複数国における小児の原因不明の急性肝炎

Disease outbreak news  2022年5月27日

流行の概要

2022年4月5日から5月26日の間に、WHOの5つの地域、33カ国から、小児における原因不明の急性肝炎の疑い例650例がWHOに報告されました。この重症急性肝炎の病因はまだ不明で調査中ですが、過去の小児における病因不明の急性肝炎の報告と比較して、臨床的に重症で、急性肝不全を発症する割合が高いことが分かっています。検出された症例が想定される数を超えているかどうか、また地域的特徴があるかは、まだ確定されていません。WHOは、世界レベルでのリスクは中程度であると評価しています。

発生の概要

2022年4月23日に発表されたWHO複数国の疾病発生ニュース「小児における原因不明の急性重症肝炎」(WHO Disease Outbreak News, Multi-Country – Acute, severe hepatitis of unknown origin in children, 23 April 2022) の後、幼児の間で原因不明の急性肝炎の症例が引き続き報告されています。
 
2022年5月26日現在、WHOの症例定義[1]に該当する650例の疑い例がWHOの5地域33カ国から報告されており、さらに99例が分類待ちとなっています。報告された症例の大部分(n=374例; 58%)はWHOヨーロッパ地域(22カ国)からであり、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国のみからでも222症例(34%)が報告されています。また、アメリカ地域(n=240例、うちアメリカ合衆国は216)、西太平洋地域(n=34例)、東南アジア地域(n=14例)、東地中海地域(n=5例)からも疑い例および分類待ち患者が報告されています(図1、表1)。
 
[1] WHOによる症例定義
確定例:現時点では該当なし
疑い例 :2021年10月1日以降、16歳以下で血清トランスアミナーゼ>500IU/L(ASTまたはALT)の急性肝炎(非A-E*型肝炎)を呈している者。
関連例:2021年10月1日以降、年齢を問わず急性肝炎(非A-E*型肝炎)を発症した人で、疑い例の濃厚接触者。
分類待ち:A-E型肝炎の血液検査結果を待っているが、他の基準を満たす場合は報告可能であり、「分類待ち」に分類されます。臨床症状で他の説明がある症例は除外されます。
**D型肝炎検査は同時感染時のみに該当するため、HBsAg陽性の人にのみ実施され、同時感染の有無を確認するため、全例では必要ありません。

図1. 2022年5月26日時点の小児における原因不明の急性重症肝炎の推定症例の国別分布(n=650)
 
表1. 2021年10月1日以降に報告された国ごとの報告例の分類(2022年5月26日時点)。


650の疑い例のうち、少なくとも38人(6%)の子供が移植を必要とし、9人(1%)が死亡したとWHOに報告されています。
 
WHO欧州地域事務所(EURO)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)による、欧州監視システム(TESSy)を通じて報告されたEU/EEA諸国の症例に関する2022年5月20日現在の最新合同監視報告書による報告は以下です。
 
・症例の4分の3(75.4%)は5歳未満。
・入院情報がある156例のうち、22例(14.1%)が集中治療室に入院していました。このうち情報が得られた117例の中で、14例(12%)が肝移植を受けています。
・全体として、181例が検体の種類を問わずアデノウイルスの検査を受け、そのうち110例(60.8%)が陽性と判定されました。陽性率は全血検体が最も高かったです(69.5%)。
・新型コロナウイルスのPCR検査を行った188例のうち、23例(12.2%)が陽性でした。新型コロナウイルスの血液検査結果が得られたのは26例で、そのうち19例(73.1%)が陽性でした。
・新型コロナウイルスワクチン接種の記録がある63例のうち、53例(84.1%)はワクチン未接種でした。
 
報告された症例のほとんどは互いに無関係と思われ、共通の曝露、危険因子、症例間の関連性を特定するための広範な疫学調査が進行中です。スコットランドでは2組の症例が疫学的に関連していると報告されており、オランダでも関連症例が報告されています。
 
疑い例に対する症例定義に基づき、検査施設における検査ではこれらの小児におけるA-E型肝炎ウイルスは除外されています。新型コロナウイルスおよび/またはアデノウイルスに関しては、WHOに報告されたデータは不完全ですが、多くの症例で検出されています。英国では最近、新型コロナウイルスと共流行するアデノウイルスの増加が観察されていますが、これらのウイルスが病因に果たす影響はまだ明確になっていません。
 
これらの症例の原因については、複数の国家機関、研究ネットワーク、WHOのさまざまなワーキンググループ、パートナー機関によって、さらに詳細な疫学的、臨床的、検査的、病理組織学的、毒物学的調査が進められているところです。また、検出された症例が想定される域値を超えているかどうか、またその場所を確認するための追加調査も計画されています。

公衆衛生上の取り組み

・罹患した子どもたちの病気の原因究明と症例発見のため、発生地全域で臨床と公衆衛生への事例対応が開始されました。
・さまざまな国の当局が、より詳細な曝露歴、毒物検査、追加のウイルス学的/微生物学的検査を含むさらなる調査を進めています。
・さらに、英国では、急性肝炎で入院したケースとその他の理由で入院したケースのアデノウイルス検出頻度を比較する症例対照研究が進められています。研究活動もWHOの地域間やパートナーとの間で調整されています。
・WHOは、専門家ネットワークや肝臓専門病棟との情報共有を引き続き支援しています。
・小児の急性肝不全の診断、症例調査、報告、臨床的特徴、臨床管理について加盟国を支援するためのガイダンスを作成しています。
・主にヨーロッパで実施された小児科と肝臓センターに関する最初の調査は、小児における原因不明の重症急性肝炎の現在の症例数が、複数の国において、または特定の国のみにおいて自然発生率を上回っているかどうかを確認するために拡大されています。

WHOによるリスク評価

WHOは、以下の点を考慮し、世界レベルでのリスクを中程度と評価しています。
 
1.この重症急性肝炎の病因は不明であり、調査中です。この症例は、これまでの小児における病因不明の急性肝炎の報告と比較して、臨床的に重症であり、急性肝不全を発症する割合が高いです。
2.現在、WHOが入手できる疫学的、検査情報、病理組織学的、臨床的情報は限られています。
3.実際の症例数は、サーベイランス能力が限られていることもあり、環境によっては本来より少なく報告されている可能性があります。
4.病因となりうる病原体の発生源や伝播様式がまだ明確化していないため、さらなる拡大の可能性を十分に評価することができません。
5.医療関連感染の報告は今のところありませんが、疫学的に関連した症例が数例報告されていることから、ヒトからヒトへの伝播は否定できません。
 
アデノウイルスは、英国では検査した症例の75%から検出されましたが、他の国のデータは不完全です。これまでに型分類された少数の検体のうち、大多数はアデノウイルス41型が確認されています(英国では、結果が得られた35例のうち27例で確認されています)。アデノウイルス関連ウイルス2型(AAV-2)も、英国では肝臓と血液検体のメタゲノム解析により少数の症例で検出されました。しかし、残りの症例の多くは適切な検体が採取されておらず、検出されたアデノウイルスのタイプをさらに特徴付けるために適切な採血(全血)が重要であることが強調されました。また、これまでにアデノウイルス41型感染症は、健常小児におけるこのような臨床症状との関連は認められていません。
 
アデノウイルスは発症機序の一部として可能性がある仮説ではありますが、原因に関してはさらなる調査が必要となっています。アデノウイルス感染症(一般に幼児では軽度の自己限定的胃腸炎や呼吸器感染症を引き起こします)は、これらの症例で認められるより重症となっている臨床像を完全に説明できるものではありません。新型コロナウイルスの流行時にアデノウイルスの循環量が減少し、幼児が容易に感染しやすくなったこと、新たなアデノウイルスの出現、新型コロナウイルスの同時感染、新型コロナウイルスの過去の感染の合併症などが、スーパー抗原による免疫細胞の活性化をもたらし、小児の多系統炎症症候群の原因として提案されているが、さらなる検討が必要となっています。新型コロナウイルスワクチンの副作用に関連する仮説は、患児のほとんどがこれらのワクチンを接種していないため、現在のところ支持されていません。リスクを完全に評価し管理するためには、独立した要因または寄与する要因として、他の感染性および非感染性の説明を除外する必要があります。現在明らかにされているアデノウイルスとの関連は、アデノウイルスの地域伝播レベルの上昇に伴う検査施設での検査の強化による偶発的な発見である可能性があることに留意することも重要となります。このことは、アデノウイルス検査が欧米以外の他の症例にも拡大され、現在進行中の英国保健安全保障庁(以下、UKHSAという)症例対照研究からの知見が報告されれば、さらに明らかにされるでしょう。
 
病因が確定していないため、一部の国では、A型-E型肝炎ウイルスやアデノウイルスを含む検査能力の制限により、WHOの症例定義の実施やさらなる診断除外が困難となっているなど、さらなる課題を抱えています。まだ症例が発見・報告されていない国では、小児の急性肝炎の症例の存在を否定することはできませんが、入院が必要な症候性・重症の症例患者が発見されないままであるとは考えにくいです。

WHOからのアドバイス

加盟国は、上記の症例定義に適合する潜在的な症例を特定・調査し、報告することが強く奨励されます。中核となる疫学的・危険因子に関する情報は、加盟国によって収集され、合意された報告メカニズム(IHR、欧州地域のTESSyプラットフォームなど)を通じてWHOやパートナー機関に提出されることができます。WHOは既存のWHO Global Clinical Data Platformを通じたデータ収集を支援するため、臨床例報告フォームを開発中です。
 
全血、血清、尿、便、呼吸器、肝生検(可能な場合)検体は、症例定義に合致するすべての症例について実施されるべきです。特に、原因究明のための検査能力が不足している場合、施設は将来、検査が可能になったときに備え、タイピング、および/または別の検査機関への検体送付のために、能力に応じて検体を採取し保管する必要があります。WHOは、暫定的なガイダンスを作成し、加盟国の検査施設を支援するために、地域および世界の紹介先検査施設のネットワークを構築しています。
 
症例間の疫学的な関連は、疾病の発生源を追跡するための手がかりとなるかもしれません。患者およびその接触者の時間的・地理的な情報は、潜在的な危険因子について検討されるべきです。現在のアデノウイルスや新型コロナの現在および過去の感染を含む感染症の影響を評価するための追加情報の収集と、その他の潜在的な説明/寄与因子(他の感染症、毒素、薬剤、または他の基礎疾患)の調査が急務です。
 
アデノウイルスやその他の一般的な感染症の予防のために、こまめな手洗いや呼吸器系の衛生管理を行う必要があります。
 
より多くのことが判明するまでは、一般的な感染予防と管理を行うことが推奨され、その方法は以下の通りです。
 
・石鹸と水またはアルコールベースのハンドジェルを使用して、頻繁に手指衛生を清潔に保つ。
・人混みを避け、他人との距離を保つ。
・屋内では換気をよくする。
・推奨される場合には、口と鼻を覆うフィット感のあるマスクを着用する。
・咳やくしゃみをカバーする。
・飲料水には安全な水を使用する。
・安全な食品の取り扱いと調理法を守る。
・頻繁に手で触れる場所は、定期的に清掃する。
・体調が悪いときは家にいて、医師の診察を受ける。
 
医療施設では、標準予防策を遵守し、疑い例や可能性のある例に対しては、接触予防策や飛沫予防策を実施する必要があります。
 
小児急性肝炎の場合、管理・制御手段や能力は特定の原因物質によって異なるため、最適な症例管理を行うために症例を早期に発見し、原因を特定することが最大の関心事となります。 ほとんどの国が急性肝炎の内科的治療の能力を備えていますが、肝移植の能力や肝不全の集中的なサポートとケアについてはそうではありません。
 
WHOは状況を注意深く監視し、加盟国やパートナーと協力して国際的な調整を支援しています。

出典

Acute hepatitis of unknown aetiology in children - Multi-country
Disease Outbreak News 27 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/DON-389