって収集され、合意された報告手順を通じてWHOおよびパートナー機関に提出されなければなりません。症例間の疫学的な関連は、病気の発生源を追跡するための手がかりとなるかもしれません。症例及びその近親者に関する時間的かつ地理的な情報は、潜在的な危険因子について検討されるべきです。
 
WHOは、血液(血清よりも全血の方が感度が良いという初期の事例があります。)、血清、尿、便、呼吸器系及び肝生検の検体(可能な場合)に係る検査を実施し、配列決定を含むさらなるウイルス特性解析を行うことを推奨しています。他の感染性及び非感染性の原因についても十分に調査する必要があります。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、英国や患者が確認された他の国への渡航や貿易を制限することを推奨していません。

WHOの「症例定義1」

確定例は、現時点では該当ありません。

可能性例は、2021年1月1日以降、16歳以下で血清トランスアミナーゼ(AST又はALT)>500IU/lの急性肝炎(非AからE型肝炎※)を呈している者です。

疫学上関連のある症例は、2021年1月1日以降、年齢を問わず急性肝炎(非 AからE型肝炎※)を呈し、確定症例との濃厚接触者に該当する者です。

※AからE型肝炎の血清検査結果待ちの状態で、他の基準を満たす場合は報告可能とされ、「分類待ち」に分類されることになっています。臨床症状について他の説明がある症例は破棄されます。
 

出典

Multi-Country – Acute, severe hepatitis of unknown origin in children
Disease outbreak news 23 April 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/multi-country-acute-severe-hepatitis-of-unknown-origin-in-children