エンテロウイルス・エコーウイルス11型感染症-ヨーロッパ地域

Disease outbreak news 2023年7月7日

発生状況一覧

 2023年5月31日に発表されたフランス共和国(以下、「フランス」という。)でのエンテロウイルス(エコーウイルス11型(E-11))感染を報告したアウトブレイクニュース以降、WHOヨーロッパ地域の加盟国からさらに新生児のE-11感染例がWHOに通知されています。 
 
2023年6月26日現在、クロアチア共和国(以下、「クロアチア」という。)、イタリア共和国(以下、「イタリア」という。)、スペイン王国(以下、「スペイン」という。)、スウェーデン王国(以下、「スウェーデン」という。)、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(以下、「英国」という。)が、新生児におけるE-11感染の確定症例を報告しています。これらの加盟国では、さらなる調査と公衆衛生上の取り組みが実施されています。 
 
本アウトブレイクニュースでは、ヨーロッパ地域の症例報告国および非報告国での事象の更新と公衆衛生上の取り組みについての最新情報を提供します。 
 
入手可能な限られた情報に基づき、WHOは一般住民の公衆衛生上のリスクは低いと評価する一方、各国に対し引き続き症例の監視と報告を奨励しています。新生児をケアする医療施設は、エコーウイルスの徴候や症状に精通し、潜在的な医療関連感染やアウトブレイクへの警戒を維持すべきです。

発生の概要

2023年5月5日、フランスでエンテロウイルス(エコーウイルス11型(以下E-11という。))に関連した重症新生児敗血症の症例増加が報告されました。2022年7月から2023年4月までの間に、フランスの3地域の4つの病院から、肝機能障害と多臓器不全を伴う新生児敗血症が合計9例報告され、7例が死亡しました。 
 
2023年6月26日現在、クロアチアは2023年6月に検出された新生児のエンテロウイルス感染症クラスターからE-11感染確定症例1例を報告、イタリアは2023年4月から6月までの間に新生児でE-11感染確定症例7例を報告、スペインは2023年にE-11感染症例2例を報告、スウェーデンは2022年から2023年6月15日までにE-11感染による乳児の髄膜脳炎4例を含むE-11感染症例5例を報告、英国は2023年3月に2例を報告しています。

フランス

2023年6月26日現在、フランスでは、肝機能障害および多臓器不全を伴う重症E-11新生児敗血症の9症例が報告されました。これらの症例は2022年7月から2023年4月までの間にフランスの3大都市圏で採取された血液検体、咽頭ぬぐい液、鼻咽頭ぬぐい液、脳脊髄液検体、および/または死後生検のエンテロウイルス逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査によって確認されました。9例のうち6例は2022年(7月、10月、12月の各月2例)、3例は2023年(1月に1例と4月に2例)に発生しました。8例は早産(妊娠37週以前に生まれた)で、31週と36週で生まれた双子の4組でした。9例中、7例の死亡が報告され、致死率(CFR)は78%、2例は退院し、現在も経過観察中です。症例の詳細調査は2023年5月31日付のアウトブレイクニュースに掲載されました。重篤な新生児E-11感染症の追加類似症例は、今のところ報告されていません。 

クロアチア

クロアチアは、2023年6月に2つの産科病院から検出された新生児のエンテロウイルス集団感染から、E-11感染確定症例1例を報告しました。さらなる調査が進行中であり、これまでのところ追加症例の報告はありません。

イタリア

 2023年6月26日現在、イタリアでは2023年4月から6月までに7例の新生児E-11感染が確認されています。7例のうち3例は新生児集中治療室(NICU)に入院しました。報告時点では、1例がNICUに入院中、1例が臨床的改善を示し、1例が退院しました。スクリーニング検査で陽性と判定されたさらなる2例は、目立った症状はありませんでした。残りの2例については、臨床的および疫学的データが待たれるところであり、さらなる調査が進行中です。

スペイン

2023年6月26日現在、スペインで2例のE-11感染者が報告されています。これらの症例は2023年1月に生まれた早産の双子でした。2例とも出生後NICUに入院し、1例は死亡し、垂直感染の可能性が高い重症エンテロウイルス感染症と診断されましたが、2例目は後遺症なく退院しました。 
 
エンテロウイルス感染は2例とも血液検体で確認され、1例は便検体と鼻咽頭吸引液でも陽性でした。ウイルスのさらなる塩基配列決定と系統学的解析が待たれます。 
 
スペイン国立微生物学センターで入手可能なデータによると、スペインでは2022年と2023年にE-11が流行していますが、これらのデータは新生児における発生率や重症度の増加を示すわけではありません。

スウェーデン

スウェーデンでは、2022年初めから2023年6月15日までに、E-11による髄膜脳炎の乳児症例が4例報告されました。 ウイルス性髄膜脳炎の報告義務により報告されたこの4例の乳児症例に加え、エンテロウイルスサーベイランスの強化により2022年にE-11の乳児症例がさらに1例検出されました。報告された症例はいずれも双子ではありません。  
 
2022年に報告されたウイルス性髄膜脳炎の症例における考えられる原因ウイルスの傾向を疫学的に分析したところ、予想以上の結果は得られませんでした。

グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国

英国では2023年3月、1組の双子におけるE-11感染、つまり2例が報告されました。2例とも肝炎や多臓器不全を含むいくつかの臨床症状を呈し、生後4日目から死亡した10日目までに急速に悪化しました。 臨床検査の結果、E-11が確認されました。現在のところ、英国では新たなE-11感染者は報告されていません。

WHOヨーロッパ地域の他の国々

これまでのところ、オーストリア共和国、ベルギー王国、デンマーク王国、オランダ王国、ノルウェー王国は、2022年と2023年には新生児敗血症症例に関連するE-11の増加は観察されないと報告しています。 
 

エンテロウイルス感染症の疫学

エンテロウイルスは、様々な感染症を引き起こすウイルスの一群であり、毎年流行の原因となっています。感染症は通常、症状は軽度ですが、新生児では異なっており、時に年長児や成人より重症化することがあります。特に新生児期には、分娩時の母体の血液、分泌物、便への曝露や、出産後のウイルス感染している養育者との濃厚接触など複数の感染経路があります。   
 
エコーウイルス11(E-11)は、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属するプラス鎖RNAウイルスです。他のエンテロウイルスと同様、E-11感染症は、軽度の非特異的症状から発疹、発熱性疾患などの全身性疾患、髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺(AFP)などの重篤な神経疾患まで、幅広い疾患を伴います。 
 
エコーウイルス11(E-11)は、新生児や乳児に重篤な疾患を引き起こし、高い罹患率と死亡率を示すことが報告されています。さらに、E-11は母子間で垂直感染する可能性があり、感染制御を難しくしています。感染症は、凝固障害を伴う重症急性肝炎など、新生児に重篤な炎症性疾患を引き起こす可能性があります。E-11やその他のエンテロウイルスは、ヨーロッパ地域で継続的に流行しています。

公衆衛生上の取り組み

欧州疾病予防管理センター(ECDC)とWHOは、加盟国との共同電話会議を開催し、本事象について話し合い、症例報告国および非報告国双方の加盟国に対し、さらなる情報共有のための協力を呼びかけました。

フランス

フランスおよび他の加盟国は、欧州非ポリオ・エンテロウイルスネットワーク(ENPEN)を通じて、欧州疾病予防管理センター(ECDC)およびWHOの間で、この事象に関する継続的な情報共有が行われています。 また、米国国立衛生研究所の塩基配列データベースであるGenBankで、ウイルスの全ゲノム配列を公開する計画も進行中です。 報告された症例の詳細(フランスの症例については全ゲノム配列が入手可能)はEurosurveillance(英文)に掲載されています。

クロアチア

2023年6月に検出されたクラスターからのエンテロウイルスの分離と遺伝子配列決定が進んでいます。 

イタリア

確定例2例の詳細がEurosurveillance(英文)に掲載されました。確定例およびその他の可能性の高い症例について、さらなる調査が進んでいます。本事例は現在、公衆衛生上の対応と予防活動が継続され、監視されています。

スペイン

確定症例のさらなる調査が進められています。

英国

ウイルスのさらなる配列決定と系統学的解析が待たれます。

スウェーデン

スウェーデン公衆衛生局は、すべての小児科クリニック、微生物学的検査室、地域の医療担当官に対し、エンテロウイルスのタイピングに適した検体の収集を増加させる意識を高めるための通知を行いました。

WHOによるリスク評価

2022年から2023年6月にかけて、ヨーロッパ地域の複数の加盟国がエンテロウイルス、特にエコーウイルス11型(E-11)の陽性例の検出を報告しました。これにはクロアチア、フランス、イタリア、スペイン、スウェーデン、英国が含まれます。これまでのところ、オーストリア、ベルギー、デンマーク、オランダ、ノルウェーは、新生児敗血症の症例に関連するE-11の増加は2022年と2023年には観察されなかったと報告しています。 
 
入手可能な限られた情報に基づき、WHOは一般住民の公衆衛生上のリスクは低いと評価しています。しかし、エンテロウイルス感染症の特徴として、感染性ウイルスの無症候性ウイルス保有と感染ウイルスの排出があります。 
 
エンテロウイルスサーベイランスを実施している国もありますが、ヨーロッパ地域では、ヨーロッパ全域を対象とした系統的なエンテロウイルスサーベイランスは実施されていません。そのため、現在の重症新生児E-11感染の程度や、集団におけるE-11ウイルスの自然発生率を推定することは困難です。エンテロウイルス・サーベイランスがなければ、積極的に検体を検査し、型別を検出するのは、おそらく最も重症の症例だけでしょう。ポリオ以外のエンテロウイルス感染は、多くの場合、加盟国では届出が必要な疾患ではないため、重症の新生児エンテロウイルス感染症例が診断されなかったり、報告されなかったりしている可能性があります。

WHOからのアドバイス

非ポリオ型エンテロウイルスは一般的なウイルスであり、世界中に存在しています。感染しても無症状であることが多いですが、一部は呼吸器症状を呈することがあります。報告された症例の中には、発熱と無呼吸を呈し、新生児敗血症のうちに肝細胞障害や腎不全に進行したものもあります。これらのウイルスは、時折、通常あり得ない高い割合の感染者が臨床症状を呈し、時には深刻かつ高い致死率となるアウトブレイクの原因となることもあります。ショック症状を呈する新生児や幼児を診察する臨床医は、敗血症の基礎診断を考慮し、エンテロウイルスの検査を含む適切な診断検査を実施する必要があります。
 
非ポリオ型エンテロウイルスの疑いがある検体を扱う医療・介護従事者は、様々な検体の収集、保管、輸送に関して適切な訓練を受けるべきです。確定診断、タイピング、配列決定の目的で検体を国内外に輸送する際には、感染性物質の輸送に関する国内外の適切な規制を厳守する必要があります。塩基配列の決定を行う研究施設は、公に利用可能なデータベースを通じて遺伝子配列データを共有することを検討するべきです。
 
エコーウイルス感染に対する特異的な抗ウイルス治療はなく、主に合併症の予防に重点が置かれます。新生児を診療する医療施設は、エンテロウイルスの徴候と症状を知り、新生児ケアを行う病棟で起こりうる医療関連感染の症例とアウトブレイクを警戒する必要があります。医療施設と医療従事者は、WHOの手指消毒が励行される5つの場面(「Your 5 Moments for Hand Hygiene」(英文))の遵守、面会制限、環境の清掃と消毒の重要性の再確認、E-11感染が疑われる、または確認された新生児をケアする際の接触予防策の励行を中心に感染予防・管理措置を実施すべきです。E-11感染が疑われる新生児やE-11感染が確認された新生児に対しては、隔離を検討し、コップ、スプーン、注射器などの食器類を共有しないようにし、おむつ交換を含む新生児の世話中の衛生と手洗いについて母親や介護者を教育する必要もあります。WHOは、医療施設における妊産婦と新生児の感染予防に関する医療・介護従事者向けの研修を提供しており、Open WHO(英文)からアクセス可能です。

出典

Enterovirus-Echovirus 11 Infection - the European Region 
Disease Outbreak News16 June 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON474