複数国におけるサル痘のアウトブレイク(更新9)

External Situation Report 9, published 02 November 2022
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 2 November 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
77,264人 36人 109
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域

焦点

2022年10月17日から10月30日までの週において、欧州地域及び北米・中南米地域で報告されたサル痘の感染者数は継続して減少しており、2022年8月以降の全体的な減少傾向の結果となっています。北米・中南米地域については、継続して世界的にサル痘に係る累積率及び週毎の新規感染者数の率が最多となっています。
 
WHOは、戦略的な対処及び世界的な支援を目的として、加盟国、協力者及び他の利害関係者とともに迅速な対処(サル痘のアウトブレイクの阻止を目的とする。)を取るために、3,382万ドルを求めています(2022年7月から2023年6月まで)。世界的な声明については、WHO管轄の全6地域を対象としており、アフリカ地域、東南アジア地域及び東地中海地域において、予防接種(34%)、調査及び濃厚接触者追跡(17%)、診断・検査(13%)、リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメント(13%)の領域に係る最大の要求があります。
 
国際保健規則2005(以下「IHR」という。)緊急委員会の第3回会議は、複数国におけるサル痘のアウトブレイクに関するものであり、2022年10月20日(木)に開催されました。緊急委員会は、前回の会議以降に世界的なアウトブレイクへの対処(行動介入及び予防接種の効果に関する最新の情報を含む。)が進展していると認識しました。委員会は、合意に至ると考えています(当該の事態は「公衆衛生上の緊急事態」に関するIHRの基準を継続して満たし、継続する懸念の根拠に焦点を当てる。)。これらについては、複数の管轄地域における進行中の感染、WHO加盟国内又は加盟国間における事態準備行動及び事態対処行動の継続的な不均一性、劣悪な環境にある人口集団における健康上の影響が増大する可能性、差別及び偏見の助長、あらゆる理由による感染者の未診断及び未報告、診断、抗ウイルス薬とワクチンへの公平なアクセス不全、研究を通じて強調される必要な知識の格差があります。
 
WHOは、サル痘の戦略的な事態準備行動及び事態対処行動に関する運用計画指針を発表しました。これらの指針については、サル痘に関する国家計画を確立して更新するのに有用です(事態準備行動及び事態対処行動のための5つの核たる要因を強化し、公衆衛生上の要綱全体において、特定の能力及び調整された行動を可能にすることを目的とする。)。

疫学的な更新情報

2022年1月1日から10月30日までにWHO管轄である全6地域の109の国・地域から、77,264人の累積感染者数及び36人の累積死亡者数がWHOに報告されました(表1)。2022年10月19日に発表された複数国におけるサル痘のアウトブレイクに関する状況報告以降、3,827人の新規感染者数(5.2%の増加)及び7人の新規死亡者数が報告されました。
 
過去7日間において、15か国が毎週の新規感染者数の増加を報告し、ナイジェリアで最大の増加が報告されました。過去21日間にわたり、58か国において、新規感染者数が報告されませんでした(21日は、潜伏期間の最大値です。また、前回の報告より9か国増加しています。)。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数は、疫学的第42週(2022年10月17日から10月23日まで。以下同じ。)の2,182人と比較し、疫学的第43週(2022年10月24日から10月30日まで。以下同じ。)の1,295人まで40.7%減少しました(欧州地域で38%及び北米・中南米地域で41%と最大の減少率でした。)。減少もにかかわらず、過去4週間に報告された新規感染者数の大多数は、北米・中南米地域(88.7%)及び欧州地域(7.7%)から報告されました。2022年10月17日から10月30日までにおいて、米国から4人、ブラジルから2人及びモザンビークから1人、合計7人の新規死亡者数が報告されました。北米・中南米地域については、全体的に新規感染者数の中で最多となる新規死亡者数を報告しています(36人中の16人、44.4%)。
 
2022年10月30日時点で、世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(28,379人)、ブラジル(9,162人)、スペイン(7,317人)、フランス(4,094人)、英国(3,698人)、ドイツ(3,662人)、コロンビア(3,298人)、ペルー(3,048人)、メキシコ(2,654人)及びカナダ(1,437人)です。当該の10か国を合算すると、今日に至るまでに世界的に報告された新規感染者数の86.4%を占めています。
 
表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のサル痘に係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から10月30日17時(欧州夏時間)まで)
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のサル痘に係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から10月30日17時(欧州夏時間)まで)


※当該のグラフについては、日曜日に終了する疫学的週を反映した週報を示しています。現在の週に係るデータについては、次回の状況報告で提示されます。
 
他の重要な疫学的知見
アウトブレイクは継続して主に若年男性に影響を与えており、利用可能なデータを伴う感染者数の96.9%(44,911人中の43,513人)は男性であり、年齢の中央値は34歳です(四分位範囲は、29から41歳まで。)。データが利用可能である感染者数の1.2%(534人)が0歳から17歳までであり、そのうち0.3%(138人)は0歳から4歳までとなります。年齢に関する率は管轄地域によって異なり、0歳から17歳までの感染者の率が最も高いと報告された地域は北米・中南米地域でした(534人中の388人、73%)。
 
性的指向が報告された感染者のうち、87.3%(25,805人中の22,539人)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性であると特定されました。報告された感染経路のうち、性交渉中の皮膚及び粘膜を介した接触感染が最も報告されており、感染曝露機会が報告された18,513人中の13,276人(71.7%)でした。
 
報告された感染曝露状況において、最も一般的に報告された感染曝露状況は性的接触を伴う集会であり、8,116件中の3,522件(43.4%)でした。
 
1以上の症状を報告した感染者において、最も一般的な症状は発疹であって感染者の85.5%で報告され、次に全身性発疹が59.2%、その次に発熱及び性器発疹(それぞれ58.3%及び46.1%)となります。
 
HIV感染の有病率については、サル痘感染者において、49.1%(22,236人中の10,917人)と高い報告があります。HIVに関連して免疫不全の状態にある患者については、易感染性であり、重症化のおそれがあります。サル痘及びHIVは、性的接触を介した感染という、行動における共通の危険因子を有します。サル痘感染及びHIV感染を伴う患者については、感染病原体が不明であるとき、検査を考慮する必要があります。
 
図2 公式情報からWHOによって特定又は報告されたサル痘の感染者数に係る地理的分布(2022年月1日1日から10月30日17時00分(欧州夏時間)まで)

最新情報とWHOの助言

WHOは、継続してアウトブレイクを詳細に監視及び対処し、加盟国及びパートナーと国際的な調整及び情報共有を支援しています。加盟国は、進行中である疫学及び対処の研究を支援するためと同様に、包括的な感染者の発見、濃厚接触者の追跡、検査の調査、支援を伴う隔離、臨床的な管理、感染予防及び措置の実施、リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメント、予防接種活動を調整するために、臨床及び公衆衛生上のインシデント対処を開始しています。
 
運用計画指針は、サル痘の戦略的な事態準備行動・事態対処行動の計画に関する枠組みに基づき、サル痘のアウトブレイクに対して準備し、対処するために必要な公衆衛生上の措置を概略する実践的な指針として有用です。これらは、サル痘に関して既に存在する政府計画(事態準備行動及び事態対処行動に関する5つの核となる要素を強化し、公衆衛生上の要綱にわたる特定の能力及び調整された行動を可能にする。)を確立して更新するのに有用です。運用計画指針の活用については、協力者の登場で同様に促進され、政府機関及び国連機関が当該の活動を効率的に計画して実施する観点において、有用となります。

緊急委員会

 IHR緊急委員会の第3回会議は、複数国におけるサル痘のアウトブレイクに関するものであり、2022年10月20日(木)に開催されました。当該の委員会は、WHO事務局長に「複数国におけるサル痘のアウトブレイクは、IHR第1条に規定される「公衆衛生上の緊急事態」の定義を継続して満たす。」と助言しています。更新された暫定推奨事項(WHO事務局長が発行する。)については、過去の2022年7月23日に発行されたものを拡張、修正及び追加しています。
 
当該の暫定推奨事項については、疫学的な背景、サル痘アウトブレイクの対処に関する能力及び感染経路に応じて締約国に適用されます。いかなる締約国についても、輸入感染又は局所的なヒトからヒト感染に直面しうるおそれがあります。それゆえ、各締約国は、調査を実施し、感染疑い症例のアウトブレイク対処に備える必要があります(いかなる感染源も、ヒトからヒト感染を引き起こす可能性があるため。)。一部の締約国については、人獣共通感染を経験している、又はヒトから動物への感染を観察している可能性があります。加盟国は、技術移行を通じてワクチン、診断、治療のアクセス拡大を支援する立場にあれば、最終的にあらゆる努力を払う必要があります。

臨床及び治療

大多数のサル痘感染者については、全身症状(発熱、頭痛、倦怠感又はリンパ節腫脹)に加え、限局的な皮疹及び疼痛を伴う軽症から中等度までの症状を呈します。現在の複数国におけるサル痘のアウトブレイクにおいて、皮疹の大半については、非定型的であり、生殖器、肛門又はその周囲に位置することが多くなります(直腸炎、尿道炎及び咽頭炎を合併する定型的な中心性分布を伴わない。)。患者が受ける対症療法については、解熱のための解熱鎮痛剤、疼痛コントロール目的の経口又は局所鎮痛剤、皮膚病変を清潔に保持するための部分的なケア、栄養及び水分維持の奨励があります。
 
サル痘による入院率については、継続して低く、研究の報告によれば、5から10%までとなります。患者はときに入院を要する合併症を呈することがあり、最も一般的な理由として、鎮痛を必要とする重度の生殖器及び直腸肛門痛、細菌感染症(蜂窩織炎をいう。生殖器及び直腸肛門部位に及ぶ。)、陰茎浮腫による尿閉又は眼病変があります。皮膚病変については、清潔に保持し、皮膚・軟部組織感染症の進展(蜂窩織炎、膿瘍、筋炎、軟部組織感染症をいう。抗菌薬治療及び局所的な創傷治療を必要とする。)を含む合併症を経過観察する必要があります。その他の合併症については、直腸炎、尿道炎、呼吸苦、重症肺炎、角膜炎又は感染症(重度視力障害につながる。)、嘔吐・下痢(重度脱水につながる。)、電解質異常又は栄養失調、敗血症又はショック、頸部リンパ節腫脹(咽後膿瘍、呼吸障害又は敗血症につながる。)、希なものとして、心筋炎、脳炎、他の神経学的異常を含みます。これらの感染者については、適切な専門家によって、最適な支持療法で治療し、評価する必要があります(WHO指針)。
 
妊婦、小児、進行又は未治療であるHIV患者を例とした免疫不全の状態にある患者については、より広範な全身性発疹を例として、サル痘感染の重症化又は合併症を伴うおそれがあります。サル痘感染者において、サル痘感染経過中にHIVの診断を初めて受ける感染者もいます。

サル痘に対する抗ウイルス薬の使用については、有効性及び安全性に関する科学的根拠の作成を迅速に行うために、標準化された設計手法及び臨床結果・データの収集ツールを使用した臨床研究に基づく必要があります。これが不可能であっても、安全性及び臨床結果(例えばサル痘に関するWHO臨床データプラットフォーム)に関するデータ収集(現在のアウトブレイクの状況で期待できる最小値を示す。)を用いたアクセス手順(拡張されている。)に基づいて考慮できる可能性があります。

リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメント

WHOは、個人や集団がサル痘から自分自身や他の人を守り、必要に応じて予防接種、検査及び治療を求めるのを支援するために、ハイリスクの集団への関与及びリスクコミュニケーション活動を継続して実施しています(リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメントに関する公衆衛生上の助言)。
 
インフォデミックの管理及びエピデミックに関するWHO情報ネットワーク
 WHOは、人々の認識及び懸念を理解して対処するために、インフォデミックに関する考察を継続して解析しています。エピデミックに関するWHO情報ネットワークは、「輸入及び旅行部門のためのWHOサル痘技術説明会」に関するウェビナーを2022年10月5日に開催しました。当該の部門は世界労働ネットワークのWHO健康の一部門であり、ウェビナーは当該の部門に関する重要な考慮事項を強調して質問及び懸念に対処しました。

国・地域の更新情報

北米・中南米地域におけるサル痘の状況報告

北米・中南米地域(以下「当該地域」という。)において、2022年10月30日に50,716人のサル痘感染者数が報告されました(当該地域の31か国から報告された16人の死亡者数を含む。)。当該地域については、世界的に報告されたサル痘感染者数の累積率及び週毎の新規感染者数の率が継続して最多となっています。当該地域の6か国(米国、ブラジル、ペルー、コロンビア、メキシコ及びカナダ)については、世界的な上位10か国に含まれており、合算して47,978人の感染者数、世界的な感染者数の62%及び当該地域における感染者数の94%を占めています。6か国中の2か国であるメキシコ及びコロンビアについては、直近で上位10か国に追加され、当該地域において感染がより多くの国へ進展していることを示唆しています。当該地域における12,563人の感染者数のうち84%については、感染経路に関する情報が利用可能であり、地域で感染した感染者となります。
 
WHOは、報告された合計感染者数の93%(46,957人)に関する詳細なデータを加盟国から受け取っています。性別に関する情報を伴う18,968人の感染者数のうち、95.3%(18,069人)は男性でした(19,926人については、年齢に関する情報があり、0歳から95歳まで、中央値は32歳、平均値は33.4歳となる。)。性的指向に関するデータを伴う11,329人の感染者数のうち、7,964人(70%)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性でした。入院に関する情報を伴う25,808人の感染者数のうち、1,649人(6%)は入院していました(隔離目的を含む。)。
 
さらに、他の人口集団における感染が増加するおそれがあります。最もおそれの高い集団については、圧倒的に平均年齢33歳の男性となります。しかしながら、女性の感染者(妊婦を含む。)についても、小児と同様に注意が必要となります。性別に関する情報が報告された感染者数のうち、おおよそ5%(18,968人中の899人)が女性です(25人の妊婦を含む。)。33人の女性感染者(3人の妊婦を含む。)は、入院を必要としました(隔離目的を含む。)。415人の感染者(1歳未満である5人の新生児・乳児を含む。)については、8か国(ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、ドミニカ、エクアドル、メキシコ及びペルー)から18歳未満であると報告されています。
 
当該地域における先住民族及び囚人間の感染については、劣悪な環境のため、懸念が残ります。アウトブレイクの対処については、おそれのある集団とのコミュニケーション及び関与、コミュニケーション及び予防措置のために集会を活用すること、感染者の適時な検出及び治療、医療従事者の曝露予防が継続して重要な鍵である必要があります。

北米・中南米地域におけるWHOのサル痘への対処
 
WHOは、当該地域において、サル痘を管理して感染を防止するための効率的な対処計画を策定するために、技術調整及び多部門を跨ぐ調整事項を下記のとおり提供しています。
 
(1)研究所
WHOは、分子生物学的診断のための検査機器及び試薬の調達及び供給を支援しています。検査情報システムは、サル痘ウイルスの診断を含むよう適応しています(要請のあった国におけるWHOからの支援を伴う。)。
 
(2)調査
ダッシュボードは、データの視覚化、サル痘感染者の解析及び追跡を促進するために開発されています。電子データ収集及び報告ツールは、開発されています。WHOは、感染者の通知、調査及び濃厚接触者追跡のためのGo Dataツールの導入及び更新を支援しています。
 
(3)その他
WHOは、サル痘に関するWHO指針(各国の状況において、適応が可能となる。)の導入を促進するために、東カリブ諸国のサル痘に関する統合された調査指針の要約について、開発を支援しています。WHOは、サル痘に関するWHOの世界的な臨床プラットフォーム(サル痘に係る臨床的な特徴を記述して評価する旨を意図しており、安全性、制限アクセス及びパスワードを伴う。)の導入を支援しています。
 
(4)調整
WHOは、メキシコにおいて、健康予防及び促進部門の次官、疫学に関する役員会に所属する感染症疫学の役員が出席した会議を開催しました。WHO及び政府当局は、サル痘の調査を強化し、国内の予防及びリスクコミュニケーションの戦略を拡散する報告に取り組んでいます。
 
(5)治療
WHOは、当該地域のサル痘に関する実験的な介入手順(WHOが監視している。)の緊急使用を導入する手法について、加盟国に支援を提供しています。倫理審査委員会の特別会議は、当該の手順(特定の倫理的条件下において、サル痘感染者を管理するための潜在的な治療法の緊急使用を可能とする。)を検討するために、開催されました。
 
(6)予防接種
WHOは、2022年10月第1週において、サル痘ワクチンの初回投与をブラジル及びチリへ提供しました。エクアドル、エルサルバドル、ジャマイカ及びパナマについては、2022年10月中にWHO関連基金を通じて同様にワクチン接種の提供を受けました。当該地域において、合計18,200回のワクチン接種が提供されています。

 

出典

World Health Organization. Multi-country outbreak of monkeypox External Situation Report 9, published 2 November 2022”.WHO.2022. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-monkeypox--external-situation-report--9---2-november-2022, (参照2022-11-3).