複数国における小児の原因不明の重症急性肝炎

Disease outbreak news  2022年7月12日

発生状況一覧

2022年7月8日現在、WHO管轄5地域の35か国から、WHOの症例定義を満たす小児の原因不明の重症急性肝炎1,010例の推定例が報告されており、うち22名が死亡しています。2022年6月24日に発表された前回のDisease Outbreak News以降、新たに90例の推定患者及び4例の死亡例がWHOに報告されました。さらに、ルクセンブルク大公国及びコスタリカ共和国の2か国から、新たに推定患者が報告されました。
 
WHOは、2022年の原因不明の重症急性肝炎の発生率を過去5年と比較して推定し、予想以上に高い割合で患者や肝移植が発生している場所を把握することを目的として世界規模の調査を開始しました。
 
本Disease Outbreak Newsについては、アウトブレイクの疫学に関する最新情報を提供するとともに、WHO の世界的な臨床的プラットフォームにおける臨床例報告フォームの作成、感染予防管理(以下「IPC」という。)及びリスクコミュニケーションとコミュニティ参加(以下「RCCE」という。)に関する最新情報を含む、この事象への対応に関する最新情報を提供します。

発生の概要

2022年4月5日(アウトブレイクが最初に検知された日)から2022年7月8日までの間に、WHOの5地域の35か国から1,010人の推定患者(図1)及び22人の死亡が報告されています。これらには、2021年10月1日以降の新規症例及び遡及的に確認された症例が含まれており、以下に示すWHOの症例定義に適合しています。さらに、3か国から報告された症例は分類待ちであり、累積の推定例数には含まれていません。推定例のうち、46人(5%)の子どもが移植を必要とし、22人(2%)の死亡がWHOに報告されています。
 
推定例のほぼ半分(48%)がWHO欧州地域(21か国、484例報告)から報告されており、そのうち272例(全世界の症例の27%)が英国から報告されています(表1、図2)。次に多いのは、アメリカ地域(435症例、うち米国から334例(全世界の33%))で、西太平洋地域(70例)、東南アジア地域(19例)、東地中海地域(2例)と続いています。17か国が5を超える推定例を報告しています。実際の症例数は、強化された監視システムが限定的であることもあり、過小評価されている可能性があります。より多くの情報及び検証されたデータが入手可能になるにつれ、症例数は変化すると予想されます。
 
図1. 小児の原因不明の重症急性肝炎の推定例の国別分布(2022年7月8日(1010症例)、中央欧州夏時間(以下「CEST」という。)午後5時時点)

 
表1 WHO地域別の小児の原因不明の重症急性肝炎の推定例の分布(2021年10月1日以降で2022年7月8日午後5時(CEST)時点)
WHO地域 推定例 肝移植が必要となった症例 PCRにてCOVID-19陽性 PCRにてアデノウイルス陽性※2 アデノウイルス41型陽性 死亡
アメリカ地域  435  24  18  9  1  13
東地中海地域  2  0  データなし  1  データなし  1
欧州地域  484  22  54  193  30  2
東南アジア地域  19  0  データなし  データなし  データなし  6
西太平洋地域  70  0  6  6  0  0
累計※1 1010  46  78  209  31  22

 
※1 上表に含まれる情報は、欧州監視システム(以下「TESSY」という。)及び公衆衛生情報プロセス内の症例ベースの監視活動を通じて検出された公式情報源を含む、国際保健規則(以下「IHR(2005)」という。)の下で通知されたデータを含んでいます。詳細な情報は7月12日付Disease Outbreak NewsのAnnex table(以下「付表」という。)に記載されています。
※2 あらゆる種類の検体(呼吸器、尿、便、全血、血清、他の検体又は種類不明のもの)のいずれかでアデノウイルスが陽性。

症例の臨床検査

推定例のワーキング症例定義(Box 1)に基づき、臨床検査ではこれらの小児におけるAからE型肝炎ウイルスは除外されています。WHOに報告されたデータは不完全ですが、アデノウイルスや新型コロナウイルスのような病原体が多くの症例で核酸増幅検査(以下「PCR」という。)により検出されました。
 
アデノウイルスは、データがある症例では、引き続き最も頻繁に検出される病原体です。欧州地域では、アデノウイルスはデータがある症例の52%(368例中の193例)でPCRにより検出されました(付表参照)。日本では、結果が判明している症例の9%(58例中の5例)からアデノウイルスが検出されました。ほとんどの国ではアデノウイルスのサーベイランスが限られているため、これらの割合が集団で予想される割合より高いかどうかを評価することは困難です。
 
新型コロナウイルスは多くの症例で検出されていますが、血清検査の結果に関するデータは限られています。欧州地域では、新型コロナウイルスは、結果が入手可能な症例の16%(335例中の54例)でPCRにより検出されました(付表参照)。米国からの予備報告によると、新型コロナウイルスは、結果が入手可能な症例の8%(197例中の15例)で検出されたとのことです。日本では、新型コロナウイルスは、結果が得られた症例の8%(59例中の5例)で検出されました。これらの数値は、新しいデータが入手可能になるにつれて変化する可能性があります。
 
詳細は、EURO/ECDC 合同サーベイランスレポート日本国立感染症研究所レポートUKHSAケースアップデートUKHSA第3回テクニカルブリーフィングUSCDCテクニカルレポートを参照してください。
 
報告された症例のほとんどは、疫学的な関連はないと思われますが、スコットランドとオランダでは、疫学的な関連性のある症例が報告されています。

 BOX 1. 原因不明の重症急性肝炎の症例の定義(WHO)

 

症例の疫学的特徴

データが入手可能な571の推定例(全推定例の57%)のうち、この1か月で症例数が減少する傾向にあります(図2)。しかし、多くの国では報告の遅れや限定的なサーベイランスのため、この傾向は慎重に解釈する必要があります。

図2 データが入手可能な原因不明の重症急性肝炎の推定例の疫学曲線(週別、WHO地域別。2022年7月8日午後5時(CEST)時点(571例)。)
※図2には、発症日、入院日又は届出日に関するWHOに報告された症例(571例)が含まれています。入手可能な場合、発症日を使用しました(384例)。入手できない場合は、入院した週(163例)又は届出日の週(24例)が使用されました。
/var/folders/0h/5ywxx_fn44b055pstrrt_7jm0000gn/T/com.microsoft.Word/WebArchiveCopyPasteTempFiles/20200712_epicurves_fig-1.png?sfvrsn=5a412e9c_4

 
2022年7月8日現在、性別及び年齢の情報がある479症例のうち、48%が男性(232例)であり、6歳以下が大半(364例で76%)でした(図3)。
 
図3 入手可能なデータによる原因不明の重症急性肝炎の推定報告例の年齢及び性別の分布(2022年7月8日午後5時(CEST)時点の479例)
/var/folders/0h/5ywxx_fn44b055pstrrt_7jm0000gn/T/com.microsoft.Word/WebArchiveCopyPasteTempFiles/20200712_epicurves_fig-2.png?sfvrsn=fa271353_4
臨床データが入手可能な100例の推定例のうち、発症時に最も多く報告された症状は、吐き気又は嘔吐(60%)、黄疸(53%)、全身脱力(52%)及び腹痛(50%)でした。
 
データが得られた全世界の症例のうち、発症日及び入院日の両方が判明した症例は167例(全推定例の16%)でした。これらのうち、症状発現日から入院日までの日数の中央値は4日(四分位範囲7)でした。

公衆衛生上の取組

症例の考えられる病因又は複数の病因についての、疫学的、臨床的、検査的、病理組織学的、及び毒物学的調査は、複数の国家機関、研究ネットワーク、WHOの異なるワーキンググループを越え、パートナーと共に進行中です。これには、共通の曝露歴、危険因子又は症例間の関連性を特定するための詳細な疫学的調査が含まれます。
 
2022年7月11日、WHOは、2022年の原因不明の重症急性肝炎の発生率を過去5年と比較して推定し、症例や肝移植が想定よりも高い割合で発生している場所を把握することを目的として、世界規模のオンライン調査を開始しました。WHOは、世界的な事象調査の一環として、各国の主要な病院で働く小児肝臓専門医その他小児科専門医の世界及び地域の9つのネットワークで任意調査を共有し、集計データを要請しています。調査の中間結果は、利用可能になり次第、WHOによって公開される予定です。
 
本調査の具体的な目的は、以下のとおり2つです。
 
1 肝移植を必要とする患者を含む、16歳以下の小児における原因不明の重症急性肝炎(急性肝不全を伴うもの及び伴わないもの)の発生率が、各国・地域で最近増加しているかどうかを評価する(2017年から2021年まで比較して、2022年の症例数)。
 
2 報告された症例の年齢分布や重症度の経時的な変化を評価する(2017-2021年と比較した2022年の症例数)。

WHOによるリスク評価

世界的なリスクは、以下の要因5つを勘案し、現在中程度と評価されています。
 
1 この重症急性肝炎の病因はまだ不明であり、調査中です。
2 WHOが現在入手できる疫学的、臨床検査的、病理組織学的、及び臨床的情報は限られています。
3 実際の症例数及び地理的分布については、限られた強化サーベイランスシステムのため、過小評価されている可能性があります。
4 病因となる病原体の感染経路が特定されていません。
5 医療介護に関連した感染の報告はまだありませんが、疫学的に関連した症例が数例報告されており、ヒトからヒトへの感染・伝播性を否定することはできません。

WHOからの助言

臨床検査

WHOは、小児における原因不明の重症急性肝炎の疑い例に対する検査の検討及び戦略について、加盟国向けの暫定ガイダンスを作成しました。このガイダンスには、加盟国による診断の優先順位付けを支援するための助言が含まれており、風土病を地域的に考慮して修正することが可能です。このガイダンスでは、小児の重症急性肝炎を引き起こすことが知られている、他の感染性因子、環境曝露(毒素、薬剤)、遺伝性代謝性疾患又は自己免疫疾患を含む他の病因の評価も考慮されており、小児肝臓専門医と協議して検討する必要があります。
 
必要に応じて後日検査し、病因を特定するために、発症後可及的速やかに様々な検体をルーチンとして採取することを優先する必要があります。検査施設の検査許容量が限られている場合、検査診断のために、地域又は世界の検査施設の紹介利用と検体保管を検討する必要があります。陽性検体は、さらなる検査や調査のために保管する必要があります。
 
臨床検査を伴う加盟国を更に支援するために、WHOは地域及び世界の検査施設の紹介ネットワークを構築しています。
 
詳細については、「小児における原因不明の重症急性肝炎の検査室検査に関する暫定ガイダンス」を参照してください。

症例報告

WHOは、加盟国に対し、WHOの症例定義に合致する小児の原因不明の重症急性肝炎の症例を、確立されたIHR(2005)の手順を通じて報告することを強く推奨しています。 詳細については、「小児における原因不明の重症急性肝炎の症例報告のための最小限の要因の提案」を参照してください。

WHOの世界的な臨床的プラットフォームを通じた臨床的データの報告

WHOは、匿名化された症例ベースのデータの報告を容易にするため、臨床症例報告書(以下「CRF」という)を開発しました。標準化された世界的な臨床データの分析は、病因、疾患の臨床的特徴、自然史及び重症度の理解に貢献し、公衆衛生への対応、調査や感染予防・管理介入へのアプローチを含む臨床管理ガイダンスの開発の指針となることを目的としています。 WHOは、WHOの症例定義に合致する全ての症例について、たとえCRFが完全に記入できない場合でも、加盟国にWHOの世界的な臨床的プラットフォームへの参加を強く推奨しています。患者の臨床的データは、診療記録の調査やレビューを通じ、前向きに、又は後向きに収集することができます。

CRFについては、原因不明の重症急性肝炎に関するWHOの世界的な臨床的プラットフォームを通じ、アクセス可能です。

IPC

これらの事例の病因についてより多くのことが判明するまで、WHOは以下のような一般的なIPCに係る8の実践を勧めています。
 
1 水及び石けん又はアルコールベースのハンドジェルを使用し、頻繁に手指の消毒を行うこと。
2 人混みを避け、他人との距離を保つこと。
3 良好な屋内換気を保つこと。
4 適切な場合には、口と鼻を防護する、適切に装着したマスクを着用すること。
5 咳やくしゃみをカバーすること。
6 安全な水を飲むこと。
7 より安全な食品を提供するための5つのポイント
(1) 清潔に保つ。
(2) 生と調理済を分ける。
(3) 十分に加熱する。
(4) 安全な温度に保つ。
(5) 安全な水及び原材料を使用すること。頻繁に触れる表面は、定期的に清掃すること。
8 体調不良時の自宅待機及び医療機関の受診

医療施設では、標準予防策を遵守し、疑い例又は推定例に対して飛沫予防策及び接触予防策を実施する必要があります。

RCCE

これらの事例の病因や適切な予防策が更に明らかになるまで、WHOは一般的なIPCの実践について情報を共有するよう助言しています。透明性を伴う時機に応じた手法、既知・未知の認識、調査のために行われていることに関する共感を伴って意思疎通を図る努力により、両親や医療介護従事者を安心させ、保健当局や介入への信頼を維持するのに役立ちます。
 
付表:原因不明の重症急性肝炎の推定例の国別分類(2021年10月1日以降で2022年7月8日時点)
WHO
地域
国名 推定例及び疫学的関連例※3 肝臓移植が必要となった症例(累計46例) PCRにて新型コロナウイルス陽性(累計78例)※4 PCRにてアデノウィルス陽性(累計209例)※5 アデノウィルス41型(累計31例)
欧州 オーストリア 3 0 1/3 0/3  
  ベルギー 14 0 3/14 2/7  
  ブルガリア 1 0 0 / 1 0/1  
  キプロス 2 0 0 /1 1/2 0/1
  デンマーク 8 0 2/8 0/7 0
  フランス 8 0 0 / 8 4/6 0/1
  ギリシャ 12 0 0/9 2/10  
  アイルランド 17 2 0 / 8 9/16  
  イスラエル 5   0 / 2  1 / 2  
  イタリア 36 1 2/19 11/25  
  ラトビア 1 0   1/1  
  ルクセンブルグ※6 1 0 0/1 0/1  
  モルドバ 1 0 0 / 1 0 / 1  
  オランダ 15 3 1/4 4/9 0/0
  ノルウェー 5 0 2/5 2/5 2/2
  ポーランド 11 0 0/2 2/5  
  ポルトガル 19 0 4/14 2/13 0/1
  セルビア 1 1 awaiting 0 / 1 1/1  
  スペイン 40 1 3/29 5/28 1/2
  スウェーデン 12 2, including 1 awaiting 2/9 4/9  
  英国 272 12 34/196 142/216 27 / 35
アメリカ アルゼンチン 3 1 0 2 1
  ブラジル 2 0 0 0 0
  カナダ 21 2 3/20 3/18 0/1
  コロンビア 2 0 0 1 0
  コスタリカ※6 3     3  
  メキシコ 69 0      
  パナマ 1 0      
  米国 334 21 15/197    
西太平洋 日本 67 0 5/59 5/58 0
  シンガポール 3 0 1 1 0
東南アジア インドネシア 18 0      
  モルディブ 1 0      
東地中海 パレスチナ 1 0      
  カタール 1     1  
空欄は、本報告書作成時にデータがなかったことを示します。
 
※3 この表に含まれる情報は、TESSY及び公衆衛生情報プロセス内の症例ベースの監視活動を通じて検出された公式情報源を含む、 IHR (2005) に基づいて通知されたデータを含んでいます。
※4 検査結果が判明している検体(陰性又は陽性)は、全て分母に含まれます。
※5 あらゆる種類の検体(呼吸器、尿、便、全血、血清、他の検体又は種類不明のもの)のいずれかでアデノウイルスが陽性又はあらゆる種類の検体でアデノウイルス検査結果を得た症例数。分母には、検査結果が判明している検体(陰性又は陽性)を全て含みます。
※6  この更新で新たに報告された国々

出典

Severe acute hepatitis of unknown aetiology in children - Multi-country
 Disease Outbreak News 12 July 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON400