複数国におけるチョコレート製品に関連したサルモネラ・ティフィムリウムの発生について - 欧州と米国

Disease outbreak news  2022年4月27日

発生状況一覧

2022年3月27日、英国は、単相性サルモネラ・ティフィムリウム配列34型感染症の集団感染事例発生をWHOに通知しました。調査により、この集団発生はベルギーで製造されたチョコレートに関連しており、製品は少なくとも113カ国に流通しています。4月10日に国際食品安全情報ネットワーク (以下、「INFOSAN」という。)からグローバルアラートが発出され、世界的な製品回収が開始されました。現在までに、11カ国から合計151件の遺伝子的に今回の製品に関連する菌の検出事例が報告されています。製品の完全回収に関する情報が得られるまで、WHOヨーロッパ地域および世界的に感染が拡大するリスクは中程度と評価されています。

発生の概要

2022年3月27日、WHOは英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)の国際保健規則(IHR)ナショナルフォーカルポイントから、発生源不明のサルモネラ・エンテリカ・セロバール・ティフィムリウム(S. Typhimurium)の広範囲での集団発生の報告を受けました。分子タイピングによりサルモネラ・ティフィムリウム配列34型の分離が確認され、その後疫学的証拠により、この集団発生はベルギー産チョコレート製品に関連しており、2022年4月25日の時点で、WHOの全地域にわたる少なくとも113カ国・地域(下記、追加情報参照)への流通が確認されました。
 
2021年12月と2022年1月にベルギーのアルロン(Arlon)にあるフェレロコーポレート(Ferrero Corporate)の工場のバターミルクタンクからヒトの感染事例と一致する単相のサルモネラ・ティフィムリウムが確認されました。衛生対策を実施し、サルモネラ菌検査で陰性となった後、関与した製品(キンダーサプライズ、キンダーミニエッグ、キンダーサプライズマキシ100g、キンダーショコボンなどアルロンの施設で製造したキンダー製品すべて)は欧州全域および世界各地で流通しました。
 
英国健康安全局(UKHSA)の分析によると、この菌株は、ペニシリン、アミノグリコシド(ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン)、フェニコール、スルホンアミド、トリメトプリム、テトラサイクリンの6種類の抗菌薬に耐性があることが判明しています。
 
2022年4月25日現在、11カ国から、対象となるチョコレート製品の摂取との関連が疑われるサルモネラ・ティフィムリウムの遺伝的関連事例が合計151件報告されています(図1)。内訳は、ベルギー(26例)、フランス(25例)、ドイツ(10例)、アイルランド(15例)、ルクセンブルグ(1例)、オランダ(2例)、ノルウェー(1例)、スペイン(1例)、スウェーデン(4例)、英国(65例)、米国(1例)です。

図1. 2022年4月25日現在、報告されているサルモネラ・ティフィムリウムアウトブレイク症例(n=151)と関連製品が流通している国(n=113)の地理的分布
 
症例の症状発現日は、2021年12月21日から2022年3月28日の範囲でした。10歳未満の小児(n=134、89%)が不均衡に罹患し、女性が報告症例の66%(n=99)を占めていました。報告された症状および重症度に関する情報は21例について入手可能であり、このうち12例(57%)が血性下痢を報告し、9例(43%)が入院しました。2022年4月25日現在、このアウトブレイクに関連した死亡例は報告されていません。

サルモネラ感染症の疫学

サルモネラ感染症は、非チフス性のサルモネラ菌によって引き起こされる疾患です。約2,500種類の血清型が確認されていますが、ヒトへの感染の大部分は、ティフィムリウム (Typhimurium)とエンテリティディス(Enteritidis) の2種の血清型のサルモネラ菌によって引き起こされます。
 
サルモネラ感染症は、発熱、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢の急性発症を特徴とし、今回の感染事例のほとんどが報告されているように、血便を伴うこともあります。症状の発現は、通常、サルモネラ菌に汚染された食物または水の摂取後6~72時間で、病状は2~7日間続きます。サルモネラ感染症の症状は比較的軽く、ほとんどの場合、患者は特別な治療を受けることなく回復していきます。しかし、特に小児や高齢者では、それに伴う脱水症状が重篤化し、生命を脅かすケースもあります。
 
サルモネラ菌は、鶏、豚、牛などの家畜や野生動物、猫、犬、鳥、カメなどの爬虫類などのペットに広く分布しています。サルモネラ菌は、家畜の飼料、一次生産品、そして家庭や外食産業や施設に至るまで、フードチェーン全体を通し、消費者まで到達します。ヒトにおけるサルモネラ症は、一般的に動物由来の汚染された食品(主に卵、肉、鶏肉、牛乳)を摂取することで感染します。また、糞口経路で人から人への感染も起こり得ます。

公衆衛生上の取り組み

・事例が特定された国ではフードチェーンの調査が行われ、リスク管理措置として、関連する生産施設で生産された一連の製品の回収、大規模な製品回収、ニュースを通しての警告や消費者へのアドバイスなどが行われました。
・WHO、国連食糧農業機関INFOSANは、4月10日にグローバルアラートを発し、加盟国に感染症の発生を通知するとともに、感染症に関連する製品についての情報を共有し、全世界的リコールを開始しました。INFOSAN事務局は、流通の詳細を提供し、実施されたリスク管理措置と関連製品のさらなる流通に関する情報を加盟国から求めました。
・WHO加盟国は、まだ報告されていない新たな関連製品の流通の特定や、アウトブレイクに関連する可能性のある症例の特定についてINFOSANを通じて報告することが奨励されました。
・INFOSAN事務局は、さらなる情報が入手可能になり次第、影響を受けた関係加盟国に対し、直接またはINFOSANコミュニティウェブサイトを通じて最新情報を提供し続け、地域レベルの様々なパートナー(例:欧州疾病予防対策センター(ECDC)、欧州食品安全機関(EFSA)、欧州委員会など)と緊密に協力し、調査の補完と情報交換の促進を図っています。

WHOのリスク評価

サルモネラ菌による感染症は、通常、軽症で治療の必要はありませんが、小児や高齢者では、脱水症状を伴う重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。現在までのところ、ほとんどの症例は10歳未満の小児で発生しており、これは、対象製品が小児向けであったことに起因するものと思われます。
 
2022年4月25日現在、この集団発生に関連した死亡例は報告されていませんが、症状および重症度に関する情報がある症例(n=21)では、高い入院率(43%; n=9)が観察されています。この事象に関連する重症度をより正確に評価できるようにするためには、症状に関するデータなど、さらなる情報が必要です。
 
この集団発生は、疫学的および分子学的にベルギーで製造されたチョコレートに関連しており、WHOの全地域にわたる113以上の国や地域に世界的に流通しています。既知の151例のうち150例はヨーロッパで報告されていますが、1例はアメリカ合衆国で報告されており、イースター休暇中に製品が広く流通し、休暇に関連した旅行によって関連製品の消費が増加したり、関連製品が別の場所に運ばれる可能性があることから、他の国からさらに患者が報告される可能性があると考えられます。
 
既存の症例の特定が、すべての国で日常的に使用されているわけではない高度な分子技術によるものであることを考えると、症例の一部は検出されない可能性があります。
 
この事象が、最も影響を受けたWHO地域、WHOヨーロッパ地域、および世界的に拡大するリスクは、関連製品の完全回収に関する情報が得られるまでは、中程度と評価されます。症例が報告された国は症例管理能力が高いですが、この事象に関連する疾患の重症度に関する情報はまだ限られています。

WHOからのアドバイス

サルモネラ感染症の予防:予防には、農業生産から、商業施設および消費者家庭での食品の加工、製造、調理に至るまで、フードチェーンのあらゆる段階での管理措置が必要です。
 
また、一般市民に対する一般的な予防策は以下の通りです。
ペットや家畜と接触した後やトイレの後は特に石鹸と水で手洗いすること、食品は適切に調理すること、牛乳は低温殺菌または沸騰したものだけを飲むこと、安全な水で作られたものでなければ氷を食べないこと、果物や野菜を十分に洗うことなどがあります。
 
WHOは、一般市民が自国政府の提供する情報に従って、発生状況や関連製品に関するより詳細な情報を得ることを推奨しています
 
サーベイランス:
・関連製品が流通しているWHO加盟国は、アウトブレイクしたサルモネラ菌に起因する、または起因すると疑われる事例を調査し、WHOに報告する必要があります。また、公衆衛生監視活動を強化することが推奨される。
・全ゲノム配列(WGS)解析の能力が不十分または全くない加盟国は、多剤耐性プロファイル、特にカナマイシン/ゲンタマイシン、トリメトプリムまたはコトリモキサゾール(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、およびクロラムフェニコールに対する耐性を示す及び耐性マーカーを持つサルモネラ・ティフィムリウム菌株によるヒト感染に警戒し、調査すべきです。
 
治療:健康な人の軽症例や中等症例では、定期的な抗菌薬治療は推奨されません。これは、抗菌薬では菌を完全に除去できない可能性があり、耐性菌が発生し、その後、薬剤が効かなくなる可能性があるためです。重症例では、電解質補給(嘔吐や下痢で失われたナトリウム、カリウム、塩化物イオンなどの電解質を補給すること)と水分補給が治療となります。

追加情報

本件関連チョコレート製品の流通が確認された諸国(4月25日現在)
 
アルバニア共和国、アルジェリア民主人民共和国、アンドラ公国、アルゼンチン共和国、アルメニア共和国、アルバ(オランダ)、オーストラリア連邦、オーストリア共和国、アゼルバイジャン共和国、ベラルーシ共和国、ベルギー王国、ベナン共和国、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル連邦共和国、英領バージン諸島(英国)、ブルガリア共和国、ブルキナファソ、カンボジア王国、カメルーン共和国、カナダ、ケイマン諸島(英領)、中央アフリカ共和国、中華人民共和国、コモロ連合、コンゴ共和国(ブラザビル)、コートジボワール共和国、クロアチア共和国、キュラソー(オランダ)、キプロス共和国、チェコ共和国、コンゴ民主共和国、デンマーク王国、ジブチ共和国、ドミニカ共和国、赤道ギニア共和国、エストニア共和国、フィジー共和国、フィンランド共和国、フランス共和国、フランス領ギアナ(フランス)、フランス領ポリネシア(フランス)、ガボン共和国、ジョージア、ドイツ連邦共和国、ギリシャ共和国、グアドループ(フランス)、ギニア共和国、香港、ハンガリー、アイスランド共和国、アイルランド、イスラエル国、イタリア共和国、カザフスタン共和国、コソボ共和国、クウェート国、キルギス共和国、ラトビア共和国、レバノン共和国、リヒテンシュタイン公国、リトアニア共和国、ルクセンブルグ大公国、マリ共和国、マルタ共和国、マルチニーク(フランス)、モーリタニア・イスラム共和国、モーリシャス共和国、マイヨット(フランス)、メキシコ合衆国、モルドバ共和国、モナコ公国、モンゴル国、モンテネグロ、モロッコ王国、オランダ王国、ニューカレドニア(フランス)、ニュージーランド、ニジェール共和国、ノルウェー王国、オマーン国、パラグアイ共和国、ポーランド共和国、ポルトガル共和国、カタール国、大韓民国、北朝鮮、北マケドニア共和国、レユニオン(フランス)、ルーマニア、ロシア連邦、ルワンダ共和国、サンマリノ共和国、サウジアラビア王国、セネガル共和国、セルビア共和国、シンガポール共和国、スロバキア共和国、スロベニア共和国、スペイン王国、スリナム共和国、スウェーデン王国、スイス連邦、タジキスタン共和国、タイ王国、トーゴ共和国、トルコ共和国、トルクメニスタン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、英国、米国、ウズベキスタン共和国、バチカン市国、ベトナム社会主義共和国

出典

Multi-country outbreak of Salmonella Typhimurium linked to chocolate products – Europe and the United States of America
Disease outbreak news 27 April 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON369