複数国(非エンデミック国)におけるサル痘の発生について - 更新2

Disease outbreak news  2022年6月4日
 

今回発表されたDisease Outbreak Newsは、先に発表された5月29日のDisease Outbreak Newsの更新版であり、ワクチン接種を含むガイダンスの短い要約も提供されています。

発生状況一覧

2022年5月13日以降、2022年6月2日現在、サル痘ウイルスのエンデミック国ではないWHOの4地域にわたる27加盟国から780の検査確定例がWHOに報告またはWHOによって特定されています。疫学調査は継続中で、これまでのところ、報告された症例のほとんどは、一次または二次医療機関における性感染症専門外来またはその他の保健医療サービスを通じて報告されており、主に男性と性交渉を持つ男性(以下、「MSM」という。)が患者となっています(ただし、MSMに限定されるものではありません)。
 
これまでのところ、検体からは西アフリカの系統群のサル痘ウイルスが同定されていますが、渡航歴のある確定例の多くは、サル痘ウイルスが流行している西または中央アフリカではなく、欧州および北米の国々への渡航を報告しています。 流行地に渡航していない人からサル痘ウイルスを確認することは非典型的であり、非エンデミック国から1例でもサル痘患者が発生すればアウトブレイクと見なされます。ほとんどの症例はエンデミック地域からの渡航とは関係ありませんが、加盟国からは、以前から観察されているように、ナイジェリアからの渡航者における症例も少数ですが報告されています。
 
複数の非エンデミック国で同時にサル痘が突然発生したことは、期間が不明ではあるものの、その間に未知の感染があり、その後、最近の感染拡大があった可能性を示唆しています。
 
WHOは、地理的に大きく異なる地域の非エンデミック国とエンデミック国において、多数のサル痘患者およびクラスターが同時に報告されたのは初めてであることを考慮し、世界レベルでのリスクは中程度であると評価しています。
 
WHOは、引き続き、流行国の状況について最新情報を収集していきます。

発生の概要

2022年6月2日現在、WHO4地域の27の非エンデミック国において、国際保健規則(IHR)に基づきWHOに通知、または公共情報源からWHOが確認した780の検査確定例があります。これは、合計257例が報告された5月29日のDisease Outbreak Newsから523(+203%)例の検査確定例の増加を意味します。2022年6月2日現在、非エンデミック国でのサル痘流行に関連した死亡例はありませんが、エンデミック国からは引き続き症例と死亡例が報告されています(表2参照)。
 
現在も調査が進められていますが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析から得られた予備データでは、ヨーロッパおよびその他の非エンデミック地域で検出されたサル痘ウイルス株は、西アフリカの系統群に属することが示されています。
 
図1および表1は、2022年5月13日から6月2日の間に非エンデミック国でWHOに報告された、またはWHOが確認したサル痘患者の地理的分布を示しています。症例の大部分(n=688; 88%)は、WHOヨーロッパ地域(20カ国)から報告されました。また、アメリカ大陸地域(n=80、10%)、東地中海地域(n=9、1%)、西太平洋地域(n=3、1%未満)からも確定症例が報告されています。
 
感染者数は、日々入手可能な情報が増え、IHRの規定に従ってWHOがデータを検証し更新するため、変動します。


図1. 2022年5月13日から6月2日午後5時・中央ヨーロッパ夏時間(以下、「CEST」という。)までの間に、公式な公的情報源からWHOに報告または特定された非エンデミック国におけるサル痘の症例の地理的な分布。
 
表1. 2022年5月13日から6月2日午後5時(CEST)までに公式な公共情報源からWHOに報告またはWHOによって特定された非エンデミック国におけるサル痘の症例数。

現在までのところ、確認された症例の臨床症状は様々です。このアウトブレイクでは、多くの症例がサル痘の古典的な臨床像を呈しているわけではありません。これまでに報告された症例では、性器および肛門周囲の病変、発熱、リンパ節の腫脹、嚥下時痛などが一般的な症状として認められます。発熱やリンパ節の腫脹を伴う口内炎が依然として一般的な特徴である一方、肛門性器局所分布の発疹(水疱、膿疱、潰瘍性病変を伴う)が、時に一貫して他の部位に広がらずに最初に出現することがあります。このように多くの症例で性器あるいは肛門周囲の発疹が最初に現れることから、性的接触時の濃厚な身体的接触が感染経路である可能性が高いと考えられています。また、全身症状(発熱など)よりも先に膿疱が現れたり、病変の発生段階が異なる症例もあり、いずれも歴史的に見てもサル痘の現れ方としては非典型的であることが報告されています。隔離のために入院した患者を除けば、入院の報告はほとんどありません。入院の原因となった合併症には、適切な疼痛管理の必要性と二次感染の治療の必要性が含まれています。
 
非エンデミック国から報告された、あるいはWHOによって特定された症例に加え、WHOは、確立された監視機構(統合疾患監視・対応)を通じて、アフリカ地域のエンデミック国(下記[1])で進行中のサル痘の発生状況について、引き続き最新情報を収集しています。2022年1月から6月1日までに、7つの流行国から66人の死者を含む1,408の疑い例と44の確定例が報告されています(表2)。
 
[1] サル痘のエンデミック国は次の通りです。カメルーン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン共和国、ガーナ共和国(動物のみで確認)、コートジボワール共和国、リベリア共和国、ナイジェリア連邦共和国、コンゴ共和国、シエラレオネ共和国です。ベナン共和国と南スーダン共和国は、過去に輸入症例を経験しています。現在、西アフリカ地域で感染者が報告されている国は、カメルーン共和国とナイジェリア連邦共和国です。
 
表2. 2022年1月1日から2022年6月1日までにWHOに報告されたWHOアフリカ地域のサル痘の患者数

その他の追加情報については、WHO AFRO Weekly Bulletin on Outbreaks and Other Emergenciesを参照してください。
 
状況は変化しており、WHOは、流行が進行し、エンデミック国・非エンデミック国の両方で監視が拡大するにつれて、さらに多くのサル痘の症例が確認されるものと予想しています。

公衆衛生上の取り組み

WHOは、このサル痘の発生に関する情報の共有を引き続き支援しています。臨床および公衆衛生上の有事対応は、WHOおよび多くの加盟国で、包括的な症例発見、接触者追跡、検査施設での検査、臨床管理、隔離、感染および予防・管理措置の実施を調整するために発動されています。
 
サル痘ウイルスのDNAのゲノム配列決定が、可能な限り実施されています。欧州のいくつかの国(ベルギー、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スペイン、スイス、米国)が、今回の集団感染で見つかったサル痘ウイルスの全長または部分ゲノム配列を発表しています。現在も調査が進められていますが、PCR分析による予備的なデータから、検出されたサル痘ウイルス遺伝子は西アフリカ系統群に属することが示唆されています。
 
ACAM-2000およびMVA-BNワクチンは、一部の加盟国によって、濃厚接触者を管理するために配備されています。その他の国は、LC16ワクチン保有している場合もあります。
 
サーベイランス、検査施設での診断と検査、症例調査と接触者追跡、臨床管理、ワクチンと予防接種、リスクコミュニケーションとコミュニティへの関与について加盟国を支援するための中間ガイダンスが作成されています。
 
WHOは、サル痘のアウトブレイク対応に関するガイダンスを更新し、以下の文書を発表しました。
Monkeypox minimum dataset case reporting form (CRF) (4 June 2022)
Surveillance, case investigation and contact tracing for monkeypox: Interim guidance (22 May 2022)
Laboratory testing for the monkeypox virus: Interim guidance (23 May 2022)
Monkeypox: public health advice for men who have sex with men (MSM) (25 May 2022)
WHO Monkeypox outbreak: update and advice for health workers (26 May 2022)
Technical brief (Interim) and priority actions: Enhancing readiness for monkeypox in WHO South-East Asia Region (28 May 2022)
Interim advice on Risk Communication and Community Engagement during the monkeypox outbreak in Europe, 2022 (2 June 2022)

サル痘の臨床管理と感染予防・管理、サル痘のワクチンと予防接種に関するWHO暫定ガイダンスが間もなく発表されます。

 

WHOによるリスク評価

現在、世界レベルでの公衆衛生リスクは、WHOの地理的に大きく異なる地域の非エンデミック国およびエンデミック国において、これほど多数のサル痘患者およびクラスターが同時に報告されたのが初めてであることを考慮し、中程度と評価されています。
 
症例は当初、主に特定の性自認をする男性の間で確認されました。当初は散発的な事例と思われた多くの事例が突然多く出現し、地理的にも広範囲に及んでいることから、近接した人物や身体的接触が頻繁に起こることで、ヒトからヒトへの拡大感染が促進されたことがうかがえます。いくつかの国では、確定症例の、既に判明している接触者の間で新しい症例が現れなくなったと報告しており、これはウイルスの未検出循環による感染の連鎖が見逃されていることが示唆されています。
 
また、疫学的・実験的な情報はまだ限られているため、実際の患者数は過小評価されている可能性があります。これは、以前は主に西アフリカと中央アフリカで発生することが知られていた感染症が早期に臨床的に認識されなかったこと、サーベイランスが限られていること、一部の国では診断薬が広く利用されていないことが一因と思われます。WHOのいくつかの地域でサル痘の症例を報告している国の数を考えると、他の国でも症例が確認され、ウイルスがさらに広がっている可能性が高いと思われます。
 
ヒトからヒトへの感染は、粘膜皮膚潰瘍などの感染性病変が認められる、または病変が認められない皮膚や粘膜への近接または直接的な接触(顔と顔、皮膚と皮膚、口と口、セックス中を含む口と皮膚との接触など)、呼吸器飛沫(およびおそらく短距離飛沫)、汚染物質(例えば、シーツ、寝具、電子機器、衣類)との接触によって起こります。
 
現在、一般市民に対するリスクは低いままですが、このウイルスが非エンデミック国でヒトに感染する病原体として広く定着する機会を得れば、公衆衛生上のリスクは高くなる可能性があります。また、医療従事者が感染を防ぐための適切な感染予防と管理(IPC)対策を行わず、必要に応じて適切な個人防護具(PPE)も着用していなければ、医療従事者にもリスクがあります。今回のアウトブレイクでは報告されていませんが、医療関連感染のリスクは、エンデミック地でも非エンデミック地でも過去に報告されています。小児や免疫不全者では重症化および死亡のリスクが高いと認識されているため、脆弱な集団で広く蔓延すると、健康への影響が増大する可能性があります。HIV感染者におけるデータは限られていますが、抗レトロウイルス薬を服用し、免疫系がしっかりしている人たちは、より重篤な経過をたどったという報告はありません。 しかし、HIV感染者で治療を受けていない人や免疫抑制状態にある人は、文献にあるように、より重篤な経過をたどる可能性があります。妊娠中のサル痘への感染についてはあまり理解されていませんが、限られたデータですが、感染が胎児に有害な結果をもたらす可能性を示唆しています。
 
現在までに、非エンデミック国で確認された症例で、検体がPCRによって確認された症例はすべて、西アフリカ系統群に属していると同定されています。サル痘には、西アフリカ(WA)とコンゴ盆地(CB)との2つの系統群があることが知られています。西アフリカ系統群は死亡率(以下、「CFR」という。)が3%未満であるのに対し、コンゴ盆地系統群は重症化することが多く、CFRは1~10%と報告されています(いずれもアフリカにおける若年層への感染に基づく推定値)。
 
天然痘に対するワクチン接種は、サル痘に対しても交差免疫効果を示すことがわかっています。しかし、天然痘ワクチン接種による免疫は、天然痘の撲滅に伴い天然痘ワクチン接種計画が終了し、初代(第1世代)天然痘ワクチンが一般に入手できなくなったため、その効果が期待できるのは40歳または50歳代の人に限られます。また、天然痘ワクチン接種を受けた人の免疫力は、時間の経過とともに低下している可能性があります。
 
天然痘ワクチンとサル痘ワクチンが入手可能な場合は、濃厚接触者対策のために、限られた国々で配備されています。天然痘ワクチンはサル痘に対する予防効果があることが示唆されていますが、サル痘の予防のために承認されたワクチンも1つ存在します。このワクチンは、ワクシニアウイルス(一般にMVA-BNと呼ばれています)をベースとしています。このワクチンは、カナダと米国でサル痘の予防のために承認されています。また、欧州では天然痘の予防ワクチンとして承認されています。また、オルソポックスウイルスを治療するための抗ウイルス剤も最近、米国と欧州連合で承認されました。WHOは、天然痘ワクチンとサル痘ワクチンの最新データを検討し、どのような状況でどのように使用すべきかというガイダンスを提供するために、専門家を招集しました。

WHOからのアドバイス

今後、WHOが提供する、複数国で発生したサル痘感染症への対応に必要な助言は、その技術的作業に基づくものであり、以下のWHOの既存の諮問機関との協議に基づくものです。感染症に関する戦略的・技術的諮問グループ(STAG-IH)、臨時の予防接種に関する専門家戦略的諮問グループ(SAGE)の天然痘ワクチンとサル痘ワクチンに関するワーキンググループ、緊急社会科学技術ワーキンググループ、痘瘡ウイルス研究に関する諮問委員会、WHO研究開発(R&D)ブループリント協議:サル痘の研究チーム、新規病原体の起源に関する科学諮問グループ(SAGO)、および臨時の専門家会議の結果との協議に基づくものです。
 
発熱、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛を伴い、全身の患部に斑点、丘疹、水疱、膿疱、かさぶたと段階的に進行する発疹を呈する人々に関する徴候に、すべての国が警戒を怠ってはなりません。今回の流行では、多くの人が局所的な発疹(性器周囲および肛門周囲に分布し、局所的な痛みを伴うリンパ節の腫脹を伴う)を呈しています。一部の症例では、二次的な細菌感染や、単純ヘルペスウイルス、梅毒、淋菌などの性行為感染症を併発している可能性があります。これらの患者は、プライマリーおよびセカンダリーケア、発熱外来、性感染症専門医療機関、感染症科、産科および婦人科、救急部、皮膚科クリニックなど、地域社会や医療の様々な場所を受診しにやってきますが、これらに限定されるものではありません。
 
潜在的な感染者である地域社会、医療従事者、検査機関の職員の意識を高めることは、さらなる感染者を特定・予防し、現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。今後、増幅される可能性のある大規模な集会が開催される際には、情報を最も必要とする人々に届けるべきで、サル痘に感染した可能性のある個人と地域社会に対する不必要な悪評・偏見を避けるためにあらゆる努力が必要です。
 
疑い例としての定義に合致する個人には、検査を推奨する必要があります。検査の決定は、感染の可能性の評価と関連した臨床的および疫学的要因の両方に基づいて行われるべきです。皮疹を引き起こす疾患は多岐にわたり、今回の流行では臨床症状が非典型的であることが多いため、臨床症状のみに基づいてサル痘を鑑別することは困難な場合があります。
 
サル痘が疑われる、あるいは確定した患者のケアには、地域の環境に適応したスクリーニング・プロトコルによる早期発見、迅速な隔離と適切なIPC対策(標準予防策および感染予防策)の迅速な実施、診断を確定するための検査、軽度あるいは合併症を伴わないサル痘患者の症状管理、皮膚病変の進行、皮膚病変の二次感染、稀に重度の脱水、重度の肺炎または敗血症などの合併症や生命にかかわる状態のモニタリングと治療が必要です。
 
感染予防と管理(IPC)対策(確定症例の支持的隔離を含む)は、病変が痂皮化し、かさぶたが落ち、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで継続されるべきです。
 
WHOは状況を注意深く監視し、加盟国やパートナーと協力して国際的な調整を支援しています。
 
公開されているWHOの文書については、上記の「公衆衛生上の取り組み」のセクションを参照してください。これらの文書および作成中の文書の主要なハイライトは、参照しやすいようにWHO Disease Outbreak News, 4 June 2022の記事の最下部に記載されています。
 
サーベイランスと届出(レポート)
 
WHOは、世界的な状況把握と報告のために、症例に関する主要な疫学的パラメーターを容易に把握できるよう、世界最小限のデータセットを作成しました。加盟国は、データが入手可能になり次第、IHRナショナルフォーカルポイントを通じて、それぞれのWHO地域IHRフォーカルポイントに、症例の定義に合致するすべての症例に関する最小限のデータを提出するよう要請されています。このデータは集計され、WHOを通じて定期的に公開される予定です。加盟国が独自に使用するための別の症例調査と接触者追跡の書式は現在最終調整中であり、利用可能になり次第、共有されます。
 
検査と検体管理
 
市販のPCRキットは、サル痘ウイルス検出用、オルソポックスウイルス検出用など、その種類は増えてきています。そのほとんどが実験用であり、製品として独立した品質保証が行われているものはありません。科学文献には、自前のPCRプロトコルを構築するための様々なプライマーとプローブのセットが記載されています。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティへの参加
 
サル痘関連のリスクを伝え、予防、発見、ケアについて、リスクのあるコミュニティや影響を受けるコミュニティ、コミュニティリーダー、市民社会組織、性病科クリニックを含む医療従事者に参加してもらうことは、さらなる二次感染を防ぎ、現在の流行を効果的に管理するために必要不可欠です。病気の感染経路、症状、予防策に関する公衆衛生上のアドバイスを提供し、最もリスクの高い人口集団に的を絞ってコミュニティに参加することが、蔓延を最小限に抑えるために重要です。
 
感染者と直接接触した場合、性的接触に限らず、誰でもサル痘にかかる可能性があります。自己防衛のためのステップとしては、局所的な肛門性器発疹のある人との性的接触を避け、セックスパートナーの数を制限すること、サル痘感染疑いの人と一致する症状を呈する人との濃厚な接触を避けること、水と石鹸またはアルコールベースのジェルで手を清潔に保つこと、呼吸エチケットの維持が挙げられます。
 
顔、手、足、目、口、性器、肛門周囲に水疱を伴う発疹、発熱、リンパ節の腫れ、頭痛、筋肉痛、疲労などの症状が出た場合は、医療機関に連絡し、サル痘の検査を受けなければなりません。サル痘の疑いがある、あるいは確定した場合は、かさぶたが剥がれるまで隔離し、他人とのスキンシップや対面での接触を避け、オーラルセックスを含む性交渉も控える必要があります。この間、患者は症状を和らげるための支持療法を受けることができます。サル痘の患者を介護する人は、上記のように適切な個人防護策を講じる必要があります。
 
サル痘エンデミック国の居住者および渡航者は、サル痘ウイルスを保有している可能性のあるげっ歯類、有袋類、霊長類(生死にかかわらず)などの病気の哺乳類との接触を避け、野生の狩猟肉(ブッシュミート)を食べたり扱わないようにする必要があります。
 
また、サル痘にまつわる噂や誤った情報の拡散を防ぐことも重要です。 公衆衛生当局は、ソーシャルメディアを通じたものも含め、公衆衛生上の懸念に体系的に耳を傾け、分析し、重要な疑問や情報の不足している部分を特定し、誤報に対する対応を構築することが重要です。 一般市民は、検証され信頼できる情報源からのみ情報を得るよう奨励されるべきです。
 
医療現場における感染、予防、管理
 
適切なIPC対策の実施は、ヘルスケアおよびコミュニティ環境におけるサル痘の感染を軽減・制御するために不可欠です。これには、医療現場内でサル痘に曝露するリスクを低減するための制御階層(管理、環境、工学的制御)の適用およびPPEの使用が含まれます。医療従事者は標準予防策を常に適用すべきです。これには、患者と接するたびにリスク評価を行うこと、呼吸器衛生と咳エチケット、患者の配置、PPE、無菌法、安全な注射手技と鋭利な物品による外傷防止、損傷防止、環境の清掃と消毒、洗濯物とリネンの適切な取り扱い、再利用可能な患者ケア用品と機器の除染と再処理、廃棄物の管理などが含まれます。WHOは、サル痘の疑い例や確定例に対して、IPC対策を実施すべきであると勧告しています。
 
臨床管理および治療
 
ヒトのサル痘患者の大半は、軽度から中等度の症状を経験します。サル痘の患者には、発熱に対する解熱剤や痛みに対する鎮痛薬など、軽い症状に対する対症療法を行う必要があります。皮膚病変は清潔に保つ必要があります。十分な栄養と水分補給が重要です。緊急の治療が必要な合併症の徴候や症状について、患者にカウンセリングを行う必要があります。
 
まれではありますが、サル痘の患者は生命を脅かす重篤な合併症を発症することがあります。例えば、皮膚病変は、細菌性皮膚軟部組織感染症にかかりやすくなっています。皮膚病変は非常に痒く、掻破により二次的な細菌感染を起こすと、細心の局所創傷処置と、場合によっては抗菌薬治療が必要になることもあります。 また、口腔内や眼粘膜に病変が生じることもあります。エンデミック国での合併症としては、二次的な皮膚細菌感染、脱水、結膜炎、角膜炎、肺炎、敗血症や敗血症性ショック、まれに脳炎や死亡があります。したがって、治療は、必要に応じて、臨床症状の管理、栄養・水分補給状態の維持、合併症や後遺症の予防に重点を置く必要があることになります。
 
サル痘患者に対しては,標準化された臨床データおよび患者の転帰データを収集する無作為化臨床試験の下で抗ウイルス薬を使用し,有効性と安全性に関するエビデンスを迅速に構築する必要があります。それが不可能な場合は、MEURI(Monitored Emergency Use of Unregistered and Investigational Interventions:緊急時の監視下に置ける未承認薬の治験的利用)などの拡大アクセスプロトコルの下で抗ウイルス薬を使用することができます。
 
ワクチンと予防接種
 
最近、いくつかの国で承認されたサル痘ワクチンがありますが、その供給は限られていますが国によっては天然痘ワクチン製品を保有している場合があり、それぞれの国のガイドラインに従って使用を検討することができます。国によっては、国家機関を通じて限られた量のワクチン製品を入手することができます。
 
ワクチンの供給にかかわらず、サル痘の集団接種は必要ではなく、推奨もされません。早期の症例発見と診断、隔離、接触者の追跡を通じて、サル痘のヒトからヒトへの伝播を制御するためにあらゆる努力を払わなければなりません。
 
曝露後予防(PEP)は、適切な第2世代または第3世代の天然痘またはサル痘ワクチンで、発症を防ぐために理想的には最初の曝露から4日以内(最大14日)に、患者の接触者に接種することが推奨されます。
 
曝露のリスクが高い医療従事者、オルソポックスウイルスを扱う検査機関職員、サル痘の診断検査を行う臨床検査室職員、公衆衛生当局が指定する対応チームメンバーには曝露前予防(PrEP)が推奨されます。
 
天然痘ワクチンやサル痘ワクチンの接種に関するあらゆる決定は、臨床的意思決定を共有し、ケースバイケースでリスクと利益の評価に基づいて行われるべきです。
 
ワクチン接種の実施には、確固たるファーマコビジランス(医薬品安全性監視)を伴うべきであり、臨床試験プロトコルの下でのワクチン有効性試験の実施が強く推奨されます。
 
ワンヘルス
 
エンデミック地では、様々な野生哺乳類がサル痘ウイルスに感受性があることが確認されています。これには、リス(rope squirrelやtree squirrel)、アフリカオニネズミ、ヤマネ、霊長類などが含まれます。一部の種は無症状で、特に感染源と疑われている種(げっ歯類)は無症状です。また、サルや類人猿などでは、ヒトと同じような皮疹が見られます。 これまでのところ、家畜がサル痘ウイルスに罹患したとの報告はありません。また、サル痘のヒトから動物への感染も報告されていません。しかし、ヒトから動物への感染のリスクは仮説として残されています。サル痘感染者は、感染者から家庭内の感受性動物(ペットを含む)、あるいは家庭の周辺に生息する動物(特にネズミ)への感染を防ぐため、すべての廃棄物(包帯・絆創膏など)および汚染の可能性のある物品を適切に管理する必要があります。
 
大規模な集会
 
大規模な集会では、人と人が密接に、長時間、頻繁に交流し、その結果、病変部、体液、呼吸器飛沫、汚染された物質に接触する可能性があり、サル痘ウイルスの感染を助長する環境となる可能性があります。
 
サル痘患者が発見された地域での集会の延期や中止は、既定の措置として必要ありませんが、以下のような予防措置を検討することが可能です。
・サル痘の疫学、感染、予防に関する情報を大規模な集会への参加予定者と共有し、そのようなイベントを情報発信や地域社会への参加の機会として活用すること。
・サル痘と新型コロナウイルスの感染経路は異なりますが、新型コロナウイルスの対策である距離を置く、手洗いを励行するなどは、サル痘ウイルスの感染にも有効です。
・サル痘の症状が出ている人との濃厚な接触は、性的接触も含めて避けるべきです。
・集会参加者の出席者名簿は、サル痘患者が確認された場合に、連絡先を追跡しやすくするために、必要に応じて導入することができます。
・集会で発病した参加者の対応を担当するスタッフには、サル痘と一致する徴候や症状のある人の管理方法に関する情報を提供します。
 
大規模な集会では標準的な慣行であり、新型コロナウイルスの流行中はなおさらであすが、当局およびイベント主催者は、集団集会に対する意思決定にWHOが推奨するリスクベースのアプローチを適用し、検討中の大規模または小規模の社交イベントに合わせて調整するよう要請されます。現在の流行状況においては、サル痘に関連するリスクを考慮し、考えておく必要があります。
 
海外渡航
 
現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは締約国に対し、入国者または出国者のいずれに対しても、国際渡航関連の措置を採用することを勧告しません。
 
旅行中または帰国後に発疹のような病気になった場合は、最近のすべての旅行、性生活歴、天然痘の予防接種歴に関する情報を含めて、直ちに医療専門家に報告する必要があります。サル痘患者の接触者として特定され、健康監視の対象となっている人は、健康監視期間が終了するまで、海外を含むいかなる旅行も避けるべきです。
 
WHOは、すべての加盟国、あらゆるレベルの保健当局、臨床医、保健・社会部門のパートナー、学術・研究・商業パートナーが、地域的な広がり、ひいては複数国にまたがるサル痘の発生を食い止めるために迅速に対応するよう要請しています。このウイルスが、エンデミック地でも非エンデミック地でも、人から人への効率的な感染を可能にするヒト病原体としてさらに定着する前に、迅速な行動を取らなければならなりません。
 

出典

Multi-country monkeypox outbreak: situation update
Disease Outbreak News 04 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON390