伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)-インドネシア共和国

Disease outbreak news  2022年12月19日

発生状況一覧

2022年11月12日、インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)保健省は、アチェ(Aceh)特別州ピディ(Pidie)県から急性弛緩性麻痺(以下、「AFP」という。)を伴う伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)の確定症例が発生したとWHOに通知しました。世界ポリオ撲滅推進計画のパートナー機関の支援のもと、地元と国の公衆衛生当局が直ちに現地調査を開始しました。11月28日には、保健省が発生地の13歳未満の子どもたちを対象とした予防接種キャンペーンを開始しました。

発生の概要

2022年11月12日、インドネシア保健省は、ワクチン由来ポリオウイルス2型(VDPV2)の確定症例をWHOに通知しました。患者はアチェ特別州ピディ県出身の7歳男児で、2022年10月9日にAFPを発症しました。この患者は経口ポリオワクチン(OPV)または不活化ポリオワクチン(IPV)を受けておらず、旅行歴や旅行した人との接触はありませんでした。2022年11月25日、患児との濃厚接触者にはあたらないが、同じ地域に住む健康な小児3人から採取した便検体の検査結果に基づき、遺伝的に3か所関連するcVDPV2の分離株が報告されました。Biofarma研究所の塩基配列解析の結果、AFP症例では25塩基、無症状児3名では25~26塩基の変異が確認されました。これらの結果は、ウイルス伝播の証拠を示すものであり、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)の該当基準を満たします。インドネシアでは過去、2019年にパプア(Papua)州で伝播型ワクチン由来ポリオウイルス1型(cVDPV1)の流行が報告されています。 
 
アチェ特別州では、定期予防接種プログラムにおけるポリオワクチン接種率が非常に低いです。また、アチェ特別州の近隣の北スマトラ州、西スマトラ州、リアウ州の3州を含むインドネシアの他の複数の州でも接種率は低くなっています。2021年、アチェ特別州では、二価経口ポリオワクチン(OPV3)の接種率は50.9%、不活化ポリオワクチンは28.2%、ピディ県では二価経口ポリオワクチン(OPV3)は17.7%、不活化ポリオワクチンは0.5%でした。2016年4月に3価から2価の経口ポリオワクチンに切り替わった後に生まれた子どもたちには、すべての血清型のポリオウイルスに対して免疫は弱く、とりわけ2型に対して脆弱です。

ポリオの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児に感染し、感染者の約200人に1人に永続的な麻痺、麻痺者の2~10%は死亡する感染力の強い病気です。 
 
ウイルスは、主に糞口経路で人から人へ感染しますが、それ外にも一般的な経路として、頻度は低いものの、汚染された水や食べ物などを介して感染し、腸内で増殖、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。 
 
潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状があるのみで、通常、病気であると気づかないです。 
 
ワクチン由来ポリオウイルスは、経口ポリオワクチンにもともと含まれていたポリオウイルスが変異したもので、よく知られている株です。経口ポリオワクチンには弱毒化した生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することで抗体ができ、免疫力が発達します。まれに、消化管内で複製する際に、経口ポリオワクチンの株が遺伝的に変化し、ポリオワクチンを十分に接種していない地域、特に衛生状態の悪い地域や過密な地域で広がることがあります。集団の免疫力が低いほど、このウイルスは長く生き残り、遺伝子が変化していきます。 
 
ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変化し、野生ポリオウイルスと同じように麻痺を引き起こすことがあり、これがワクチン由来ポリオウイルス(以下、「VDPV」という。)と呼ばれるものです。少なくとも2つの異なる場所から、2ヶ月以上の間隔をおいてVDPVが検出され、それが遺伝的に関連し、地域社会での伝播の証拠を示している場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)として分類されるべきです。伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型は、世界の様々な地域、特にアフリカ地域で感染が継続しています。 

公衆衛生上の取り組み

保健省はこの発生を公表し、11月28日にはアチェ特別州の13歳未満の子どもたち120万人を対象に予防接種キャンペーンが開始しました。 
 
リスク評価と現地調査は、世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)パートナー機関の支援のもと、地元と国の公衆衛生当局によって直ちに開始され、分離されたウイルスの起源のより詳細な評価も含めて現在も続けられています。 
 
保健省は、WHO、ユニセフ、その他のパートナー機関の支援を受け、感染を食い止めるための強力な対策に取り組んでいます。
この対策には、次のようなサーベイランスの強化が含まれます。
・医療施設やコミュニティでのAFP症例の積極的な調査
・200世帯のサンプルを対象とした迅速な地域調査による経口ポリオワクチン/不活化ポリオワクチン接種率の評価
・新型経口ポリオワクチン2型(nOPV2)の使用に関するサーベイランス指針の使用法のトレーニング 
 
2022年11月25日にWHO事務局長が緊急対応用nOPV2の投入を承認し、11月28日に流行発生地であるピディ県で13歳未満の子ども約95,603人にワクチン接種する緊急対応接種が開始されました。 
 
アチェ特別州では2022年12月5日に0歳~12歳を対象とした緊急対応型予防接種キャンペーンが開始されました。2023年1月第1週と2月第1週に、アチェ特別州の0歳から12歳、北スマトラ州、西スマトラ州、リアウ州の0歳から4歳を対象にnOPV2による大規模な補完的接種活動(SIA)が提案されています。 
 
アドボカシーキャンペーン、リスクコミュニケーションメッセージ、社会動員が実施されています。

WHOのリスク評価

WHOは、国家レベルでリスクが高いと評価しています。その理由は以下の通りです。アチェ特別州およびインドネシアの他の州におけるポリオワクチン接種率の低さ、使用ワクチンが2016年4月に3価経口ポリオワクチン(tOVP)から2価経口ポリオワクチン(bOPV)に切り替わった後の住民のポリオウイルス2型に対する免疫ができず、また不活化ポリオワクチン(IPV)の接種率は総じて低い状態になっていること。また、十分とは言い難いサーベイランス能力に加え、感染リスクのある住民たちがワクチン接種をためらっていることなどがあげられます。
 
 伝播型ワクチン由来ポリオの検出は、あらゆるポリオウイルスの伝播のリスクと影響を最小限に抑えるために、いたるところで高いレベルの定期接種率を維持することの重要性と、あらゆるポリオウイルスを早期に発見するための質の高い監視体制を確保する必要性を浮き彫りにしました。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオの発生している国や地域と頻繁に人の行き来や接触がある国は、新たなウイルスの侵入を素早く発見し、迅速に対応するために、AFP症例の監視を強め、環境監視の拡充を計画的に開始することが重要です。また、国や地域は、新たなウイルスの流入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルで一律に高い定期予防接種率を維持する必要があります。 
WHOの「International travel and health(英文)」では、ポリオが発生している地域への渡航者は全員、ポリオの予防接種を完了することを推奨しています。 
 
ポリオウイルスの国際的な広がりに関して、国際保健規則(IHR2005)に基づき招集された緊急委員会の助言に従い、ポリオウイルス感染が発生している国は、一時的な勧告の対象になっています。国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の下で出された臨時勧告を遵守するために、滞在先で感染したcVDPV2を持ち帰ったことによる輸入症例があった国は、(i)発生を国家公衆衛生緊急事態として宣言する(ii)居住者および長期滞在者に海外旅行の4週間から12カ月前に不活化ポリオワクチンの接種を受けるよう奨励する(iii)当該接種を受けた旅行者がポリオワクチン接種状況を記録する適切な文書を利用できるようにする。(iv)不活化ポリオワクチンの接種率向上のための努力をさらに徹底し、接種率データを共有する。 (v) 地域協力と国境を越えた連携を進め、ポリオウイルスを迅速に発見するためのサーベイランス能力を向上し、難民、旅行者や国境を越えて移動する人々に、委員会の助言にしたがってワクチンを接種していく、などの実施をすべきと考えられています。
 
WHOは、今回の感染発生について入手可能な情報に基づき、インドネシアへの渡航や貿易の制限を推奨していません。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) - Indonesia 
Disease Outbreak News 19 December 2022  
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON430