コレラ- マラウイ共和国

Disease outbreak news  2022年4月27日

発生状況一覧

2022年3月3日、マラウイ共和国(以下「マラウイ」という)保健省は検査確定例をもってコレラ患者の発生を宣言しました。3月7日には2例目の患者が確認されました。4月26日現在、78人のコレラ患者と4人の死者が報告されており、そのうち97%(76人)はヌサンジェ(Nsanje)地区から報告されています。コレラキットの配布や多発地区のマッピングなど、いくつかの対応策が実施されています。

症例の解説

2022年3月3日、マラウイ保健省は、マラウイ南部マチンガ(Machinga)地区の57歳男性の患者を確認し、マラウイでのコレラの発生を宣言しました。 2月28日、この患者は水様性の下痢を発症し、マチンガ病院を受診し、3月2日にコレラが確認されました。 この患者の検体は培養検査で陽性となり、ビブリオコレラ菌O1イナバ型が分離されました。この患者は、地区の病院に入院する前にブランタイヤ(Blantyre)とマチンガの2つの都市の旅行歴がありました。疫学調査が実施されましたが、感染源は特定されませんでした。
 
2022年3月7日、マラウイのヌサンジェ地区から地元の保健所で11歳の男児にコレラ2例目が確認されました。この症例は、熱帯性暴風雨AnaとサイクロンGombeによる洪水の後、モザンビークに避難し、症状があるうちにマラウイに戻りました。
 
2022年4月26日現在、ヌサンジェ地区(76例、死者4名)とマチンガ地区(2例)から合計78例のコレラ患者(うち4例死亡)が報告されています(致死率:5.1%)(図1および図2)。78例のうち、13例は培養検査で、20例は迅速診断検査(RDT)で陽性が確認されています。 患者の年齢は2歳から57歳で、5歳から14歳の年齢層が最も多く感染しています。
 
マラウイ南部地域は、2022年1月末から2月にかけて集中豪雨と洪水を引き起こした熱帯性暴風雨AnaとサイクロンGombeによって深刻な影響を受けました。避難民は衛生的な上下水設備にアクセスできないままであったため、コレラを含む疾病が広範囲に発生する危険性がありました。

図1:マラウイ、2月28日から4月26日までのコレラ患者の症状発現日および転帰別流行曲線(n=78)。(赤:死者、青:生存)


図2: マラウイにおけるコレラ患者の分布(4月26日現在)(丸は症例数)

コレラの疫学

コレラは、汚染された水や食品に含まれるビブリオコレラ菌を摂取することで発症する急性の腸管感染症です。主に、安全な飲料水へのアクセス不足や、不適切な衛生環境と関連しています。コレラは非常に重篤になりやすい疾患で、重度の急性水様性下痢症を引き起こし、高い罹患率と死亡率をもたらします。また、曝露の頻度、曝露された人々、環境に応じて、急速に広がる可能性があります。コレラは子供と大人の両方に感染し、治療されないと死に至ることもあります。
 
潜伏期間は、汚染された食物または水の摂取後、12時間から5日間です。コレラ菌に感染しても、ほとんどの人は何の症状も現れませんが、感染後1~10日間は糞便中に菌が存在し、環境中に排出されるため、他の人に感染する可能性があります。症状が出た人のうち、大多数は軽度または中程度の症状ですが、一部は重度の脱水を伴う急性の水様性下痢を発症することもあります。コレラは簡単に治療できる病気です。ほとんどの人は、経口補水液(ORS)の迅速な投与により、治療することができます。
 
コレラには、風土病と流行病があります。コレラの風土病としての地域とは、過去3年間にコレラ患者が確認され、地元での感染が確認された地域のことを差します(患者は他の地域から流入したものではありません)。コレラの流行は、風土病としてある地域でも非流行国でも発生する可能性があります。
 
人道的危機の影響、例えば上下水設備の崩壊、不十分で過密な避難民キャンプへの住民の移動などは、細菌が存在する場合、または持ち込まれた場合、コレラ感染のリスクを増大させる可能性があります。感染していない死体が伝染病の発生源となったことは、これまで一度も報告されていません。
 
コレラの発生を抑え、死者を減らすには、監視、水、衛生、社会動員、治療、経口コレラワクチンの組み合わせを含む多面的なアプローチが不可欠です。

公衆衛生上の取り組み

WHOは、パートナーとの連携のもと、マラウイにおける国家コレラ対策計画の実施を支援しています。
 
その他に実施された具体的なアクションは以下の通りです。 
・国・地区レベルの緊急オペレーションセンター(EOC)を立ち上げ、他の保健セクターやパートナーとの協力のもと、現在対応を調整しています。
・2022年2月下旬、熱帯低気圧の上陸後、高リスク・多発地区の初期マッピングが行われ、3月25日に更新が行われました。
・保健省とWHOは共同で、リスクとニーズの評価を含む現場指揮を完了しました。包括的な報告書が作成されているところです。
・データ管理者4名と公衆衛生担当者3名がデータ管理のために流行地区に配置されました。
・2022年4月21日から22日にかけて、ヌサンジェ地区でコレラ対策トレーニングが実施されました。
・WHOは、被災地区にコレラキットやその他の物資を提供しました。
・国際調整グループ(ICG)に提出された経口コレラワクチン(OCV)の要請は、高リスクの8地区を対象とした390万回分のワクチンが承認されました。2022年5月初旬に予定されているキャンペーンの第1ラウンドのために、マラウイは190万回分以上のOCVを受け取っています。
・コレラの症例管理と検査確定のための備品は、保健施設と地区の検査所にあらかじめ配置されています。症例管理は、治療体制の確立と機器の提供により強化されています。サジェ(Nsanje)地区には、2つのコレラ治療センターが設立されました。
・地区の公衆衛生検査所では、確認のための便サンプルの収集と分析が続けられています。2022年4月26日現在、合計13の検体が検査所分析(培養)により確認されました。
・東部、中部、南部の地域調整を通じて、モザンビークチームとの連携に向けた取り組みが行われています。
 

WHOのリスク評価

マラウイではコレラが流行しており、1998年から2020年にかけて季節的な流行が報告されています。モザンビークと国境を接する南部地域は、依然としてコレラの多発地域となっています。マラウイで今回確認された症例が報告されている地区では人口の免疫力が低いため、コレラ症例の検出が懸念となっています。
 
この2つの地区でコレラの流行が始まり、現在も広がっている主な要因は以下の通りです。
・熱帯性暴風雨と洪水
・不十分な衛生環境  
・安全な飲料水の入手が容易でないことと、個人の衛生習慣も最適ではないこと
・野外排泄
・医療を受けるまでの時間に遅れが生じがちであること
 
ヌサンジェ地区や近隣の危険地区(バラカ(Balaka)地区、チクワワ(Chikwawa)地区)で確認されたその他の課題には、主に洪水後のアクセスの困難さを原因とした、被災地での検体収集、輸送、診断能力の低さが含まれます。
 
さらに、マラウイはモザンビークと国境を接しており、熱帯性サイクロンによる洪水で避難した人々も含め、国境を越えた人口移動が頻繁に起こっています。このため、国境を越えてコレラが伝播する危険性があります。
 
国境を越えた積極的な調整と情報共有による状況の監視が引き続き重要となります。

WHOからのアドバイス

予防と管理 :WHOは、コレラの感染を防ぐために、清潔な水と衛生設備へのアクセス、適切な廃棄物管理、食品安全の実践、衛生習慣の改善を推奨しています。経口コレラワクチンは、コレラの発生を抑制するために、またコレラのリスクが高い地域での予防のために、水と衛生環境の改善と組み合わせて使用されるべきです。
 
サーベイランス:特にコミュニティ・レベルでのサーベイランスを強化することが推奨されます。新たな地域に感染が広がるリスクを減らすために、各国がこのコレラの発生を迅速に検知し、対応できるようにする必要があります。今回の流行は国境を越えた移動が多い地域で発生しているため、WHOはそれぞれの国に対し、協力と定期的な情報共有を確保するよう促しています。
 
症例管理 :死亡率を減少させるため、コレラが発生した地域では、医療へのアクセスの改善を含む適切な症例管理を実施する必要があります。
 
国際的な旅行と貿易:WHOはマラウイへの旅行や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Cholera –Malawi
Disease outbreak news 27 April 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON372