マールブルグ病 - 赤道ギニア共和国

Disease outbreak news  2023年2月25日

発生状況一覧

2023年2月7日、赤道ギニア共和国(以下、「赤道ギニア」という。)の保健社会福祉省は、出血熱の疑いがある多数の死亡例の発生を報告しました。
 
2023年2月12日、セネガルのダカールにあるパスツール研究所で、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により1検体においてマールブルグウイルスが陽性であることが確認されました。
 
さらなる症例発見のための調査が続けられています。WHOは、接触者追跡、症例管理、感染予防と制御、検査施設、リスクコミュニケーション、コミュニティへの動員などを強化することで、対応を支援しています。
 
WHOは、このアウトブレイクがもたらすリスクを、国レベルでは「高」、地域レベルでは「中」、世界レベルでは「低」と評価しています。

発生の概要

本症例は、赤道ギニアで報告された初のマールブルグ病(MVD)です。
 
2023年2月7日、赤道ギニア保健社会福祉省は、2023年1月7日から2月7日の間に、リオ・ムニ(Río Muni)にあるキエ・ンテム(Kie-Ntem)東部のノソック・ノソモ(Nsock Nsomo)地区にある2つの村で発生した少なくとも8名の死亡を報告しました。現在進められている疫学調査によると、患者は発熱、衰弱、嘔吐、血液の混じった下痢を呈し、2例は皮膚病変と耳出血(耳からの出血)を併発したとのことです。
 
2023年2月9日、接触者から8人分の血液検体が採取され、ガボンのフランスビル医学研究センター(Centre Interdisciplinaire de Recherches Médicales de Franceville:CIRMF)に送られ、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)でエボラウイルスとマールブルグウイルスともに陰性と判定されました。
 
さらに追加で8人分の血液検体が他の接触者から採取され、2023年2月12日にセネガルのダカールにあるパスツール研究所に送付されました。これらの検体のうち1つは、RT-PCRによってマールブルグウイルスが陽性であることが確認された“疑い例患者”から採取されたものです。この患者は、発熱、嘔吐(血液は混ざらない)、血性下痢、痙攣を呈し、2023年2月10日にエベビイン(Ebebiyin)地区病院で死亡しました。この患者は、ノソック・ノソモ地区の村の死亡4症例と疫学的なつながりもありました。
 
2023年2月21日現在、累積患者数は、確定例1、可能性例4、疑い例4の合計9例です。全例が死亡し、1人が医療施設で、他の8人が地域で死亡しています。医療従事者の感染例はありません。現在、34人の接触者がフォローアップ中です。

マールブルグ病の疫学

マールブルグウイルスは、マールブルグ病(MVD)の原因ウイルスであり、その致死率は最大で88%です。マールブルグ病は、1967年にドイツのマールブルグとフランクフルト、セルビアのベオグラードで同時に発生し、最初に発見されました。
 
マールブルグウイルスの自然宿主とされるのは、エジプトルーセットオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus fruit bats)と言われており、このオオコオモリを介して人に感染します。
 
マールブルグ病は、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液、およびこれらの体液で汚染された、例えば寝具や衣類などのような物と、傷のある皮膚や粘膜を介してヒトからヒトに感染します。医療従事者が、マールブルグ病の疑い患者および確定患者を治療中に感染した記録もあります。また、死者の身体に直接触れる形をとる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。
 
潜伏期間は2日から21日と広範です。マールブルグウイルスによる症状は、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感で、突発的です。3日目には、激しい水様性の下痢、腹痛、吐き気、嘔吐が始まります。重症の出血性症状は、発症から5日から7日の間に現れ、死に至る重症例では通常、何らかの出血があり、多くは複数の部位から出血しています。死亡例では、症状発現後8日から9日の間に、通常重度の失血とショックのあとに死亡することが多いです。
 
マールブルグ病の臨床診断は、発症初期においては、他の多くの熱帯熱性疾患と臨床症状が類似しているため、区別することが困難になります。エボラウイルス病やマラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア症、ペストなど、他のウイルス性出血熱を除外する診断が必要です。検査確定のためには、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)、抗原捕捉検出法、血清中和試験、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、電子顕微鏡法、細胞培養によるウイルス分離など、さまざまな検査によって行うことができます。
 
マールブルグウイルスを治療するためのワクチンや抗ウイルス剤は現時点で認可されたものはありません。一方、経口または点滴による水分補給などの支持療法と対症療法が生存率を向上させます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が検討されています。
 
赤道ギニアでマールブルグ病の発生報告がされたのは今回が初めてです。最近報告されたマールブルグ病の発生は、2022年に3例が確認された、ガーナで発生したものです。その他、ギニア(2021年)、ウガンダ(2017年、2014年、2012年、2007年)、アンゴラ(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(1998年と2000年)、ケニア(1990、1987、1980年)、南アフリカ(1975年)でマールブルグ病の発生報告があります。

公衆衛生上の取り組み

・発生源を特定するため、綿密な疫学調査が行われています。
・国家チームが感染地域に派遣され、積極的な症例発見、接触者追跡、患者の隔離と医療処置を行っています。
・WHOは、疫学、症例管理、感染予防、検査、リスクコミュニケーションの専門家を派遣し、国の対応活動を支援し、コミュニティの疾病対応への参加を図っています。
・WHOは、テント、検体収集と分析のための資材、500人分の医療従事者のための個人防護具を含むウイルス性出血熱キットの輸送を支援しています。
・WHOは、セネガルとガボンの検査機関への検体の輸送を支援しており、赤道ギニア国内で検査施設を設立する計画が進行しています。

WHOによるリスク評価

赤道ギニアでは今回が初めてのマールブルグ病の発生であり、国の発生管理能力は十分と言えません。
 
現時点で得られている情報によると、死亡した9例すべてが、同じ症状の親族と接触していたか、マールブルグ病の症状に合致する症状を呈し亡くなった人の埋葬に参加していたことが判明しました。現段階では、すべてのマールブルグ病症例が確認されたとは断定できず、したがって追跡されていない感染経路が存在する可能性があります。現在までに、死亡した9人の症例の接触者のほとんどは特定されていない状況です。
 
また、医療施設で死亡した1例を除き、他の8例はコミュニティ内で死亡しており、埋葬の状況も不明であることに留意する必要があります。
 
赤道ギニアではエベビイン地区とノソック・ノソモ地区とカメルーン、ガボンの間で、国境を越えた人口移動が頻繁に起こり、国境も非常に容易に越えられるため、国家間で感染が広がる危険性があります。
 
上記の状況を考慮すると、本疾病のリスクは、国レベルで高リスク、地域レベルで中リスク、世界レベルで低リスクと考えられます。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病の発生を抑制するには、症例管理、接触者追跡を含む監視、優れた確定診断ができる検査体制、安全で尊厳ある埋葬を含む感染予防と制御、社会動員など、さまざまな介入策を用いることに尽きます。マールブルグ病の発生を制御するためには、コミュニティの関与も重要です。マールブルグ感染の危険因子と、個人ができる予防策についての認識を高めることは、人への感染を減らすための効果的な方法です。
 
マールブルグ病が発生した地域は、病気の性質そのものと必要な発生抑制のための方策の両方について、住民が十分な情報を得られるよう努力する必要があります。
 
アウトブレイクの制御のための対策としては、死亡者の迅速かつ安全で尊厳ある埋葬、マールブルグ病感染者と接触した可能性のある人の特定と21日間の健康状態の監視、確認された患者の隔離とケア、衛生管理と清潔な環境の維持などが挙げられます。
 
マールブルグ病患者またはその疑いのある患者を治療する医療従事者は、患者の血液や体液、およびそれらで汚染された物との接触を避けるために、標準予防策に加えて追加の感染制御策を適用する必要があります。
 
WHO は、マールブルグ病から生存した男性に対し、症状が現れてから 12 ヶ月、または精液検査でマールブルグウイルスが陰性になるまで、より安全な性行為と衛生管理を実践することを推奨しています。患者の体液との接触は避けるべきで、石鹸と水による洗浄が推奨されます。WHO は、血液検査でマールブルグウイルスが陰性であった回復期の男女患者の隔離は推奨していません。
 
WHOは、現在のアウトブレイクに関して得られた情報に基づいて、赤道ギニアへの渡航や貿易を制限しないよう助言しています。

出典

Marburg virus disease – Equatorial Guinea
Disease Outbreak News 25 February 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON444