肺炎球菌性髄膜炎-トーゴ共和国

Disease outbreak news 2023年4月11日

発生状況一覧

2022年12月中旬以降、トーゴ共和国(以下、「トーゴ」という。)では髄膜炎のアウトブレイクが発生しており、これまでに合計141人の患者、12人の死者(致死率は8.5%)が発生しています。患者のほぼ半数が10~19歳の小児および若年層の感染です。全体では、22例が肺炎球菌によるものと確認されています。
 
トーゴはアフリカの髄膜炎ベルトに位置し、季節的なアウトブレイクが毎年繰り返されています。しかし、今回の流行は、サヘル(Sahel)の治安悪化に伴う人の移動や、監視能力の低さなど、さまざまな要因が重なっていることが懸念されます。また、トーゴにおいて肺炎球菌性髄膜炎のアウトブレイク発生は初めてのことです。
 
アウトブレイク対応活動を取りまとめるために緊急事態管理システムが導入され、WHOは症例管理を改善するために抗菌薬(セフトリアキソン)の供給を支援しています。
 
WHOは、このアウトブレイクがもたらす全体的なリスクを、国レベルでは高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価しています。

 

発生の概要

2023年2月15日、トーゴ保健省は、同国北部のサバヌ(Savanes)地方オティ・スッド(Oti Sud)地区で髄膜炎の発生を公式に宣言しました。2022年12月19日から2023年4月2日までに、オティ・スッド地区から合計141件の髄膜炎の疑い例と12人の死亡例(致死率は 8.5%)が報告されました。これは人口100,000人あたりの発症率112に相当します。


図1. 2022年12月19日(2022年第51週)~2023年4月2日(2023年第13週)、トーゴ、サバヌ地方オティ・スッド地区における髄膜炎患者報告数および死亡者数
 
疑い例から合計118の脳脊髄液(CSF)検体が採取され、そのうち22検体が国立基準検査所でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と培養により肺炎球菌の存在が確認されました(81検体は陰性、15検体は結果待ち)。
 
最も罹患率の高い年齢層は10-19歳で全体の47%にあたる66例、次いで30歳以上の年齢層が20%で28例、20-29歳が15%、22例です。性別による症例分布に差はなく、71例(53%)が男性で報告されています。
 
トーゴは2014年に13価の肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)を導入し、現在は生後1、2、3カ月の3回接種を実施しています。サバヌ地方における行政のデータ上のPCV13の接種率は3回目までで100%ですが、個々の患者についての接種履歴がなく、該当する血清型がワクチンの対象になっているかは不明です。さらに、最も影響を受けた年齢層は、2014年のPCV13導入前に生まれており、ワクチン接種自体を受けていない可能性があります。

肺炎球菌性髄膜炎の疫学

髄膜炎は、高い致死率と深刻な長期にわたる合併症(後遺症)を伴う致命的な疾患です。現在も世界的な公衆衛生上の大きな課題となっています。細菌性髄膜炎を引き起こす可能性のある生物は数多く存在します。髄膜炎菌性髄膜炎(Neisseria meningitidis)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b;Hib)は、細菌性髄膜炎の全症例の大半を占め、小児の細菌性髄膜炎においては90%を占めています。毎年、約100万人の子どもが肺炎球菌性疾患で死亡していると推定されています。
 
肺炎球菌は莢膜型細菌で、世界中で約90種類の肺炎球菌の血清型が確認されており、これらの血清型のうち病気を引き起こすものは少数です。肺炎球菌は、患者や健康な保菌者の呼吸器分泌物との直接接触(飛沫感染)により感染します。重篤な肺炎球菌感染症には、肺炎、髄膜炎、発熱性の菌血症があり、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎はより一般的ですが重篤ではありません。潜伏期は2~10日です。肺炎球菌性髄膜炎は、アフリカの髄膜炎ベルトでは致死率が高く(36%~66%)、髄膜炎菌性髄膜炎よりも長期にわたる治療を必要とし、重度の後遺症を伴うことがより多くあります。
 
細菌性髄膜炎の診断には、通常、腰椎穿刺が必要です。腰椎穿刺ができない場合、診断は臨床検査によって推定は可能です。(ただし、血液培養が陽性である場合を除き、確定診断はできません)。細菌性髄膜炎の確定診断には、培養とPCRがあります。迅速診断テスト(RDTs)は、診断の補助を目的に利用することができますが、確定診断はできません。血清型または血清群の同定と抗菌薬に対する感受性は、治療法決定の上で重要です。分子タイピングと全ゲノム配列の決定により、菌株のさらなる違いを特定し、公衆衛生上の対応に役立てることが可能になります。
 
髄膜炎の治療には、ペニシリン、アンピシリン、セフトリアキソンなど、さまざまな抗菌薬が使用されます。髄膜炎菌や肺炎球菌による髄膜炎の流行時には、セフトリアキソンが選択されます。しかしながら、抗菌薬に対する肺炎球菌の耐性は、世界中で深刻かつ急速に増加している問題です。
 
現在、2種類の肺炎球菌ワクチンが利用されています。結合型ワクチンは、生後6週間から髄膜炎やその他の重症肺炎球菌感染症の予防に効果があり、5歳までの乳幼児や小児、国によっては65歳以上の成人や特定の高リスク群の人々にも推奨されています。それぞれ10種類と13種類の血清型に対応した2つの結合型ワクチンが使用されています。より多くの肺炎球菌の血清型を予防するように設計された新しい結合型ワクチンは、開発中あるいは、成人への使用が承認されています。結合型ワクチンは、鼻咽頭保菌を予防するのにも効果的です。23種類の血清型に対する多糖体ワクチンがありますが、他の多糖体ワクチンと同様に、このタイプのワクチンは結合型ワクチンよりも効果が低いと考えられています。このワクチンは、肺炎を予防するために、主に65歳以上の高齢者や特定の高リスク群に属する人に使用されます。2歳未満の子どもには使用されず、髄膜炎の予防にはあまり役に立ちません。

公衆衛生上の取り組み

・アウトブレイク対応活動を調整するための緊急事態管理システムが整備され、調整会議が毎週開催されています。
・国のアウトブレイク対応計画が策定され、検証されています。
・WHOの指導の下、ベナン、ガーナと合同での会議を継続し、アウトブレイク対応活動に関する情報を共有し、準備と対応力の向上に努めています。
・医療施設管理者、地域保健員、ソーシャルワーカー、地域指導者が、髄膜炎に関するトレーニングを受けています。コミュニティベースのサーベイランスと早期医療受診の重要性に関するラジオ番組が放送されています。
・医療施設や地域社会で積極的な症例調査が行われています。
・保健省はWHOの支援を受けてアウトブレイク状況報告書を作成し、対応活動に携わる関係者に配布しています。
・WHOは、脳脊髄液の検体採取と輸送のための資材を調達し、アウトブレイク発生地域の医療施設に配布しました。
・WHOは、症例管理を改善するための抗菌薬(セフトリアキソン)の供給を支援しています。
・地域の基準検査所で血清型判定を行うための検体の出荷を円滑に進めるための取り組みも継続しています。
・WHOはまた、対応計画の実施に必要な資源の調達を支援しています。
 

 

WHOによるリスク評価

トーゴはアフリカの髄膜炎ベルトの一部であり、毎年髄膜炎患者と死亡者が発生しています。過去数年間、髄膜炎菌性髄膜炎のアウトブレイクを経験していますが、今回の肺炎球菌性髄膜炎のアウトブレイクは、過去に経験がなく、国の対応能力も限られる、稀な事態といえます。
 
現在までのところ、近隣諸国での輸入症例は報告されていません。しかし、次にあげるような要因により、拡大のリスクは高まっていると考えられます。その要因とは、アフリカの髄膜炎ベルトに位置していること、通常1月から6月までが流行期であること、住民を保護するために必要な接種率に対して実際の接種率が十分に高くなく、ワクチン接種に制約があること、2014年にトーゴで導入された肺炎球菌に対する定期接種では、今回の流行で影響を受けている主な年齢層が対象とされていないことなどです。また、サヘルにおける治安悪化がサバヌ地方全体での公衆衛生の介入の妨げとなり、人口移動を引き起こしていること、国内の特にサバヌ地方における経済不安や、オティ・スッド地区での症例の早期発見・診断・治療のための監視能力が十分とは言えないことなども、拡大リスクの拡大に寄与すると考えられます。近隣諸国もアフリカ髄膜炎ベルトに属しており、さらにオティ・スッド 地区はガーナとベナンに接しているため、この地域の他の国々に疾病が広がる可能性があります。
 
以上の状況を考慮し、WHOはこのアウトブレイクがもたらす全体的なリスクを、国家レベルでは高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価しています。
 

WHOからのアドバイス

肺炎球菌性髄膜炎は致死率が高く、後遺症が残る危険性があるため、早期診断と適切な症例管理が重要です。迅速な抗菌薬を用いた治療を10~14日間行う必要があります。髄膜炎の徴候と早期診断・治療の重要性を地域社会に伝えるため、地域に根ざした積極的な症例調査と調査への地域住民の参加を促す必要があります。血清型分類を含む詳細な疫学的・微生物学的データの収集は、肺炎球菌性髄膜炎対策戦略に反映させるために不可欠です。
 
肺炎球菌結合型ワクチンは、髄膜炎やその他の重篤な肺炎球菌感染症の予防に有効です。現在までのところ、入手可能なデータは、肺炎球菌性髄膜炎のアウトブレイクに対する対応的ワクチン接種キャンペーンの推奨を裏付けるものではありません。発生地域における肺炎球菌ワクチンの使用に関する推奨事項は、2020年10月に予防接種に関する専門家の戦略的諮問グループ(SAGE)で議論され、主な結論として、肺炎球菌性髄膜炎の発生予防と対応に関する戦略を策定するために、アフリカ髄膜炎ベルトの国々からさらなる調査とデータ収集が必要であるというものがありました。
 
WHOは、多くのパートナー機関の支援を受けて、2030年までに髄膜炎を撲滅するための世界を対象とした目標を定めた”ロードマップ”を作成しました。この目標を達成するための協調的な行動は、相互に関連する5つの項目を中心に作られています。
 
・予防と疫病対策:手頃な価格の新しいワクチンの開発、高い予防接種率の達成、予防戦略の改善、流行への対応
・髄膜炎患者の迅速な確認と患者に最適な管理を通じた診断と治療
・予防と制御の指針となる髄膜炎サーベイランス
・髄膜炎の早期発見と合併症の治療に手が届きやすくなるような改善を通した髄膜炎患者の管理
・髄膜炎に対する認知度を高め、国の関与を促し、予防、治療、アフターケアサービスを受ける権利を確保するためのアドボカシーと関与
 
現在までに得られたこのアウトブレイクに関する情報に基づき、WHOはトーゴへの渡航や貿易の制限を推奨していません。

出典

Pneumococcal meningitis - Togo
Disease Outbreak News 11 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON455