鳥インフルエンザA(H5N1)-カンボジア王国

Disease outbreak news  2023年2月26日

発生状況一覧

2023年2月23日、カンボジア王国(以下、「カンボジア」という。)の国際保健規則(IHR)に基づく国の連絡窓口(NFP)は、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスによるヒト感染確定例1例をWHOに報告しました。2023年2月24日に、最初の患者の家族内での接触者である2番目の患者が報告されました。報告された2症例のウイルスへの曝露の有無を含め、アウトブレイク調査が進められています。
 
今回カンボジアから報告された鳥インフルエンザA(H5N1)の2症例は、2014年以来初めてとなります。2003年12月、カンボジアでは、野鳥に感染した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)H5N1の発生が初めて報告されました。それ以降、2014年まで、カンボジアでは家禽からヒトへの感染によるヒトの症例が散発的に報告されています。
 
H5N1がヒトに感染すると重症化しやすく、死亡率も高く、IHR(2005年)により届出が義務付けられています。

発生の概要

2023年2月23日、カンボジアの国際保健規則(IHR)に基づく国の連絡窓口(NFP)は、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒトへの感染が確認された事例をWHOに通知しました。患者は、カンボジア南部のプレイベーン (Prey Veng )州出身の11歳の女児です。2023年2月16日、この患者は発病し、地元の病院で治療を受けました。2023年2月21日、患者は重症の肺炎で国立小児科病院に入院しました。同日、重症急性呼吸器感染症(SARI)センチネルシステムを通じて検体が採取され、国立公衆衛生研究所で逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスが陽性であると判定されました。検体は国立インフルエンザセンターであるカンボジアパスツール研究所(Institute Pasteur Cambodia)にも送られ、同センターで再度検査確定されました。この患者は2023年2月22日に死亡しました。カンボジアは、初発症例のウイルスの遺伝子配列データを、一般にアクセス可能なデータベースGISAIDを通じて共有しました。ウイルス配列解析の結果、今回のH5N1ウイルスはクレード2.3.2.1cに属し、2014年以降東南アジアの家禽で循環している2.3.2.1cクレードウイルスと類似していることが判明しました。
 
初発症例の濃厚接触者計12名(無症状の濃厚接触者8名、症例疑い定義を満たす者4名)が確認され、検体が採取され検査が行われました。調査により、2023年2月23日に2例目として、初発症例の父親が検査確定されました。この父親は無症状であり、病院で隔離されています。他の11の検体は、鳥インフルエンザA型(H5N1)および新型コロナウイルス陰性でした。
 
2023年2月25日現在、カンボジアでは2003年以降、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒトへの感染が合計58件、うち死亡者38名(致死率66%)報告されており、2003年から2009年までは感染者が9名、死亡者が7名、2010年から2014年は感染者が47名、死亡者が30名と報告されています。

公衆衛生上の取り組み

初発症例が発生した州では、感染源と感染経路を特定するため、動物とヒトの合同調査が行われています。さらに、ウイルスのさらなる拡大を抑制するため、政府のハイレベルな対応が進められています。

WHOによるリスク評価

今回の発生はカンボジアでは、2014年以降、初めて報告されたヒトへの感染です。ヒトへの感染は重症化しやすく、死亡率も高いです。ヒトへのインフルエンザA(H5N1)感染例は、ほぼすべての場合において、感染した鳥(生死を問わず)、またはインフルエンザA(H5N1)に汚染された環境との濃厚接触と関連して発生しています。現在までのところ、本ウイルスはヒトに感染しにくく、ヒトからヒトへの感染も稀です。報告された2例のウイルスへの曝露源を特定することを含め、アウトブレイク調査が進行中です。
 
今回のウイルスは家禽類から継続して検出されているため、さらなる人への感染例が予想されます。
 
鳥インフルエンザウイルスが家禽類で循環している場合、感染した家禽類や汚染された環境にさらされることにより、ヒトの散発的な感染や小規模な集団感染が発生するリスクが常に存在します。2003年から2023年2月25日までに、世界21カ国から合計873人のインフルエンザA(H5N1)のヒト感染例と458人の死亡例が報告されています。
 
今回の検査確定例の接触者の監視を含め、ヒトと動物の両方の保健機関による公衆衛生措置が実施されています。今回のヒトの症例から得られたウイルスの更なる特性解明が待たれますが、現時点で入手できる疫学的およびウイルス学的証拠は、現在の鳥インフルエンザA(H5)ウイルスはヒトの間で持続的に伝播する能力を獲得しておらず、したがってヒトからヒトへの持続的伝播の可能性は低いと示唆されています。これまでの入手可能な情報に基づき、WHOはこのウイルスが一般住民にもたらすリスクは低いと評価しています。
 
このリスク評価は、さらなる疫学的またはウイルス学的情報が入手できた時点で、必要に応じて見直される予定です。
 
鳥インフルエンザA(H5N1)に対するヒト用のワクチンは、パンデミック用に開発されましたが、広く利用されているわけではありません。WHOは、世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)を通じて、ウイルスの変異を監視し、リスク評価を行い、パンデミック対策目的のために新しいワクチン開発の対象となるウイルス候補の追加開発を推奨しています。
 
疫学的状況の綿密な分析、最新のウイルス(ヒトおよび家禽)のさらなる特徴づけ、血清学的調査は、関連するリスクを評価し、リスク管理手段を迅速に調整するために重要です。

WHOからのアドバイス

ヒトの散発的なインフルエンザA(H5N1)症例の報告および鳥類でも広範なウイルスの循環に加え、インフルエンザウイルスが常に進化する性質を考えると、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある新型のインフルエンザウイルス、あるいはすでに存在して循環しているインフルエンザウイルスの関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視し、リスク評価のために適時にウイルスの情報を共有する国際的なサーベイランスが引き続き重要であるとしています。
 
鳥インフルエンザウイルスが地域で循環している場合、病気の鳥の捕獲、殺処分、感染した鳥や卵やゴミの処分、汚染施設の清掃などのリスクの高い作業に携わる人には、適切な個人防護具の提供と、適切な使用法についての訓練を提供する必要があります。これらの作業に従事する人は全員が、感染した家禽やその環境と最後に接触した日から7日間、地元の保健当局に登録され、注意深く監視されるべきです。
 
変種ウイルスを含む、パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確認された場合、患者の確定診断を待つ間にも、動物への曝露歴、旅行歴、接触者追跡などの徹底した疫学調査を実施すべきです。疫学的調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆するような、通常では見ない異常な呼吸器系の症状がみられた際の早期発見が含まれ、患者が発生した時間と場所から採取した臨床検体は検査の後にも、さらなる特性評価のためにWHOの協力センターに送る必要があります。
 
現在のところ、ヒトの鳥インフルエンザを予防するワクチンは広く出回っていません。WHOは、遺伝子再集合の潜在的なリスクを軽減するために、家禽や鳥に関わる全ての人が季節性インフルエンザの予防接種を受けることを推奨しています。
 
動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者は、農場や生きた動物の取引がある市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある区域への立ち入り、動物の糞便で汚染されていると思われる箇所への接触などを避ける必要があります。一般的な予防策としては、定期的な手洗い、食品の安全性と食品衛生に関する適切な対策が挙げられます。感染地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または目的地に到着後に滞在する国で感染が検出される可能性があります。このような事態が発生しても、現時点までの情報によると、このウイルスがヒトの間で容易に感染する能力はまだないため、さらなる地域レベルの拡大は考えにくいとされています。
 
WHOは、本例に関して入手可能な現在の情報に基づき、カンボジアに対していかなる渡航や貿易の制限も適用しないよう助言しています。また、インフルエンザウイルスのヒトと動物の接点の面からみた現在の状況に関しても、入国地での特別な旅行者のスクリーニングや制限を助言していません。
 
新型インフルエンザ亜型によるすべてのヒトへの感染は、国際保健規則(IHR)の下で通知義務があり、国際保健規則(IHR2005)の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染の検査確定例を直ちにWHOに通知することが要求されています。この報告には、疾病の証拠は必要ありません。

出典

Avian Influenza A (H5N1) - Cambodia
Disease Outbreak News 26 February 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON445