デング熱およびチクングニア熱の地理的拡大(アメリカ大陸地域における過去の感染発生地域を除く)

Disease outbreak news  2023年3月23日

発生状況一覧

チクングニア熱やデング熱を含むアルボウイルス感染症の発生率の増加と地理的な拡大は、WHOアメリカ地域における大きな公衆衛生上の問題です。デング熱は、WHOアメリカ地域で最も多くの患者数を占め、3~5年ごとに流行が発生しています。デング熱とチクングニア熱は、中米、南米、カリブ海地域のほとんどの国で流行していますが、現在の夏季には、従来見られた感染地域を超えて、チクングニア熱患者の増加や地理的拡大が確認されています。さらに、2023年にはデング熱の急激な感染拡大も確認されています。また、南半球では、蚊の増殖に適した気象条件により、今後数ヶ月の間に高い感染率が予想されます。
 
2022年にアメリカ大陸で報告されたデング熱の症例数は280万例で、2021年の120万例と比較すると、2倍以上の増加となっています。チクングニア熱も同様に増加傾向にあり、パラグアイではチクングニア熱に関連していると思われる髄膜炎による脳症が多く報告されており、さらなる懸念材料となっています。
 
WHOは地域レベルでのリスクを、以下の理由から高いとしています。疾病を媒介する蚊が広く存在すること、重症化し死亡するリスクが継続していること、従来の感染地域外にも感染が拡大していること、リスク群や医療従事者を含む人々が重篤な場合の臨床症状を含む疾病に伴う症状を認識していない可能性があること、住民が免疫的に脆弱である可能性があることなどです。
 

地域の概要

2022年、WHOアメリカ地域で合計3,123,752例のアルボウイルス感染症患者(疑い例および確定例)の症例が報告されました。このうち、全体の90%にあたる2,809,818例がデング熱症例、9%にあたる273,685例がチクングニア熱症例でした。これは、2021年と比較して約119%の割合で増加したことになります。2022年、デング熱とチクングニア熱はともに疫学週18週目(2022年5月1日から始まる週)にピークを迎えました。

地域の概要(デング熱)
2022年には、1,290例の死者を含む合計2,809.818例のデング熱患者が報告され、2021年に報告された患者数1,269,004例(437例の死者を含む)と比較して、患者は2倍、死者はほぼ3倍に増加しました。同期間で、デング熱の累積発症数が最も多かったのは、以下の国です。 ニカラグアで人口10万人あたり1455.4例、次いでブラジルで人口10万人あたり1104.5例、ベリーズで人口10万人あたり788.9例でした。
 
2023年1月1日から2023年3月4日の間に、86例の死亡を含む合計342,243例のデング熱患者がアメリカ大陸地域で報告されました。同期間中、デング熱患者の累積発生率が最も高かったのはボリビアで、人口10万人あたり264.4例、次いでニカラグアの人口10万人あたり196.8例、ベリーズの人口10万人あたり145.6例が報告されています。


図1.WHOアメリカ地域における疫学週別、デング熱疑い症例の分布(2020年1月1日より2023年3月4日)
 
各国の概要
ボリビア
2023年1月1日から2月11日の間に、ボリビアから50例の死者を含む合計31,283例のデング熱患者が報告されました。このうち、47%にあたる14,842例が検査確定症例で、110症例が重症型のデング熱症例と分類されました。確定症例は、9つの県のうち7つの県から報告されました。サンタクルス(Santa Cruz)県で全体の72%にあたる10,759例、死者36例、ベニ(Beni)県で全体の9.6%にあたる1,387例、死者11例、タリハ(Tarija)県で全体の9.3%にあたる1,431例、死者3例など、7県のうち3県で全報告数の90%を占めています。デング熱の累積罹患率は、人口10万人あたり264.4例でした。疫学週 6週目の時点で、国レベルでの致死率は0.083%でした。同期間中、2型デングウイルス(DENV 2)が国内で流行する主流な血清型として報告されています。最も患者数が多かったのは2020年で、111,347例と報告されています。このうち33%にあたる37,293例は疫学週1週目から疫学週 6週目の間に報告されました。 2023年には、デング熱患者が合計で31,283例報告されています。
 
パラグアイ
2023年1月1日から3月4日までの間に、合計686例のデング熱患者が報告されています。この期間、パラグアイでは重症型のデング熱症例や死亡例は報告されていません。確定症例はすべての県から報告されており、そのうち3つの県が報告症例全体の50%を占めています。それらの県は、セントラル(Central)県で全体の22%にあたる149例、アマンバイ(Amambay)県で全体の15%にあたる101例、アスンシオン(Asunción)市で全体の14%にあたる93例です。2023年の疫学週8週目時点で、1型デングウイルス(DENV 1)と2型デングウイルス(DENV 2)が国内で流行していると報告されており、1型デングウイルス(DENV 1)が主流です。2020年にパラグアイで初めて大規模なデング熱のアウトブレイクが報告され、223,782例の患者が発生しました。このうち、65%にあたる146,375例が疫学週1週目から疫学週7週目の間に報告されました。
 
ペルー
2023年1月1日から3月4日の間に、25例の死者を含む合計20,017例のデング熱患者が報告されています。これらの症例のうち、80例が重症型のデング熱症例に分類されました。確定症例は、25地域のうち19地域、80州から報告されました。2023年の疫学週10週目の時点で、1型デングウイルス(DENV 1)、2型デングウイルス(DENV 2)、3型デングウイルス(DENV 3)の3つの血清型の流行が検出されており、DENV 1が主流です。ペルーにおけるデング熱の累積発生率が最も高かったのは2017年で、68,290例が報告されています。
 
地域の概要(チクングニア熱)
2023年1月1日から3月4日の間に、WHOアメリカ地域で報告されたチクングニア熱症例は合計113,447例、うち死亡は51例で、2022年の同時期の症例数21,887例、うち死亡8例と比較して、症例と死亡が4倍増加しました。また、これらの数は、疫学週1週目~疫学週10週目における過去5年間の平均症例数を上回りました。本地域で報告された症例のうち、チクングニア熱症例の累積発生率が最も高かったのはパラグアイで人口10万人あたり1,103.4例、次いでブラジルで人口10万人あたり14.2例、ベリーズで人口10万人あたり10.4例でした。2023年に報告された総死者数のうち、すべてがパラグアイから報告されています。
 
2022年は、過去4年間(2018年~2021年)の平均を上回り、死者87例を含む総症例数273,685例となり、2021年の報告症例である、死者12例を含む137,025例と比較して症例数は2倍、死者数は7倍となりました。2022年に報告された総死者数のすべてがブラジルから報告されています。
 

図2.WHOアメリカ地域における疫学週別のチクングニア熱報告症例数。2020年1月1日より2023年3月4日(2023年は疫学週9週目まで)
 
 
各国の概要
アルゼンチン
2023年1月1日から2023年3月12日の間に、合計341人のチクングニア熱の検査確定症例が報告されており、死亡例はありません。症例のうち、60%が輸入症例で、国外での滞在や旅行中に感染した者でした。現在、5つの州でチクングニア熱の国内感染が報告されており、報告のあった州は、ブエノスアイレス(Buenos Aires)州、ブエノスアイレス(Buenos Aires)市、コルドバ(Córdoba)州、コリエンテス(Corrientes)州、フォルモサ(Formosa)州です。これらの州では、これまでチクングニア熱の現地での感染症例は報告されていませんでした。2022年の同時期には、チクングニア熱の現地で発生した感染例は報告されていません。
 
ボリビア
2023年1月1日から3月11日の間に、チクングニア熱の症例が合計593例報告され、2022年の同時期と比較して11倍増加しました。この期間、死亡例は報告されておらず、全国の累積発生率は人口10万人あたり5例でした。
 
ブラジル
2023年1月1日から3月11日の間に、合計50,103例のチクングニア熱症例が報告され、2022年の同時期と比較して83%の相対的増加となっています。エスピリト・サント(Espírito Santo)州とミナス・ジェライス(Minas Gerais)州で6人の死亡が確認され、23人の死亡は現在調査中です。27の州すべてから症例が報告されました。2023年3月11日現在、国内の累積発生率は人口10万人あたり23.5例でした。累積発生率が最も高かったのは南部地域で、35,484例(人口10万人あたり39.5例)であったと報告されています。
 
パラグアイ
2022年10月2日から2023年3月4日の間に、3,510人の入院例と46人の死亡例を含む、合計40,984例のチクングニア熱症例が報告されました。このうち、0.3%にあたる162例は新生児で発生し、うち8人が死亡しました。さらに、2023年の疫学週1週目から9週目の間に、合計294例の急性髄膜炎による脳症の疑い例が報告され、そのうち42.5%にあたる125例がチクングニア熱に起因し、42%にあたる53例が新生児で発生しています。確定症例と疑い症例は、国内のすべての県で報告されました。最も多くの症例が報告されたのは、2つの県(および市)でセントラル(Central)県で24,556例、うち死亡32例およびアスンシオン(Asunción)市で9,981例、うち死亡11例でした。
 
ペルー
2023年1月1日から2023年3月4日の間に、チクングニア熱症例97例が報告され、2022年の同時期と比較して3倍以上増加しました。確定症例は4つの州で報告され、最も割合が高かったのはピウラ(Piura)州で全体の69%にあたる67例、次いでサン・マルティン(San Martin)州で全体の29%にあたる28例でした。

デング熱とチクングニア熱の疫学

デング熱やチクングニア熱などのアルボウイルス属による疾病は、ウイルスを保有する蚊がヒトを刺すことにより感染します。これらの疾病は、約39億人が暮らす熱帯・亜熱帯地域において、世界的な公衆衛生上の脅威となっています。
 
デング熱
デング熱は、世界中の熱帯・亜熱帯気候に分布し、そのほとんどが都市部や半都市部で発生します。デング熱を媒介する主要な生物は、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)で、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)も媒介蚊となり得ます。
 
デング熱は、フラビウイルス科のRNAウイルスであるデングウイルス(DENV)により引き起こされます。このウイルスには、4種の相互に密接に関連した血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)が存在します。ある血清型に感染すると、同種の血清型には長期免疫ができますが、他の血清型には免疫はできません。複数回感染すると、血漿漏出によるショックや呼吸困難、重度の出血症状、臓器障害、死亡などの重症型のデング熱になる危険性が高くなります。
 
デング熱に特異的な治療法はありませんが、症例を適時に発見し、重症型のデング熱感染の兆候を検出し、適切な症例管理を行うことが、死亡を防ぐ治療の重要なポイントで、重症感染症の致死率を1%以下に下げることが可能です。
 
WHOアメリカ地域では、1980年以来、デング熱に関する疫学データを収集してきました。 当時から、デングウイルスはこの地域のほとんどの場所に広がっています。2019年に最も多くのデング熱患者が報告され、28,203人の重症患者と1,773人の死者を含む310万人以上の患者が発生しました。
 
チクングニア熱
チクングニア熱は、蚊を媒介とするウイルス性疾患で、発熱と激しい関節痛を引き起こします。本感染症は、1952年にタンザニア南部で発生した集団感染で初めて認められました。
 
チクングニアウイルス(CHIKV)は、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)という種の蚊の雌が主たる媒介生物となり、この種の蚊はデング熱やジカ熱など他の蚊媒介ウイルスも媒介することで知られています。蚊は1日中刺咬しますが、早朝と夕方に活動のピークがある場合があります。
 
チクングニア熱は、臨床症状の持続時間によって、急性、亜急性、慢性に分類されます。死亡に至るような重篤な症状は稀ですが、非常に高齢の患者では重症化するリスクが高くなります。この感染症は、突然の発熱を特徴とし、しばしば重篤で消耗性の関節痛や関節炎を伴い、その期間は様々です。ギランバレー症候群や髄膜炎による脳症などの神経学的合併症も報告されています。ほとんどの患者は感染から完全に回復し、感染によって生涯にわたって免疫を獲得することができます。
 
また、新生児のチクングニア熱も報告されています。妊娠中にチクングニアウイルスに感染しても、ほとんどの場合、ウイルスが胎児に感染することはありません。最も感染リスクが高いのは、出産直前に女性が感染した場合で、垂直感染率は49%にも上ります。
 
乳児は通常、出生時は無症状で、その後、発熱、癇癪、発疹、末梢浮腫を発症します。産褥期に感染した場合は、神経疾患(髄膜炎による脳炎、白質病変、脳浮腫、頭蓋内出血など)、出血症状、心筋疾患などを発症することもあります。検査値異常としては、肝機能検査値の上昇、血小板数およびリンパ球数の減少、プロトロンビン値の減少などがみられます。神経学的疾患を患った新生児は、しばしば長期的に障害が残ります。このウイルスが母乳を通して感染するという記録はありません。
 
2013年12月にWHOアメリカ地域でチクングニアウイルスの自国内感染が初めて確認され、その後2014年に流行の拡大が確認されました。それ以来、ウイルスはこの地域全体に広がっています。
 

公衆衛生上の取り組み

WHOは、WHOアメリカ地域の加盟国に対し、保健サービスの組織化を含むアウトブレイクへの準備と対応について支援を行ってきました。提供された支援は以下の通りです。
 
サーベイランス
・アルボウイルス疾患の予防と制御のために、アルボウイルス疾患の統合管理戦略(IMS-Arbovirus)の実施の一環として、加盟国と積極的に連携して医療と監視能力を向上しています。
・定期的にガイドラインを発行し、疫学調査資料の提供や国家当局への技術支援を通じて、加盟国による効果的な統合的媒介生物監視・制御の実施を支援しています。
・WHOと加盟国の共同調査の取り組みとして、仮想協力空間(VCS)が作られました。この空間では、さまざまな疫学分析、状況分析、疫学速報を自動生成でき、デング熱やチクングニア熱、ジカ熱の疫学サーベイランスを向上しています。
 
検査
・地域全体で迅速かつ正確な診断と症例検出を可能にするため、検査能力の向上を支援しています。
 
臨床管理
・臨床管理を強化するために、症例管理ガイドラインの作成と普及、仮想トレーニング教材の提供、地方レベルで臨床トレーニングを提供するための臨床トレーナーの地方ネットワークの形成など、各国向けの介入措置が用意されています。
・WHOの専門家は、大規模なアウトブレイクが発生している国(パラグアイとボリビア)に定期的に派遣されています。
 
アドボカシー活動と計画
・2020年、WHOはボリビア、コロンビア、チリ、エクアドル、ペルー、ベネズエラのアルボウイルス疾患の予防と制御のための国家技術能力を強化するために、アンデス保健機構-ヒポリート・ウナヌエ協定(ORAS-CONHU)との協力を開始しました。この協力関係は、WHOが承認したIMS-Arbovirusの枠組みのもとにあります。
・2022年、WHOは、リスクモニタリング、パンデミック予防、準備、検出、対応、パートナー連合の構築に焦点を当てた、流行およびパンデミックの可能性を持つ新興・再興アルボウイルスに取り組む統合戦略計画「グローバル・アルボウイルス・イニシアティブ」を立ち上げました。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ活動
・WHOは、リスク評価とリスクコミュニケーションに関する助言を行っています。
・また、各国のキャンペーンで使用するために、簡単にアレンジできる一般的な情報提供資料も開発されました。
・WHOは、家庭や地域社会が蚊の繁殖場所を削減するための対策や、日中に蚊に刺されないようにする対策を奨励しています。

WHOによるリスク評価

デング熱とチクングニア熱は、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす可能性があります。これらの感染症の原因となるウイルスは、ヤブカ、その中でも主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)により媒介されるので、ヤブカが広く分布しているアメリカ大陸で数十年に渡り流行しています。アルボウイルスは、渡航先で感染して帰国した旅行者(輸入例)によって運ばれることもあり、媒介蚊と感染の可能性の高い人がその地に存在する場合には、新たな土着の感染サイクルが確立されることがあります。蚊が媒介するアルボウイルスであるため、蚊が生息する地域のすべての人が感染の危険にさらされますが、その影響は様々な面で脆弱な人々の間で最も大きく、そのためにアルボウイルス疾患対応のプログラムは、感染発生に対応するための十分な資源が足りないこともあります。
 
デング熱とチクングニア熱は、アメリカ大陸とカリブ海地域のほとんどの熱帯・亜熱帯の国々で流行していますが、チクングニア熱患者の感染の増加と拡大が、従来の感染地域を超えて発生しています。さらに、2023年にはデング熱の感染の激増も確認されています。
 
地域内における感染拡大の影響は、各国の連携した公衆衛生対応や臨床管理の能力、南半球におけるアルボウイルスシーズンの始まりの早さ、新型コロナウイルス感染症パンデミックの際に媒介生物対策活動の中断による蚊の数の増加、さらに特にこれらのウイルスが新たに流行し始めた地域におけるアルボウイルス疾患に免疫がなく、感染しやすい人が多いことなど、いくつかの要因によって決まると思われます。チクングニア熱とデング熱の症状は非特異的で、ジカ熱や麻疹を含む他の感染症に似ているため、(i)症例管理が適切になされない可能性があること、(ii)地域によっては、症例数の増加と同時に発生している事例に対処するため、医療がひっ迫していること、(iii)新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響により、アルボウイルス疾患プログラムに利用できる資源が減少し、媒介生物対策や医療従事者の能力開発・訓練、媒介生物対策活動を行うための機器や殺虫剤の確保・調達の必要性から、疾患対策や適切な臨床管理に悪影響を及ぼす可能性があります。


パラグアイでは、チクングニア熱を原因とする急性髄膜炎による脳症の割合が明らかに高いことが懸念されます。非典型的な臨床症状とされる神経学的疾患の割合が高い原因はまだわかっていません。シークエンスにより、2014年にブラジルで初めて確認されたEast-Central-South-African(ECSA)系統が、この地域内で地理的広がりを拡大していることが判明しました。免疫的に脆弱な人々がいる新しい地域にチクングニアウイルスが入りこめば、さらなる感染の拡大が起こるものと考えられます。

 
ヤブカ属の蚊はアメリカ大陸に広く分布しているため、デング熱やチクングニア熱の国境を越えた感染も考えられます。例えば、ボリビア(デング熱)やパラグアイ(チクングニア熱)に隣接する国など、これらの病気の感染率が非常に高い地域に隣接する国は、より高いリスクを負う可能性があります。さらに、南半球の夏は気温が高く湿度も高いため、蚊の動態に影響を与え、アルボウイルス疾患の広がる確率が高くなる可能性があります。
 
このように、媒介蚊(特にネッタイシマカ)が広く分布していること、重症化し死亡するリスクもあり続けること、従来の感染地域以外への拡大により、リスク群や医療従事者を含む人々が病気の警告サインに気づかず、免疫的にも脆弱である可能性があることから、地域レベルのリスクは高いと評価されます。さらに、同地域内のパラグアイでは、チクングニア熱症例がかつてないほど増加しており、ボリビアでは、デング熱症例が多発しています。


その他、WHOアメリカ地域の加盟国から報告された課題には、予防と制御に不可欠な物資の在庫切れ、確定診断用の試薬と消耗品の不足、現場チームと医療従事者の再トレーニングの必要性などがあります。さらに、南半球では、1年の前半に媒介蚊の繁殖に適した気象条件が整うため、今後数ヶ月は感染率が高くなると予想されています。
 

WHOからのアドバイス

予防のための取り組みは、この地域で最も強力な媒介生物となるヤブカの監視・駆除に焦点を絞る必要があります。感染率を下げるには、焦点を定めた総合的な媒介蚊の監視および駆除対策が有効です。重篤な疾患の進行を早期に発見し、適切な医療を受けることが、重症度と死亡率を下げる鍵になります。蚊に刺されないための個人防護策(虫よけの塗布、蚊の刺咬時間帯には殺虫剤処理された蚊帳を用いること、長袖・長ズボンの着用など)は、職場、学校、家庭で地域住民が継続すべきです。デングウイルスとチクングニアウイルスの感染リスクが最も高いのは、日中と夕方の早い時間帯です。
 
チクングニア熱とデング熱には特異的な抗ウイルス薬はありません。臨床管理は、輸液や解熱剤を含む支持療法になります。これらのアルボウイルス疾患の症状は判別が難しい場合があるため、臨床疫学的診断は困難なことがあります。また、デングウイルスとジカウイルスの間には血清学的交差反応性があり、正確な診断を妨げ、不適切な症例管理や非効率な疫学調査につながることがあります。そのため、RT-PCRによる分子診断が推奨されます。
 
WHOアメリカ地域の加盟国は、アルボウイルス疾患の予防、早期発見、診断、制御につながる行動を強化するために、医療従事者への症例や合併症の可能性例の検出に関する研修や注意喚起、重症化のリスク群の特定、死亡を防ぐための症例の適切な臨床管理、近隣諸国での症例の可能性を考慮して国境を越えた連携や情報共有など、最大限の警戒と備えが非常に重要となります。過去3年間のアルボウイルス疾患の発生状況を考えると、南半球では2023年前半にアルボウイルス疾患の増加が予想され、南米北部、中米、カリブ海に位置する国々では、免疫的に脆弱な人が多く、更に気温の上昇も伴うことから、感染の高止まりが継続するかもしれません。
 
現在までに得られた情報に基づき、WHOは、現在アルボウイルス疾患が流行しているアメリカ大陸の国々に対して、旅行や貿易の制限を推奨していません。

 
 

出典

Geographical expansion of cases of dengue and chikungunya beyond the historical areas of transmission in the Region of the Americas

Disease Outbreak News 23 March 2023

https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON448