野生型ポリオウイルス1型(WPV1)-モザンビーク共和国

Disease outbreak news  2022年6月23日

内容

発生状況一覧

2022年5月15日、モザンビークで野生型ポリオウイルス1型(以下「WPV1」という)の患者がグローバル・ポリオ・ラボ・ネットワーク(以下「GPLN」という。)を通じて報告されました。ゲノム配列解析の結果、現在のWPV1分離株は、2019年にパキスタンで検出された株と遺伝的に関連があり、2022年2月にマラウイで報告されたWPV1の症例と類似していることが示されました。

マラウイで患者が確認された後の対応策の一環として、同国では2回の二価経口ポリオワクチン(以下「bOPV」という)キャンペーンが実施され、450万人以上の子どもにワクチンが接種されました。

特にアフリカの南東部では、集団免疫が十分でない状況が続いており、監視体制にも格差があることや大規模な人口移動があることから、国際的に広がるリスクが高い状態が続いています。

発生の概要

2022年5月15日、GPLNは、モザンビークでWPV1の症例を確認したことを報告しました。症例は急性弛緩性麻痺(以下「AFP」という。)の12歳の女児で、3月25日に麻痺を発症し、ジンバブエとマラウイに隣接するテテ(Tête)州チャンガラ(Changara)地区から来院しました。4月1日と4月2日に検査のために2つの便検体が採取されました。5月14日、南アフリカの国立感染症研究所(NICD)により、検体はWPV1であることが確認されました。この患児は、過去に二価経口ポリオワクチン(bOPV)を3回接種していましたが、不活化ポリオワクチン(IPV)は接種していませんでした。ゲノム配列解析の結果、新たに確認された症例は、2022年2月にマラウイで報告されたWPV1の症例と同様に、2019年にパキスタンで流行していた株と関連があることがわかりました(この症例の詳細については、2022年3月3日に発表したDisease outbreak newsを御覧ください。)。 モザンビークでは、1993年に最後の土着の野生型ポリオウイルス患者が報告されています。
 
モザンビークでは、循環型ワクチン由来ポリオウイルス2型(以下「cVDPV2」という。)の流行も同時に発生し、2021年以降、同国で7例の患者が報告されており、直近では2022年3月25日に報告されています。
 
 WHO-UNICEFの全国予防接種率推計によると、2020年のモザンビークにおける経口ポリオワクチン3回接種(OPV3)、不活化ポリオワクチン1回接種(IPV1)の接種率はそれぞれ73%、78%となっています。

図 1:WPV1の感染者が報告されている国及び対策計画を実施している周辺国
 

ポリオの疫学

ポリオ(Poliomyelitis)は、主に5歳未満の小児が罹患する感染力の強いウイルス性疾患です。ウイルスは人から人へ感染し、感染経路は、主に糞便-経口経路です。または、頻度は低いものの、一般的な媒体(汚染された水や食べ物など)を介して広がり、腸内で増殖し、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。ウイルスは感染者(通常は小児。)により糞便中に排泄され、特に衛生環境の整っていない地域では急速に広がる可能性があります。
 
潜伏期間は通常7から10日ですが、4から35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状で、病気であることを認識されないことがほとんどです。症状が軽い場合、初期症状として発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐、肩こり、手足の痛みなどがあります。これらの症状は通常2から10日間続き、ほとんどの場合、完全に回復します。 しかし、残りの10%の症例では、このウイルスによって、通常は足の麻痺が起こり、ほとんどの場合、永久的なものとなります。 麻痺は、感染後数時間のうちに急速に発生することもあります。 麻痺を起こした患者のうち、5から10%は呼吸筋が動かなくなり死亡します。
 
3種類の野生型ポリオウイルスのうち2種類(WPV2及びWPV3)は根絶され、WPV1の根絶に向けて世界的な取組が続けられています。現在、野生型ポリオウイルスは、パキスタンとアフガニスタンの2カ国で流行しています。この2か国以外でWPV1が検出されたことは、世界各国全ての地域でWPV1が根絶されるまで、この疾患が国際的に広がる危険性があることを示しています。
 
ポリオには治療法がなく、予防接種によってのみ防ぐことができます。

公衆衛生上の取組

モザンビークは、2022年2月にマラウイで報告されたWPV1の症例を受け、南東アフリカ地域全体で実施された多国間の緊急発生対応に、タンザニア、ザンビア、ジンバブエとともに積極的に参加し、地域全体で2,300万人を超える子どもたちへの予防接種を行いました。 既に2回のbOPV接種キャンペーンが実施されており、直近では4月末にモザンビークで450万人以上の子どもたちに接種されました。 同時に、cVDPV2の流行に対する同国での対応も進行中です。
 
国及び地方当局は、世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)のパートナー、特にアフリカ迅速対応チームの専門家、GPLN、ユニセフ、地元組織による支援を受け続けています。 サブリージョン全域のサーベイランスは、引き続き強化されています。
 
今回の症例の発見により、ポリオ発生対応に係る国際的で改訂済みの標準作業手順(revised international polio outbreak response SOPs. )に沿って南東アフリカ全域で大規模かつ迅速な複数国での緊急発生対応の必要性が浮き彫りになりました。 最優先事項は、大規模かつ迅速で質の高い対応キャンペーンを継続的に実施することにより、サブリージョンでの緊急対応を実施し続けることです。

WHOによるリスク評価

モザンビークでWPV1の症例が検出され、アフリカの南東地域で2例目が検出されたことは、同地域でWPV1の伝播が継続していることの証拠です。
 
WHOは、WPV1が国際的に広がる高いリスクが継続的に存在すると考えており、特にアフリカの南東サブリージョンでは、国民の集団免疫が最適といえない状態が続き、サーベイランスのギャップがあり、大規模な人口移動があるため、そのリスクは高いと考えています。このリスクについては、現在進行中の新型コロナウイルスのパンデミックに関連して予防接種率が低下しており、それにより更にリスクが高まっています。
 
同時に発生したcVDPV2に関連する感染拡大のリスクは、WPVがcVDPVよりも地理的に広がる傾向がかなり高いことを示唆する歴史的かつ疫学的証拠から、現在のところ中程度と評価されています。しかし、どちらの株も小児に麻痺性疾患を引き起こす能力があるため、両株に対する包括的な流行対策が緊急に実施されています。

WHOからのアドバイス

全ての国、特にポリオの感染国や地域と頻繁に往来のある国は、新たなウイルスの侵入を迅速に発見して迅速な対応を可能にするために、AFP症例のサーベイランスを強化して環境サーベイランスの計画的拡大を開始することが重要です。また、国や地域は、新たなウイルスの侵入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルで一様に高い定期的な予防接種率を維持する必要があります。
 
WHOの「国際渡航と保健」(International Travel and Health)では、ポリオ蔓延地域への全ての渡航者がポリオの予防接種を完了することを推奨しています。感染地域からの居住者及び4週間以上の滞在者は、渡航の4週間から12か月以内にOPV又はIPVの追加接種を受ける必要があります。
 
国際保健規則(2005年)に基づき招集された緊急委員会の勧告( Emergency Committee convened under the International Health Regulations (2005) )により、ポリオウィルスの国際的伝播のリスクは、依然として公衆衛生上の緊急事態(以下「PHEIC」という。)とされています。ポリオウイルスの感染の影響下にある国は、臨時勧告の対象となります。ポリオウイルスの感染が発生した国は、PHEICの下で出された臨時勧告( Temporary Recommendations issued under the PHEIC )を遵守するために、国家公衆衛生上の緊急事態として発生を宣言し、居住者及び長期滞在者へのワクチン接種を確実に行い、ワクチン接種を受けていない、又は接種状況を証明できない個人の渡航を出発地で制限する必要があります。
 
WPVs及びcVDPVsに関する最新の疫学情報は、GPEIのウェブサイトで毎週更新されています(weekly on the GPEI)。
 
今回の情報に基づき、WHOはモザンビークへの渡航や貿易を制限することは推奨していません。

出典

Wild poliovirus type 1 (WPV1) - Mozambique
Disease Outbreak News 23 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON395