エボラウイルス病 - コンゴ民主共和国

Disease outbreak news  2022年25日

発生状況一覧

2022年8月21日、コンゴ民主共和国保健省(MoH)は、北キブ(North Kivu)州のベニ(Beni)保健区域で、新たにエボラウイルス病(「EVD」ともいう。)の検査確定例が確認されたと発表しました。この症例は、併存疾患を持つ46歳の女性で、23日間の入院後、2022年8月15日に死亡しました。2022年8月15日の死亡後に口腔咽頭分泌物検体を採取し、エボラウイルス病の陽性反応が出ました。遺体はエボラウイルス病の結果が判明する前に埋葬されました。病院および地域社会の接触者を特定するための現地調査が進行中です。コンゴ民主共和国での最後のエボラウイルス病の発生は赤道(Equateur)州で、2022年7月4日に終息が宣言されていました。

発生の概要

2022年8月21日、コンゴ民主共和国保健省は、北キブ州ベニ市に住む46歳の女性から新たにエボラウイルス病の検査室確定例が確認されたと発表しました。
 
この患者は、咳、頭痛、多発性関節痛(関節痛)、無力症(全身倦怠感)などの既知の併存疾患に関連すると考えられる症状のため、2022年7月23日から8月15日まで23日間継続入院して治療を受けました。患者は2022年8月15日に病院で死亡し、遺体は家族に引き渡され埋葬されました。現在までのところ、死亡した症例のエボラウイルス病ワクチンの予防接種状況についての情報はありません。
 
2022年8月15日、遺体から口腔咽頭分泌物の検体が採取され、ベニの国立生物医学研究所(INRB)で逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により陽性反応が検出されました。この検体はその後、再確認のためゴマ(Goma)のRodolphe Mérieux INRB研究所で検査され、2022年8月16日にRT-PCRにより陽性の結果が再確認されました。遺体は検査結果を受け取る前に家族に引き渡され、その後、2022年8月16日に埋葬されました。
 
合計134人の院内接触者(医療従事者60人、受診者74人)が確認されました。8月24日現在、9人の家族との接触も確認されています。患者が治療を受けていた医療施設と地域社会で、対応チームによる調査が進行中です。
 
ゴマ(Goma)にあるRodolphe Mérieux INRB 研究所で実施されたシークエンシングにより、本症例は、北キブ州、イツリ(Ituri)州、南キヴ(South Kivu)州で2018年から2020年に発生した集団感染(エボラ・ザイール株)に遺伝的に関連しており、新たな波及事象でないことが確認されています。(このアウトブレイクの詳細については、2020年6月26日に発表されたDisease Outbreak Newsをご参照ください)。また、検体はゲノム配列決定のためにキンシャサのINRBに送られました。

エボラウイルス病の疫学

エボラウイルス病は、稀ではあるものの重篤で、しばしば致死的な人の疾患です。エボラウイルスによって引き起こされるウイルス性出血熱で、治療を受けなければしばしば死に至ります。このウイルスは、自然宿主と考えられているフルーツコウモリなどの動物の血液、分泌物、臓器、その他の体液と濃厚接触することで人に感染します。エボラウイルス病に感染している人、あるいは死亡した人の血液や体液、エボラウイルス病に感染した人の体液で汚染された物、エボラウイルス病で死亡した人の遺体に直接触れることによって人から人へ感染します。
 
エボラウイルス病 の致死率の平均は約 50%、過去の流行では 25% から 90% の範囲で変動しています。経口または静脈注射による水分補給という支持療法を行い、特定の症状に対する治療を行うことで、生存率が向上します。潜伏期間(感染から症状が出るまでの期間)は、2~21日です。エボラウイルス病に感染した人は、発症までは他者に感染を広げることはありません。

公衆衛生上の取り組み

コンゴ民主共和国の保健省は、WHOや他のパートナーと協力し、アウトブレイクを制御し、その拡大を防止するための対応策を開始しました。
 
感染源、接触者の特定、病院のさまざまな部署での曝露リスクの定義、病院での感染予防と制御(以下、「IPC」という。)対策の強化などの調査が進められています。
 
保健区域レベルでの地元の能力を基に、発生抑制のための介入が現場で組織されており、症例調査、接触者の追跡、監視システムの強化、疑い例の隔離と治療の提供、検査による症例確定、保健施設でのIPC対策、さらにコミュニティの関与と社会動員などが行われています。
 
エボラウイルス病対応介入策は以下の通りです。
 
・エボラウイルス病の予防、症状の早期発見、治療、ワクチン接種に焦点を当てたコミュニティとの強力な連携。
・症例調査、積極的な症例検索、接触者追跡活動。
・警報システムの再始動。
・主要な国境通過点における管理ポイントの活性化。
・必要に応じて、ベニの機能的な検査所の強化。
・認可ワクチン・エルベボを使用し、確定例の接触者とその接触者、および最前線の従事者を対象としたワクチン接種による包囲準備。ワクチン提供のための国際調整グループは、国内で入手可能な残りの用量を使用することを承認。ワクチンはゴマとベニに輸送され、ウルトラ・コールド・チェーンが評価・計画され、必要に応じて設置。
・モノクローナル抗体の治療方針が、国内で利用可能。
・ベニ・エボラ治療センターの評価と復旧活動が進行中で、他の医療施設のスクリーニング、トリアージ、隔離の能力を強化。
・IPC対策が開始され、医療施設の除染、医療施設の評価と支援、IPC対策の実施に関する医療従事者の研修、水と衛生の復旧。
・安全で尊厳ある埋葬のための能力を確認中。

WHOによるリスク評価

予備情報によると、最初の症例はエボラウイルス病と診断されないまま23日間保健施設に入院し、検査でエボラウイルス病が確認される前に死亡したとのことです。州内でエボラウイルス病が蔓延し、患者が入院していた医療施設の医療従事者や同室の患者に感染が広がる危険性があります。
 
エボラウイルス病が国内で流行していること、エボラウイルスが地域の病原巣動物に存在することを考慮すると、現在の再流行は想定外ではありません。ウイルスは、エボラウイルス病生存者の一部の体液中に残存することがあります。 限られたケースですが、エボラウイルス病生存者の体液にさらされることによる二次感染が記録されています。エボラウイルス病生存者における再発も報告されています。 また、近年、頻繁にアウトブレイクが検出されているのは、自動遺伝子解析装置(GeneXpert)の使用などエボラ対策における新たな進展、相次ぐ流行に伴う監視・検出の強化、統合疾病監視・対応(IDSR)の規模拡大などによるものである可能性もあります。
 
コンゴ民主共和国では、エボラウイルス病の再発生が公衆衛生上の大きな懸念となっており、発生時の回復、準備、対応に関する国の能力はまだ力不足です。
 
また、ベニ地区は武装集団による不安の影響を受けています。当局が実施している治安対策や国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)に対する抗議活動がより頻繁に行われており、そのため、EVD発生対策が拒否されるリスクがさらに高まり、病気が蔓延する可能性が高まっています。国内で同時に発生している感染症(新型コロナウイルス、コレラ、はしか、ポリオ、黄熱病、サル痘など)や、北キブ州での長引く人道的状況により、保健制度や利用できる資源がますますひっ迫しています。
 
国家レベルのリスクは高いと評価されます。地域レベルおよび世界レベルのリスクは、それぞれ中程度および低いと評価されています。WHOは状況を注意深く監視しており、リスク評価は新しい情報が入手可能になり次第、更新される予定です。

WHOからのアドバイス

WHOは、ヒトにおけるエボラウイルス病の感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク低減策を推奨しています。
 
・感染したフルーツコウモリやサル・類人猿との接触やその生肉の摂取による野生動物から人への感染リスクを低減する。動物の取り扱いには、手袋やその他の適切な保護衣を着用する。動物製品(血液や肉)は十分に加熱してから摂取する。
・エボラウイルス病の症状を示す人との直接または濃厚な接触、特にその体液によるヒトからヒトへの感染のリスクを低減すること。病気の患者を看護する際には、適切な個人用保護具を着用すること。病院内で患者を見舞った後や、体液に触れたり接触したりした後は、定期的に手洗いをする。
・現在進行中の研究のさらなる分析と、エボラウイルス疾患対応に関するWHOアドバイザリーグループによる検討に基づいて、起こりうる性的感染のリスクを軽減すること。WHOは、エボラウイルス病生存者の男性に対し、症状発現から12カ月間、あるいは精液検査でエボラウイルスが2回陰性になるまで、より安全な性交渉を実践することを推奨しています。体液との接触は避けるべきで、石鹸と水による洗浄が推奨されます。WHO は、血液検査でエボラウイルスが陰性となった回復期の患者の男女を隔離することを推奨していません。
・予防行動の実施を支援し、発生時対応策の受け入れを促進するために、地域社会との関わりを持つこと。
・エボラウイルス病患者の早期発見、隔離、治療のための保健医療従事者の訓練と再教育、安全で尊厳ある埋葬に関する再教育を継続すること。
・患者への対応と汚染除去のための個人用防護具とIPC用品を確実に利用できるようにする。
・エルベボ認可ワクチンを使って、医療従事者、接触者、接触者の接触者のワクチン接種の準備をする。
・6カ月以上前にワクチン接種を受けている人については、ワクチン接種に関する専門家戦略アドバイザリーグループ(SAGE)は、エボラウイルス病の確定症例の接触者または接触者の接触者といる場合は、再接種することを推奨しています。
・最新のガイドラインに従って、確定症例を治療するためのエボラ特異的モノクローナル抗体へのアクセスを提供する。
・安全で尊厳のある埋葬の方法を順守するために、地域社会と協力する。
 
現在のリスク評価とエボラウイルス病の発生に関する過去のエビデンスに基づき、WHOはコンゴ民主共和国への渡航と貿易の制限を行わないよう勧告しています。

出典

Ebola virus disease - Democratic Republic of the Congo
Disease Outbreak News 25 August 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON404