複数国(非エンデミック国)におけるサル痘の発生について - 更新4

Disease outbreak news  2022年6月17日
 

今回のDisease Outbreak Newsは、6月10日に発表したDisease Outbreak Newsの内容を更新し、データの更新、サーベイランスと届出(レポート)、ワンヘルス、集会、リスクコミュニケーションとコミュニティへの参加、海外渡航と入国地点に関する詳細な情報を掲載しています。
 
今号では、必要な統一的な対応を反映するため、エンデミック国・非エンデミック国の区別をなくし、可能な限り各国の情報をまとめてお伝えしています。

発生状況一覧

2022年1月1日以降、WHOの5つの地域(アメリカ地域、アフリカ地域、欧州地域、東地中海地域、西太平洋地域)の42加盟国からサル痘の患者がWHOに報告されています。6月15日現在、合計2,103の検査確定例と1人の疑い例(1人の死亡例を含む)がWHOに報告されています。サル痘の流行は、主に、新しいパートナーまたは複数のパートナーとの最近の性交渉を報告した男性と性交渉を持つ男性を主体に感染し続けています。
 
疫学的調査は継続中ですが、最近のアウトブレイクで報告されたほとんどの症例は、一次または二次医療施設における性感染症専門医療部門またはその他の保健医療サービスを通じて報告されており、歴史的にウイルスの存在が知られていなかった国よりも、主にヨーロッパ、北米などの国々への渡航歴があり、最近では国内の旅行や全く旅行をしない人でも増えてきています。
 
ある国で、1人のサル痘患者が確認された場合、それがアウトブレイクとみなされます。歴史的にサル痘が報告されている地域との疫学的なつながりが当初なかったにもかかわらず、いくつかの地域でサル痘が予期せず発生したことは、しばらくの間、検出されない感染があった可能性を示唆しています。
 
WHOは、WHOの地理的に大きく異なる地域の多くの国で同時に多数のサル痘患者およびクラスターが報告されたのは初めてであること、今回のアウトブレイクでは致死率が低く保たれていることを考慮して、世界レベルでのリスクは中程度と評価しています。

発生の概要

2022年1月1日から6月15日の間に、WHOの5つの地域の42カ国から、累積で2,103の検査確定例、1人の推定症例、1人の死者がWHOに報告されました。大部分の症例(98%)は、2022年5月以降に報告されています(図1)。


図1:2022年1月から2022年6月15日までのWHO地域別サル痘確定症例、データは2022年6月15日17時中央ヨーロッパ時夏時間(CEST)時点のものです。
 
注:現在の疫学上の週別のデータは不完全なため、慎重に解釈する必要があります。
 
確定症例(n=1,773)の大部分(84%)はWHOヨーロッパ地域から報告されています。アフリカ地域(n=64、3%)、アメリカ地域(n=245、12%)、東地中海地域(n=14、1%未満)、西太平洋地域(n=7、1%未満)からも確定例が報告されています。人口統計学的情報と個人的特徴が入手可能な14カ国からの報告例(確定例2,103例中468例)のうち、99%が0~65歳(四分位範囲:32~43歳、中央値37歳)の男性で、そのほとんどが自身を男性と性交渉を持つ男性と自認している人たちです。
 
図2および表1は、2022年1月1日から6月15日午後5時(CEST)までにWHOに報告または特定された国別のサル痘の症例数を示しています。
 
症例数は、より多くの情報が入手可能になり、国際保健規約(IHR2005)に基づきデータが検証されるにつれ、変動しています。
 
これまでの更新では、アフリカ地域の疑い例と死亡例を含んでいました。現在は、主に確定症例と疑い症例に焦点を当て、確定症例と疑い症例の中の死亡例も含めています。


図2. 2022年1月1日から6月15日午後5時(CEST)までの間にWHOに報告された、または公式な公的情報源から特定されたサル痘の症例の地理的分布(n=2103).
 
表1:2022年1月から2022年6月15日までのWHO地域別サル痘確定例。
2022年6月15日17時(CEST)現在のデータ


現在までのところ、この集団発生に関連するサル痘患者の臨床症状は様々です。この集団発生の多くの症例は、サル痘の古典的な臨床像(発熱、リンパ節の腫脹、それに続く遠心性発疹)を呈していません。非典型的な特徴としては、病変が少数あるいは単発であること、性器あるいは会陰・肛門部に始まりそれ以上広がらないこと、病変が異なる(非同期)時期に出現すること、発熱、倦怠感などの全身症状が出現する前に病変が出現すること、などが報告されています。性的接触における感染様式は不明です。身体的に密接なスキンシップや対面での接触により感染する(感染性の皮膚や病変に直接触れる)ことは知られていますが、精液や膣からの分泌液などの性液がサル痘の感染にどのような役割を果たすかは明らかではありません。

公衆衛生上の取り組み

WHOは引き続き情報共有の支援を行っています。臨床および公衆衛生上の有事対応は、包括的な症例発見、接触者追跡、検査解析、臨床管理や隔離、感染の予防・管理措置の実施を調整するために加盟国によって実施されています。
 
ウイルスのDNAのゲノム解析が、可能な限り実施されています。ヨーロッパのいくつかの国(ベルギー王国、フィンランド共和国、フランス共和国、ドイツ連邦共和国、イスラエル国、イタリア共和国、オランダ王国、ポルトガル共和国、スロベニア共和国、スペイン王国、スイス連邦、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)、オーストラリア連邦、カナダ、ナイジェリア連邦共和国、シンガポール共和国、アメリカ合衆国は、今回の流行で見つかったサル痘ウイルスの完全長または部分ゲノム配列を発表しています。現在も調査が進められていますが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析から得られた予備データでは、検出されたサル痘ウイルス遺伝子は西アフリカの系統群に属することが明らかになりました。
 
ACAM-2000とMVA-BNワクチンは、一部の加盟国によって、濃厚接触者の管理のために配備されています。その他の国ではLC16やその他のワクチンを供給しているかもしれません。
 
現在、加盟国を支援するために、意識向上、サーベイランス、症例調査、接触者追跡、検査診断、臨床管理、感染予防管理、ワクチンと予防接種、リスクコミュニケーションとコミュニティ参加に関する中間ガイダンスが作成されています(6月17日の本Desease Outbreak News、詳細情報に記載のWHOガイダンスと公衆衛生勧告の項をご参照ください)。

WHOによるリスク評価

現在、世界レベルでの公衆衛生リスクは、サル痘の症例とクラスターがWHOの地理的に大きく異なる多くの国で同時に報告されたのが初めてであること、今回の流行で死亡率が低く保たれていることとのバランスから、中程度と評価されています。
 
新たに感染が発生したと考えられる国々では、主に男性と性交をする男性として自認し、拡大した性的ネットワークに参加している男性の間で患者が確認されていますが、そればかりではありません。人から人への感染は現在も続いており、主にある特定の人口層や社会集団で発生しています。実際の症例数はまだ過小評価されている可能性があります。これは、以前は西アフリカや中央アフリカで多く発生していると考えられていた感染症が早期に臨床的に認識されなかったこと、ほとんどの症例が重篤な臨床症状がないこと、限られたサーベイランス、そして広く利用できる診断法がないことが一因と思われます。これらのギャップを解決するための努力が行われている一方で、感染拡大を防ぐために、すべての集団においてサル痘に対する警戒を続けることが重要です。
 
現在のところ、新しく感染が発生したと思われる国々での感染は、主に最近の性的接触に関連しています。今後、他の集団への感染も含め、感染経路が特定されないまま、さらなる症例が発見される可能性が高いです。WHOのいくつかの地域でサル痘の症例を報告している国の数を考えると、他の国でも症例が確認され、ウイルスがさらに拡大する可能性が高いです。ヒトからヒトへの感染は、性行為中を含む感染性病変または粘膜皮膚潰瘍との濃厚または直接的な身体的接触(対面、皮膚から皮膚、口から口、口から皮膚)、呼吸器飛沫(およびおそらく短距離エアロゾル)、または汚染物品(例えば、シーツ、寝具、電子機器、衣類、性具)との接触によって起こります。
 
現在のところ、一般市民に対するリスクは低いままです。医療従事者は、感染を防ぐための適切な個人防護具(PPE)を着用せずに患者と接触した場合にリスクがあります。今回の集団発生ではまだ報告されていませんが、医療関連感染のリスクは過去の前例はあります。サル痘がより広く、より脆弱な集団に広がり始めた場合、HIV感染のコントロールが不十分な人を含む免疫不全の人において、重症化および死亡のリスクが高いことが知られているため、健康への影響がより大きくなる可能性があります。妊婦のサル痘感染に関しては十分に理解されていませんが、データは限られていますが、感染が胎児や新生児、母親にとって有害な結果をもたらす可能性があることが示唆されています。
 
現在までのところ、新たに感染が発生した国で確認された症例で、検体がPCR法で確認されたものはすべて西アフリカ系統群に感染していることが確認されています。サル痘ウイルスには、西アフリカ(WA)で最初に確認されたものと、コンゴ盆地(CB)地域で確認されたものとの2つの系統群があることが知られています。西アフリカ系統群は過去に1%未満という低い致死率と関連している一方、コンゴ盆地系統群はより頻繁に重症化するようで、致死率は最大約10%と報告されています。どちらの推定値も、アフリカの環境における一般的に若い集団での感染に基づいています。天然痘が根絶された直後の時代には、天然痘への曝露や天然痘ワクチンの接種により、オルソポックスウイルスに対する免疫を獲得している人が多くいました。したがって、ヒトのサル痘感染の初期の症例のほとんどは、脆弱であるために重症化する危険性のある小児の間で発生しました。
 
天然痘の予防接種は、過去にサル痘に対する交差免疫により感染を防ぐことが示されました。1980年に天然痘が撲滅され、天然痘ワクチン接種が全世界で終了したため、現在では、国によって異なりますが、42歳から50歳以上の人にのみ、過去の天然痘ワクチン接種による免疫が継続して存在する場合がほとんどです。ワクチン接種を受けた人の免疫力は、時間の経過とともに低下している可能性があります。根絶計画のオリジナル(第一世代)天然痘ワクチンは、現在では一般に入手することはできません。
 
天然痘ワクチンとサル痘ワクチンは、入手可能な場合、数カ国で濃厚接触者対策のために配備されています。安全性能が改善された第2世代および第3世代の天然痘ワクチンが開発され、1つはサル痘予防のために承認されています。このワクチンは、ワクシニアウイルス(一般名:MVA-BN、modified vaccinia Ankara Bavarian Nordic strain)をベースにしたもので、カナダと米国でサル痘の予防のために認可されており、欧州連合(EU)では、天然痘の予防として例外的に承認されています。抗ウイルス剤であるテコビリマット(tecovirimat)は、天然痘の治療薬として欧州医薬品庁、カナダ保健省、米国食品医薬品局(FDA)から承認され、欧州連合(EU)では、サル痘の治療薬として承認されています。WHOは、天然痘ワクチンとサル痘ワクチンの最新データを検討し、どのように、どのような状況で使用できるかのガイダンスを提供するため、専門家を招集しました。

WHOからのアドバイス

今後、WHOが提供する、複数国で発生したサル痘感染症への対応に必要な助言は、その技術的作業に基づくものであり、以下のWHOの既存の諮問機関との協議に基づくものです。感染症に関する戦略的・技術的諮問グループ(STAG-IH)、臨時の天然痘ワクチンとサル痘ワクチンの予防接種に関する専門家の戦略的諮問グループ(SAGE)のワーキンググループ、緊急社会科学技術ワーキンググループ、天然痘ウイルス研究に関する諮問委員会、WHO研究開発(R&D)、ブループリント協議:サル痘研究、新規病原体の起源に関する科学諮問グループ(SAGO)、および臨時の専門家の会合結果などです。 
 
発熱、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛を伴い、全身の患部で同じ発育段階の黄斑、丘疹、小水疱、膿疱、かさぶたと順次進行する発疹を呈する患者に関する兆候に、すべての国が警戒を怠ってはなりません。今回の流行では、多くの人が非典型的な症状を呈しており、局所的な発疹を含み、病変はわずか1つであることもあります。 病変の出現は非同期的で、局所的な痛みを伴うリンパ節の腫脹を伴う性器周囲および/または肛門周囲への分布が主または専らである場合があります。患者によっては、性感染症を併発することもあり、検査と適切な治療が必要です。これらの患者は、プライマリーおよびセカンダリーケア、発熱外来、性感染症専門医療機関、感染症科、産科および婦人科、救急部、皮膚科クリニックなど、地域社会や医療の様々な現場に現れてきますが、これらに限定されるものではありません。
 
潜在的な感染者を含む地域社会、医療従事者、検査施設従事者の意識を高めることは、さらなる感染者を特定・予防し、現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。
 
疑い例の定義に合致する個人には、検査を実施するべきです。検査を行うかどうかは、感染の可能性の評価と関連した、臨床的および疫学的な要因の両方に基づいて決定されるべきです。皮疹を引き起こす疾患は多岐にわたり、今回の流行では臨床症状が非典型的であることが多いため、臨床症状のみに基づいてサル痘を鑑別することは困難な場合があります。
 
サル痘が疑われる、あるいは確定した患者の治療には、現地の状況に合わせたスクリーニングによる早期発見、迅速な隔離、適切なIPC対策(サル痘の疑い/確定患者のケアをする医療従事者への呼吸器使用の追加を含む標準予防策および感染予防策、およびリネンの安全な取り扱いや環境の管理の重視)の迅速な実行が必要とされます。これには患者の身体検査、診断確定のための検査、軽症または合併症のないサル痘患者の対症療法、皮膚病変の進行、皮膚病変の二次的細菌感染、眼病変、まれに重症脱水、重症肺炎、敗血症などの合併症や生命を脅かす状態の監視と治療などが含まれます。自宅隔離となっている重症度の低いサル痘患者は、他の家庭や地域住民への感染を防ぐために、自宅で安全に隔離し、必要なIPC予防策を維持できるかを注意深く評価する必要があります。
 
病変が痂皮化し、かさぶたが落ち、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで、予防措置(隔離)を続けるべきです。
 
特に、社会的・性的ネットワークにおいて、身体的・性的接触が密接、頻繁、または長期に及ぶ可能性があり、それが複数のパートナーに及ぶ場合はなおさらです。サル痘に感染した可能性のある個人や地域社会に対する不必要な偏見を避けるために、あらゆる努力が払われるべきです。
 
WHOは、状況を注意深く監視し、加盟国やパートナーとともに国際的な調整を支援しています。
 
WHOの関連文書については、6月17日付のDesease Outbreak Newsの詳細情報(Further information)セクションを参照してください。これらの文書の主な更新内容や、作成中の文書のハイライトは、参照しやすいようにまとめて記載されています。
 
サーベイランスと届出(レポート)
 
国際保健規則(IHR2005)第6条に基づき、報告するための最小限のデータセット(症例報告書としての書式)が作成され、加盟国と共有されています。このデータは集計され、WHOの情報製品を通じて定期的に一般に公開される予定です。加盟国向けの詳細な症例調査および接触者追跡フォーム(CIF)も別途、加盟国と共有されています。この書式は、症例の曝露リスクや伝播動態学、接触者の二次感染リスクの調査に使用することができます。WHOは、現在のアウトブレイクに関する世界的な理解を深めるために、これらの詳細なデータや分析を共有することに関心を持つ加盟国の確認を進めています。CIFの実施を支援するためのプロトコルも完成間近です。
 
WHOはまた、関連データの現地での取得、分析、共有を容易にするため、Go.Dataプラットフォームに症例報告書(CRF)とCIFを導入しました。過去の大発生では、クラスターの特定、曝露パターンの理解、異なる環境間でのウイルス伝播の定量化のために、伝播連鎖の分析とネットワークの可視化が使用されてきました。現在のサル痘の発生状況において、これらの伝播パターンを理解することは、どの制御手段が有効であるかを見つける上で重要であるだけでなく、呼吸器感染の範囲の特徴付けや、複数の感染源(ヒトまたは動物由来)が発生したかどうかを判断することも可能になるでしょう。現在までのところ、感染経路をグラフ化し、感染のクラスターや状況をリアルタイムで特定できるようなツールは、各国とも限られています。このため、Go.Dataは加盟国、パートナー、機関によって、主に感染の感染連鎖の情報集積、可視化、分析において、アウトブレイク対応活動の強化に活用される機会を提供します。Go.Dataの「可視化」機能により、各国は感染経路を可視化し、分析することができます。Go.Dataにより、各国は感染経路をリアルタイムで可視化することができ、疾患の進行状況の監視や、ウイルスの未検出循環や新しい循環系統群によって見落とされている潜在的な新規患者の特定が容易になります。Go.Dataのサル痘アウトブレイクテンプレートと関連するメタデータの説明は、godata@who.int にメールでリクエストすることで入手可能です。
 
検査と検体管理
 
詳細は、サル痘ウイルスの検査施設での検査に記載されています。中間ガイダンス(2022年5月23日) Laboratory testing for the monkeypox virus: Interim guidance (23 May 2022)
 
リスクコミュニケーションとコミュニティへの参加
 
サル痘関連のリスクを伝え、予防、発見、治療について、リスクのあるコミュニティや影響を受けるコミュニティ、コミュニティリーダー、市民社会組織、性感染症専門医療機関などの医療従事者を巻き込むことは、さらなる二次感染を防ぎ、現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。疾患の感染経路、症状、予防策に関する公衆衛生上のアドバイスを提供し、最もリスクの高い集団に的を絞ってコミュニティに参加することが、蔓延を最小限に抑えるために重要です。コミュニケーションは、意図する対象者にとって直接的で、明確で、魅力的なものでなければなりません。
 
感染者と直接接触(対面、皮膚と皮膚、口と口、口と皮膚など)した人は、性的接触に限らず、誰でもサル痘に感染する可能性があります。自己防衛のための措置としては、局所的な肛門性器発疹や皮膚病変のある人との性的接触を避け、性交渉の相手を限定すること、サル痘感染の可能性と一致する症状のある人との濃厚な接触を避け、身の回り品(食器、衣類、電子機器、寝具など)を共有しないこと、水と石鹸またはアルコールベースのジェルで手を清潔に保つこと、呼吸エチケットの維持、などが挙げられます。
 
顔、手、足、目、口、性器、肛門周囲に水疱を伴う発疹、発熱、リンパ節の腫れ、頭痛、筋肉痛、疲労などの症状が出た場合は、医療機関に連絡し、サル痘の検査を受けてください。サル痘が疑われる、あるいは確定した場合には、隔離し、検査を受け、合併症の有無を評価するために臨床評価を受け、すべての病変が痂皮化し、かさぶたが落ち、新しい皮膚の層ができるまで、他人とのスキンシップや対面接触を避け、受・挿入型の口腔・肛門・膣性交を含む性交渉を避けるべきとされています。この間、患者はサル痘の症状を和らげるための支持療法を受けることができます。サル痘の患者を介護する人は、上記のように適切な個人防護策を講じる必要があります。予防措置として、WHOは、サル痘の感染の可能性を減らすために、回復後12週間は性行為(受・挿入型の口腔・肛門・腟性交)の際に一貫してコンドームを使用することを推奨しています(リスクは現時点では不明です)。
 
サル痘が古くから発生している国の居住者や旅行者は、生死を問わず、サル痘ウイルスを保有している可能性のある齧歯類、有袋類、非ヒト霊長類などの病気の哺乳類との接触を避け、野生鳥獣(ブッシュミート)の摂食や取り扱いを控えるようにしてください。2003年に米国で発生した事例では、ペットのプレーリードッグの飼い主が、感染したペットと接触することで感染しています。したがって、どのような環境においても、サル痘の患者は、例えば家庭でペットとして飼われているような動物が感染するような、理論上可能性のあるリスクに留意する必要があります。
 
WHOは、サル痘 Q&A、公的なコミュニケーションプラットフォームやその他の資料を通じて、継続的に内容を更新しています。6月17日付のDesease Outbreak Newsの詳細情報(Further information) のWHOガイダンスと公衆衛生勧告のセクションを参照してください。
 
集会
 
性行為を含む身体的接触を伴う集会やイベントは、人と人が密接に、長時間または頻繁に接触し、その結果、参加者が病変、体液、呼吸器飛沫、汚染された物質に接触する可能性がある場合、サル痘ウイルスの感染を助長する環境となる可能性があります。
 
サル痘患者が発生した地域で計画された集会は、いくつかの予防措置と必要に応じた情報共有により安全に実施することができます。さらに、このようなイベントは、特定の集団に対して公衆衛生情報を提供するアウトリーチの機会として利用することができます。早期に、頻繁に、一貫して、既知の信頼できるコミュニケーションチャネルを通じて、また感染した人々が使用する言語や用語でコミュニケーションをとることが重要です。公衆衛生当局とイベント管理者は、イベントの前、間、後に、ターゲットとなる情報がイベント参加者に確実に届くよう協力すべきです。影響を受ける集団と直接的で信頼できる関係にあるコミュニティベースの組織や市民社会組織と密接に協力することが強く推奨されます。
 
このようなイベントに関連するサル痘の感染リスクを低減するために、以下の予防措置を考慮するとよいでしょう。
 
・イベントの主催者は、開催地におけるサル痘の疫学、その感染様式と予防法、サル痘に当てはまる徴候や症状を発症した場合に取るべき行動(適切な治療を受けられる場所の情報を含む)を認識しておく必要があります。この情報は、参加予定者及び行事の計画・実施に携わるすべての者と共有されなければなりません。
・また、メインのイベントに並行して行われるイベントや計画されていない集まり(バーやパブでの集まり、ハウスパーティー、プライベートな空間での集まりなど)に関連する個人のリスク行動に焦点を当て、イベントが行われる社会的状況に注意を払う必要があります。
・サル痘にあてはまる徴候や症状のある人は、他のいかなる人とも濃厚な接触を控え、集会への参加も避ける必要があります。また、関係する保健当局の勧告に従わなくてはなりません。
・サル痘と新型コロナウイルスの感染経路は異なりますが、距離を置く、こまめに手洗いをするなどの新型コロナウイルスへの対策は、サル痘ウイルスの感染予防にも有効ですので、引き続き行い、スキンシップや対面での接触を控えるようにしてください。
・また、サル痘の症状が出ている人との濃厚な接触は避けるべきで、濃厚な接触や性的な接触をしないことも必要です。
・サル痘患者が確認された場合に、連絡先を追跡しやすくするために、集会参加者の出席者名簿作成を必要に応じて導入することも有効です。
・集会で発病した参加者の対応を担当するスタッフには、サル痘にあてはまる徴候や症状のある人への対処方法に関する情報を提供をしてください。
・参加者は、常に、自分自身と関係する人々、ひいては地域社会の健康を守るために、自分の決定と行動に個人のできる範囲で責任をもって注意する必要があります。このことは、メインイベントとは別に行われるサブイベントまたは計画的でない集会において特に重要です。
 
大規模な集会では標準的な慣行であり、新型コロナウイルスの流行中はなおさらであるため、当局やイベントの主催者は、意思決定にWHOが推奨するリスクベースのアプローチを適用し、検討中の大規模または小規模の社会的イベントに合わせるよう求められています。今回の流行では、サル痘に関連するリスクを考慮し、イベントにおいて上記措置を検討済みであることが必要です。
 
ワンヘルス
 
古くからサル痘が発生している地域では、様々な野生哺乳類がサル痘ウイルスに感受性があることが確認されています。リス(rope squirrelやtree squirrel) 、アフリカオニネズミ、ヤマネ、霊長類などが含まれます。種によっては、無症候性感染を起こすこともあります。サルや類人猿は、ヒトに見られるような典型的な皮疹が見られます。これまでのところ、家畜や動物がサル痘ウイルスに罹患したとの記録はありません。また、サル痘がヒトから動物に感染したという記録もありません。しかし、ヒトから動物への感染のリスクは仮説的に存在します。そのため、サル痘感染者が家庭のペットから物理的に距離を置く、適切な廃棄物管理を行うなどして、感染者から家庭(ペットを含む)、動物園や野生動物保護区、および周辺動物(特にげっ歯類)への感染を防ぐように適切な措置を講じてください。
 
海外渡航と入国地点
 
現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは加盟国に対し、入国・出国いずれの旅行者についてもそれを妨げるような措置をとることは推奨していません。
 
発疹様疾患を伴う発熱を含む体調不良を感じている人、管轄の保健当局によりサル痘の疑い例または確定例とされている人は、医療従事者や公衆衛生部門により公衆衛生上のリスクがないとみなされるまで、海外旅行や国内旅行を含め、いかなる渡航も避ける必要があります。旅行中または帰国後に発疹様疾患を発症した人は、直ちに医療専門家に報告し、最近のすべての旅行に関する情報、天然痘ワクチンやその他のワクチン(診断を裏付ける麻疹・おたふく・風疹、水痘帯状疱疹ワクチンなど)の接種歴、およびサル痘のサーベイランス・事例調査・接触者追跡に関するWHO暫定指針に基づく濃厚接触者に関する情報(以下のWHO指針および公衆衛生勧告の項を参照ください)を提供しなければなりません。サル痘患者の接触者として特定され、健康監視の対象となった人は、健康監視期間が終了するまで、海外を含め、いかなる旅行も避けるべきです。
 
公衆衛生担当者は、旅行会社や他の場所の公衆衛生担当者と協力して、旅行中に感染者と濃厚接触した可能性のある乗客やその他の人に連絡する必要があります。健康増進とリスクコミュニケーションのための資料を、入国地で入手できるようにすべきです。これには、サル痘に当てはまる徴候や症状の確認方法、感染拡大を防ぐために推奨される予防措置、必要な場合に目的地で医療を受ける方法に関する情報などが含まれます。
 
WHOは、すべての加盟国、あらゆるレベルの保健当局、臨床医、保健・社会セクターのパートナー、学術・研究・商業パートナーが、現地での感染拡大、ひいてはサル痘の複数国での発生を食い止めるために迅速に対応するよう要請しています。以前から感染が発生している地域や新たに感染が発生した地域で、ウイルスが効率的に人から人へ感染するヒト病原体として確立する前に、迅速な行動を取らなければなりません。
 

出典

Multi-country monkeypox outbreak: situation update
Disease Outbreak News 17 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON393