複数国におけるmpox(サル痘)のアウトブレイク(更新11)

External Situation Report 10, published 1 December 2022
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 27 November 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
81,107人 55人 110
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域
 
 

焦点

WHOは、世界的な専門家との一連の協議の後に「サル痘」の病名として「mpox」という専門用語の使用を開始します。「サル痘」が段階的に廃止されるまで、両方の名称が1年間同時に使用されます。2022年11月21日から11月27日(以下「直近1週間」という。)までの週に報告されたmpoxの新規感染者数は、世界的に継続して減少しました。
 
直近1週間の東地中海地域については、5週連続で新規感染者数が発生しなかった後に、6人の新規感染者数が報告されました。これらについては、2022年10月1日から11月25日までに診断された感染者の後ろ向きの報告です。
 
11月16日に発行された前回の報告以降において、1,696人の新規感染者数(2.1%の増加)及び5人の新規死亡者数が報告されています。
 
アウトブレイクが始まって以降において、HIV感染の高い有病率(28,006人中の14,573人、52%)がHIV状態にある感染者のうちで報告されています。
 
感染者のうち女性の占める割合は、アウトブレイクが始まって以降徐々に増加しています(2022年11月20日時点の6.7%)。

疫学的な更新情報

2022年1月1日から11月27日までにWHO管轄である全6地域の110の国・地域から、81,107人の累積感染者数及び55人の累積死亡者数がWHOに報告されています(表1)。2022年11月16日に発表された状況報告以降、1,696人の新規感染者数(2.1%の増加)及び5人の新規死亡者数が報告されています。
 
過去7日間において、10か国が毎週の新規感染者数の増加を報告し、ペルーで最大の増加が報告されました。過去21日間にわたり、71か国において、新規感染者数が報告されませんでした(21日は、潜伏期間の最大値です。また、前回の報告より8か国増加しています。)。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数は、疫学的第46週(2022年11月14日から11月20日まで。以下同じ。)の1,090人と比較し、疫学的第47週(2022年11月21日から11月27日まで。以下同じ。)の588人まで46%減少しました(北米・中南米地域で48%及び欧州地域で15%と最大の減少率でした。当該の2地域については、累積感染者数が最多の2地域です。)。直近1週間の東地中海地域については、5週連続の新規感染者数の報告がなかった後に、レバノンから6人の新規感染者数が報告されました(2022年10月1日から11月25日までの期間に診断された感染者の後ろ向きの報告です。)。
 
2022年11月14日から11月27日までにおいて、米国(3人)、スペイン(1人)及びチリ(1人)から、合計5人の新規死亡者数が報告されました。北米・中南米地域については、全体的に新規感染者数の中で最多となる新規死亡者数を報告しています(55人中の34人、62%)。
 
2022年11月27日時点で、世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(29,001人)、ブラジル(9,905人)、スペイン(7,405人)、フランス(4,107人)、コロンビア(3,803人)、英国(3,720人)、ドイツ(3,672人)、ペルー(3,444人)、メキシコ(3,292人)及びカナダ(1,449人)です。当該の10か国を合算すると、に世界的に報告された新規感染者数の86.1%を占めています。
 
表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のmpoxに係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から11月27日17時(欧州夏時間)まで)
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のmpoxに係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から11月27日17時(欧州夏時間)まで)
 
※当該のグラフについては、日曜日に終了する疫学的週を反映した週報を示しています。現在の週に係るデータについては、次回の状況報告で提示されます。
 
他の重要な疫学的知見
アウトブレイクは継続して主に若年男性に影響を与えており、利用可能なデータを伴う感染者数の96.9%(48,188人中の46,691人)は男性であり、年齢の中央値は34歳です(四分位範囲は、29から41歳まで。)。データが利用可能である感染者数の1.2%(570人)が0歳から17歳までであり、そのうち0.3%(146人)は0歳から4歳までとなります。この割合は管轄地域によって異なり、北米・中南米地域は0歳から17歳までの感染者の割合が最も高いと報告されました(570人中の422人、74%)。性的指向が報告された感染者のうち、84.8%(28,607人中の24,251人)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性であると特定されました。報告された感染経路のうち、性交渉中の皮膚及び粘膜を介した接触感染が最も報告されており、感染曝露機会が報告された19,609件中の13,904件(70.9%)でした。感染経路に関する詳細な情報はアフリカ地域からの大半の感染者については入手できず、当該の感染・伝播性に関する情報については、アフリカ地域におけるウイルスの疫学的な拡散を完全には記述できないおそれがあります。当該地域の国々については、人から人への感染及び感染した動物との接触による感染の両方があります。
 
報告された感染曝露状況において、最も一般的に報告された感染曝露状況は性的接触を伴う集会であり、曝露状況が報告された6,381件中の3,767件(59%)でした。
 
図2 公式の情報源からWHOに報告又は特定されたmpox感染者の地理的分布図(2022年1月1日から11月27日17時(欧州夏時間)まで)
 

HIVmpox
HIV陽性者は、免疫不全のため、mpoxに感染するおそれがあります。免疫不全については、曝露したときに感染するおそれが高くなり、mpoxによる重症化又は死亡のおそれが高まるという科学的根拠があります。しかしながら、これを理解するために、更なるデータが必要です。
 
アウトブレイクが始まって以降において、HIV感染の高い有病率(28,006人中の14,573人、52%)がHIV状態と既に判明している感染者のうちで報告されています。現在のアウトブレイクにおいてmpoxを伴う多くの人々はHIVとともに生存していますが、mpoxが重症化する感染者は相対的にほぼなく、感染者の大半においてHIVコントロールが良好であったためです。Mpox及びHIVは性的接触を通じての感染という共通の行動上の危険因子を有しています。感染源が不明であれば、mpox感染を伴う人にHIV感染のおそれを考慮する必要があります。
 
複数の性交渉の相手を持つ人々(HIVとともに生存する人々を含む。)は、有症状である人との濃厚接触を避けること又は複数の接触が起こりうるおそれの高い状況を回避することにより(mpox感染の自覚がない人を含む。)、mpoxに曝露するおそれを減らすように段階を踏むように推奨されています。性交渉の相手の数を減らすことで、感染のおそれを軽減できる可能性があります。
 
HIV保持者のためのmpoxへの事態対処行動を強化するためのWHOの戦略的な事前準備行動及び事態対処行動の計画
(1)包括的な事態対処行動
救急治療、性に関する健康、診断検査サービス、HIV予防及び治療、他の関連した健康サービス配布ポイント間の関連性を確立するために、mpoxの治療を求めるおそれの高い集団に焦点を絞った健康サービスの地図化を主導すること。
 
(2)鍵となる活動及び能力
mpox調査指針、SOPs(感染者及び濃厚接触の定義を含む。)、感染者調査フォーム、報告手順を開発して訂正し、公立又は私立施設における医療従事者へ、国又は地域の段階において、特に重症化するおそれの高い集団(例えば性の健康に関するサービス、HIV予防及び治療、ワンヘルス及び獣医サービス、難民キャンプ。)へ普及させること。
 
(3)適切な情報管理システムを通じ、時機に即したデータの関連づけ、解析及び行動を可能にするために、検査データを鍵となる疫学かつ臨床のデータと関連づけること(HIV及び性感染症に関する臨床情報及び検査結果を含む。)。
 
(4)コミュニティエンゲージメント
感染のおそれが高い集団が疎外されて偏見を受けている場所において、そのような集団に接近して支援するために、確立された既存の集団ネットワークとともに取り組むこと(感染した脆弱な集団、HIV支援ネットワーク、宗教団体、企業の雇用者を含む。)。
 
(5)予防接種
適切な予防接種が可能であれば、発症を予防して重症化を軽減するために、感染者の濃厚接触者に対して発症前に曝露後予防接種を検討すること(理想的には最初の曝露から4日以内とし、無症状のときは最大14日間とする。)。特別な集団の個人については(例えば妊産婦、小児、HIV保持者を含む免疫不全者)、利害を慎重に評価した後に適切な予防接種が可能であれば、曝露後予防接種を考慮した方がよい可能性があります。
 
(6)感染者の管理
例えば性感染症、HIV又は皮膚科疾患のような既存の職業集団ネットワークを活用することで、疫学状況に応じた臨床能力を強化すること。
 
(7)mpoxを伴う人々への包括的な治療を確実にすること(例えばHIV、性感染症、細菌感染症という他の感染症の管理を含む。)

特別な焦点(女性のMpox)

現在進行中のアウトブレイクについては、主に男性と性交渉を行う男性で観察されますが(図3)、女性を含む他の集団における感染も記録されています。女性の感染者の割合については、アウトブレイクの開始以降に徐々に増加しており、2022年11月20日の時点で6.7%に達していますが、この増加は、過去数週間の絶対的な感染者数が少数であることを考慮して解釈する必要があります。女性の感染者については、年齢の中央値は30歳です(四分位範囲は、22歳から40歳までです。)。年齢のデータが利用可能な場合、215人(14.5%)にあっては0歳から17歳まで、1,024人(68.9%)にあっては18歳から44歳まで、212人(14.3%)にあっては45歳から64歳まで、35人(2.4%)にあっては65歳以上となります。これらの感染者の大半は、北米・中南米地域(1,497人中の1,002人、67%)及び欧州地域(1,497人中の422人、28.2%)から報告されました。女性の感染者は、同様にアフリカ地域(1,497人中の61人、4.1%)、東南アジア地域(1,497人中の5人、0.3%)、東地中海地域(1,497人中の4人、0.3%)及び西太平洋地域(1,497人中の3人、0.2%)からも報告されています。
 
性的指向が報告された感染者のうち、大多数の女性は異性愛者でした(747人中の648人、87%)。最多である報告された曝露状況にあっては家庭内であり(204人中の87人、43%)、最も頻繁であった感染経路にあっては性的接触によるものでした(474人中の198人、42%)(図4及び5)。
 
図3 女性のmpox感染者の割合(2022年11月20日時点)
 
図4 女性のmpox感染者(204人)の曝露形態(2022年11月20日時点)
 
図5 女性のmpox感染者(474人)の感染・伝播の経路(2022年11月20日時点)