伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)-ブルンジ共和国

Disease outbreak news 2023年4月20日

発生状況一覧

2023年3月17日、ブルンジ共和国(以下、「ブルンジ」という。)保健省は、急性弛緩性麻痺(以下、「AFP」という)患者1例と環境検体5例から、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型が検出されたことを報告し、国家公衆衛生緊急事態を宣言しました。地元の公衆衛生当局は、現地調査を行い、さらなるAFP症例の積極的な調査を行っています。また、対応したワクチン接種キャンペーンも計画されています。

発生の概要

2023年3月17日、ブルンジ保健省は、国内で伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)の症例が確認されたことを受け、国家公衆衛生緊急事態を宣言しました。このウイルスは、急性弛緩性麻痺(AFP)を発症したブジュンブラ・ルーラル (Bujumbura Rural)州に住む4歳、ワクチン未接種の男児および2022年11月と12月に採取したブジュンブラ・マイリー (Bujumbura Mairie)州の環境検体5例から検出されました。この患児は、2022年11月24日に麻痺が発症しています。2022年11月27日に便検体が採取され、2023年3月13日に伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型であることが確認されました。塩基配列決定の結果、この分離株は8~10個のヌクレオチド変化を起こしていることが判明しました。 今回検出されたウイルスはすべて、コンゴ民主共和国(DRC)の南キヴ(Sud-Kivu)州で新たに確認された、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型と関連しています。
 
WHOユニセフが推計した全国予防接種率によると、ブルンジでは2021年に経口ポリオウイルスワクチン(OPV3)の3回目接種と不活化ポリオウイルスワクチン(IPV1)の1回目接種の両方の接種率が94%でした。しかし、症例調査中に行われた地域における接種率調査によると、最初の症例が報告されたガトゥンバ(Gatumba)の保健センターでの経口ポリオウイルスワクチン3回目の接種率は63.4%、不活化ポリオウイルスワクチン1回目の接種率は56.6%であることが判明しました。
 
本事例は、2021年3月に同ワクチンの導入が始まって以来、新型経口ポリオワクチン2型(nOPV2)と関連した伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型の最初の症例となります。一方、入手可能な臨床および実地でのエビデンスから、一価経口ポリオワクチン2型(mOPV2)と比較して、新型経口ポリオワクチン2型が安全かつ有効で、ワクチンに含まれるウイルスが、集団の免疫が低い環境下で遺伝的変化を起こして麻痺を再び引き起こすようになるリスクが著しく低いと実証されています。現在までに、世界28カ国で6億回近くの新型経口ポリオワクチン2型が接種され、大多数の国で2回の接種後、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型の発生は確認されていません。

ポリオの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児に感染し、感染者の約200人に1人に永続的な麻痺、麻痺者の2~10%は死亡する感染力の強い病気です。  
 
ウイルスは、主に糞口経路を介して人から人へ感染しますが、それ以外にも頻度は低いものの一般的な経路として、汚染された水や食べ物などを介して感染し、腸内で増殖、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。 潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状があるのみで、通常、病気であると気づかないです。  
 
ワクチン由来ポリオウイルスは、経口ポリオワクチンにもともと含まれていたポリオウイルス株が変異したもので、よく知られているものです。経口ポリオワクチンには弱毒化した生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することで抗体ができ、免疫力が発達します。まれに、消化管内で複製する際に、経口ポリオワクチンの株が遺伝的に変化し、ポリオワクチンを十分に接種していない地域、特に衛生状態の悪い地域や過密な地域で広がることがあります。集団の免疫力が低いほど、このウイルスは長く生き残り、遺伝的変化を遂げます。
 
ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変化し、野生ポリオウイルスと同じように麻痺を引き起こすことがあり、これがワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)と呼ばれるものです。少なくとも2つの異なる場所から、少なくとも2ヶ月以上の間隔をおいてワクチン由来ポリオウイルスが検出され、それが遺伝的に関連し、地域社会での伝播の証拠を示している場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)として分類されます。

公衆衛生上の取り組み

世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)のパートナー機関の支援を受け、地元および国の公衆衛生当局によって、AFP症例と陽性となった環境検体に関する初期リスク評価(複数国・地域)および現地調査が完了し、複数国での対応計画が策定されました。ブルンジとコンゴ民主共和国は、5月に初回のワクチン接種キャンペーンを実施する予定です。現在実施されているリスク評価に基づき、補完的な予防接種活動/ワクチン接種キャンペーンの初回接種は5月4日から7日に実施予定で、その後、ブルンジでは7歳未満の子どもを対象に2023年6月と7月に2回の接種が予定されています。ワクチン接種キャンペーンは、国境を接する国や近隣諸国と連携して実施されます。
 
さらに、今回ウイルスが検出された地域では、AFP症例と環境の両方の監視が強化されており、国境を含むさらなる環境監視拠点の運用が評価されているところです。また、ブルンジ、コンゴ民主共和国、近隣諸国からの検体は、世界ポリオ研究所ネットワークによる検査で優先的に処理されています。

WHOによるリスク評価

新しい伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型に関連する主なリスクは、定期的予防接種の未接種による免疫獲得の差にあります。このような新しいワクチン由来ポリオウイルスのさらなる伝播や新種の出現リスクは、現在も継続している 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴って起こっている予防接種率の低下によってさらに広がっています。今回の事象は、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型が近隣諸国に国際的に拡散するリスクを浮き彫りにしています。一方で、この新しいワクチン由来のウイルスが、セービン株由来ワクチンに起因する他のワクチン由来ポリオウイルス2型よりも、国際的な伝播を含む拡散のリスクが高いと示す証拠はありません。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオの影響下にある国や地域と頻繁に旅行や交流がある国は、新規のウイルス輸入を迅速に発見し、迅速な対応を可能にするために、AFP症例の監視を強化し、環境監視の拡大計画を開始することが必要です。また、国や地域は、新規のウイルスの流入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルでの定期予防接種率を一様に高く維持する必要があります。
 
WHOの「International travel and health」のウェブサイトでは、ポリオ感染発生地域への渡航者は、ポリオの予防接種を完了しておくことが推奨されています。感染発生地域の居住者および4週間以上の滞在者は、渡航前4週間から12ヶ月以内に経口ポリオワクチンまたは不活化ポリオワクチンの追加接種を受ける必要があります。
 
国際保健規則(IHR2005)に基づき招集された緊急委員会の助言により、ポリオウイルスの国際的な広がりは、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)であるとされています。ポリオウイルス感染の影響下にある国は、一時的な勧告の対象となります。PHEICの下で出された暫定勧告を遵守するために、ポリオウイルス感染が発生した国は、発生を国家公衆衛生緊急事態として宣言し、居住者および長期滞在者には確実にワクチン接種を提供し、出発地では、ワクチン未接種者または接種状況の証明書類がない人の渡航を制限すべきです。
 
伝播型ワクチン由来ポリオウイルスに関する最新の疫学情報は週単位で更新されています。
 
WHOは、現在までに得られた情報に基づき、ブルンジへの渡航・貿易制限を推奨していません。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) - Burundi
Disease Outbreak News 20 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON457