複数国におけるmpox(サル痘)のアウトブレイク(更新12)

External Situation Report 12, published 14 December 2022
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 11 December 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
82,624人 65人 110
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域

焦点

12月1日に発行された前回の報告以降において、1,517人の新規感染者数(1.9%の増加)及び10人の新規死亡者数が報告されています。
 
Mpoxは、サル痘の新しい名称として承認されています。新しい名称は、2022年12月2日にICD-10に専門用語として含まれており、2023年1月からICD-11に含まれる予定です。
 
MEURIという枠組みのもとで緊急使用するためのテコビリマットの寄付を受け取るために各国が関心を表明する需要については、2022年12月6日に終了しました。4地域から合計20か国が当該のプログラムに関心を示す表明を提出しています。
 
調査及び他の地域におけるmpoxへの事態対処行動を最適化するための支援を行うために、WHOはナイジェリア及び中央アフリカ共和国へ複数国の支援任務を行っています。

疫学的な更新情報

2022年1月1日から12月11日までにWHO管轄である全6地域の110の国・地域から、82,624人の累積感染者数及び65人の累積死亡者数がWHOに報告されています(表1)。2022年12月1日に発表された状況報告以降、1,517人の新規感染者数(1.9%の増加)及び10人の新規死亡者数が報告されています。
 
過去7日間において、12か国が毎週の新規感染者数の増加を報告し、メキシコで最大の増加が報告されました。過去21日間にわたり、74か国において、新規感染者数が報告されませんでした(21日は、潜伏期間の最大値です。また、前回の報告より3か国増加しています。)。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数は、疫学的第48週(2022年11月28日から12月4日まで。以下同じ。)の961人と比較し、疫学的第49週(2022年12月5日から12月11日まで。以下同じ。)の523人まで46%減少しました(北米・中南米地域で47%及び欧州地域で14%と最大の減少率でした。当該の2地域については、累積感染者数が最多の2地域です。)。
 
2022年12月1日から12月11日までの期間において、合計10人の新規死亡者数が報告されました。全て北米・中南米地域である米国(6人)、ブラジル(2人)及びアルゼンチン(1人)及びチリ(1人)からです。
 
2022年12月11日時点で、世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(29,513人)、ブラジル(10,235人)、スペイン(7,412人)、フランス(4,110人)、コロンビア(3,880人)、英国(3,730人)、ドイツ(3,673人)、ペルー(3,566人)、メキシコ(3,455人)及びカナダ(1,459人)です。当該の10か国を合算すると、世界的に報告された新規感染者数の86%を占めています。
 
表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のmpoxに係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から12月11日17時(欧州夏時間)まで)
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のmpoxに係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から12月11日17時(欧州夏時間)まで)
 
※当該のグラフについては、日曜日に終了する疫学的週を反映した週報を示しています。現在の週に係るデータについては、次回の状況報告で提示されます。
 
他の重要な疫学的知見
アウトブレイクは継続して主に若年男性に影響を与えており、利用可能なデータを伴う感染者数の96.8%(46,673人中の45,195人)は男性であり、年齢の中央値は34歳です(四分位範囲は、29から41歳まで。)。データが利用可能である感染者数の1.2%(546人)が0歳から17歳までであり、0.3%(139人)は0歳から4歳までとなります。この割合は管轄地域によって異なり、北米・中南米地域については、0歳から17歳までの感染者の割合が最も高いと報告されました(546人中の417人、76%)。
 
性的指向が報告された感染者のうち、85.9%(27,477人中の23,614人)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性であると特定されました。報告された感染経路のうち、性交渉中の皮膚及び粘膜を介した接触感染が最も報告されており、感染曝露機会が報告された19,175件中の13,936件(72.7%)でした。感染経路に関する詳細な情報については、アフリカ地域からの大半の感染者を入手できず、当該の感染・伝播性に関する情報については、アフリカ地域におけるウイルスの疫学的な拡散を完全には記述できないおそれがあります。当該地域の国々については、ヒトからヒトへの感染及び感染した動物との接触による感染の両方があります。
 
最も一般的に報告された感染曝露状況は性的接触を伴う集会であり、曝露状況が報告された6,390件中の3,776件(59.1%)でした。
 
図2 公式の情報源からWHOに報告又は特定されたmpox感染者の地理的分布図(2022年1月1日から12月11日17時(欧州夏時間)まで)

特別な焦点(性の健康とmpox)

ナイジェリアでの2017年から2018年までのアウトブレイクのときに最初に記録されたとおり、mpoxは性的接触によって感染するおそれがあります。進行中である複数の国におけるクレードⅡbのアウトブレイクについては、主にゲイ、バイセクシャル、男性と性交渉を行う男性(欧州地域及び北米・中南米地域)に影響を与えており、主に高度な相互接続性のあるネットワークにおける性的接触によって感染します。精液及び直腸から採取した液体から複製可能なウイルスが分離されました。また、受動的な肛門性交を例とする特定の性的活動は、臨床的な合併症(直腸炎を含む。)と関連しており、性的接触が(感染曝露を)獲得する経路であることを強く示唆しています。これらの臨床及び疫学的所見はmpoxのヒトからヒトへの感染が複数のネットワークにおける性的接触を介して持続するおそれがあることを示唆しており、mpoxは新興の性感染症として確立されています。
 
世界的な感染者のデータは2022年8月に頂点を迎えた後において男性同士の性交渉を行う男性の間で報告されたmpox感染者数が複数の国で減少していることを示唆していますが、このアウトブレイクの将来の見通しは明らかではありません。これらのネットワークでの感染減少の一部については、米国のような状況における行動の変化に関連しているようです。ただし、感染又はワクチン接種による免疫も感染・伝播の動向を説明できるかもしれませんが、実際の科学的根拠は乏しいものです。数学的モデリングは、アウトブレイクの当初の数箇月の間に、複数のネットワークの蜜に接続された部分で獲得された免疫がこの低下の大部分を説明できる可能性を示唆しています。一方で感染は継続しており、検出の有無に関わらず、現在の流行の起源は不明のままであり、国又は地域レベルでの根絶が達成されたとしても、更なるアウトブレイクが継続するおそれがあります。
 
疫学研究から得られた最新の科学的根拠は、感染に関する類型が緩徐に変化していること(ヘルスケアの利用に重大な障害を経験している新興の鍵となる集団を含む(例えば性的産業に従事する人々、トランスジェンダーの女性)。)を同様に示唆しています。さらに、mpoxの疫学的な類型が異なり、かつ、持続的な感染に寄与する要因について現在の理解が限定的なアフリカの国(WHO管轄のアフリカ地域及び東地中海地域の国を含む。)への緊急的な支援が必要とされています。性的接触によるmpoxの感染が経験のある国及び新たに経験した国の両方で報告されている事実を踏まえると、mpoxの性的接触による感染防止は市中感染及び更なる国際的なアウトブレイク防止のために重要です。
 
進行中であるアウトブレイクの疫学は、mpox、HIV及び他の性感染症の間の明らかな交差を示唆しています。我々の世界的な一連の感染者において、既知のHIV感染者のうち、HIVとともに生存していると確認されたmpox感染者の割合は51.0%(26,992人中の13,769人)です。Mpoxと診断された人については、重複感染する性感染症(別の世界的な一連の感染者の29%を含む。)と診断されることがよくあります。HIV、性感染症及びmpoxが性的接触を介して感染するおそれがあることを考慮すると、鍵となる集団に焦点を当てた人々中心の手法を使用してこれらのシンデミックに対処するための制御介入を提供する機会があります。これは、mpoxによって引き起こされる不利益(罹患率や死亡率を含む。)を軽減するために、特に重要です。当初の知見については、未治療のHIVを原因として重症であるmpox入院患者が免疫不全者であるおそれが高いことを示唆しています(2022年WHO未公表のデータ)。
 
次回の状況報告では、mpox、HIV、他の性感染症の予防及び治療を統合する様々な側面を掲載します。

国の任務

アフリカ地域における4か国(ナイジェリア、ガーナ、コンゴ民主共和国及び中央アフリカ共和国)が2022年に当該地域で報告されたmpox感染者数の70%以上を占めています。「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」としての複数国におけるmpoxアウトブレイクの宣言中において、WHO事務局長は当該地域からのデータ不足(特に疫学的状況を特徴化するための課題)について懸念を表明しました。複数の当該地域の国への支援任務は、IHR緊急委員会の暫定勧告から引き出された優先行動の実施に向けてサル痘への事態対処行動の取組を強化し、加盟国及び他の利害関係者との高い位置での提唱及び技術関与を開始するための全体的な目的とともに組織されています。

国別の任務(ナイジェリア)

ナイジェリアへの技術支援任務は、2022年10月11日から14日までの間に行われました。WHOの3つの段階(国別オフィス、地域オフィス及び本部)の任務チームは、リーダーシップ及び調整、調査、検査、臨床的な管理、リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメント、ワンヘルスの専門知識で構成されました。
 
任務において、チームは国内でmpox及び他の優先的な疾病に対する事態対処行動を行うための標準文書を参照しました。保健省及びナイジェリア疾病管理予防センターの職員と会い、協議しました。さらに、チームは医療施設の現地視察を実施しました。調査結果及び推奨事項は、要約されており、関係当局と議論されている途中です。

国別の任務(中央アフリカ共和国)

中央アフリカ共和国のmpoxアウトブレイクへの事態対処行動に関する技術支援任務は、11月21日から11月25日までの間に実施されました。任務チームは、WHOと同様に各省のメンバーで構成されていました。
 
任務において、チームは当該国におけるmpox及び他の優先的な疾病に対する事態対処行動を行うための標準文書を参照しました。様々な省庁職員に会い、中央アフリカ共和国における世界銀行の地域疾病調査システム強化の4つのプロジェクトの焦点とともに協議しました。さらに、チームはバンギ・パスツール研究所、国立公衆衛生研究所、国立獣医研究所、国立獣医診療所、ムバイ地区病院を訪問しました。調査結果及び推奨事項は、要約されており、関係当局と議論されている途中です。
 
発生した特定の課題について技術支援を提供するようWHOへ依頼をかけているため、アフリカ地域及び他のWHO管轄地域で更なる支援任務が継続して計画され、実施されています。

出典

World Health Organization. “Multi-country outbreak of mpox External Situation Report #12, published 14 December 2022”.WHO.2022. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-mpox--external-situation-report-12--14-december-2022, (参照2022-12-15).