マールブルグ病-赤道ギニア共和国(更新3)

Disease outbreak news 2023年4月15日

発生状況一覧

本疾病に関する2023年3月21日時点のデータを掲載した前回のアウトブレイクニュース(Disease Outbreak News)が2023年3月22日に発表されて以来、赤道ギニア共和国(以下、「赤道ギニア」という。) でマールブルグ病(MVD)の検査確定症例が新たに6例報告されました。これにより、2023年2月13日のアウトブレイク宣言以降、検査確定症例は15例、推定症例は23例となりました。検査確定症例のうち11人が死亡し、致死率78.6%となっています。また、確定症例のうち1人は転帰不明です。推定症例は全例死亡しています。疾病の影響を最も受けている地区はリトラル(Litoral)県のバタ(Bata)地区で、9例の検査確定症例が報告されています。
 
WHOは、入国地点を含むサーベイランス、検査、症例管理、感染予防と管理、リスクコミュニケーション、コミュニティへの関与など、保健省に対してさまざまな対応の枠組みの強化を支援しています。
 
マールブルグ病は出血熱を引き起こす死亡率の高い疾患で、国際保健規則に基づく調査対象となる疾患の一つです。
 
2023年3月30日、WHOはこのアウトブレイクがもたらす公衆衛生上のリスクを、国レベルで非常に高い、小地域レベルで高い、WHO地域レベルで中程度、世界レベルで低いと評価しました。
 
WHOは、赤道ギニアへの渡航や貿易を制限しないよう勧告しています。

発生の概要

2023年1月7日から2月7日の間にウイルス性出血熱の疑いのある死亡例が報告され、同2月12日にセネガル共和国のダカール(Dakar)にあるパスツール研究所でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によってマールブルグウイルスが陽性となった症例を受け、赤道ギニアの保健社会福祉省は、同2月13日にマールブルグ病(MVD)の発生を宣言しました。
 
この事象に関する前回のアウトブレイクニュース(2023年3月22日)以降、2023年4月11日の時点で、赤道ギニアでマールブルグ病の検査確定例が6例追加報告され、アウトブレイクにおける検査確定例は合計15例となりました。さらに、アウトブレイク開始以来、23人の確率症例が報告されています。検査確定症例では11人が死亡し(確定症例の症例致死率(CFR)78.6%)、推定症例はすべて死亡しています。確定症例1人については、結果は不明です。4例の検査確定症例は医療従事者(26.6%)から報告され、そのうち2例が死亡しています。確定症例のうち、3人は回復しています。
 

図1. 2023年4月11日時点の赤道ギニアにおけるマールブルグ病症例(発症週別*、症例分類別)。
*診察日を基準にし、発症日が不明な場合には報告日を使用

年齢と性別の情報が入手できたマールブルグ病検査確定症例全13例において、大半は女性で、9名、最も罹患者が多い年齢層は40~49歳で6例、10~19歳と30~39歳は各3例となりました。

サントル・スール(Centre- Sur)県 、キエンテム(Kié-Ntem)県 、リトラル(Litoral)県 、ウェレ・ンザス(Wele-Nzas)県の4県にあるバタ(Bata)、エビベイン(Ebebiyin)、エヴィナヨング(Evinayong)、ノソック・ノソモ (Nsok Nsomo)、ンソルク(Nsork)の5地区においてマールブルグ病(MVD)が発生しており(図2)、確定例 と死亡例 の多くはバタ地区で、それぞれ9例と 6例、推定例の多くは、最初に感染が発見されたエビベイン地区で、11例(表1)と報告されています。
 
2023年3月22日から2023年4月11日までの21日間に、バタ地区から4例とンソルク地区から1例の合計5例の確定患者が報告されました(図3)。バタ地区から報告された4例のうち、3例は家族または医療現場を通じての感染で、疫学的なつながりがあります。4つ目の最も最新の症例は4月7日に報告されました。この症例については、感染経路を確定し、すべての接触者を適切に特定するために調査が続けられています。
 
前回のアウトブレイクニュース以降、新たに1地区(ウェレ・ンザス県ンソルク地区)がアウトブレイクの影響を受け、1名の確定症例を報告しました。この患者は、別の地区の確定症例と関連しています。
 
発生当初から2023年4月10日現在までに、合計1,322人の接触者が同定され、平均追跡調査率は約80~90%となっています。
 
表1. 2023年4月11日現在、赤道ギニアの地区別、症例分類別マールブルグ病症例数および死亡者数

図2. 赤道ギニア、4月11日現在マールブルグ病確定例と推定例を報告している地区の地図

図3. 赤道ギニア、2023年3月21日から2023年4月11日の過去21日間におけるマールブルグ病確定症例を報告した地区の地図

マールブルグ病の疫学

マールブルグウイルスは、患者の血液、分泌物、臓器、その他の体液が、皮膚の傷や粘膜を通して直接触れたり、これらの体液で汚染された寝具や衣服などの物に触れることで感染します。医療従事者が、マールブルグ病の疑い、または確定患者の治療中に感染した事例もあります。また、死者の身体に直接触れる埋葬の儀式も、マールブルグウイルスの感染に寄与する可能性があります。潜伏期間は2~21日です。マールブルグウイルス感染による症状は突然発症し、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感を伴います。重度の出血性症状は、症状発現から5~7日の間に現れることがありますが、すべての患者に出血性徴候があるわけではなく、致命的な症例では通常、何らかの出血があり、多くは複数の部位から出血します。治療のためのワクチンや抗ウイルス治療で現在承認されたものはありませんが、レムデシビル(Remdesivir)は人道的介入の元に使用されています。経口または静脈注射による水分補給をおこなう支持療法と各症状に対する対症療法が生存率を向上させます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が評価されています。赤道ギニアがマールブルグ病のアウトブレイクを報告したのは今回が初めてです。現在、タンザニアでもマールブルグ病のアウトブレイクが発生しており、2023年4月4日現在、合計8人の感染者が確認され、5人が死亡しています。その他、ガーナ(2022年)、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(2017年、2014年、2012年、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(2000年、1998年)、ケニア共和国(1990年、1987年、1980年)、南アフリカ共和国(1975年)でマールブルグ病アウトブレイクが過去に報告されています。

公衆衛生上の取り組み

連携
・政府は、保健大臣と大臣代理の指導の下、バタ地区にある地域公衆衛生緊急オペレーションセンター(PHEOC: public health emergency operation center )を発足させました。
・保健省によって、全国的な活動対応計画が策定されました。
・保健省は、国、地域、地区レベルでの対応活動の連携をはかるために、定期的な会議を開催しています。
・パートナー機関である地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)から、対応活動を支援するために派遣されました。事例管理チームと共同で、GOARNは3月30日に支援要請を発表しました。現地では、症例管理、感染予防・管理、検査、疫学・監視の機能を支援するため、複数の専門家が派遣され、現在も活動しています。
 
サーベイランス
・WHOは、保健省が地域全体のマールブルグ病アラート管理のための警告・派遣センター立ち上げを支援しました。
・WHOは、保健省に対し、症例調査、接触者追跡活動、医療施設やコミュニティでの積極的な症例調査を含む監視活動のためのトレーニングや、フィールドチームの指導を支援しています。
・WHOは、保健省の疫学データ収集と管理システムの開発を支援し、保健省による検証の結果見直された症例定義の策定と普及に努めています。
 
検査機関
・米国疾病管理予防センター(CDC)とWHOの支援により、マールブルグ病診断のためのRT-PCR検査が可能なラボがバタ地区に設置されました。
・WHOは検体輸送システムの導入を支援し、国内でのシーケンス能力の確立を支援するための協議を継続しています。
・また、WHOはマールブルグウイルス診断のトレーニングを実施しています。
 
治療
・WHOは、保健省がバタ地区に治療・隔離センターを設立するのを支援し、他の地区にも治療施設を開設することを計画しています。
・認定された治療・隔離センターでは、必要なレベルに達していない項目の確認と対処のための評価訪問が実施されました。
・WHOは、サーベイランスと報告を促進するために、臨床スタッフへの啓発キャンペーンを支援しています。
 
感染予防と制御(IPC)
・IPC 対策委員会が発足し、現在、国家 IPC 戦略が草案中です。
・マールブルグ病への備えと対応のため、医療施設のIPC実践を評価する目的でIPCスコアカードが作成されました。
・除染作業や安全で尊厳のある埋葬を実施するチーム(SBD)など、IPCに関する医療従事者向けのトレーニングが進められています。
・バタ地区とエビベイン地区で安全で尊厳のある埋葬を実施するチームが設立されました。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE)
・WHOは、RCCE活動共同支援のため、他の主要パートナー機関(UNICEF、IFRCなど)と連携しています。
・WHOは、RCCEの国の専門家、社会運動家、コミュニティリーダー(市民社会組織、宗教指導者、女性グループなど)に対する啓発と能力開発を支援しています。
・国内のRCCEコンサルタントの募集と国際専門家の派遣が行われました。
・RCCE国家計画が策定中で、実施に向けて迅速な社会行動調査が準備されています。
・マールブルグ病に関する情報源(Message Bank)を開設し、普及を図っています。メッセージバンクは、スペイン語と英語で提供されており、スワヒリ語、フランス語、ポルトガル語への翻訳も進められています。
・一般市民がアクセスできるようになるマールブルグ病に関するよくある質問と回答のリストが開発段階にあります。
・WHOは、ガボン共和国(以下とカメルーン共和国において、疾病に備えるためのツールや教育・コミュニケーション(IEC)資料の作成に技術支援を行っています。
 
国境での医療と入国地点管理
・例えば、緊急時対応計画や標準作業手順の策定、マールブルグ病の兆候や患者の特定と潜在的な患者管理に関する入国地点スタッフの訓練、リスクコミュニケーションやコミュニティ活動の実施、手洗いや輸送手段の提供などを通じて、入国地点での対応能力を向上するために必要なことや能力自体の評価が実施されています。
・WHOは、米国疾病対策予防センター(CDC)および国際移住機関(IOM)と協力して、疾病発生国および近隣諸国のマールブルグ病アウトブレイクに際して必要な国境周りの医療の準備と対応活動に関する認識を高めるためのオンラインセミナーを開催する予定です。
 
オペレーション、サポート、ロジスティクス(OSL)
・WHOは、バタの治療センターで24時間365日待機の救急車2台と、20台以上の車両を含む車両管理のサポートを確立しました。さらに、WHOは必須医薬品と物資の提供も行いました。
 
周辺国の準備と心構え
・WHOは、赤道ギニア周辺の2カ国であるカメルーン共和国とガボン共和国を対象に、すべての項目にわたる2回目の疾病対策準備の状況評価を実施し、その不足部分を見極め、対策準備活動の実施を支援する専門家の派遣を含めて対応する活動が勧められる予定です。
・WHOは、カメルーン共和国、赤道ギニア、ガボン共和国と連携し、高次での会合を調整中です。

WHOによるリスク評価

赤道ギニアは史上初のマールブルグ病のアウトブレイクに直面しており、同国のアウトブレイク管理能力の増強が急務です。3月22日のDisease Outbreak Newsで報告された9人の確定症例に加え、さらに6人がマールブルグ病の陽性反応を示し、追加で1県で感染が発生しています。多くの患者は社会的ネットワークや地理的な近接性など関連がありますが、明確な疫学的関連性のない複数の地区にわたる患者および/または患者集団の存在は、感染者が未検出のまま感染が広がっている可能性があることを示しています。バタは赤道ギニアで最も人口の多い都市であり、経済の中心地かつ、国際空港や港もあるため、バタでの確定症例が出たことで、疾病拡大のリスクが更に高まっています。また、バタはマールブルグ病症例数および死亡者数が最も多く報告されています。最後の症例もバタから報告され、感染経路を特定するための調査が続けられています。国内のサーベイランスシステムは依然として不十分で、報告され調査されたアラートもほとんどありません。疫学的なつながりや感染経路が検出されていない症例もあるため、未検出の濃厚接触者がいる可能性があります。
 
医療従事者の間でマールブルグ病症例が報告されたことからも分かるように、実施されている感染予防・管理措置が不十分かもしれません。国内のマールブルグウイルスの診断能力は、1日に分析できる検体数が1日最大50検体程度と限られています。地域住民の疾病へのリスク認識は非常に低いと推定されます。複数の感染発生地域で検疫措置が実施されているにもかかわらず、本土地域の地区間、および島しょ地域との間で頻繁に人口移動が発生しています。カメルーン共和国やガボン共和国と国境を接する地区でも、国境間が簡単に越境できてしまうことや人口移動が頻発していると報告されており、陸路での入国出国に対する監視は不十分で、カメルーン共和国やガボン共和国との国境には無数の管理が行き届いていない抜け道が存在しています。また、バタ国際空港や国際海港の入国地での監視も最適とはいえません。
 
上記の状況を考慮し、2023年3月30日、WHOはこのアウトブレイクがもたらすリスクを、国レベルで非常に高い、小地域レベルで高い、地域レベルで中程度、世界レベルで低いと評価しました。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病の発生を抑えるには、患者の迅速な隔離と症例管理、積極的な症例の探索、症例調査、接触者追跡を含む監視、最適な確定診断の提供、迅速で安全かつ尊厳ある埋葬を含む感染予防と管理、および社会動員など、さまざまな介入方法を用いることに依存しています。マールブルグ病のアウトブレイクをうまくコントロールするためには、コミュニティの関与が重要です。マールブルグウイルスに感染する危険因子と個人が取ることのできる防御策についての認識を高めることは、人への感染を減らすための効果的な方法となります。マールブルグ病が確定または疑われる患者をケアする医療・介護従事者は、患者の血液や体液、汚染された物体との接触を避けるために、標準予防策および感染症に基づく予防策を含むIPC措置を適用する必要があります。医療施設は、適切な水・衛生設備・環境管理、および医療従事者がIPC対策を実践できるような安全な感染性廃棄物管理プロトコルが実施されていることを確認する必要があります。WHOは、マールブルグ病から回復した男性患者が、症状の発症から12ヶ月間、または精液が2回の検査でマールブルグウイルスに対して陰性となるまで、より安全な性行為の手段を実践することを推奨しています。体液との接触は避けるべきであり、石鹸を用いた洗浄が推奨されます。WHOは、血液検査でマールブルグウイルスが陰性となった男女の回復期の患者を隔離することは推奨していません。
 
現在までに得られた情報と現在のリスク評価に基づき、WHOは、赤道ギニアへの入国地点において、出国審査においても同じように症例確認のためのサーベイランスを強化するよう助言しています。これは、感染の脅威にさらされる人々を特定し公衆衛生上の介入の方法を定めることを目的として、国境を越えた人々の移動状況を把握すること、空からの入国地点と陸路の国境に近い地域で公衆衛生情報とアドバイスをそのコミュニティで関連するすべての言語で提供することなどが含まれます。さらに、疑い例、可能性例、確定例とその接触者は、海外を含む旅行に出かけるべきではありません。
 
WHOは、赤道ギニアへの渡航及び、または貿易に関するあらゆる措置の実施禁止を勧告しています。
 
WHOの勧告よりも厳しい国際渡航や貿易関連の措置を採用する締約国は、国際保健規則(IHR2005)第43条に基づき、WHOに報告するよう要請されます。

出典

Marburg virus disease - Equatorial Guinea
Disease Outbreak News 15 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON459