複数国(非エンデミック国)におけるサル痘の発生について

Disease outbreak news  2022年5月21日

発生状況一覧

2022年5月13日以降、WHOの3つの地域にわたって、サル痘ウイルスの流行地(エンデミック:感染が繰り返し発生している地域)ではない12の加盟国からサル痘の患者がWHOに報告されています。疫学的な調査が進行中ですが、これまでに報告された症例は、流行地域への渡航の関連は確認されていません。現在入手可能な情報によると、症例は主に、プライマリーケアや性感染症専門医療機関で治療を受ける男性と性交渉を持つ男性(MSM)の間で確認されていますが、それだけに限定されたものではありません。 
 
今回の5月21日付、WHO・Disease Outbreak Newsの目的は、本症例の認知度を高め、準備と対応準備組織に情報を提供し、直ちに推奨される行動のための技術的ガイダンスを提供することにあります。 
 
状況は刻々と変化しており、サーベイランスが拡大するにつれて、非エンデミック国でさらに多くのサル痘症例が確認されるとWHOは想定しています。緊急の対策は、サル痘感染のリスクが最も高いと推測される人々に正確な情報を提供し、さらなる拡大を阻止することに重点を置いています。現在入手可能な記録によれば、最もリスクが高いのは、サル痘に感染した人と、その人が症状を呈している間に濃厚接触を持った人であることが示唆されています。WHOはまた、最前線で勤務する医療従事者や清掃員などリスクのあるその他の医療従事者を保護するためのガイダンスを提供するよう努めています。WHOは今後、より専門的な勧告を提供する予定です。

発生の概況

5月21日13時現在、WHOの3つの地域にまたがるサル痘ウイルスの流行地でない12の加盟国から、92例のサル痘検査確定例と、調査中の28例のサル痘疑い例が、WHOに報告されています(表1、図1)。現在までのところ、関連する死亡例は報告されていません。 
 
表1:2022年5月13日から21日の13:00現在までにWHOに報告された非エンデミック国でのサル痘の患者数 


図1. 2022年5月13日から21日13時時点までの非エンデミック国におけるサル痘の確定例および疑い例の地理的分布 
 
現在までのところ、PCR検査で確認されたすべての症例は、西アフリカ系統群のウイルスに感染していると判明しています。ポルトガルで確認された症例の拭い液検体から得られた遺伝子配列は、2018年と2019年にナイジェリアから英国、イスラエル、シンガポールに輸出された症例と、現在のアウトブレイクを引き起こしているサル痘ウイルスがほぼ一致することを示しました。 
 
流行地域への直接的な渡航歴のないサル痘の確定例および疑い例が確認されたことは、極めて異例な出来事です。非流行地域におけるこれまでのサーベイランスは限定的でしたが、現在拡大中です。 WHOは、非流行地域でより多くの症例が報告されることを想定しています。入手可能な情報では、症状のある患者と濃厚接触を持つ人々の間でヒトからヒトへの感染が起きていることが示唆されます。 
 
今回の新規のアウトブレイクに加えて、WHOは、表2にまとめたように、流行国 [1] での症例について確立された監視機構(統合疾病監視・対応)を通じて、進行中のサル痘症例の報告状況について最新情報を入手し続けています。 
 
[1] サル痘の流行国は以下の通りです。ベナン共和国、カメルーン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン共和国、ガーナ共和国(動物でのみ確認)、コートジボワール共和国、リベリア共和国、ナイジェリア連邦共和国、コンゴ共和国、シエラレオネ共和国、および南スーダン共和国。 
 
表2. 2021年12月15日から2022年5月1日の間に流行国で発生したサル痘の患者数 

 

サル痘の疫学

サル痘はウイルス性人獣共通感染症(動物からヒトに感染するウイルス)であり、かつての天然痘患者に見られた症状に非常によく似ていますが、天然痘よりは軽症です。ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属するサル痘ウイルスによって引き起こされます。サル痘ウイルスには、西アフリカとコンゴ盆地(中央アフリカ)との2つ系統群があります。サル痘という名前は、1958年にデンマークの研究所においてサルでこのウイルスが最初に発見されたことに由来しています。1970年にコンゴ民主共和国の小児で確認されたのが、ヒトでの最初の症例です。 
 
サル痘ウイルスは、病変部、体液、呼吸器飛沫、寝具などの汚染物との接触により、ヒトからヒトへ感染します。サル痘の潜伏期間は通常6~13日ですが、5~21日の範囲に及ぶこともあります。 
 
さまざまな動物種がサル痘ウイルスに感受性があることが確認されています。サル痘ウイルスの自然史については不明な点が多く、正確な宿主となる動物を特定し、自然界でどのようなウイルスの循環サイクルが存在するのかを明らかにするために、さらなる研究が必要です。感染した動物の肉やその他の動物性食品を不適切な調理で食べることは、危険因子である可能性があります。 
 
サル痘は通常、自己限定的ですが、小児、妊婦、他の健康状態により免疫力が低下している人など、一部の人では重症化する可能性があります。西アフリカ系統群による感染では、コンゴ盆地系統郡の感染に比べて重症化しにくく、致死率はコンゴ盆地系統群による感染が10.6%であるのに対し、3.6%となっています。 

公衆衛生上の取り組み

・症例を確認した非エンデミック国では、広範な症例発見と接触者追跡、検査による調査、臨床管理、支持療法を伴う隔離など、さらなる公衆衛生調査が行われています。 
・本集団発生におけるサル痘ウイルス系統群を特定するため、ゲノム配列の決定が行われています(可能な場合)。 
・サル痘ワクチン接種が可能な場合は、医療従事者などの濃厚接触者を守るためにワクチン接種が実施されています。WHOは、ワクチン接種に関する勧告を議論するために専門家を招集しています。 
 
WHOは、非エンデミック国において現在発生しているサル痘のサーベイランス用症例定義を作成しました 
(症例定義は必要に応じて更新されます)。 
 
疑い例とは: 
年齢を問わず、サル痘非流行国[2]で原因不明の急性皮疹を呈した者 
かつ  
2022年3月15日以降、以下徴候または症状に1つ以上該当する者 
・頭痛 
・急な発熱(38.5℃以上) 
・リンパ節症(リンパ節の腫脹) 
・筋痛(筋肉や体の痛み) 
・背部痛 
・無力症(深部脱力感) 
かつ 
以下の一般的な急性皮疹の原因でその臨床像のありかたを説明できない症例: 
水痘帯状疱疹、帯状疱疹、麻疹、ジカ熱、デング熱、チクングニア熱、単純ヘルペス、細菌性皮膚感染、播種性淋菌感染、原発性または続発性梅毒、下疳、鼠径リンパ肉芽腫、鼠径肉芽腫、伝染性軟属腫、植物などへのアレルギー反応など 
 
註釈:症例を疑いとして分類するために、前述のような一般的な発疹疾患の原因として挙げられているものについて、検査結果が陰性である必要はありません。 
 
[2] サル痘の流行国は以下の通りです。ベナン共和国、カメルーン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン共和国、ガーナ共和国(動物でのみ確認)、コートジボワール共和国、リベリア共和国、ナイジェリア連邦共和国、コンゴ共和国、シエラレオネ共和国です。ベニン共和国と南スーダン共和国は、過去に輸入された症例を記録しています。現在、西アフリカの感染者が報告されている国は、カメルーン共和国とナイジェリア連邦共和国です。この症例定義によれば、この4カ国を除くすべての国が、現在の複数国にわたるアウトブレイクの一部として、サル痘の新しい症例を報告するものと考えられます。 
 
可能性例とは: 
 疑い例の定義に合致する者 
かつ 
以下のうちの1つ以上を満たす者 
・症状発現前の21日間に、サル痘の可能性が高いまたは確定した患者との疫学的関連(目や呼吸器の保護をしていない医療従事者を含む対面での曝露)、性的接触を含む皮膚や皮膚病変との直接的な身体接触、衣類、寝具、調理器具などの汚染物質との接触があること。 
・発症前21日間に、サル痘の流行国[1]への渡航歴が報告されている。 
・発症前21日間に、複数または匿名の性的パートナーがいる。 
・ワクチン接種またはオルソポックスウイルスへの既知の曝露がない場合において、血液検査でオルソポックスウイルスが陽性である。 
・病気のため入院している 。
 
確定症例とは:  
疑い例または可能性例の定義を満たし、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および/または配列決定によるウイルスDNAの特異的配列の検出により、検査でサル痘ウイルス感染であることが確認された症例。 
 
除外症例とは:  
疑い例または可能性例で、PCRおよび/または塩基配列決定による検査でサル痘ウイルスが陰性であったもの。

WHOによるリスク評価

サル痘のエンデミック地域は、通常、地理的に西アフリカ地域と中央アフリカ地域に限定されています。流行地への渡航歴のないサル痘の確定例および疑い例が複数の国で確認されることは異常な事態であるため、サル痘に関する認識を高め、さらなる感染連鎖を抑えるために、包括的な症例発見と隔離(支持療法を伴う)、接触者追跡調査、支持療法に取り組むことが急務となっています。 
 
天然痘ワクチン接種による交差防御免疫は、高齢者に限定されます。なぜなら、世界中の40歳または50歳以下の人口は、過去の種痘接種プログラムによる種痘を受けていないため、それによる防御免疫の恩恵を受けられないからです。また、非流行国に住む若年層には、このウイルスが存在しないため、サル痘に対する免疫はほとんどないでしょう。 
 
歴史的には、天然痘の予防接種がサル痘の予防になることが示されていました。サル痘に対しては、2019年に1種類のワクチン(MVA-BN)が、2022年に1種類の特効薬(tecovirimat)が承認されましたが、これらの手段はまだ広く普及していないのが現状です。 
 
現在入手可能な情報によると、主に総合診療医や性感染症専門医療機関で治療を受ける男性とセックスをする男性(MSM)の間で患者が確認されていますが、それだけに限定されたものではありません。 現在までのところ、死亡例は報告されていません。しかし、サーベイランスが限定的であったため、現段階では地域的な伝播の程度は明らかではありません。他の集団も含め、感染経路が不明なさらなる患者が確認される可能性が高いです。WHOのいくつかの地域で多くの国がサル痘の症例を報告しており、他の国でも症例が確認される可能性が高いです。 
 
状況は刻々と変化しており、WHOは、非流行国でのサーベイランスが拡大するにつれて、さらに多くのサル痘症例が確認されることを想定しています。これまでのところ、このアウトブレイクに関連した死亡例はありません。当面の対策は、サル痘感染のリスクが最も高い人々に正確な情報を提供し、さらなる拡大を阻止し、第一線で働く人々を保護することに重点を置くことです。 

WHOからのアドバイス

現在症例が報告されている国や他の加盟国において、さらなる症例が確認され、外部に拡がる可能性があります。サル痘疑い症例はすべて調査し、確認された場合は、病変が痂皮化し、かさぶたが落ち、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで隔離する必要があります。 
 
各国は、発熱、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛を伴う、全身の患部で同じ進行段階の黄斑、丘疹、水疱、膿疱、かさぶたという非定型の発疹を呈する患者に関する兆しに注意する必要があります。このような患者は、総合診療医、発熱外来、性病科、感染症科、産婦人科、泌尿器科、救急科、皮膚科など、地域社会や医療のいかなる場面においても、さまざまな診療科を受診する可能性もあります。地域社会全体、医療従事者、検査施設職員を含め、地域社会全体が潜在的に感染している可能性があるため、意識を高めることは、さらなる二次感染者を特定・予防し、現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。 
 
サーベイランスと届出(レポート)に関する留意点  
○サーベイランス 
 現在の状況におけるサル痘のサーベイランスと症例調査の主な目的は、最適な臨床治療を提供するために、症例、クラスター、感染源をできるだけ早く特定し、さらなる感染連鎖を防ぐために症例を隔離し、接触者を特定・管理し、最も一般的に特定されている感染経路に基づいて効果的な制御・予防方法を調整することです。 
 
非エンデミック国では、1件の症例発生をもってアウトブレイクとみなされます。サル痘の1症例は公衆衛生上のリスクがあるため、臨床医は、他の診断の可能性を検討しているかどうかにかかわらず、疑わしい症例を直ちに国または地域の公衆衛生当局に届け出る必要があります。患者は、上記の症例定義、または国ごとに調整された症例定義に従って、直ちに届出されるべきです。疑い例と確定例は、国際保健規則(IHR 2005)に基づき、IHRナショナルフォーカルポイント(NFPs)を通じてWHOに直ちに報告されるべきです。 
 
各国は、総合診療医、発熱外来、性病科、感染症科、産婦人科、皮膚科などの地域社会や医療現場において、しばしば発熱を伴う通常とは異なる発疹、小胞性または水疱性病変、リンパ節炎を呈する患者に関する兆候に注意する必要があります。発疹様疾患に対するサーベイランスを強化し、確定診断のための皮膚検体採取のガイダンスを提供する必要があります。 
 
○届出(レポート) 
 症例の届出には、最低限、次の情報を含めるべきです。報告日、報告場所、患者の氏名、年齢、性別、居住地、最初の症状の発症日、最近の旅行歴、能性症例または確定症例患者への最近の接触、可能性症例または確定症例患者との関係および接触詳細(該当する場合)、最近の複数または匿名の性的パートナーとの交渉歴、種痘の接種状況、発疹の有無。症例定義に従った他の臨床症状または徴候の有無、確定日(確定した場合)、確定方法(確定した場合)、ゲノム解析(可能な場合)、その他の関連する臨床または検査所見、以上、特に症例定義に従った他の発疹疾患の除外診断のための診療情報、入院の有無、入院日(入院した場合)、報告時点の転帰。 
 
世界共通の症例届出様式は現在作成中です。 
 
症例調査に関する留意点
ヒトにおけるサル痘発生時には、感染者との密接な物理的接触がサル痘ウイルス感染の最も重要な危険因子となります。サル痘が疑われる場合、調査は、(i)適切な感染予防及び管理(IPC)措置を用いた患者の臨床検査、(ii)考えられる感染源及び患者の地域社会や接触者における同様の疾患の存在に関する患者への質問、(iii)サル痘の検査所における検査のための検体の安全な採取及び発送の3つから構成されるべきです。把握すべき最低限のデータは、上記の「届出」の項に記載されています。 曝露調査は、症状発現の5日から21日前までの期間を対象とする必要があります。サル痘が疑われる患者は、推定感染期間と既知感染期間、すなわち、それぞれ病気の前駆期と発疹期に隔離されるべきです。疑わしい症例の検査確定は重要ですが、公衆衛生上の措置の実施を遅らせてはなりません。 患者の地域社会または接触者の中に同様の疾患があると疑われる場合は、さらに調査を行う必要があります(「後方接触者追跡」としても知られています)。
積極的な調査により発見された患者は、もはやサル痘の臨床症状を呈していない(急性疾患から回復している)場合もありますが、瘢痕などの後遺症を示すことがあります。進行中の症例だけでなく、回復後の症例からも疫学的情報を収集することが重要となります。遡及的症例は、検査での確認ができませんが、遡及的症例の血液検体を採取し、抗オルソポックスウイルス抗体を検査することにより、症例分類の一助とすることが可能です。
サル痘の疑いのある人またはサル痘ウイルス感染の疑いのある動物から採取された検体は、適切な設備を備えた研究所で働く訓練を受けたスタッフによって安全に取り扱われる必要があります。検体の梱包や検査機関への輸送の際には、感染性物質の輸送に関する国内および国際的な規制に厳格に従わなければなりません。国内の検査機関の検査能力を考慮し、慎重な計画が必要となります。臨床検査室は、サル痘の疑いまたは確定患者から提出される検体について事前に知らされ、検査室職員のリスクを最小限に抑え、必要に応じて、臨床治療に不可欠な検査を安全に実施できるようにする必要があります。

接触者追跡調査に関する留意点
接触者追跡調査は、サル痘ウイルスなどの感染症病原体の拡散を抑制するための公衆衛生上の重要な手段です。接触者追跡によって、感染を阻止することができます。また、重症化するリスクの高い人々がより迅速に接触者を特定できるため、健康状態を監視することができ、症状が出た場合には、より迅速に医療を受けることができます。 現在の状況では、疑わしい患者が特定されたらすぐに、接触者の特定と接触者の追跡が開始されるべきです。患者を面接し、接触者の名前と連絡先を聞き出すべきです。接触者は、特定後24時間以内に通知されるべきです。

接触者の定義
接触者とは、感染源となった患者の発症から始まり、すべてのかさぶたが剥がれ落ちた時点までの間に、サル痘の可能性が高い、あるいは確定症例に1回以上接触したか、に当てはまる人と定義されます。
・対面での曝露(適切なPPEを装着していない医療従事者を含む)
・性的接触を含む、直接的な身体的接触
・衣服や寝具などの汚染された物質との接触
 
接触者の連絡先の特定
家庭、職場、学校/保育園、性的接触、医療、礼拝所、交通機関、スポーツの場、社交の場、その他 思い出される様々な場面での接触を特定するよう患者に指示することが必要です。さらに、出席簿、乗客名簿なども連絡先を特定するために使用することができます。
 
接触者のモニタリング
接触者は、感染期間中に患者または汚染された物質に最後に接触してから21日間、徴候・症状の発現を少なくとも毎日監視する必要があります。懸念される徴候・症状には、頭痛、発熱、悪寒、咽頭痛、倦怠感、疲労、発疹、リンパ節腫脹が含まれます。接触者は、1日2回体温を測定する必要があります。無症状の接触者は、症状の監視下にある間は、血液、細胞、組織、臓器、母乳、精液を提供してはいけません。無症状の接触者は、出勤や通学などの日常生活を続けることができますが(すなわち、検疫の必要はありません)、監視期間中は自宅近くにいる必要があります。しかし、未就学児を保育園、託児所、その他の集団生活の場に置かないことが賢明である場合があります。
公衆衛生当局によるモニタリングの選択肢は、利用可能なリソースにがあるかによる。接触者は、受動的、能動的、または直接的に監視することができる。
 
・受動的モニタリングでは、特定された連絡先に、モニタリングすべき徴候・症状、許可された活動、徴候・症状が発現した場合の公衆衛生局への連絡方法に関する情報が提供されます。
・能動的モニタリングは、モニタリング対象者が自己申告した徴候・症状があるかどうかを、公衆衛生局員が少なくとも1日に1回確認する役割を担っている場合です。
・直接モニタリングは、能動的モニタリングのバリエーションで、少なくとも毎日、物理的に訪問するか、ビデオで目視して、病気の徴候がないかどうかを確認する場合です。
 
発疹以外の初期症状や徴候が現れた接触者は、隔離し、その後7日間発疹の徴候がないか注意深く観察する必要があります。発疹が生じない場合、その接触者は21日間の残りの期間、体温の確認をするモニタリングに戻すことができます。発疹が出た場合、その接触者を隔離して疑い例として評価し、サル痘を検査するために検体を採取する必要があります。
 
暴露した医療従事者やケアワーカーのモニタリング
サル痘の可能性が高い、あるいは確定患者を看病したことのある医療従事者や家庭の人々は、特に最後の看病の日から21日以内に、サル痘感染を示唆するような症状の発現に注意する必要があります。医療従事者は、感染管理、産業保健、公衆衛生当局に通知し、医療評価について指導を受ける必要があります。
 
サル痘患者または汚染された可能性のある物質に無防備に曝露した(すなわち、適切なPPEを着用しなかった)医療従事者は、無症状であれば勤務から除外する必要はないですが、曝露後21日間は少なくとも毎日2回の体温測定を含む症状の積極的監視下におかれるべきです。毎日出勤する前に、当該医療従事者には、上記のような関連する徴候・症状の有無について聴取を行うべきです。
推奨されるIPC対策に従いながら、サル痘患者の世話をした、あるいは直接または間接的に接触した医療従事者は、地域の公衆衛生当局の決定に従って、自己監視または積極的監視を受けることができます。
国によっては、曝露後のワクチン接種(曝露後4日以内が理想)を、医療従事者や検査担当職員など、よりリスクの高い接触者に検討することがあります。
 
旅行関連の接触者の追跡
公衆衛生担当者は、旅行会社や他の地域の公衆衛生担当者と協力して、潜在的なリスクを評価し、移動中に感染性のある患者と接触した可能性のある乗客やその他の人と連絡を取る必要があります。
 
リスクコミュニケーションと地域社会動員の留意点
サル痘に関連するリスクについて双方向のコミュニケーションを行い、予防、発見、ケアについてリスクのあるコミュニティや影響を受けるコミュニティに参加してもらうことは、サル痘のさらなる拡大を防ぎ、現在の流行を抑制するために不可欠です。
 
これには、病気の感染経路、症状、予防策、感染の疑いや確定例があった場合の対処法について、対象者が利用するチャンネルを通じて公衆衛生上のアドバイスを提供することが含まれます。これは、性感染症クリニックや市民社会組織などの医療提供者と密接に協力しながら、最もリスクの高い人口集団に的を絞った地域社会との関わりと組み合わせる必要があります。
 
リスクコミュニケーションは、ソーシャルリスニングによって大衆の感情を察知し、起こりうる噂や誤った情報に適時に対処すべきです。健康情報とアドバイスは、男性とセックスをする男性(MSM)など特定のグループに対するいかなる形の非難も避けて提供されなければなりません。
 
主なメッセージは以下の通りです。
 
・予防― 性的接触を含め、感染者と直接接触した人がサル痘にかかる可能性があります。自衛策として、症状がある人との皮膚や顔への接触を避け、より安全な性行為を行い、水と石鹸またはアルコールベースの手指消毒で手を清潔に保ち、呼吸器のエチケットを守ることが挙げられます。
 
・症例感知とケア― 発熱や不快感、体調不良を伴う発疹が出たら、医療機関に連絡し、サル痘の検査を受けましょう。サル痘の疑いがある、あるいは確定された人は、かさぶたが落ちるまで隔離し、オーラルセックスを含む性行為を控える必要があります。この間、患者はサル痘の症状を和らげるための支持療法を受けることができます。サル痘の患者を介護する人は、マスクを着用し、触れた物や表面をきれいにするなど、適切な個人防護策をとる必要があります。
 
・届出― 旅行中や帰国後に発疹のような病気になった場合は、最近のすべての旅行歴、性生活歴、天然痘の予防接種歴などの情報を含めて、直ちに医療専門家に報告する必要があります。サル痘流行国の居住者及び旅行者は、サル痘ウイルスを保有している可能性のあるげっ歯類、有袋類、霊長類(生死にかかわらず)などの病気の哺乳類との接触を避け、野生鳥獣(ブッシュミート)を食べたり取り扱わないようにする必要があります。
 
大規模な集まりへの留意点
大規模な集会において、サル痘ウイルスの感染が拡大することが懸念されています。大規模な集会では、人と人が密接に、長時間、頻繁に交流することになり、その結果、参加者は病変部、体液、呼吸器飛沫、汚染された物質に接触する可能性があるため、サル痘ウイルスの感染を助長する環境となる可能性があります。
 
今回のサル痘の正確な感染メカニズムはまだ調査中であり、新型コロナウイルスの感染メカニズムとは異なると思われますが、新型コロナウイルスに対して推奨されている一般的な予防措置は、サル痘のウイルス感染にも有効となる可能性があると考えられることを再認識しておくことが重要です。
 
また、上記の疑い例、可能性例、確定例の定義に当てはまる人は、他の人との密接な接触を控え、大きな集まりに参加しないようにしてください。
 
WHOは、現在発生しているサル痘の発生状況を注意深く監視しています。現時点では、サル痘患者が検出された地域での大規模な集会の開催、延期、中止に関して特別な措置は必要ありませんが、大規模な集会の参加予定者が十分な情報を得た上で判断できるよう、情報を共有することは可能です。
 
医療現場における臨床管理と感染予防・管理に関する留意点
サル痘が疑われる、あるいは確認された患者をケアする医療従事者は、標準予防策、接触予防策、飛沫予防策を講じる必要があります。これらの予防策は、外来などを含むあらゆる医療施設に適用されます。標準予防策には、手指衛生の厳守、汚染された医療機器、洗濯物、廃棄物の適切な取り扱い、環境の清掃と消毒が含まれます。
 
疑い例や確定例は、適切な換気、専用の浴室、スタッフのいる個室に速やかに隔離することが推奨されます。個室が準備できない場合は、コホート化(確定例と確定例、疑い例と疑い例)を実施し、患者間の距離を1メートル以上確保することで同室での隔離が可能です。推奨される個人用保護具(PPE)には、手袋、ガウン、医療用マスク、眼保護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)が含まれます。また、患者が耐えられるのであれば、医療従事者や他の患者と近距離で接触する場合(1m以下)、医療用マスクを着用するよう指示すべきです。さらに、病変部との潜在的な接触を最小限にするために、包帯、シート、ガウンを病変部のカバーに使用することができます。PPEは、患者が収容されている隔離区域を出る前に廃棄する必要があります。
 
何らかの理由でエアロゾルの発生する処置(AGPs)(呼吸器検体の吸引または開放吸引、気管支鏡検査、挿管、心肺蘇生など)が必要となり、即時に対応する必要がある場合、医療従事者は標準的処置として、医療マスクの代わりにより高性能なマスク(FFP2またはEN認定同等品または米国NIOSH認定N95)を使用しなければなりません。
 
隔離および感染予防措置は、症状が消失するまで(発疹やかさぶたが落ち、治癒するまでを含む)継続する必要があります。
 
特定の抗ウイルス剤(サル痘で承認されているが、まだ広く利用されていないテコビリマットなど)を含む医薬品の対策は、特に症状が重い人や予後が悪くなる恐れのある人(免疫抑制者など)に対して、治験または人道的使用プロトコルに基づいて検討することが可能です。最近、サル痘のワクチンが承認されましたが、まだ広く利用されていません。国によっては天然痘ワクチン製剤を保有している場合があり、国のガイダンスに従って使用を検討することができます。ワクチン製品の要請があれば、国によっては国家機関を通じて限られた量ではあるものの入手できる可能性があります。国は、曝露後予防として濃厚接触者へ、あるいは曝露前のワクチン接種として医療従事者の特定のグループに対しての適時のワクチン接種を考慮することを検討するかもしれません。
 
現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは加盟国に対し、入国者・出国者ともに海外渡航関連の措置を取ることを推奨していません。

WHOは今後、暫定的な技術ガイダンスを提供する予定です。

出典

Multi-country monkeypox outbreak in non-endemic countries 
Disease Outbreak News 21 May 2022  
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON385