複数国(非エンデミック国)におけるサル痘の発生について - 更新5

Disease outbreak news  2022年6月27日
 

今回のサル痘の複数国における発生に関するDisease Outbreak Newsは、既出のアップデート版(過去の一連の発表)であり、疫学的状況、治療薬の使用に関するさらなる情報、および6月23日に開催されたサル痘の複数国発生に関する国際保健規則(IHR2005)緊急委員会の結果についてお伝えしています。

発生状況一覧

2022年1月1日以降、6月22日現在、WHOの5つの地域の50の国や地域から、3,413の検査確定例と1人の死者がWHOに報告されています。    
 
6月17日のDisease Outbreak Newsが発表されて以来、新たに1,310人の患者が報告され、新たに8カ国から患者が報告されています。

発生の概要

検査確定例3,413例のうち大半(2,933例、86%)は、WHOヨーロッパ地域から報告されています。その他の地域は、アフリカ地域(73例、2%)、アメリカ地域(381例、11%)、東地中海地域(15例、1%未満)、西太平洋地域(11例、1%未満)で報告されています。  2022年第2四半期にナイジェリアで1名の死亡が報告されました。
 
症例数は、日々入手可能な情報が増え、国際保健規則(IHR2005)に基づくデータの検証を経て変動することが想定されます(表1)。

図1. 2022年1月1日から6月22日17時(中央ヨーロッパ夏時間、以下「CEST」という。)までの間にWHOに報告された、または公式な公的情報源から特定されたサル痘の確定症例の地理的分布(n=3,413)。
 
表1. 2022年1月1日から2022年6月22日17時(CEST)までのWHO地域・国別サル痘確定症例数

公衆衛生上の取り組み

全体的な取り組み

WHOは引き続き状況を注意深く監視し、加盟国やパートナーとの国際的な調整と情報共有を支援しています。臨床および公衆衛生上の有事対応は、包括的な症例発見、接触者追跡、検査調査、隔離、治療、感染および予防・管理措置の実施を調整するために加盟国によって活性化されています。今回の流行で見つかったサル痘ウイルスのデオキシリボ核酸(DNA)のゲノム解析は、可能な限り進行中です。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析からの予備データは、検出されたサル痘ウイルス遺伝子が西アフリカ系統群に属していることを示しています。  
 
ワクチン

WHOは加盟国に対し、現在複数国で発生しているサル痘の状況を考慮し、国別予防接種技術諮問グループ(NITAGs)を招集して、エビデンスを検討し、国の状況に応じたワクチンの使用に関する政策提言を行うよう強く奨励しています。天然痘ワクチンやサル痘ワクチンの接種に関するすべての決定(暴露前または暴露後)は、医療従事者と接種希望者の間で、リスクとベネフィットの比較検討を協議し、ケースバイケースで臨床上の共同決定が行われるべきです。サル痘ワクチンを使用する加盟国には、特にワクチンの有効性と安全性に関するエビデンスを迅速に構築するために、標準化されたデザイン手法と臨床データおよび転帰データの収集ツールを用いた共同臨床研究の枠組みの中で行うことが奨励されます。
 
治療薬

テコリビマット(Tecorivimat)は、動物およびヒトでの安全性、薬物動態、薬力学のデータに基づき、サル痘を含むオルソポックスウイルス関連感染症に対して欧州医薬品庁から最近承認された抗ウイルス薬です。従って、その安全性と有効性に関する信頼性・解釈可能な結果が間もなく得られるでしょう。
 
緊急対策委員会の成果

2022年6月23日、国際保健規則(IHR2005)緊急委員会は、複数国で発生したサル痘について、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)とするかどうか、WHO事務局長に助言するために開催されました。委員会は、現段階では本アウトブレイクがPHEICを構成すべきではないとWHO事務局長に助言しましたが、委員会は本事象の緊急性を認め、本アウトブレイクのさらなる拡大を制御するには、集中的な対応努力が必要であることを認めました。委員会は、この事象を注意深く監視し、数週間後に現在の不明な点(例:潜伏期間、性的感染の役割など)に関する追加情報が得られるようになったら、勧告の再検討を必要とするような大きな変化が生じたかどうかを判断すべきであると勧告した。
 
委員会はWHO事務局長に対し、加盟国は二国間、地域間、多国間のチャンネルを通じて必要な援助を提供するために互いに協力し、WHOが提供するガイダンス(6月27日のDisease Outbreak Newsページ下部の文書リストを参照)に従うべきであると勧告した。
 
事務局長は委員会の助言を受け入れ、監視、接触者追跡、患者の隔離とケアなどの公衆衛生措置を用いて、さらなる拡大を食い止めるために、今すぐ集団的な注意と協調して行動をとる必要があり、ワクチンや治療などの保健手段をリスクのある人々に提供し、公平に共有する必要があると、声明で付け加えました。

WHOによるリスク評価

WHOの5つの地域で同時に患者やクラスターが報告されたのは今回が初めてであることを考慮し、全体的なリスクは世界レベルでは中程度と評価されています。地域レベルでは、新たに感染した数カ国を含む地理的に広範囲なアウトブレイクが報告され、患者の臨床症状がやや非典型的であることから、欧州地域のリスクは高いと考えられています。他のWHO地域では、疫学的パターン、感染が輸入される可能性、症例の検出と発生への対応能力を考慮し、リスクは中程度と考えられています。 新たに感染した国々では、今回初めて、主に、直近に新しいパートナーや複数のパートナーと性的接触を持った男性の間で症例が確認されましたが、それだけではありません。 
 
サル痘の予期せぬ出現と患者の広範な地理的広がりは、サル痘ウイルスが監視システムで検出可能なレベルに達せぬままで循環していた可能性と、持続的なヒト-ヒト感染が一定期間検出されなかった可能性を示唆しています。サル痘ウイルスの感染経路には、感染性の皮膚または粘膜病変との直接接触、呼吸器飛沫(および場合によっては短距離エアロゾル)、汚染された環境表面または材料からの間接接触によるヒト-ヒト感染があり、媒介物による感染(Fomite Transmission)とも呼ばれます。また、垂直感染(母子感染)も報告されています。 濃厚な身体的接触によって感染することは知られていますが、精液や膣分泌液を介した性的な感染が起こるかどうかは不明で、現在、この点を解明するための研究が進められています。また、持続的な地域感染の可能性も否定できず、感染期間として発症前伝染や無症状伝染がどの程度発生するかも不明であり、さらに、複数の性的パートナーを持つ者が相互につながったネットワークでサル痘ウイルスがさらに広がることや、集団集会がどのような役割を果たすかも考えられています。
 
この集団発生に関連したサル痘患者の臨床症状は、これまでの報告と比較して非典型的であり、新たに感染した地域の多くの患者は、サル痘の典型的な臨床像(発熱、リンパ節の腫脹に続いて遠心性発疹)を呈していません。
 
非典型的な特徴としては、以下が挙げられます。
 
・少数の、あるいは単一の病変を呈す。
・皮膚病変がなく、肛門の痛みや出血を伴う症例もある。
・性器や肛門周囲に病変があり、それ以上広がらない場合がある。
・病変が異なる(非同期的な)発生段階で現れる。
・発熱、倦怠感などの体質的症状が出現する前に病変が出現する(前駆期がないこと)。
 
実際の症例数は、以前はほんの一握りの国でしか知られていなかった感染症が早期に臨床的に認識されなかったことや、多くの国でこれまでほとんどの医療システムで「知られていなかった」病気に対する監視体制が強化されていないこともあり、過小評価されている可能性があります。今回の大流行ではまだ証明されていませんが、医療関連感染を排除することはできません。以前、死亡率は子供や若年層で高いと報告されており、また、コントロールされていないHIV感染がある人を含める免疫不全の人は特に重症化するリスクがあるため、脆弱な集団で広く蔓延すると健康への影響が増大する可能性があります。
 
このリスクは、検査による診断、抗ウイルス薬、ワクチンが広く行き渡っていないこと、また、患者が発生した各地の診断、臨床、紹介先の検査所施設で十分なバイオセーフティとバイオセキュリティを確保することが困難であることにも表れています。
 
1980年代以降、サル痘に対する予防効果が期待できる天然痘の予防接種が中止されているため、人々の多くがサル痘ウイルスに脆弱です。近年では、比較的少数の軍人、第一線の医療従事者、検査施設職員の一部のみが天然痘の予防接種を受けています。第3世代ワクチンであるMVAが、天然痘に対して欧州医薬品庁から使用許可を得ました。カナダ保健省および米国食品医薬品局(FDA)による使用許可には、サル痘の予防の適応が含まれています。抗ウイルス薬であるテコビリマット(tecovirimat)は、天然痘の治療薬として欧州医薬品庁、カナダ保健省、米国FDAから承認されています。また、欧州連合では、サル痘の治療薬として使用が承認されています。

WHOからのアドバイス

発熱、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛を伴い、全身の患部に黄斑、丘疹、水疱、膿疱、かさぶたと段階的に進行する発疹を呈する患者が発するシグナルに、すべての国が警戒を怠ってはなりません。
 
また、今回の流行では、多くの人が局所的な発疹を含む非典型的な症状を呈しており、その病変はわずか1つであることもあります。病変の出現は非同期的で、主に生殖器周辺および/または肛門周辺に分布し、局所的である場合もあります。
また、今回の流行では、多くの人が局所的な発疹を含む非典型的な症状を呈しており、その病変はわずか1つであることもあります。病変の出現は非同期であり、局所的な痛みのあるリンパ節の腫脹を伴う性器周囲および/または肛門周囲への分布が主またはほとんどの場合であることがあります。患者によっては、性感染症を併発することもあり、検査と適切な治療が必要です。これらの患者は、プライマリーおよびセカンダリーケア、発熱外来、性感染症専門医療部門、感染症科、産婦人科、救急部、外科、皮膚科クリニックなど(ただしこれらに限らない)、さまざまな地域や医療の場に現れることがあります。
 
ヘルスケアおよびコミュニティ環境における治療と感染予防・管理(IPC)

サル痘が疑われる、または確認された患者のケアには、地域の環境に適応したスクリーニングプロトコルを通じた早期発見、迅速な隔離と、サル痘が疑われる/またはサル痘の患者をケアする医療従事者の呼吸器使用の追加、リネンの安全な取り扱いや環境の管理に重点を置いた標準予防策および感染予防策の実施をふくむ、適切なIPC措置の迅速な実施、診断を確定するための検査、軽度あるいは合併症を伴わないサル痘患者の症状管理、合併症や生命を脅かす状態に対する監視と治療(たとえば、皮膚病変の進行、皮膚病変の二次的な細菌感染、眼病変、まれに重症脱水、重症肺炎、敗血症など)が必要です 。自宅で隔離している重症度の低いサル痘患者は、他の家庭や地域住民への感染を防ぐために、自宅で安全に隔離し、必要なIPC予防策を維持できるかを慎重に評価する必要があります。
 
信頼性の高い介入策の評価を可能にするためには、COREプロトコルを用いた無作為化試験が望ましいアプローチです。実施できないやむを得ない理由がない限り、無作為化試験デザインを実施するためにあらゆる努力が払われるべきです。特に低リスクの個人を対象としたプラセボ対照試験を実施することは、実現可能です。WHOのGlobal Clinical Platform for Monkeypoxを用いた安全性と臨床結果の調和が考えられたデータ収集は、今回の事象を含むアウトブレイクにおいて望ましい最小限のデータセットとなるでしょう。
 
予防措置(隔離とIPC措置)は、病巣が痂皮化し、かさぶたが落ち、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで継続する必要があります。 
 
検査と検体管理

疑い例としての定義に合致する個人は、検査を受けるべきです。検査の決定は、感染の可能性の評価と関連した臨床的および疫学的要因の両方に基づいて行われるべきです。皮疹を引き起こす疾患は多岐にわたるため、また、この集団発生では臨床症状が非典型的であることが多いため、臨床症状のみに基づいてサル痘を鑑別することは困難な場合があります。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティへの働きかけ  

サル痘関連のリスクを伝え、予防、発見、治療について、リスクのあるコミュニティや影響を受けうるコミュニティ、コミュニティリーダー、市民社会組織、性的保健クリニックなどの医療従事者を巻き込むことは、さらなる二次感染の防止と現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。
 
接触者、疑い例および確定例、サル痘を示唆する症状を発症した個人に対するリスクコミュニケーションの詳細については、2022年6月17日発表のDisease Outbreak Newsをご覧ください。
 
サル痘に感染した患者の世話をする人は、適切な個人防護策をとる必要があります。予防措置として、WHOは、現在リスクが不明なサル痘の潜在的な感染を減らすために、回復後12週間は性行為(受・挿入型の口腔・肛門・腟性交)の際に一貫してコンドームを使用することを提案しています。
 
誤った情報 今回の流行に関して、ソーシャルメディアなどで噂や誤った情報が流布され続けていることに留意し、WHOや各国の保健当局など信頼できる情報源で事実を確認することが重要であることを改めて記載しておきます。
 
ワンヘルス 

過去にサル痘が報告された地域では、様々な野生哺乳類がサル痘ウイルスに感受性があることが確認されています。これには、リス(rope squirrelやtree squirrel) 、アフリカオニネズミ、ヤマネ、霊長類などが含まれます。種によっては、無症候性感染を起こすことがあります。サルや類人猿のような他の種は、ヒトに見られるような典型的な皮疹を見せます。これまでのところ、家畜や動物がサル痘ウイルスに罹患したとの記録はありません。また、サル痘のヒトから動物への感染についても、記録されていません。しかし、これは仮説的なリスクであることに変わりはありません。したがって、以下のような適切な措置を講じる必要があります。
 
・サル痘に感染した人とペットの間の物理的な距離の確保
・家庭内(ペットを含む)、動物園、野生動物保護区、および周辺動物(特にげっ歯類)への感染を防ぐための適切な廃棄物管理
・サル痘が過去に報告された国の居住者および旅行者は、サル痘ウイルスを保有している可能性のあるげっ歯類、有袋類、非ヒト霊長類(生死を問わず)などの病気の哺乳類との接触を避け、野生鳥獣(ブッシュミート)を食べたり扱わないようにしたりする必要があります。
 
 
海外渡航と入国地点 

現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは加盟国に対し、入国者または出国者のいずれについても国際的な交通を制限するいかなる措置も採用しないよう勧告しています。
 
・発疹様疾患を伴う発熱を含む体調不良を感じている個人、または管轄の保健当局によりサル痘の疑い例もしくは確定例とされた個人は、公衆衛生上のリスクがなくなったと宣言されるまで、海外を含む必要性のない旅行を避けるべきです。
・旅行中または帰国後に発疹様疾患を発症した人は、直ちに医療専門家に報告し、最近のすべての旅行に関する情報、天然痘ワクチンやその他のワクチン(例:診断を裏付ける麻疹・おたふく・風疹、水痘帯状疱疹ワクチン)の接種歴、および、サル痘の監視、事例調査、接触者追跡に関するWHO暫定ガイダンスに基づく密接接触者に関する情報などを提供すべきです。
 
公衆衛生担当者は、旅行会社や他の場所の公衆衛生担当者と協力して、旅行中に感染者と接触した可能性のある乗客やその他の人に連絡する必要があります。健康増進とリスクコミュニケーションのための資料は、サル痘と一致する徴候や症状の確認方法、感染拡大を防ぐために推奨される予防措置、必要な場合に目的地で医療を受ける方法に関する情報を含め、入国地で入手可能であるべきです。
 
WHOは、すべての加盟国、あらゆるレベルの保健当局、臨床医、保健・社会セクターのパートナー、学術・研究・商業パートナーが、地域的な広がり、ひいてはサル痘の複数国での発生を抑制するために迅速に対応するよう要請しています。サル痘が過去に報告された地域や新たに感染が発生した地域において、ウイルスが効率的に人から人へ感染するヒト病原体として定着する前に、迅速な行動を取らなければなりません。

出典

Multi-country monkeypox outbreak: situation update
Disease Outbreak News 27 June 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON396