鳥インフルエンザA(H3N8)-中華人民共和国

Disease outbreak news 2023年4月11日

発生状況一覧

2023年3月27日、中華人民共和国(以下、「中国」という。)国家衛生委員会は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスのヒト感染確定例1例をWHOに通知しました。これは鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスに感染した3例目の報告で、全3例が中国から報告されたものになります。
 
疫学的調査および濃厚接触者の追跡調査が行われています。濃厚接触者における感染・発症者はいません。
 
現在までに得られた情報によると、このウイルスはヒトからヒトへ簡単に伝播する能力はなく、国内、WHO地域、国際レベルでヒト間でさらに広がるリスクは低いと考えられています。しかし、インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある既に確認されているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するためのグローバルサーベイランスの重要性を強調しています。
 

発生の概要

2023年3月27日、中華人民共和国国家衛生委員会は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスによるヒト感染確定例1例をWHOに通知しました。患者は広東省(Guangdong)の56歳女性で、2023年2月22日に発症しました。2023年3月3日に重症肺炎で入院し、その後、2023年3月16日に死亡しました。
 
本症例は、重症急性呼吸器感染症(SARI)サーベイランスシステムを通じて検出されました。この患者には複数の基礎疾患がありました。発症前に家禽類への曝露歴があり、自宅周辺では野鳥との曝露もありました。報告された時点で、この患者の濃厚接触者に感染症や症状を呈した人はいませんでした。
 
環境検体は、患者の住居と、患者が発症前に過ごした生鮮食品市場から採取されました。検査の結果、生鮮食品市場から採取された検体はインフルエンザA(H3)陽性であることが判明しました。

鳥インフルエンザの疫学

人獣共通感染症であるインフルエンザは、無症状の場合もあれば、疾患を引き起こす場合もあります。特定のウイルスや宿主に関連する要因によって、結膜炎や軽度のインフルエンザ様症状から、重度の急性呼吸器疾患、あるいは死に至ることもあります。消化器症状や神経症状が報告されたこともまれにあります。
 
鳥インフルエンザウイルスにヒトが感染するのは、通常感染した家禽(生死問わず)や汚染された環境に直接または間接的にさらされた結果です。

公衆衛生上の取り組み

中国政府は、以下の監視・予防・管理策を講じています。
 
・患者の居住地およびウイルスへの暴露が疑われる地域の周辺環境における監視および消毒の強化
・国民の意識向上と個々の予防行動のためのリスクコミュニケーション活動
 

 

WHOによるリスク評価

鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスは、世界的に見ても動物でよく検出されます。インフルエンザA(H3N8)ウイルスは、鳥類で最もよく見られる亜型の一つであり、家禽や野鳥のいずれにおいても疾病の兆候をほとんど引き起こしません。鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスの種を超えた伝播は、犬や馬での流行も含め、様々な哺乳類で報告されています。
 
今回で、中国からの鳥インフルエンザA(H3N8)型ウイルスによるヒト感染の報告は3例目となります。過去2例は、2022年4月と5月に報告されています。そのうち1例は重症化し、もう1例は軽症でした。いずれの症例も、感染した家禽に直接または間接的に曝露することで感染した可能性が高いです。これまでのところ、本症例および以前の症例に関連する追加症例は報告されていません。保健当局からの報告によると、本事例に関する予備的な疫学調査の結果、家禽類を扱う市場での曝露が感染原因であった可能性が示唆されています。しかし、この感染源が何であるか、このウイルスが動物の間で流行している他の鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスとどのように関連しているかは未だ不明です。公衆衛生に対する現在のリスクをよりよく理解するためには、ヒトと動物の両方の調査から、より多くの情報が必要です。
 
鳥からヒトへの鳥インフルエンザウイルスの感染は、通常あまり起こらず、特定の状況下で発生します。過去に報告された鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染のほとんどは、感染した家禽や汚染された環境への曝露によるものでした。鳥インフルエンザウイルスは家禽から継続して検出されているため、今後も散発的なヒトへの感染が予想されます。
 
現在までに得られた疫学的およびウイルス学的情報は、鳥インフルエンザA(H3N8)ウイルスがヒトの間で持続的に感染していく能力を持たないと示唆しています。したがって、現在の評価では、ヒトからヒトへの伝播の可能性は低いとされています。しかし、インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある現在流行が確認されているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するためのグローバルサーベイランスの重要性を引き続き強調しています。
 

WHOからのアドバイス

感染リスクを最小限に抑えるために、各国は、生きた動物を扱う市場や農場、家禽の飼育設備、家禽類の糞で汚染されている可能性のある物など、リスクの高い環境との接触を避けることの重要性について国民の認識を高める必要があります。リスクの高い環境にいるときは、頻繁に手を洗うか、アルコール手指消毒剤を使用し、手指衛生状態を清潔に保ち、マスク等の保護具を着用することが推奨されます。
 
野鳥や一部の野生哺乳類において鳥インフルエンザの発生が確認されていることから、我々市民は原因不明の病気にかかっている動物や動物の死骸に触れることを避け、病気の動物や動物の死骸を発見した際には、関係当局に報告する必要があります。
 
動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者は、農場や生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある場所への立ち入り、動物の糞便やその他の体液で汚染されていると思われる物との接触を避けるべきです。また、石鹸を使って頻繁に手洗いを行い、食品の安全性と適切な食品衛生の習慣(火を通したものを食べる等)をしっかり守る必要があります。
 
WHOは、現在までに得られた情報に基づき、渡航や貿易の制限を適用しないよう勧告しています。
 
インフルエンザウイルスは常に変異しており、動物たちの間で大規模なアウトブレイクが発生しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある新規の、または既に流行しているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視する世界規模でのサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス情報の共有の重要性を引き続き説いています。動物衛生部門と人間衛生部門の協力が不可欠です。動物におけるインフルエンザウイルスの流行の程度は明らかでないため、疫学的、ウイルス学的なサーベイランスと、疑わしいヒトの症例のフォローアップを計画的に続ける必要があります。リスク評価には、情報の適時の共有が不可欠です。
 
ヒトへの感染が確認されたインフルエンザウイルスの多様性は非常に憂慮すべきものであり、動物とヒトの両集団におけるサーベイランスを強化し、それぞれの人獣共通感染症を包括的に検討したうえでパンデミックに対する計画を立てる必要があります。ヒトからヒトへの感染を容易にするようなウイルス変異を防ぐため、養鶏場等の労働者は季節性インフルエンザのワクチン接種を受けることが推奨されています。
 
鳥インフルエンザなど、パンデミックの可能性がある新型インフルエンザウイルスへのヒト感染が確認された場合、または疑われた場合は、検査確定の結果を得る前でも、直ちに接触者追跡調査を開始する必要があります。加えて、渡航歴や動物との接触歴など、徹底した疫学調査も行う必要があります。また、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆するような通常は見られない異常な呼吸器系疾患の発生兆候を早期に発見する必要もあります。患者が発生した時と場所から採取した臨床検体を検査し、さらに特性を調べるためにWHO協力センターへ送るべきです。
 
疫学的状況の綿密な分析、ヒトや家禽で発見された最新のウイルスのさらなる解析、血清学的調査は、リスクを評価し、リスク管理手段を適時に調整するために重要です。
 
国際保健規則(IHR 2005)のもと、締約国は、新型あるいは新しい亜型のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染が検査確定された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。すべてのヒトへの感染について、調査、ウイルス情報の共有、遺伝的および抗原的な特徴付けが不可欠です。
 
今回の事例において、インフルエンザに対して現在すでにWHOが行っている公衆衛生対策とサーベイランスに対する勧告は継続されます。

出典

Avian Influenza A(H3N8) - China
Disease Outbreak News 11 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON456